私は見ていた、塀の外から顔だけ出して家の中を窺うように、私の目の前の空間に女の顔が現れ浮かび、周りを見回している。
その女はスルスルと胸まで出ると、周りを警戒しながら周りを窺っている。まるでその空間にスキマがあるように現れた。
次に女は私をじっと見ていた。
私は怖くなり、一瞬目を逸らして戻すと、そこには全身を現した女が立っていた。
女は私の前まで来ると、風に流されるように足元から消えだし、胸まで消えたとき私を掴んだ。
私の周りは一瞬にして闇に包まれ、私はスキマに引きずり込まれた。掴まれている感触はまだそこにある。
どこに向かっているのか皆目見当が付かない、そんな時、周りが、夜が明けるように白んできた。
暗闇から明るい所に出るまでかかった時間は、長いようでも瞬きするくらいの一瞬の出来事だった。
出た所は、目の前に大きな海が広がり私達はそこの砂浜に立っていた。
海ではカモメが鳴きながら飛んでいる、浜では石で作った竈に鍋をかけ、女達が海に向かって手を振っていた。
見ると、島の間から一双の船がこちらに向かってきている。
浜に着いた船から男達は桶に入れた魚を降ろして船をもやいだ、桶の中では小さい魚と大きい魚がバタバタと跳ねていた。
一人の女が竈に火をつけ、他の女達は宴会の準備をし始め、男達は魚をさばいて女達に渡した。
女達は、ぶつ切りにした小さな魚を、味噌でといた鍋に野菜と一緒に入れた。
大きな魚を男達は刺身にして皿に盛り女達に次々と渡した。
カモメと猫が争うように魚の頭と臓物を銜えていった。私は鍋に入った魚と刺身になった魚が
羨ましかった。魚として生まれたからには、あんなふうに食べてもらえたら、どんなに幸福
だろうと思う。
私を掴んでいる女が消えようとしていた、その手には、いつの間に盗ったのか?一皿の刺身が握られていた。
男達も女達も私でさえも気がつかなかった。
次に暗闇から出た所はには池があり、池の中の所々にある、蓮の葉の上では蛙達が飛び跳ねており、岸では小さな子供が蛙と遊んでいた。
でも、ここは、先ほどの場所とはがらりと雰囲気が違い、魔が魔がしい異様なところだ。
女が子供に近づくと、「ゆかりん、それ、あたいに頂戴」 「あぁ、いいよ、どうせ食えないし」と、言って私を子供に渡して
「チルノ、夜、薄麗神社で宴会するので、これを冷やしておいてくれ」と、一皿の刺身を渡すとチルノが「あたいも、宴会行ってもいいの?」
「いいよ、チルノが来るときそれを持ってきて」と、紫は消えながら言った。
チルノは私を足元の池に入れ、浮いてる私に「こいつ、泳げないや」と、棒の先で小突く、何度も
何度も小突き、ついには蛙を私の頭に乗せて遊ぶ、そんな事の繰り返しだ。
「こいつ、馬鹿ではないのか?」私はこれ以上我慢できないところまで来ていた。私の今の気持ちを表すならば達磨と同じだ、
いくら怒ったところで手も足も出ない、遊びに飽きたのかチルノは刺身を持って帰っていった。
一人取り残され、心細くなっている所え丁度男がやってきて、私を見て、なんと勿体無い事をする
罰当たりがと、言い、落ちている棒で足元まで寄せ私をつかみ「お前も、魚なのに泳げないとは」
と、笑って戻っていく、男は里の霧雨道具店の店主である。
家に着くと「母さん、こいつを洗ってくれ」母さんと呼ばれた女は「はいはい」と、言い、私をつかんで井戸のそばに行き釣瓶で水を汲み私にかけた。
藁を折り曲げてゴシゴシと洗い日当たりの良いところに干して家に入った。
やっと干物として食べてもらえ……「どうせ、食えないし」と、言った紫の言葉を思い出し、
私の体には毒でもあるのか?と、思っていると店主が私をつかみ家の中に入っていく。
家の中は私が前に住んでいた外の家とは比べようも無いほど狭い、
店主は私を仏壇の前の線香立ての横にある小さな座布団の上に置いた。私がいる場所は此処にしかないのならば、
成仏するまで此処においてもらうと、腹を固め、もう、食べてもらうことを木魚は諦めた。
近ずく× 近づく○
誤字修正しました。
有難うございました。