◇オモチャの話
紅魔館のとある一室。
そこで吸血鬼の姉妹が睨み合っていた。
「良いことフラン。貴女はここから出てはいけないの。
この前もパーティーに来られたお客様を攻撃しようとしたでしょう?」
「だって、どれくらい丈夫か確かめたかったんだもん……」
「あなたにとって、人間はただのオモチャかも知れないけど、
私にとっては興味深いオモチャなの。……それを勝手に壊されては困るわ」
「そんな事言って、いつもいつもお姉様ばっかり何でも彼でも独り占め。
もういいよ。そんなに言うのだったら私がオネエチャンをオモチャにして遊んであげる!」
「あら、壊れたオモチャのくせに、やろうって言うの?」
部屋に紅い殺気が充満し、二人が構えたその時。
「お嬢様。妹様」
いつの間にか、部屋の入口に瀟洒なメイド・咲夜が佇んでいた。
「……なによ。邪魔する気?」「あんたもオモチャにしちゃおうかな?」
「パチュリー様が新しい室内遊戯を発明したそうです」
「わーい!」
二人が部屋を飛び出した。
◇守る話
紅魔館の門。
そこで門番の紅美鈴がゆっくりと深呼吸をしている。
「…………」
そして目を瞑った。
太極拳の極意は、自然と一体になる事。
微動だにせず、自我の心を無念無想の極地に追いやる事。
「…………」
しかし、それでも、やはり一つだけ残さなくてはいけないモノがある。
────それは守るという意志。
誰かを、紅魔館の平和を、守る心こそが武術の真の力を引き出す事に繋がる。
……自分には、まだその意志が足りない。
もっともっと、集中しなければならない。
「おう、邪魔するぜ」
一心不乱に瞑想を続ける美鈴の横を、魔理沙が通り過ぎていった。
◇友達の話
地底。
そこにある地霊殿という建物で、一匹の地獄烏と一匹の火焔猫が話している。
「最近は地獄も平和だねぇ。
お空が火力調整を簡単にしてくれるから、あたいの仕事も減っちゃたしねぇ」
「でもその代わりに、お燐には大切な役目ができたじゃない。地上の調査とかさ。
なんだか楽しそうでいいなぁ」
「あはは。確かに最近はそっちの方が大忙しだねぇ。死体も色々見られて面白いさ。
……でも、お空。あたいはあんたと一緒に仕事できていた時のほうが楽しかったよ」
「うん……。あのさ、お燐、あの時は本当にごめん。私がどうかしてたんだね。
今までいつ謝ろうかと思ってたんだけどさ」
「あはは。もうそりゃ何回も謝られてるよ。それを忘れるなんて相変わらず鳥頭だねぇ。
そんな事気にしなくてもいいんだよ。もう長いつきあいじゃないかい!」
「うん……」
「お。暇つぶし発見! そりゃー」
外から戻ってきたこいしが、二匹の羽と尻尾を摘みあげる。
「ふんぎゃああぁああ!!」
地霊殿に二つの悲鳴が木霊する。それも、長いつきあいだった。
◇恵みの話
博麗神社。
縁側でお茶を飲む霊夢と、その後ろでお酒を飲む萃香がいる。
「ぷふぁーぃ。いやぁ、いい天気だねぇ」
「土砂降りなんだけど。はぁ、これだと洗濯物も干せやしないわ」
「だからいい天気なんだよ。雨は天からの恵み。まるでお酒みたいだねぇ」
「お酒なんかが降ってきたら、みんな酔っぱらって大変じゃないの」
「そしたらみんなで騒げるじゃないかぃ。
昔から人間はなんでも天からの恵みの度に騒いでた。
秋の恵みで収穫した米から作られる酒なんか、その良い例だろう?
