八雲藍の朝は早い。
主人は夜行性の為、この時間に顔を見ることはまず無い。
しかし、彼女は主人に代わりに雑用を行わなければならない。
その雑用がどういうモノなのかと言うことを彼女はしっかりと理解している。
だから彼女は惰眠を貪ることをよしとはしないのであった。
そんな彼女の心配は、最強だがいささかだらしない主と、可愛い自分の式、橙のこと位である。
八雲藍の午前は忙しい。
前述の通り、彼女は雑用をこなさなければならない。
まずは人里へと彼女は赴いた。
里に入ると目に飛び込んできたのは人々の日常。
豆腐屋は豆腐を売り、お百姓さんは田を耕している。
幻想郷の人々は自分のような妖怪が入ってきてもあんまり騒がない。
妖怪側も人里に来て暴れるようなものは殆ど居ない。
それがこの地に住む者の普通なのである。
―うん、今日も変わったことは無い。
普通であること、それがどれだけ素晴らしいことか。彼女はそれをよく知っている。
そんな彼女の楽しみは、さっき買った大好物の油揚げと、それを一緒に食べる愛しい自分の式、橙のこと位である。
八雲藍にとってお昼は束の間の休息。
一度マヨヒガへ帰り、お弁当を持って再び外へ。橙は帰っていなかった。
遊ぶことは元気でいいことだ。そう自分に言い聞かす。
見晴らしのよい山頂で食事。
我ながら旨いとおもう、このお稲荷さん。やっぱり三角型の方がおいしい。
春風に誘われたリリーがこっちに手を振っていたのでこちらも手を振って挨拶。
食事を終えた彼女はごろりと横になり昼寝を始める。
これも、この後の仕事の効率を上げるための大事な作業である。
決して何処かの死神のようにサボっている訳ではない。
―いい陽気だ
目を瞑りながら思う。
この暖かい日差しも、時折吹き抜けて頬をくすぐる柔らかい風も、本当に気持ちがいい。
こうして何もしないで寝転がっていると、自分はこの時間の為に生きているんじゃないかとふと思うことがある。
幻想郷は、静かに優しく彼女を包み込んでくれている。
―橙はいつもこんな感じなんだろうな…
ふと自分の式のことを思いながら、彼女はゆっくりとこの僅かな時間をごろごろと楽しむのであった。
そんな彼女の残念は、この時間がすぐに終わってしまうことと、大好きな自分の式、橙がここに居ないこと位である。
八雲藍の午後は慌しい。
幻想郷には外界のモノが流れ着く場所が幾らかある。
そこには様々な物があるのだが、大抵の場合名前も使い方も分からないものばかりである。
しかし、中にはとんでもない力を持った代物も存在する。
幻想郷に住む全ての者が力あるものとは限らない。
妖怪であれ人間であれ分不相応な力を有すると、力に飲まれてしまう可能性がある。
そうならない為に厄介な物を処分してしまうのも、彼女の雑用の一つである。
ガサガサと乱雑に積み上げられた物品をかき分ける藍。
中には鋭利な物や爆発物もあり大変危険である。
それらの中から危険な物を選別し、スキマに放り込んでいく、ケガをしないように慎重に。
………
……
―ふむ…今日はコレ位か。
危険物の片付いたガラクタの山を見ながら呟いた。
傍目には全然片付いたようには見えないのだが、彼女は今日もまた間違いなく、重大な雑用をやりとげたのだ。
ふと日の傾きを見る、まだ日没までには時間がありそうだ。
それは彼女にまだ自分の時間が残されていると言うこと。
時間のスキマを見つけた彼女は、自分の片付けたガラクタの山を見ながらちょっとだけ考えた。
―そうだな、今日は古道具屋の所にも行ってみようかな?
