なああああああぁぁぁぁおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ
うわわぁぁぁぁおおおぉぉぉぉぉ
「うるさいわね」
「そうだねぇ」
ある日の博麗神社。そこは謎の奇声に悩まされている真っ最中だった。
あっちからなぁおぅ、こっちからわぁおぅ。
朝っぱらから周り中至る所で、わおわお鳴かれては、さすがに霊夢とお燐もげんなりとせざるを得ない。
原因は分かっている。わかってはいるのだが……。
「ねぇ、あいつらアンタの仲間でしょ? さっさと説得するなりぶちのめすなりしてきてよ。これじゃ、のんびり昼寝もできやしない」
霊夢が零す。奴らのせいで日課の掃き掃除も満足に出来ない有様だ。
「お姉さん、そいつは押しつけってもんだよ。あいつらは声ばかりは似ていても全くの別物だ、どっちかといえば天狗の仲間じゃないか」
お燐は霊夢の傍らで、返答ついでに苦笑いを零す。
「なんでもいいわ、さっさとここに連れてきなさい。たたきのめしてあげるから」
「そんな危ないこと、お姉さんに任せるわけにはいかないよ。お姉さんが連れてきてよ、あたいの黄金の右が火を噴くから」
「いやいや、アンタが」
「いやいや、お姉さんが」
「アンタが」「お姉さんが」
ほどなくして、先に折れたのは意外にも霊夢の方だった。
「やめときましょ、不毛だわ。将軍様の役を譲りあってても」
「そうだね。小坊主の役も、どっちかといえば御免だけどさ」
もう一度、今度は顔を見合わせて苦笑い。それからお茶をひとすすり。
なああああああぁぁぁぁおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ
うわわぁぁぁぁおおおぉぉぉぉぉ
「うるさいわね」
「そうだねぇ」
お茶請けの最中をかじりながら、お燐が唐突に提案する。
「お姉さん、よかったら死んでみない?」
「よくないわよ」
一刀両断。お燐はむくれながら続ける。
「えー、結構妙案だと思うけどなぁ。お姉さんは、この騒がしさから解放される。あたいはお姉さんの死体を運べる。ほら、いいことずくめじゃないか」
「よくないわよ」
一刀両断、二刀目。殺してあげようか、ではないだけ、お燐の優しさが垣間見える瞬間だ。
「そっか、お姉さんがしわしわになってから運ぶのも、それはそれで情緒があっていいかもねぇ」
「仕事にそんなもん持ち込むと、ロクなことにならないわよ」
「なら、お姉さんは異変を解決するとき、どんなことを考えてるのさ」
最後のひとつの最中をしっかりと確保しながら、霊夢が答える。
「さっさと帰ってお茶が飲みたい」
「うわぁ」
それからは、サクサクと最中をかじる音だけが縁側を支配する。
なああああああぁぁぁぁおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ
うわわぁぁぁぁおおおぉぉぉぉぉ
「うるさいわね」
「そうだねぇ」
空は雲一つ無い快晴だ。
「こういう日に限って、来客がまったく無いのよね」
「こういう日だから、の間違いじゃないのかい?」
お燐が面倒そうに訂正する。こんな日に好きこのんで外出し、かつ目的地が博麗神社である人物が、いったいこの幻想郷にどれほどいるものか。
「……人数が増えれば、それだけ外の騒がしさを気にしなくても済むじゃない。イライラも共有できるし。あ、お茶のおかわり、いる?」
「もらおうかな、温めでね」
「わかってるわよ」
霊夢が台所に向かう。
それを確認してから、お燐がぼそっと呟いた。
「まぁ、あたいとしては、お姉さんと二人っきりのこの状況の方が、嬉しいんだけどね」
そのつぶやきが台所の霊夢に聞こえることはきっと、ない。
なああああああぁぁぁぁおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ
うわわぁぁぁぁおおおぉぉぉぉぉ
「うるさいわね」
「そうだねぇ」
別に深刻な様子もなく、お燐がすくっと立ち上がり縁側で足を伸ばし座っている霊夢の後ろに回り込む。
「なによ」
「いや、別に」
そのまま、するっと霊夢の首に腕を回し。
だらしなく霊夢の頭に自分の顎を乗せる。
「なによ」
「いや、別に」
霊夢がうっとうしいとか、重いからどきなさい、とか言うのならすぐにでも退く心算であったが、お燐は殊の外霊夢の体温が心地よかったので、もう退けと言われても無理かな。とか考えていた。
霊夢も霊夢で、得意の勘が働く様子もなし、後ろからのしかかる体重が不快というわけでもなかったので、しばらく放って置くことにした。
