猫と尻尾
「どうしよう……猫の尻尾を引っ張ったら抜けちゃった……」
つい先程、林の中でチルノは一匹の猫を見つけた。餌をもらえると勘違いしているのか、チルノの足に頬をこすりつけてくる。
体に触れても逃げようとしないので空を向いている尻尾に手を伸ばす。
「えっ?」
なぜか簡単に取れてしまった。チルノは慌てて元に戻そうとするが上手くいかない。
「あれ、チルノどうしたの?」
突然の声に、反射的に背筋が伸びた。振り向くと友達の橙がいた。まずいと思い、チルノは必死で背中の後ろに猫を隠す。
「ちぇ、橙! いやこれは……」
猫はチルノをすり抜け、橙に駆け寄る。
「あっ……尻尾が取れちゃったんだ」
「わたしは別に無理にやったわけじゃないの! ただ触っただけなのよ!」
「ふ~ん」
「あれ、怒らないの?」
「え、どうして怒らなくちゃいけないの? ちょどいいのに」
「でもこの猫に悪い事しちゃったわ」
「そうね、もしこの子に謝りたいなら明日魚の一匹でも持ってきてよ」
チルノは橙の言われた通りに、次の日魚を持って現れた。猫は昨日の事が嘘のように、立派な尾を振っていた。
「あれ! 尻尾が生えてる!」
「チルノ、魚ありがとうね。今日は特別な日だから」
「何の日なの?」
橙は猫に魚をあげながら言った。
「この子の50回目の誕生日よ」
春の雪
「幽々子様大変です! 幽々子様!」
日が昇り始めて間もない、夢と現実が意識を揺さぶるゆるやかな時。その幻想を剥がすように妖夢は廊下を走り回る。
「う~ん、あと5時間寝かせて……」
「幽々子様起きてください!」
妖夢は幽々子の寝室の障子を勢いに任せて開いた。木目と木目が重なり合う小気味の良い音が静かな館に響く。
「何よ妖夢、騒々しいわね。いつからあなたは騒霊になったのかしら」
「そんなこと言っている場合ではありません! 外を見てください!」
「外……?」
幽々子は妖夢に言われるまま庭の方へと首を向けた。朝日を照らされた障子にいくつもの小さな影ができていた。
その小さな豆粒のような影は風に吹かれて揺れている。
「あら……これは……」
「そう! 雪です! これから春になろうというのに雪が降っているのです。これは異変ですよ! すぐに霊夢と連絡を取って……」
「ふふふ」
「何が可笑しいのですか?」
「あなた、いったい何年ここに住んでいるの? 庭師失格ね、だから半人前と言われてしまうのよ」
「どういうことでしょうか?」
「それとも疲れているのかしら? そう、きっとそうね。だから今日は宴会をしましょう」
「あの……幽々子様?」
「障子を開けて御覧なさい、いいお酒の摘みがあるわ」
妖夢が障子を開けると陽気な春の風が部屋に吹き込んだ。
「ああ、そうか、そういうことでしたか。これは早合点してしまいました。それにしても、桜吹雪とはよく言ったものですね」
軍手と逆立ち
「こんにちわ~新聞で~す。って、店主さん何をしてるんですか?」
文が香霖堂に新聞を届けに行くと、店の前で霖之助が逆立ちをしていた。隣に降り立つ。
「やあ、これはこれは。新聞は後で読むからその辺に置いてくれればいいよ」
「それはわかりましたけど……何で逆立ちしてるんですか?」
「何でって、世界をひっくり返しているのさ」
「世界ですか」
「そうさ、この格好で外を見るとまるで自分が空の天井に到着してしまったように感じるよ」
「はあ……」
文は前々からこの店主のことを変な人だと認識していた。
しかし、この幻想郷で一目置かれている人間、博麗霊夢と霧雨魔理沙に何故か慕われている。
いったいこの男のどこにそんな魅力があるのだろうか。
「君もやってみるかい?」
「私は空を飛ぶことができるので結構です。空中ならばどんな姿勢も自由自在です。
わざわざここで逆立ちなんて、そんな面倒な事をする必要はありません。
それにどんな位置から見たとしても空は空です。変わりません。真実は常にたった一つなのです」
「なるほどね、だけどそれは君の真実だろう。僕には空が白に見える」
「し、白ですか? この青空を前にしてよくそんな事が言えますね」
「僕の目で、しかも逆さで空を見ているからだろうね。普通に空を見ていたら絶対に白になんて見えない」
「そんなに逆立ちが好きなんですか? ふふ……面白いことを言いますね。
私はいつもカメラを通して物事を見ていました。だからいつも空を青く見ていたのかもしれません」
「それも一つの、君の真実さ」
「はい、だから今日は……」
文はカメラを逆さにして香霖堂に向けてシャッターを切ったが、すぐにそれが意味の無いことに気がついた。
「あ、しまった。写真にしたら逆さなんて関係ない。普通に撮った時と一緒です」
「いいんじゃないか? 少なくとも僕はその写真が逆であることを知っている」
「2人だけが知る写真ですか……それも面白いかもしれませね」
幻想郷には変人が多く彼も間違いなくその1人だが、どこか見ている世界が違うよな不思議な雰囲気がある。
次の新聞のネタとして霖之助を取材してみようかと文は思う。
この香霖堂が写った写真を新聞に使ったとしても、それが間違いだと気がつくのは、天狗の少女と冴えない店主だけなのだ。
文はさっそく霖之助に尋ねた。
「それにしてもどうして空が白になんて見えたんでしょうね」
「う~んそうだな、君のぱんつが白いからじゃないだろうか?」
とりあえず、新聞の見出しだけは決まった。
最強の魔法
「エターナルフォースブリザード! 相手は死ぬ」
チルノは真剣な顔で言った。すると魔女と巫女は笑いだした。
「あはははははははは! ちょ、お前それは! や、やめてくれ腹が痛いぜ!」
「くっくっくっくっ……馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけどあんたがそこまで……くっくっ」
吸血鬼の館でもチルノは真剣だった。
「エターナルフォースブリザード! 相手は死ぬ」
だがやはり、主と従者は笑いだした。
「ぎゃはははははははは! 馬鹿だわ! 馬鹿がここに居るわ!」
「お、お嬢様……笑い方が下品すぎますわ……ふっふっ」
「あんただって……くっくっくっ頬が緩んでるじゃないの……でもこんな厨二病じゃあ仕方がないわねくっくっ」
「お嬢様と好い勝負ですわ」
「えっ?」
チルノは真剣に魔法を唱えた。
「エターナルフォースブリザード! 相手は死ぬ」
「ひゃはははははははははは! やめて、ギ、ギブ……あたいの腹筋が……死神が笑死なんてくっかかかか」
「あら随分と楽しそうね小町」
「え、映姫さま! い、いや、あたいは別にサボっているわけではなく妖精の言葉遣いが乱れていると聞いてさっそく調査を……」
「小町は黙っていなさい。あなたもそんなことを言うのはおやめなさい」
チルノはよくわからないといったようすで首を捻る。
「えっ? なんで? だって最強の魔法なんだよ?」
「何が最強なものですか。そんな言葉に意味も効果もありません。あなたは皆に馬鹿にされているのですよ」
「でもこれを言うとみんな笑顔になるんだよ? 最強じゃん!」
チルノはにっこりと笑い、映姫と小町は何も言えなくなった。
、
なんとなく中国の古典に載っていそうなプロットと、チルノというキャラの魅力が合わさってマジ最強に見える。
チルノは最強でいいと思います。
>お嬢様と好い勝負ですわ
咲夜さんwwwww
しかし和むSSだなぁ