ガラクタを見ながら思い出したのは魔法の森にある香霖堂。
あの店も目の前にある小山に負けなくらいにガラクタだらけである。
―折角だから手土産でも持っていこうか。
彼女は目の前のガラクタからまだ形がいい物を選び、森に向けて飛び立った。
そんな彼女の憂いは、幻想郷を脅かすかもしれない自分の知らない力と、自分の大切な式、橙の帰りが遅いこと位である。
「…まだ泳ぐには寒いと思うよ?」
「くしゅ!わざとじゃないって~…」
鼻をすすりながら、もうしまうところの無いストーブの前で暖をとる黒猫。
「水に弱いんだから気をつけないと…」
「うん…でもあんまりにも釣れなくて、つい…」
「新しい手拭い持ってくるから、早く体を乾かしなさい」
ストーブの前で震えている黒猫の為に、僕は手拭いを取りに店の奥に入った。
はあ、とため息をつく。
いつも通り時間の止まった様なこの店に「魚を採る!」と言って元気よく黒猫が飛び込んできた。
まぁ、釣具ぐらいならと思って貸してあげたが、使い方がよく分からなかったのか、一緒に行こうとか言い出した。
どうせ客も来ないし、こんないい天気の日に独りで居るのもなぁと思い一緒に釣りに行ったのだ。
そしてぼんやりと池に釣り糸を垂らしたら足を滑らせて池にはまり、今に至る。
「これだけあれば足り…… こほん、とりあえずこんなところで脱がないでくれるかな?」
「だって気持ち悪いんだもん」
スッパ橙、なぜかそんな言葉が頭をよぎる。
いや実際には肌着はそのままなのでスッパではないのだが、そうなるのも時間の問題かも知れない。
まぁずぶ濡れになった猫にそのままで居ろと言う方がおかしいか。
しかし、店先で服を脱いだ少女が震えているというのはどうだろう?
代えの服も探してあげないとな。
「うぅ~耳の中がまだぐじゅぐじゅする~」
「仕方ないな…」
頭と耳を拭いてやる。
ごしごし
「んっ…!」
ごしごし
「~~!」
ごしごし
「…ん……ぁあっ!ふぁ…」
…
「こらこら、じっとしなさい」
「…だってぇ~」
耳に触れる度に猫なで声(?)を上げる黒い猫。
正直なところ、この状況を人に見られるととても恥ずかしい。
間違いなく何か誤解されるだろう。
魔理沙なんかに見られた日には問答無用でマスタースパークを放たれてもおかしくない。
早く終わらせよう。
ごしごしごし…
……
「よし、頭は拭けたよ」
「ん、ふぅ…ありがと!耳も大分すっきりしたよ、ついでに体も…」
「それは自分で拭くようにね」
流石にそれはマズイだろう…
手拭いを手渡し、店の奥に入るように指差した。
すると彼女は
「…駄目?」
と小首を傾げ、僕の服を引っ張った。
まだ寒いようでストーブの前から離れたくないらしい。
…まぁ、ここまで来たら一緒か。
説得することを諦めて彼女の体を拭こうとするとコンコンと扉を叩く音がする。
あぁやっぱり。
どうしてこう、僕はタイミングが悪いんだろう?
「主人、居るか?」
ん?魔理沙じゃないな。
「あぁ、ちょっと待って下…」
「あ、藍様だ!」
「その声は、橙!?何故こんなところに?」
がちゃっ…ばん!
扉の開く音がした。
八雲藍の、もっとも大事なもの、それは橙である。
八雲紫は夜に活動を始める。
彼女が起きたとき普段居るはずの式も、式の式も居なかった。
おかしーなーと思って適当にスキマを弄ってみた。
「どれどれ…」
そこには半狂乱になって暴れまくってる式と、ほとんど炭と化した古道具屋とその店主。
それを大泣きしながら必死になだめている式の式の姿を見つけた。
「ぎゃっ!ぎゃぎゃ!ぎゃっっ!!ぎゃっ!しね死ねシネ死ねシネシネシネ死ねシネシね死ねシネシネネシネね死ねシネ………」
「ら゙ん゙ざま゙~~!!!!!うわぁ~~~ん!!」
紫はその様子を確認した後、彼女は静かにスキマを閉じた。
そんな彼女の頭痛の種は、自分の式の未熟さ位である。
「お願い…記憶の境界は私が弄っとくから……」
「ふぅ、やれやれ……分かった分かった…その歴史は無かった事にしとくから…」
「本当にごめんなさい……」
「幻想郷の大妖怪にそこまで頭を下げられて、断る訳にもいかんだろう……」
「あの…これつまらない物なんだけど……」
すっ…
「これはまた随分上等な毛皮……って、おい!」
「お願い!聞かないで!!黙って受け取って……」
「………出来のいい式を持つと大変だな」
「そうよぉ……普段出来る娘だから、たまに気を抜くとああなるのよぉ~……うぅ~……」
「泣くな……」
体を起こすと寝床の横にはスキマ妖怪の八雲紫と橙が座っていた。
そしていきなり謝られた。
とりあえず、何のことだかよく分からない僕は曖昧な返事を返した。
紫からのお詫びということで、非常にキレイな毛皮のを貰ったんだが何かあったんだろうか?
あれ?誰か一人足りない?
