Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

もこさんぽ

2009/05/22 12:06:00
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 散歩に出てみたくなった。きっと、理由なんて無い。
 そりゃあ深く考えれば、それなりには浮かんでくると思うけど。
 具材の入っていない塩むすびをいくつかに、水の入った竹筒。それ以外はなんにも持たず、私はその日、家を出た。

 外は快晴ってほどでもなくて、時折雲で陽が陰る程度。その度に地面を撫でるような風が吹いて心地良い。
 木々がさわさわと鳴って、野鳥達が遠慮がちに鳴き声を合わせる。うん、やっぱり出てきてよかったな。
 目的地も決めず、空も飛ばずにただ散歩。本当の贅沢って、こういう事を言うのかも知れないね。違うか。
 
 輝夜を追ってやってきたこの世界に、興味を持ち始めたのは最近のことだ。
 月が沈まなくなる異変の後、霊夢の神社でやる宴会にも招かれるようになった。酒を呑んで、バカ話して、弾幕ごっこして。
 たまに『あれ? 私はなんでこっちに来たんだっけか』なんて思うようになった。
 そうしたら、今度は一日がとても長く感じるようになってきて、竹林で迷ってる人を送り届けるようになったんだっけ。
 そのことを慧音に話したら、すっごく喜んでくれたのを覚えてる。おかげで、やめるにやめられなくなったけど。
※ 
     ※ 
          ※
 歩き始めて、少し経ったころ。
「おーい!」 
 どこからか、声が聞こえる。んー、なんか厄介事の匂いがするから無視しておこう。
「こら! 無視するなってば!」
 背後を振り向けば、一匹の妖精が両手を腰に当て、こちらを睨んでいた。うん、やっぱり厄介事だったか。
 私が対処に困っていると、妖精はこちらのことなどお構いなしに話しかけてくる。
「ねえねえ、アンタ。こんなとこでなにしてるの?」
 これは、また直球だな、きっと単純に疑問に感じただけなんだろうけど。
「散歩だよ」
「さんぽ?」 
 あちゃあ、疑問系で返してきたか。ここから、散歩の意義とか目的を説明する流れになるのも嫌だな。何より面倒だし。
 仕方ない、ちょっと強引だけど話を逸らすか。
「私は藤原 妹紅。お前の名前は?」
「あたい、チルノ!」
 迷いのない返答だなぁ、お姉さん感動しちゃったよ。嘘だけど。 
「そうか、チルノか。いい名前だね」
 チルノに近づいて、わしわしと頭を撫でる。うわ、冷たい。こんな冷気を放ってるってことは、こいつ氷精か。
 しかも、結構な力を持ってるな。よし、方針決定。
「チルノ。私は今、散歩でとっても忙しいんだ。だからまた今度な」
 関わらない、そう決めた。私は手を振ってチルノから距離を取る。がし。
「やだ、もこー遊んで」
 背中に張り付いたチルノが言う。そうだよな、妖精がおとなしく言うこと聞くはずないよな。はぁ。
「わかった、わかった。遊んでやるから離れてくれ」
「ほんと? やったー!」
 チルノが嬉しそうに私から手を放す。この隙に逃げてしまおうかとも考えた、けどなぁ。 
 チルノは、こっちをまったく疑っていないキラキラとした眼差しを向けてくる。

 ……こういう目には弱いんだ、私は。

 それから、チルノの保護者っぽい緑色の妖精が迎えに来るまで、私たちは弾幕ごっこを楽しんだ。
※
     ※
          ※
「妹紅さん。ここから先は、人の立ち入るべき領域じゃないわ」
 空から声が降ってきた。聞き覚えのある声、だった。

「『人か?』って問われると自分でも返答に困る有様だからなぁ。私の事は気にしなくていいよ、文屋」
 文屋こと射命丸 文は、明らかにむっとした顔で私を睨みつけ、組んでいた腕を解く。 
「そういう訳にはいかないの。ここは妖怪の山。余所者に荒らされると分かっていて道を譲る道理が無い」
 なんか、酷いこと言われてるなぁ。こっちは足の向くまま散歩を楽しんでるだけなのに。あれか、天狗は昔から十分排他的だったけど、こっちに来てさらに磨きが掛かった感じだな。
「荒らさない荒らさない。確かに余所者だけどさ、あんたらとやり合ったところで意味がないもの」 
 両手を挙げて戦いの意志が無いことを示す。文は少しだけ警戒を解いたみたいだ。
「そう。それにしても珍しいわね、いつもは竹林を離れない貴女が」
 お? 文屋としての本能がうずき始めたか。口調は固いままだから、半々ってところかもしれない。