「そういえばさぁ」
「なによ」
「外のアレ、発情した猫の声に似てるけど」
「釣られたの?」
「だとしたら、お姉さんが責任とってね」
「ええ、いいわよ。飼い主として責任を持って」
回されたお燐の手のひらを、そっと掴みながら。
「水をぶっかけて、納屋に閉じこめてあげるわ。結界付きで」
「わーい、今から楽しみだよぅ」
二人は、寄り添ったまま。時間だけが過ぎてゆく。
なああああああぁぁぁぁおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ
うわわぁぁぁぁおおおぉぉぉぉぉ
「うるさいわね」
「そうだねぇ」
奥の間の箪笥から、霊夢が何かを持ってきた。
「お姉さん、そいつは?」
「はんてん。お母さんのお古なんだけどね。結構暖かいのよ」
「ふぅん」
この天候では、お茶もすぐに冷めてしまうし、別の方法で暖を取ろうとする気持ちもわかる。
お燐はじっと霊夢を見つめている。
「……………」
「……………」
お燐はじっと霊夢を見つめている。
霊夢がため息混じりに、はんてんの片側を開く。
「はぁ、いいわよ。さっさと来なさい」
「やった! お姉さん大好き!!」
「まったく、調子いいんだから」
大きめのはんてんに二人で入る。当たり前かもしれないが、いつもより暖かかった。
ひいぃぃぃぃふぅぅぃぃぃ
こおおおぉぉぉぉぉぉ
「止んできたわね」
「止んできたねぇ」
太陽も夕日に成り代わろうとする時刻。
先ほどの状態のまま、気がつけばこんな時間になっていた。
「さてと、そろそろ夕飯の支度をしなくちゃ。ほら、アンタも手伝うのよ」
どろん。
「にゃーん」
「……アンタの今日の夕食は玉葱づくしに決定ね」
どろん。
「わぁ、待っておくれよお姉さん。そいつは後生だ、やめとくれ!」
「最初から、素直に手伝いなさい。ほらほらアンタの本職でしょ、すぐに焼いちゃうから魚の死体を運びなさい」
「……そいつは何か違う気もするねぇ」
外では、風が優しく木々を揺らしていた。
そんな、ある日の博麗神社。
うわわぁぁぁぁおおおぉぉぉぉぉ
「うるさいわね」
「そうだねぇ」
ある日の博麗神社。そこは謎の奇声に悩まされている真っ最中だった。
あっちからなぁおぅ、こっちからわぁおぅ。
朝っぱらから周り中至る所で、わおわお鳴かれては、さすがに霊夢とお燐もげんなりとせざるを得ない。
原因は分かっている。わかってはいるのだが……。
「ねぇ、あいつらアンタの仲間でしょ? さっさと説得するなりぶちのめすなりしてきてよ。これじゃ、のんびり昼寝もできやしない」
霊夢が零す。奴らのせいで日課の掃き掃除も満足に出来ない有様だ。
「お姉さん、そいつは押しつけってもんだよ。あいつらは声ばかりは似ていても全くの別物だ、どっちかといえば天狗の仲間じゃないか」
お燐は霊夢の傍らで、返答ついでに苦笑いを零す。
「なんでもいいわ、さっさとここに連れてきなさい。たたきのめしてあげるから」
「そんな危ないこと、お姉さんに任せるわけにはいかないよ。お姉さんが連れてきてよ、あたいの黄金の右が火を噴くから」
「いやいや、アンタが」
「いやいや、お姉さんが」
「アンタが」「お姉さんが」
ほどなくして、先に折れたのは意外にも霊夢の方だった。
「やめときましょ、不毛だわ。将軍様の役を譲りあってても」
「そうだね。小坊主の役も、どっちかといえば御免だけどさ」
もう一度、今度は顔を見合わせて苦笑い。それからお茶をひとすすり。
なああああああぁぁぁぁおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ
うわわぁぁぁぁおおおぉぉぉぉぉ
「うるさいわね」
「そうだねぇ」
お茶請けの最中をかじりながら、お燐が唐突に提案する。
「お姉さん、よかったら死んでみない?」
「よくないわよ」
一刀両断。お燐はむくれながら続ける。
「えー、結構妙案だと思うけどなぁ。お姉さんは、この騒がしさから解放される。あたいはお姉さんの死体を運べる。ほら、いいことずくめじゃないか」
「よくないわよ」
一刀両断、二刀目。殺してあげようか、ではないだけ、お燐の優しさが垣間見える瞬間だ。
「そっか、お姉さんがしわしわになってから運ぶのも、それはそれで情緒があっていいかもねぇ」
「仕事にそんなもん持ち込むと、ロクなことにならないわよ」
「なら、お姉さんは異変を解決するとき、どんなことを考えてるのさ」
