Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

彼女たちの幸せな朝の特権

2009/05/25 02:15:34
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 幸せな悩み、といえばそうなのかもしれない。
 今まで、さとり妖怪として他者の心を読み、憎悪と共に嫌われ続てきた今までの自身を思えば、これは―――

「さとり様、おはようございます」

 本当に、

「お姉ちゃん、おはよー」

 夢みたいに、

「うにゅ……おはよございます」

 幸せな、
 くすぐったいぐらいに少しだけ嬉しい、私だけの困り事。






















「……おはよう」

 そう小さく返したら、燐もこいしも空も、寝起きのふにょっとした可愛らしい顔のまま、笑ってくれた。
 眠い……
 まだ、体が眠り足りないと抵抗をする。その欲求に更に抵抗しようと首を小さく振り、軽く視線を泳がすと、皆が私を見守ってくれているのに気づく。

「……あ」

 四人で寝るにも充分な大きなベッドの上で、最初に見るのが愛しい家族の笑顔だなんて、本当になんて贅沢だろう。

 さあ、この幸せな気持ちのまま起きなくては……
 眠気はまだ残っているけれど、もう平気。

 もぞもぞと、燐の腕の中から名残惜しげに抜け出そうとする。
 すると、燐が残念そうに「……にゃぅ」なんて鳴くから、ついつい、私はその少し尖った唇を、無理な体勢のまま首を曲げて、押付ける様にして奪ってしまった。

 ふわっとした、柔らかくて弾力があって、うっとりとしてしまう燐の唇。

「……さ、さとり様」
「あ、ごめんなさい」

 はっとして我に返る。燐は唇をおさえてみるみると顔を赤く染めていく。

「…………」

 嫌だった? 不安になって、僅かに顔を俯かせる燐の顔を追いかけようと、覗き込む様にしてまた燐の腕の中へと潜り込んでいく。

「燐…?」

 色違いの皆でお揃いのパジャマ。
 燐の色は血を連想させるぐらい赤くて、それを燐は胸元が見えてしまいそうなくらいボタンを外している。
 その赤の中に入ると、背中に回された腕が、ぎゅっと抱き寄せてくれて、鼻先が胸の谷間に入ってしまう。
 チラリとそのままで視線を上げるてみると、燐の白い首筋が赤い髪で隠れていて、髪を解いた燐に何だか少し大人っぽい、不思議な色気を感じてしまう。

「にゅぅぅぅ……! さとり様ってば、もう、朝から反則すぎです……!」

 ごろごろ。ごろごろ。
 燐の喉が鳴る音が耳に届いて、そういえば、先程から燐の心は幸福で、怒りとは無縁だと気づく。

「……ふふ」

 寝ぼけていると、これだからいけない。
 燐のパジャマの裾を握って、心地よい胸に頬ずりしながら苦笑する。
 そう。この怒りは燐ではなく、後方からの、つまり心を閉ざして読めないこいしではなく、この場にもう一匹いる、ペットの空だという事に気づかないなんて、本当にどうかしている。

「………………?」

 あれ……?
 ふと、小骨が喉に引っ掛かるかの様な、小さな、だけど無視できない違和感。

「……うん?」

 燐の腕の中は本当に居心地が良すぎて、抜け出す気も起きずにそのままもぞもぞと、燐の腕を両手で挟む様にして方向転換。そうして振り返って、背中にむにゅう。とあたる燐の胸が気持ち良い。

「……空?」

 どうしたの? 何を怒っているの?
 そう言葉を続けようとした私の目に、すでに身を起こして此方を見ていた空とこいしを見つけて、自然見上げる形になる。

「う、にゅぅぅぅ……!」
「…………………………」

 両手をグーにしてシーツを握り締めて、一杯の涙を瞳にこんもりと浮かべている空と、ひたすら影のある笑顔のまま、寒気すら感じる長い沈黙を守るこいし。

「……?」

 ポーッと、少し考えて。私はうなじに頬ずりする燐が可愛いわねぇと考えながら、そういえばずっと、第三の目が声を拾っている事を思い出す。


(さとり様、可愛い、好き! 小さくて柔らかくて、あたいの腕を離さなくて、寝惚けてて、朝からキスも出来て、もう。もう! あたい、幸せすぎて気絶しそう……!)

