青い血

レミリア・スカーレットは、自分が試されていると感じた。


それは咲夜が見慣れない瓶を抱えてやってきた時から始まった。
友人であるパチュリー・ノーレッジと図書館で他愛のない話で盛り上がっていた最中の出来事だった。

「どうぞ、お嬢様」

そう言って、目の前にそっと置かれたのはワイングラスだ。
いかにもと言った風なチューリップ型、ほっそりとした脚、屈折率の高いクリスタルガラス。
そして、そこになみなみと注がれた青い液体。

……なんだこれ？

レミリアは、じいっと顔を寄せてそれを観察する。

青い……液体？
吸血鬼に？

何を求められているのだろうか。
ちらりと視線を上げるとニコニコと自分を見つめる瀟洒な従者の姿が。
くいっと視線を逆方向に向けると、同じくグラスを前にしながらもやれやれと本を広げる友人の姿。
その広げられた本に視線を移す。
その表紙に、逆さまに綴られたそのタイトルに目を走らせる。

『お約束の哲学』

なんだそれ。
それは何か？　突っ込めと言うことか？　それとも……、やれと言うことなのか？

古くからの友人の、その意図を掴みかねてレミリアは頭を抱える。

「きゃー！　なにこれおいしい！」

甲高い声にふと顔を上げてみれば、そこには妹であるフランドール・スカーレットがいた。
同様のワイングラスを手に、おいしいおいしいとはしゃいでいる。
さすがは私の妹、子供のようにきゃっきゃとはしゃいでいてもその可愛さに一点の曇りもない。
じゃなくて。
そうじゃないでしょうフラン。
目の前に青い液体の入ったワイングラスを置かれたのよ！　
吸血鬼としてとるべきリアクションは他にあるでしょう！

そんな姉の口に出せない憤りを感じ取ったのだろうか、フランはふとレミリアに振り返ると元気な声で言った。

「お姉様も飲みなよ！　これとってもおいしいよ！」

ああ、そうなのねフラン。
あなたはそれを私にやれと言うのね。
この年にしてネタのフリを習得しているなんてフラン、なんて恐ろしい子っ！

「待ってもらえるかしらフラン」

冷や汗を垂らし、あからさまに狼狽していた私を見かねたのだろうか、パチュリーが言葉を発した。
ああ、やはりいざというときに助けてくれるのが友人というものなのね

「咲夜」
「はい？」
「あなた、注ぎすぎよ。ワイングラスに注ぐときはもっとも膨らんでいるラインまで。常識よ」
「大丈夫ですよ、だってこれワインじゃありませんから」

そうじゃねえ。
そうじゃねえのよ咲夜、いやパチュリー。
確かにそこも突っ込むところかも知れないけれど、もっと他に突っ込むところがあるんじゃあないかしら？

「咲夜ぁっ！！」
「はいぃ！！？」

もはやこれまでとばかりにダンと机を両の手で叩き立ち上がるレミリア。
そのままグラスを手に取り、何事かとこちらを向く一同をぐるりと見渡す。

「見ていなさい、吸血鬼のプライドというものを見せてあげるわ」

ワイングラスを口に付け、腕を腰に当てて上体をそらしぐいっと杯を傾ける。
静かな図書館にグッグッと液体が喉を通る音だけが響き、やがてレミリアはそれをすべて飲み干した。
僅かな間をおき、反らしていた上体を勢いよく戻してレミリアは高らかに宣言する。

「うーっ！　マズイ！　もう一杯！！」

レミリアのＨＰが５０回復した！

コンペの没ネタを最低限整えたものです。
最近いろんな意味で気力が足りない。
せめてネタ被りがないか確認してから投稿しろと言いたいこの馬鹿。