最後のひとつの最中をしっかりと確保しながら、霊夢が答える。
「さっさと帰ってお茶が飲みたい」
「うわぁ」
それからは、サクサクと最中をかじる音だけが縁側を支配する。
なああああああぁぁぁぁおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ
うわわぁぁぁぁおおおぉぉぉぉぉ
「うるさいわね」
「そうだねぇ」
空は雲一つ無い快晴だ。
「こういう日に限って、来客がまったく無いのよね」
「こういう日だから、の間違いじゃないのかい?」
お燐が面倒そうに訂正する。こんな日に好きこのんで外出し、かつ目的地が博麗神社である人物が、いったいこの幻想郷にどれほどいるものか。
「……人数が増えれば、それだけ外の騒がしさを気にしなくても済むじゃない。イライラも共有できるし。あ、お茶のおかわり、いる?」
「もらおうかな、温めでね」
「わかってるわよ」
霊夢が台所に向かう。
それを確認してから、お燐がぼそっと呟いた。
「まぁ、あたいとしては、お姉さんと二人っきりのこの状況の方が、嬉しいんだけどね」
そのつぶやきが台所の霊夢に聞こえることはきっと、ない。
なああああああぁぁぁぁおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ
うわわぁぁぁぁおおおぉぉぉぉぉ
「うるさいわね」
「そうだねぇ」
別に深刻な様子もなく、お燐がすくっと立ち上がり縁側で足を伸ばし座っている霊夢の後ろに回り込む。
「なによ」
「いや、別に」
そのまま、するっと霊夢の首に腕を回し。
だらしなく霊夢の頭に自分の顎を乗せる。
「なによ」
「いや、別に」
霊夢がうっとうしいとか、重いからどきなさい、とか言うのならすぐにでも退く心算であったが、お燐は殊の外霊夢の体温が心地よかったので、もう退けと言われても無理かな。とか考えていた。
霊夢も霊夢で、得意の勘が働く様子もなし、後ろからのしかかる体重が不快というわけでもなかったので、しばらく放って置くことにした。
「そういえばさぁ」
「なによ」
「外のアレ、発情した猫の声に似てるけど」
「釣られたの?」
「だとしたら、お姉さんが責任とってね」
「ええ、いいわよ。飼い主として責任を持って」
回されたお燐の手のひらを、そっと掴みながら。
「水をぶっかけて、納屋に閉じこめてあげるわ。結界付きで」
「わーい、今から楽しみだよぅ」
二人は、寄り添ったまま。時間だけが過ぎてゆく。
なああああああぁぁぁぁおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ
うわわぁぁぁぁおおおぉぉぉぉぉ
「うるさいわね」
「そうだねぇ」
奥の間の箪笥から、霊夢が何かを持ってきた。
「お姉さん、そいつは?」
「はんてん。お母さんのお古なんだけどね。結構暖かいのよ」
「ふぅん」
この天候では、お茶もすぐに冷めてしまうし、別の方法で暖を取ろうとする気持ちもわかる。
お燐はじっと霊夢を見つめている。
「……………」
「……………」
お燐はじっと霊夢を見つめている。
霊夢がため息混じりに、はんてんの片側を開く。
「はぁ、いいわよ。さっさと来なさい」
「やった! お姉さん大好き!!」
「まったく、調子いいんだから」
大きめのはんてんに二人で入る。当たり前かもしれないが、いつもより暖かかった。
ひいぃぃぃぃふぅぅぃぃぃ
こおおおぉぉぉぉぉぉ
「止んできたわね」
「止んできたねぇ」
太陽も夕日に成り代わろうとする時刻。
先ほどの状態のまま、気がつけばこんな時間になっていた。
「さてと、そろそろ夕飯の支度をしなくちゃ。ほら、アンタも手伝うのよ」
どろん。
「にゃーん」
「……アンタの今日の夕食は玉葱づくしに決定ね」
どろん。
「わぁ、待っておくれよお姉さん。そいつは後生だ、やめとくれ!」
「最初から、素直に手伝いなさい。ほらほらアンタの本職でしょ、すぐに焼いちゃうから魚の死体を運びなさい」
「……そいつは何か違う気もするねぇ」
外では、風が優しく木々を揺らしていた。
そんな、ある日の博麗神社。
微妙に霊燐が入っているところもよかった。
次回も期待してます。
途中にはいる鳴き声が萩原朔太郎?の猫の詩っぽかった、なんだっけ?
着想から執筆終了までは異様に速かった今作。一番時間を食ったのが言い回しの調整だったりしますw
そういう意味では、ほのぼのが素直に伝わったみたいでほっとしています。
また、別の機会にお付き合いくださいますよう。ありがとうございました。