主人は夜行性の為、この時間に顔を見ることはまず無い。
しかし、彼女は主人に代わりに雑用を行わなければならない。
その雑用がどういうモノなのかと言うことを彼女はしっかりと理解している。
だから彼女は惰眠を貪ることをよしとはしないのであった。
そんな彼女の心配は、最強だがいささかだらしない主と、可愛い自分の式、橙のこと位である。
八雲藍の午前は忙しい。
前述の通り、彼女は雑用をこなさなければならない。
まずは人里へと彼女は赴いた。
里に入ると目に飛び込んできたのは人々の日常。
豆腐屋は豆腐を売り、お百姓さんは田を耕している。
幻想郷の人々は自分のような妖怪が入ってきてもあんまり騒がない。
妖怪側も人里に来て暴れるようなものは殆ど居ない。
それがこの地に住む者の普通なのである。
―うん、今日も変わったことは無い。
普通であること、それがどれだけ素晴らしいことか。彼女はそれをよく知っている。
そんな彼女の楽しみは、さっき買った大好物の油揚げと、それを一緒に食べる愛しい自分の式、橙のこと位である。
八雲藍にとってお昼は束の間の休息。
一度マヨヒガへ帰り、お弁当を持って再び外へ。橙は帰っていなかった。
遊ぶことは元気でいいことだ。そう自分に言い聞かす。
見晴らしのよい山頂で食事。
我ながら旨いとおもう、このお稲荷さん。やっぱり三角型の方がおいしい。
春風に誘われたリリーがこっちに手を振っていたのでこちらも手を振って挨拶。
食事を終えた彼女はごろりと横になり昼寝を始める。
これも、この後の仕事の効率を上げるための大事な作業である。
決して何処かの死神のようにサボっている訳ではない。
―いい陽気だ
目を瞑りながら思う。
この暖かい日差しも、時折吹き抜けて頬をくすぐる柔らかい風も、本当に気持ちがいい。
こうして何もしないで寝転がっていると、自分はこの時間の為に生きているんじゃないかとふと思うことがある。
幻想郷は、静かに優しく彼女を包み込んでくれている。
―橙はいつもこんな感じなんだろうな…
ふと自分の式のことを思いながら、彼女はゆっくりとこの僅かな時間をごろごろと楽しむのであった。
そんな彼女の残念は、この時間がすぐに終わってしまうことと、大好きな自分の式、橙がここに居ないこと位である。
八雲藍の午後は慌しい。
幻想郷には外界のモノが流れ着く場所が幾らかある。
そこには様々な物があるのだが、大抵の場合名前も使い方も分からないものばかりである。
しかし、中にはとんでもない力を持った代物も存在する。
幻想郷に住む全ての者が力あるものとは限らない。
妖怪であれ人間であれ分不相応な力を有すると、力に飲まれてしまう可能性がある。
そうならない為に厄介な物を処分してしまうのも、彼女の雑用の一つである。
ガサガサと乱雑に積み上げられた物品をかき分ける藍。
中には鋭利な物や爆発物もあり大変危険である。
それらの中から危険な物を選別し、スキマに放り込んでいく、ケガをしないように慎重に。
………
……
―ふむ…今日はコレ位か。
危険物の片付いたガラクタの山を見ながら呟いた。
傍目には全然片付いたようには見えないのだが、彼女は今日もまた間違いなく、重大な雑用をやりとげたのだ。
ふと日の傾きを見る、まだ日没までには時間がありそうだ。
それは彼女にまだ自分の時間が残されていると言うこと。
時間のスキマを見つけた彼女は、自分の片付けたガラクタの山を見ながらちょっとだけ考えた。
―そうだな、今日は古道具屋の所にも行ってみようかな?