(ずるい! お燐ばっかりずるい! さとり様ってば、お燐にばっかり優しい……! 皆で一緒に寝るって言ったのに、すぐにお燐にばかり抱きしめられてる……。わ、私だって、さとり様を抱きしめたい。甘えて貰いたい。キス、して欲しいのに……! お燐の馬鹿。ばかばかばかばか!)


「……?」

 きゅっと、燐の暖かくて私より長い、そして少し大きな腕を抱きながら、私は今にも泣き出しそうな空と見つめあう。
 燐はご機嫌で、幸せ。
 空はご機嫌斜めで、不幸せ。

 可愛いペットが、私の大事な空が、寂しがっている。
 胸が、少し苦しい。
 私は、本当にどうかしている。空が寂しがっているのに、こんなに気づくのが遅れるだなんて……

「……よいしょ」

 燐の腕を握ったまま身を起こす。
 燐が「にゃ?」と声を上げて、慌てて一緒に起き上がってくれるけど、少し遅い。私はそのまま、四つん這いになって、空の、黒い色のパジャマの胸元目掛けて抱きついた。
 燐と同じくらい、柔らかい感触。
 片手は燐を掴んでいるから、もう片手で空の背中のパジャマを掴んで、ぐりぐりと顔を押し付ける。

 ぐりぐり。

「う、うにゅにゅにゅにゅー?!」
「お、お空?! 沸騰! 沸騰してるから気をしっかり持って!」

 ぷしゅーという音が耳に聞こえるが、頬に当たるものがとても柔らかいので気にもならない。
 ああ、空は燐がいつかに言っていた通りに、いつの間にかこんなにも大きなものを持っていたのね……


(さ、さとり様が、さとり様が私の胸ぐりぐりしてるー! って、ふえ? さ、さとり様?! 何を―――)


「……空にも、ん」

 おはようの、キス。
 欲しかったのよね……?
 うん、喜んでいるようで良かったわ。

 ドカンッ!! としてプシューッ!! として、最後にブスブス。
 そんな不思議な異音を出す真っ赤な顔の空。
 そのパジャマの襟首を掴むと、私はまた「よいしょ」と方向転換。
 燐の手と空のパジャマ。手が足りないけど、大丈夫かしら?
 ねえ、こいし。

「…………………………………………」

 長い長い沈黙。私の大切な妹は、どうしたのか下唇を噛みながら俯いていた。

「……?」

 こいしに似合う緑の、明るい色のパジャマ。
 なのに、今のこいしは分からないけれど酷く儚くて、孤独を感じさせて、ドキリとする。
 私は、だから急いで――――

「こいし!」

 こいしの名を呼んで、はっとして顔を上げたこいしに、燐と空と一緒に飛びこんだ。


「お姉―――って、ちょむふみゃんッ?!」


 ぼすんぼすんぼすん。ベッドが大きく弾む。
 私が飛んだら、一緒に飛んでくれた燐と空にありがとう。

 どうして、燐が青い顔で一生懸命「ごめんなさいごめんなさい本当にごめんなさーい!」を心で何度も繰り返し、空が「い、いいのかなー? 平気かなー?」と不安そうに、大きな羽を震わせてそわそわしているのかは分からないけど、安心して、大丈夫よ。

「お、お姉ちゃん? 今のはちょっと痛かったよ……?」

 こいしはとっても丈夫な子だから。

「……あのねお姉ちゃん。私がここで受け止めてなかったら、皆で仲良くベッドから落ちてたんだよ?」
「え?」
「いや、え? じゃなくてね。…………あーもう、お姉ちゃんは寝惚けると本当、しょうがないぐらい可愛いから反則だよ。今の首を傾げて上目遣いって、私なら殺されても許しちゃうよ?」
「? こいし、どうかしたの」
「……うん。どうかしちゃった、お姉ちゃんのせい、だよ?」

 チュッ。

 気づいたら、こいしの顔がぼやけるぐらいに目の前に。
 そして、驚いて声を上げようとしたけど、唇が塞がれていてくぐもった音にしかならない。何だかとても、唇が温かくて、とろんとする。