「たまには散歩でも、と思ってね。籠もってばかりじゃカビが生えちゃうでしょ」
「ああ、だから歩いているのね。物見の白狼天狗が『紅白が歩いてきます!』なんて報告に来るから上が慌てちゃって。まったく人騒がせなんだから」
 どうやら私は霊夢と間違えられたらしい。そこで、霊夢と縁浅からぬ文に白羽の矢が立った、ってところかな。一緒に地底へ行ったとか行かないとか聞いたことがあるし。 
 にしても、監視がいるのか。ここに来るまで、それらしい気配とか感じなかったんだけど。妖怪の山、侮れないな。 
「まぁ、山に立ち入らないなら此方もとやかく言うつもりはないわ。どうぞ散歩を続けてちょうだい」
 文の判断は『不干渉』で落ち着いたらしい。そりゃあ、こっちだって山の妖怪と諍いを起こすつもりはないけれど、あんたに許されて散歩っていうのも違う気がする。
 ちょっと意地悪してやろうかね。

「なんだか、急に山登りがしたくなってきたな」
 分かり易いほどに文の顔が引き締まる。
「……本気?」
「だったらどうする。いつぞやみたいに、私が焼き鳥を食べたくなる前に尻尾を巻いて逃げた方がいいんじゃないのか?」
 ふふん、と笑って挑発してみる。別に、本気で山登りしたいわけじゃないが、天狗特有の鼻につく物言いは癪に触る。
 ごうっ、と私の横を一陣の風が通り抜ける。その風が文の放った弾幕だ、と私が気づいたのは数瞬遅れての事だった。
「それなら、話は簡単ね。貴女を叩きのめしてお帰り戴く。今の私が下がることは、組織の面子を地に落とすのと同じ事なのよ」

 えーと、もしかして……………………地雷踏んだ? 
※
     ※
          ※
 河の近くは、竹林とは違った涼しさに満ちていた。 
 あちこち痛む体に、湿気を含んだ風が気持ちいい。文との弾幕勝負のあと、山に登らないと約束して麓を散策することにした。
 結果? 聞くなよ。まぁ、こっちは最後まで散歩の体を崩さなかったから引き分けってところだろうね。
 面子を重んじる種族だっていうのは知ってたつもりだけど、あそこまで頑なだとは思わなかった。今回は、こっちが悪いんだから仕方ないけどさ。
 
 川縁の手頃な石に腰掛けて、景色を眺める。
 綺麗だな。
 そんな言葉が自然と出てきてしまうくらい、美しい風景。どれかが欠けても気にならないけど、全てがあるから心が洗われる。
 適当に歩いてこういう景色に出会えるんだから、やっぱりこの世界は美しいんだと思う。

 ぐぅ。

 人が折角感動してるのに、無粋な腹が食事を要求する。我が腹ながら現金なもんだ。
 烏天狗に続いて、腹の虫まで相手にするのはいささか分が悪い。戦う方法はわかっている、ここは手早くやってしまおう。
 がさがさと持ってきた包みを取り出して、こんな近くに綺麗で冷たそうな水があるんだからと、元の中身をそこらに撒いてから河に近づくと。
 何者かの視線を感じた。
 ……見張りの天狗、じゃあないな。気配の消し方が雑すぎる。視線に含まれた感情は、興味と怯え。ふん、山の近くには物好きが多いらしいな。
 手にした竹筒で水を汲もうとして。