ガラクタを見ながら思い出したのは魔法の森にある香霖堂。
あの店も目の前にある小山に負けなくらいにガラクタだらけである。
―折角だから手土産でも持っていこうか。
彼女は目の前のガラクタからまだ形がいい物を選び、森に向けて飛び立った。
そんな彼女の憂いは、幻想郷を脅かすかもしれない自分の知らない力と、自分の大切な式、橙の帰りが遅いこと位である。
「…まだ泳ぐには寒いと思うよ?」
「くしゅ!わざとじゃないって~…」
鼻をすすりながら、もうしまうところの無いストーブの前で暖をとる黒猫。
「水に弱いんだから気をつけないと…」
「うん…でもあんまりにも釣れなくて、つい…」
「新しい手拭い持ってくるから、早く体を乾かしなさい」
ストーブの前で震えている黒猫の為に、僕は手拭いを取りに店の奥に入った。
はあ、とため息をつく。
いつも通り時間の止まった様なこの店に「魚を採る!」と言って元気よく黒猫が飛び込んできた。
まぁ、釣具ぐらいならと思って貸してあげたが、使い方がよく分からなかったのか、一緒に行こうとか言い出した。
どうせ客も来ないし、こんないい天気の日に独りで居るのもなぁと思い一緒に釣りに行ったのだ。
そしてぼんやりと池に釣り糸を垂らしたら足を滑らせて池にはまり、今に至る。
「これだけあれば足り…… こほん、とりあえずこんなところで脱がないでくれるかな?」
「だって気持ち悪いんだもん」
スッパ橙、なぜかそんな言葉が頭をよぎる。
いや実際には肌着はそのままなのでスッパではないのだが、そうなるのも時間の問題かも知れない。
まぁずぶ濡れになった猫にそのままで居ろと言う方がおかしいか。
しかし、店先で服を脱いだ少女が震えているというのはどうだろう?
代えの服も探してあげないとな。
「うぅ~耳の中がまだぐじゅぐじゅする~」
「仕方ないな…」
頭と耳を拭いてやる。
ごしごし
「んっ…!」
ごしごし
「~~!」
ごしごし
「…ん……ぁあっ!ふぁ…」
…
「こらこら、じっとしなさい」
「…だってぇ~」
耳に触れる度に猫なで声(?)を上げる黒い猫。
正直なところ、この状況を人に見られるととても恥ずかしい。
間違いなく何か誤解されるだろう。
魔理沙なんかに見られた日には問答無用でマスタースパークを放たれてもおかしくない。
早く終わらせよう。
ごしごしごし…
……
「よし、頭は拭けたよ」
「ん、ふぅ…ありがと!耳も大分すっきりしたよ、ついでに体も…」
「それは自分で拭くようにね」
流石にそれはマズイだろう…
手拭いを手渡し、店の奥に入るように指差した。
すると彼女は
「…駄目?」
と小首を傾げ、僕の服を引っ張った。
まだ寒いようでストーブの前から離れたくないらしい。
…まぁ、ここまで来たら一緒か。
説得することを諦めて彼女の体を拭こうとするとコンコンと扉を叩く音がする。
あぁやっぱり。
どうしてこう、僕はタイミングが悪いんだろう?
「主人、居るか?」
ん?魔理沙じゃないな。
「あぁ、ちょっと待って下…」
「あ、藍様だ!」
「その声は、橙!?何故こんなところに?」
がちゃっ…ばん!
扉の開く音がした。
八雲藍の、もっとも大事なもの、それは橙である。
八雲紫は夜に活動を始める。
彼女が起きたとき普段居るはずの式も、式の式も居なかった。
おかしーなーと思って適当にスキマを弄ってみた。
「どれどれ…」
そこには半狂乱になって暴れまくってる式と、ほとんど炭と化した古道具屋とその店主。
それを大泣きしながら必死になだめている式の式の姿を見つけた。
「ぎゃっ!ぎゃぎゃ!ぎゃっっ!!ぎゃっ!しね死ねシネ死ねシネシネシネ死ねシネシね死ねシネシネネシネね死ねシネ………」
「ら゙ん゙ざま゙~~!!!!!うわぁ~~~ん!!」
紫はその様子を確認した後、彼女は静かにスキマを閉じた。
そんな彼女の頭痛の種は、自分の式の未熟さ位である。
「お願い…記憶の境界は私が弄っとくから……」
「ふぅ、やれやれ……分かった分かった…その歴史は無かった事にしとくから…」
「本当にごめんなさい……」
「幻想郷の大妖怪にそこまで頭を下げられて、断る訳にもいかんだろう……」
「あの…これつまらない物なんだけど……」
すっ…
「これはまた随分上等な毛皮……って、おい!」
「お願い!聞かないで!!黙って受け取って……」
「………出来のいい式を持つと大変だな」
「そうよぉ……普段出来る娘だから、たまに気を抜くとああなるのよぉ~……うぅ~……」
「泣くな……」
体を起こすと寝床の横にはスキマ妖怪の八雲紫と橙が座っていた。
そしていきなり謝られた。
とりあえず、何のことだかよく分からない僕は曖昧な返事を返した。
紫からのお詫びということで、非常にキレイな毛皮のを貰ったんだが何かあったんだろうか?
あれ?誰か一人足りない?
・・・藍様?
まさか・・・・?
そして魔理沙に持って行かれる、と。
ここまでの行程にかかった時間は約1日。
某王ドロボウもビックリの早業でございました。
藍様?