Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

これは、或る春の他愛もない一日のお話

2009/05/24 12:29:08
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「おっす!邪魔するぜ」


境内の掃除も終わり縁側でお茶を飲みながら朗らかな午後を満喫している霊夢のもとに、そんな声と共に一人の少女が来襲した。
いつものように凄まじい速さで境内を飛び、賽銭箱の前で急停止したかと思ったら推力を利用して器用に地面に着地。
箒を立て掛けながら霊夢のもとに近寄ってきた。
彼女が通った後の境内には、折角集めたゴミが再び飛び散ってしまっていた。


「こら、せっかく掃除したのに台無しじゃない」


午前中の自分の努力を全くの無駄にしてくださった親友に向かって歓迎の代わりに声をかける。


「どうせ誰もこないだろ」
「うるさい!いいから撒き散らしたゴミを集めなさい」
「せっかく来たお客様に向かって掃除しろなんて言う巫女はお前ぐらいだろうな」
「あんたが撒き散らしたんだからあんたが集めるのが当然でしょ。それにお客様なら賽銭の一つでも入れていきなさいよ」
「それはありえないぜ」


霊夢が怒り始めるのを機敏に察知した魔理沙は逃げるように物置にある箒を取りに行った。
もうこんなやりとりも何回も繰り返したものか。
魔理沙も手馴れた様子でてきぱきと境内の掃除を進めている様子だ。
もともと落ち葉も少なく掃除は楽だったし。
何より雑である。
そんな魔理沙を眺めながらお茶を啜っているうちに、さっさと掃除を終えた魔理沙が隣に腰掛けた。


「疲れたぜ~、お茶」
「もっと丁寧に掃きなさいよ」
「細かい事は気にしない方が身のためだぜ」
「はいはい、まあいいわよ」


霊夢が気だるそうにお茶を用意しに腰をあげた。
見送った魔理沙はゆっくりと目を閉じる。
風が掃除をして暖まった体を撫ぜるように吹いている。
鼻から息を吸い込めば自然の香りと共に美味しい空気が肺を満たしていった。
一仕事した後のこのひとときは、達成感も後押しして心地よさが体を包んだ。


「何してるのよ」
「掃除を無事終わらせた私を労っていたのさ」
「さいで」


霊夢が隣に置いてくれたお茶を取り、グイっと飲む。
不味い。
半ば予想通りであるが。


「不味いぜ」
「仕方ないでしょ、出涸らしなんだから」
「疲れた親友に向かって出涸らしのお茶とは」
「毎回毎回やって来てはタダでお茶やら飯やらを食っていく貴方にはこれで十分よ」


そんな軽口を叩き合う。
これもいつもの事、二人の間に結ばれた予定調和のような会話。
こんな軽口から始まり二人は縁側で世間話を続ける。
話は二人の昨日の話から友人、里、スペルカードなど、気分によって展開していく。
共に下らない話で笑い合う時もあれば、時には考えをぶつけ合っての議論もある。
何故そんなに話せるのかと不思議に思うほどに。
そんな話も区切りがつくと沈黙が二人を包むときがある。
決して気まずいものではない沈黙。
心地よい時を二人で共有する。
二人の日常。
親友と過ごす日常。
そんな時間は駆け足で過ぎ去っていく。
気付けば日は西に傾き、空をオレンジ色に染め上げている。


「もう夕方か」
「そうねぇ、お夕飯作るけど…食べていくのよね」
「もちろんだぜ」
「全く、それじゃあお夕飯作っちゃいましょう。手っ取り早く鍋にしようかしら」
「お、いいねぇ。酒飲もう酒」
「わかってるわよ。じゃあほら、鍋の作るの手伝って」


そんな話をしながら二人は台所に向かう。
二人とも一人暮らしをしているので、見た目より料理のスキルは高い。
てきぱきと用意を終えた二人はちゃぶ台を挟んで鍋を囲う。
鍋の隣には酒瓶。


「我ながら旨そうだぜ」
「あんたは具材を鍋に入れただけでしょ」
「失礼な、ちゃぶ台と酒の用意もしたぜ」
「……まあいいわ」
「そんな事より早く食べようぜ」
「そうね、それじゃあ」
「「頂きます!」」


二人は酒を飲みつつ鍋をつつきあう。
酒と鍋があれば自然と会話は弾むものだ。


「それ私のお肉よ!」
「早いもの勝ちだぜ」
「へぇ、いい度胸じゃない。博麗の巫女に勝負を挑んだこと、後悔させてあげるわ」
「いいだろう、いつまでも負けっぱなしというわけにもいかないぜ」


……なんとも楽しそうである。
わかっているとは思うが、鍋勝負は霊夢の圧倒的勝利に終わった。
博麗の巫女に食べ物で喧嘩を売ってはいけないのだ。

鍋をあらかたさらい終えた時には、空は黒に染まり星が輝いていた。
博麗神社は山の拓けた場所にあり、空気が綺麗なので星が美しく見える格好の場所だ。
鍋を片した二人は縁側に腰掛けながら酒を飲んでいる。


「きれいだぜ」
「あなたって星が好きよね。弾幕がアレだし」
「アレとはなんだアレとは」
「恋色ねぇ」
「うっ、うるさいぜ。とにかく星は子供の頃見たときから好きなんだ」
「ふーん、今度詳しく聞いてみたいわね」
「あぁ、また今度な。それより今は星を見ながら飲みたいんだ」
「そうね…」


満腹の体を春の夜の心地よさにあずけながら、親友とゆっくりと酒を煽る。
旨い。
ゆっくりと進む時間。
特に話をするわけでもない、ただ二人で杯を傾けるだけ。
風が草木を揺らす音に耳を傾けながら。
永遠に続くと思われるそんな時間も、やがては終わる。
今日という日の終わりと共に。


「そろそろ帰るぜ」
「そう、わかったわ」
「あぁ、それじゃあな」


やってきた時のように颯爽と神社を後にする魔理沙に、霊夢は黙って手を振った。
魔理沙が帰った後も霊夢はゆっくりと杯を傾ける。
この余韻を楽しむように。
寝てしまえばまた新しい一日がはじまる。
今は少しでもこの時間を堪能していたかった。
春の夜の風が彼女を撫ぜる。
ゆっくりと目を瞑り、彼女は身を任せるのだった。


これは、或る春の他愛も無い一日のお話
こんな友人が欲しいなと思いつつ書いたSS初挑戦。
問題点や良い点など、指摘して頂ければ嬉しいです。
こんな稚拙な文章ですが読んで頂いた読者の皆さんに感謝します。
ちゃろ
http://yoyonikkiyo.blog.shinobi.jp/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
気心知れた友人同士の会話っていいなー。

すばらしい作品でした。