 水に沈む河童とばっちり目が合った。

「ごめんね。お姉さんが急に河へ近づいてくるものだから、隠れたはいいけど動けなくなっちゃって」
「いや、あんたのテリトリーに勝手に入ったのはこっちだからね、悪かった」
 河童は河城 にとりというらしい。自己紹介の後、腹の虫を黙らせるべく、おむすびをむぐむぐしていると。
「お姉さん、いい人だね」
 にとりは、突然そんなことを言ってくる。
「人に見えるかい?」
「え?」
「……こっちの話」
 そっか、と言ってにへらと笑うにとり。この娘はこの笑顔が出来るようになるまでに、どれだけの苦悩と葛藤があったんだろう。私は、ふとそんなことを考える。
 人が怖くて、それでも関わっていたくて。その感情を隠す術すら知らなくて。
 ああ、そういうことか。

『昔の私に似てるんだな、多分』 

 人であったものが、人とは違う生き物に成り果てて。自分で選んだ道だったから、恨み言をいうのも筋違い。
 理解するまでに追われた集落だって十や二十じゃきかなくて、何年も口を訊かなかったこともあった。
 騙されて、慕われて、悲しませて、もて囃されて。
 愛したり、愛されたり、嫌ったり、嫌われたり。
 いくどもいくども繰り返して、手に入らないものを見詰めて、それでも獣に成り下がらずにすんだのは、人間をやめなかったのは。
「あんたに会えて、よかったな」
「え?」
 へにゃりと笑ってみせる。そうそう、こういう笑い方出来るようになったんだよな、私も。
「私なりのプロポーズ」
 にとりは、真っ赤になって再び河の底へ沈んでいった。 
※
     ※
          ※
 それほど広くない幻想郷でも、たかだか一日で歩ききれるほど狭くもない。
 にとりと別れて、しばらく歩いていたら空が赤く染まってきた。 
「そろそろ帰るか」
 誰にともなく呟いて、のんびりと帰路につく。不思議と寂しさはない。
 飛んで帰ろうか、とも思ったけどもったいない気がしたのでそのまま歩く。
 
 我が家が見えてきた。明かりが付いている。人の気配もある。
 待ってる奴がいるってのも、悪くない。これも最近知った。
 『遅かったな、心配したんだぞ』なんて言う慧音の顔が浮かぶ。それに私は『ごめんごめん』なんて適当に返して。

 『どこに行ってたんだ?』って聞かれたら、私はきっとこう言うんだ。





「私も人間なんだなぁって確認を、ね」   
 
今の彼女が得られる幸せを願って
めたる
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コメント



0.簡易評価なし
1.無評価名前が無い程度の能力 削除
いや~こういう何気ない日常の一部を切り取ったssって癒されますな
2.無評価名前が無い程度の能力 削除
ほのぼのしてるなぁ・・
他のキャラのさんぽも見てみたいです
3.無評価名前が無い程度の能力 削除
もこたん老けたな。

もこたんは千年くらい孤独だったし、それに比べたら今は幸せだろうな。
4.無評価名前が無い程度の能力 削除
にとりがプロポーズを受け入れちゃたらどうするんだもこたん
5.無評価名前が無い程度の能力 削除
いいほのぼのだったよもこたん
6.無評価名前が無い程度の能力 削除
心が癒された~
いいほのぼのでした
7.無評価名前が無い程度の能力 削除
癒された~
いいお話でした
8.無評価奇声を発する程度の能力 削除
もう本当に心から願ってます!!!!!
9.無評価名前が無い程度の能力 削除
いいSSですた。じわーと癒されます。
10.無評価脇役 削除
もこたんだからこそ余計に幸せだと感じられるね
ほのぼのとした良い話で、心が癒されました
11.無評価名前が無い程度の能力 削除
ギャグかと思ったら...
何かあったかいものが心に染みました。
妹紅が沢山の幸福に包まれますように
12.無評価名前が無い程度の能力 削除
うん。いい。とてもいい。
13.無評価名前が無い程度の能力 削除
散歩という名の自分探しですね
もう本当に目の奥がちょっとツンとしちまったぜ
後書きに激しく同意
14.無評価名前が無い程度の能力 削除
家に帰ると、無惨な姿のにとりと、一日中ストーキングしていた慧音先生が……。
15.無評価名前が無い程度の能力 削除
※14 オチをつけるなw

ものすごくいい話でした