このお話ははらまき氏が書かれた作品集43の『紅の館に住まう悪魔』の続きっぽいものになります。
先にソチラに目を通してから、コチラをお読み頂くことを推奨いたします。
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闇の中に蠢くソレは、艶やかな光沢を持って蝋燭の明かりを反射させる。
距離は、約2メートル弱。
それは辺りの様子を伺うように、壁に張り付いて動かず、ただ艶やかな身体に灯りを反射させるのみ。
触覚が交互に動く。
うねうねと。
対面する廊下の壁へと背中を預けている銀色の髪を持った少女はガタガタと震え、蒼白い顔をしていた。
今すぐにでも前に立つ紅魔館の守護者(ガーディアン)の背中に縋り付きたいのを必死で堪え、事態を見守る。
少女、悪魔の館のメイド長、咲夜は怯えと戦慄と、そして一触即発とした緊迫する空気に背筋を凍らせる。
咲夜を守るように、黒いソレとの間に立っている紅魔館の守護者は、じっとソレとにらみ合う。
――――カサカサカサ。
六本の足が動く。
静かな静かな廊下に、その足音は異様に大きな音のように聞こえた。
咲夜の身体がビクッと跳ねる。
後退ろうとして、しかし背中はもう壁にくっ付いていることに気付いた。
――――カサカサ、カサ。
咲夜の焦燥を煽るように、足音は断続的に響く。
早く何処かへ行って。
目の前から消えて。
視界からいなくなって。
そう願うように思いながら、咲夜はゴクリと生唾を飲み込む。
目の前の紅の髪を持つ女は動かない。
ただ、じっと相手を見据える。
右手に力が篭った。
――――カサカサ、カサ、カサカサ。
触覚がうねうねと動く。
足が軽快な調子で壁を伝う。
そして、とんだ。
「っっ――――!!」
反射的に悲鳴を上げる。
しかしその悲鳴は声にならず、喉から迸ったのは音にならない息だった。
精神は限界だった。
咲夜の蒼い瞳は、正気を失い赤く染まる。
ナイフを投げようとした瞬間、紅い髪が目の前で棚引いた。
「ふっ!」
軽く吐き出された呼気と共に、振り下ろされる右手。
その手にはスリッパが握られていた。
スパーンッ!!
気持ちのいい音が、廊下中に響き渡る。
なんとも痛快な音だったが、咲夜にとっては救いの光に他ならない。
紅魔館の盾は、黒いソレ……飛んでくるゴキブリをスリッパで叩き落し、そのまま床まで腕を振り落とす。
後ろにいる震えた少女に無残に潰れた残骸を見せるなんてことはしない。
ポケットから素早くティッシュを取り出し回収し、口から炎を吐いて燃やし尽くした。
勿論、退治に使用したスリッパも一緒に。
悪魔の館の廊下に、元来ある静寂が戻ってくる。
紅魔館の紅い盾、美鈴は「もう大丈夫ですよ」と言いながら振り返る。
「っ!」
「おっと」
が、振り返りきる瞬間、咲夜がその胸へと飛び込んだ。
「っ、めぇ……りん……」
「大丈夫です。咲夜さんの怖いものはなくなりましたよ」
そっと抱き締め、あやすように背中を撫でる美鈴。
咲夜は美鈴の落ち着いた声に顔をゆっくりと上げる。
咲夜の目は涙で潤んで、とても情けない顔をしていた。
怖がりな女の子の顔だった。
美鈴は「よしよし」というように頭を撫で、強張った頬の筋肉を解すように片手で包み込む。
「こ、こわ……こわか、っ……」
咲夜は美鈴の手をぎゅっと掴んで、胸に縋り付く。
「ぅ~」と小さく唸る声が耳に届き、美鈴は少しだけ苦笑しつつ、そんな咲夜にもう一度「もう大丈夫ですよ」となるたけ優しい声で囁いた。
「お嬢様のお茶は私が持って行きましょう」
「あ、その……」
「疲れているでしょう? もう部屋へ戻って休んで下さい」
美鈴が、安心させるようににっこりと笑う。
でも、咲夜は美鈴の手にきゅっと握った手に、少しだけ力を込めた。
涙が滲む瞳で、美鈴を上目遣いに見る。
「部屋に戻るのも、怖い……」
「咲夜さん……」
神経は過敏になってしまっている咲夜は、今にも泣き出しそうな顔で訴える。
しかも上目遣い。しかも涙目。
美鈴は一瞬「うっ……」と言葉に詰まって、困ったような顔をした。
それから心の中で「お嬢様、すみません」と謝り、頭の位置を少し下げてコツンと額を合わせた。
「えと、その……」
そのままの状態でなんと言おうか迷っていると、少し甘えるような声音で「美鈴……」と呼びながら咲夜の腕が首に絡んだ。
「……美鈴の部屋、行っちゃダメ?」
「…………」
至近距離。
そして、しつこいようだが、涙目で上目遣い。
うん。困った。
美鈴はやっぱり苦笑して、咲夜の頬を撫でる。
「……来ますか?」
「うん……」
頬を撫でてくれる美鈴の大きな手に、咲夜はすりすりと自分からほっぺを擦り付ける。
「……カッコよかったから、その……惚れ直しちゃったの」
「ふふ。そうですか」
嬉しいですねぇ。
美鈴はそう呟いて咲夜の頬に唇を落とすと、咲夜を抱きかかえた。
咲夜は美鈴の首元に掴まって、近い距離で二人は話す。
「明日は館中の大掃除をしないといけないわね」
「それはまた……じゃあ、今日はしっかりと休んでおきましょう」
「……マッサージしてくれる?」
「えぇ、勿論。咲夜さんがして欲しいだけ」
美鈴の言葉に、咲夜は蕩けそうな顔で嬉しそう笑った。
* * * * *
次の日。
元気をたっぷりと補充したメイド長によって、全使用人による館の全域の大掃除が敢行されたというのは言うまでもなく、そうして、
「……ちょっと、元気にさせ過ぎちゃいましたかね?」
と、ヘトヘトになった門番隊隊長がそう影で一人零したとか零さなかったとか。
おわれ。
なんたるG2……。
しかしなんという頼りがいのあるスーパー門番。素敵。
>1
・・・関係無いけどG2という
レゲエアーティストがいる件について・・・・
>そして一髪触発とした
一触即発(いっしょくそくはつ)かと思います。
しかしもう奴らの季節か...
頼りになる門番だw