「……ふふ、おはようお姉ちゃん。ねえ、お姉ちゃんからの『挨拶』も頂戴?」

 にこりと、先程の『負』の表情を僅かにも感じない笑顔。
 そのこいしの笑顔に、私はよく分からないのに、ふわふわと舞い上がりそうなぐらい幸せな気持ちになる。
 そうだ、やはりこいしには笑っていて欲しい。

「ええ、おはよう、こいし」

 だから、私はこいしが喜んでくれるならと、こいしがそっと瞳を閉じたのを合図に、ゆっくりと唇を触れさせた。
















「寝惚けたさとり様、ご馳走様ですっ!」
「うにゅー、うにゅー、うにゅー」
「お姉ちゃんってば、本当に罪作りなんだからなぁ。お姉ちゃんの無意識は私を越えた!」

「……………………はい?」

 朝。起きてきた私に対してのこの反応。

 燐はぐっと感涙し、空は真っ赤な顔で声も出せずに両手と羽をぱたぱたとさせ、こいしは上機嫌に鼻歌混じりに笑っている。

「…………?」

 分からない。そして眠い。
 そして、やっぱりとてもとてもよく分からない。
 紫色のパジャマの裾を裸足の足で踏んでしまいながら、私は静かに目を擦る。

 朝は苦手。
 起きるのが本当に難しいし、何より、この子たちが何を言っているのか分からないから。
 でも。


「さとり様、だーい好きです♪」
「わ、私もです! あ、うにゅ、お、お燐よりずっとですよ?」
「ふふっ、お姉ちゃん、私がどれだけお姉ちゃんを大好きか、なんて聞かなくても分かるよね?」

「…………」

 それでも。
 燐も空もこいしも、目覚めのぼんやりとした瞳で見るのが勿体無いぐらいに、眩しい笑顔を浮かべてくれるから、何だか疑問がどうでもよくなってしまう。


 そう、私には悩みがある。
 だけど、私の今までの境遇を思えば、とても幸せで贅沢な悩み。


「…………私は、何をしたから、貴方たちにそんな笑顔を浮かべさせられるのかしら?」


 とても知りたくて、だけど心を読んでも嬉しいとか、可愛いとか、情報が膨大すぎてよく分からない。
 それは、小さな私の悩み。

 貴方たちが何を喜んでいるのか分からないという、少し悔しい悩み事。

 でも、分からないのに貴方たちは喜んでくれるから、それはそれでいいのかもしれない、なんて思ってしまう。


 とりあえず、私は微かにでも笑おうと、頬に力を入れる。
 これは大切な、朝の儀式。


「おはよう、皆」


 一人だけでは使えない朝の魔法。


 さあ、今日は何をしましょうか?
 
 
  
 寝惚けたさとり様は、天然な癒しでキラーな方だと嬉しいなと思ったら書いてた。

 とても反省しています。

 とりあえず、さとり様はやりすぎなぐらい幸せなのがいいです。
夏星
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
このさとりんの可愛さは異常。
2.名前が無い程度の能力削除
読んでる最中、ふと自分が奇妙な笑い声を上げてるのに気付いて
うわ俺マジきめぇとか思うぐらいに甘かったです
3.名前が無い程度の能力削除
なるほど
これはさとり様のハーレムの話だったのかwww
4.名前が無い程度の能力削除
な、なんだこの破壊力は……。

地霊殿の実地調査に行ってきます。
5.名前が無い程度の能力削除
地底は桃色だった。
6.名前が無い程度の能力削除
寝ぼけてこれなら酔わせてもキス魔になりそう
7.名前が無い程度の能力削除
学校でニヤニヤしてしまった。
地霊殿の桃色さは異常。
8.名前が無い程度の能力削除
桃色過ぎて途中で一瞬意識が遠のいた…流石は夏星さんだぜっ…!
9.名前が無い程度の能力削除
桃色バンザイ!
さとりんかわいいよさとりん。
10.斗無削除
くっ………
読んでよかった………あなたの作品、大好きです……!!!

さとり………抱きしめたい!!!!!
11.名前が無い程度の能力削除
念の為、こいつらが死ぬまで皆で幸せなことを確認したい。シリーズ化してくれ
12.名前が無い程度の能力削除
なんというハーレム
ごちそうさまですw
13.謳魚削除
私の中ではやはり夏星さんがそそわ糖分の覇者で御座います。
でもやっぱり己は空さとg(ry