────だったら、雨が降った事に普段から騒いでもいいじゃないさ」
「それだと疲れるから、みんな騒がないのよ。
どちらかというと雨が降ったら大変な事の方が多いし」
「ははぁ。恵まれてるねぇ」
暇でやる事のない鬼と比べたら、人間のやる事為す事全てが恵まれている。
そんな人間を攫うことによって、鬼はその恵みをほんの少し分けて貰うのだった。
◇教える話
幻想郷の境界。
そこでは大妖怪・八雲紫の式神である藍と、その式神である橙が仕事をしていた。
「──そうではない。それだとすぐに境界の波長が乱れてしまう。
何度言ったら覚えるんだい」
「あ……はい。藍様申し訳ありません」
「あと、式の設置場所も悪い。これだと暴走して勝手に飛び出してしまう。
北西南西の順番をよく確かめて……むぅ、これはもう一度お復習いしないと駄目だな」
「す、すいません……。ああっ!」
「ああ馬鹿何をやっているんだ! ……危ないなまったく。
たく。これだと、お復習いどころかお仕置きにしなくてはいけないな。
いいかい。もう一度だけチャンスをやろう。これで出来なかったら承知しないぞ」
「は、はい……」
しゅん、とうつむいてから、また作業に取りかかる橙。
それをむっ、と黙り込み厳めしい顔で見つめる藍。
袖の下では、小袋に入れたお魚が今か今かと出番を待っていた。
◇演じる話
白玉楼。
そこで行われたプリズムリバー楽団の演奏会に、幽霊達が聞き惚れている。
「──今回も素敵な演奏でした。こちら、お礼になります」
演奏後、プリズムリバーのメンバーに妖夢がお礼の品を渡そうとする。
その手を、長女のルナサが押しとどめた。
「いや、必要ない。今回の報酬はもうお客に頂いた」
「え?」
幽霊は何か品を持つことなどできない筈なので妖夢は首をかしげる。
「遺影ェーイ! 海苔海苔ィ-!」
「こんな音はいっかがかな-?」
メルランとリリカが、まだ残っている客達相手に騒いでいる。
それを指さして、ルナサは片目を閉じる。
「妹達が楽しそうだ」
「はぁ」
「あと、今回私はクールな曲を演奏した。
だから、演奏者である私も、最後までクールでならなくてはいけない」
「成程。こだわりというやつですね」
「いいや。単に打算だよ。
こうした方がより次のコンサートで客が騒がしくなるからね。
だから、貴女は今日の私が最後までクールだったと、誰かに話してくれればいい」
「はぁ、わかりました。じゃあ、今回の報酬はそういう事に。
でも、妹さん達は明るい曲も演奏してましたが……」
「だから今あそこで騒いでるだろう?
そして私はそれをクールに見つめて、クールな決断をするのだよ」
騒霊三姉妹は客がいるなら最後まで演奏する。
そして長女がその手綱を握る役割を演じ、妹達がそれに従う役割を演じる。
そのおかげで、次の騒霊コンサートはより騒がしくなるのだった。
◇×の話
彼岸の先。
そこでは閻魔の四季映姫が今まさに判決を下そうとしていた。
「──罪状を読み上げます。
被告は今まで×××な行為で×××事をし続け、
×××な言葉と×××なやり方で×××な事も繰り返した。
そして反省の色も見せず×××で死にいたり、今もまた×××な事を思っている。
そう、貴方は少し×××過ぎた。よって×××な地獄逝きとします」
次、という四季映姫の言葉と共に、死神に連れて行かれる幽霊。
「……やっぱ映姫様ってすげぇなあ」
研修という名目でさぼりにきた小野塚小町が、少し頬を赤く染めていた。
藍様かっこいいよ藍様
映姫様は一体何を言ってるんだ…w
というか美鈴さん仕事して下さいw
こまっちゃんが鼻血垂らして映姫様に見とれてる姿まで幻視しました。
えーき様が何言ってるかが気になるw
守る話が最高に報われない。
美鈴は頑張ってる、頑張ってるんですよ?
だからせめてナイフだけは、ダーツの的だけは勘弁してあげてください、冥土長。
映姫様は何を言っていたんだ…そこのところを詳しく(ヒガンルトゥール