突如虚空に開いた1m程の穴、そこから一人の少女がのっそりと顔を出す。
景色を懐かしそうに見やる少女。ここは日中でもほとんど日の差さない魔法の森。
得体の知れない菌糸類の胞子が舞う中を、特に気にする様子もなく闊歩する。
彼女は、きょろきょろと周りを見渡しお目当ての人物を発見する。
※
※
※
おーい、そこの黒ずくめに白のエプロンドレスつけて三角帽子。
いかにも魔法使いでございってな格好のテンパー金髪の生意気そうな顔の子供。
そうそう、おまえだおまえ。
不思議そうな顔をするなよ。ここには今、わたしとお前しかいないじゃないか。
え? お前は誰だって?
まぁ、当然の質問だと思うぜ。聞いて驚け、わたしは未来から来たお前だ。
なに? 信じられない? あー、昔のわたしはこういう反応するよなー。可愛くないぜ、まったく。
よし、それなら証拠を示そうじゃないか。
──キャラデザだけで変更4回、丁寧言葉でうふうふ笑い──
あー、ほらほら服が汚れるから土下座なんてするもんじゃないぜ。
お前にとって痛い過去は、わたしにとっても痛いんだ。でも、これで信じてもらえたろ?
よしよし、素直さは美徳だと思うぜ。
それで、なんの用だって?
今日は忠告しにやってきたんだ。お前、このキノコ採取が終わったらパチュリーのところに魔導書を盗みにいくんだろ?
盗む訳じゃない借りるだけだ、だって?
死ぬまで返さないならそれは単なる窃盗だぜ。まぁ、この頃のわたしにいくら言ってもききゃしないとは思うけどさ。
まあいい、あのな。今日は紅魔館に行くのやめておけ。死ぬほど後悔することになるぞ。
どうしてだって?
んー、あんまり未来のことをはっきり伝えるなって紫のやつに止められてるんだが……。
仕方ない、伝えないことにはわたしがここに来た意味も半減だしな。
いいか、よく聞け。
図書館に出入りするようになってから、研究の内容も速度も上昇傾向だったお前は、ここ最近難易度の高めな魔導書ばかり盗んでたろ。
お気に入りの本を立て続けに取られたパチュリーがキレてな。対お前用の防備にフランを使うんだ。
お前との弾幕ごっこの最中に能力を暴走させるおまけ付きだ。
その影響で紅魔館は全壊、お前も生き埋めだぜ。
まぁ、瓦礫が降ってくる直前に、上空目掛けてマスタースパークぶっ放して九死に一生を得るんだけどな。
それなら問題ないじゃないか? ばか、本当の恐怖はこれからなんだぜ。
紅魔館の再建に、資金はともかく時間が必要だって事でレミリアと咲夜と門番が博麗神社に住み着く事になる。
ここで名前の出てない奴が居るだろ? そう、パチュリーとフランだ。
『責任を取りなさい』とか言いながら、やって来るんだよ。ウチに。
ロイヤルフレアのスペルカードをチラつかせたパチュリーと、右手を開いたり握ったりしながらにこにこしてるフランを追い返せるか?
無理だろ?
パチュリーは我が物顔でわたしの研究室を占領するし、フランはあちこち跳ね回っては商品やマジックアイテムを壊すし。
まったく心の安まらない日々が延々と続くんだぜ。
それだけじゃない。
どこで噂を聞きつけたのか、アリスの奴が『嫉ましい、嫉ましいわぁ』とか言いながら押しかけてきて、何故かそのまま棲み着くし。
レミリアの我儘に耐えかねた霊夢が『あんた、なんとかしなさいよ』なんて針とお札を片手に迫ってくるんだぞ。
あいつのラストワードは痛いぜー、いやだろ?
うんうん、わかってくれて嬉しいぜ。近いうちに読み終わった本と茶菓子でも持参してパチュリーにワビいれとけ。
しおらしい姿でも見せておけば簡単にむきゅむきゅ言うから。
そうそう、帰る前にひとついいことを教えてやろう。
お前が手に持ってるそのキノコな、薬草と一緒に煎じて飲むと胸を大きくする効果があるんだぜ。
必要な薬草の種類は、この紙に書いてあるから頑張って探せよ。
ん? 礼なんていいんだよ。わたしの事なんだしな。
よし、それじゃあ帰るぜ。幸運を祈ってる。達者で暮らすんだぜ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
……懐かしいわね、この空気。あなたたちも久しぶりね。
あらあなた、袖口のところが解れてるわよ。直してあげるわ。…………これで良し。
さあ、この時間ならきっとリビングでお茶でも飲んでるはずだから。
さっさと『私』を説得しにいこうかしらね。
※
※
※
読書中に失礼するわ。って何をそんなに驚いているの? 結界が反応しなかった? ああ、結界の内側に直接送ってもらったから。
それにしても階段を下りる音で気がつきそうなものだけど。相変わらずの集中力ね、さすが私。
そんなことはどうでもいいの。分かっているかもしれないけど、私は未来の貴女。今日は貴女に忠告したいことがあって来たのよ。
証拠を見せろ?
わざわざ当時来ていた服まで引っ張り出して、髪型まで揃えてきた私にそんなこと言うなんて。
魔法使いとして、その疑り深さは褒められるべき素養かもしれないけど、自分に対してくらいはもうちょっとおおらかに生きてもいいんじゃないかしら?
大体、貴女を騙して得する人なんて……いないじゃない。
損得を別にすれば何人か思い当たるけど、愉快犯的な意味で。油断ならない所よね、幻想郷って。
ああ、こんな話をしに来たんじゃなかった。証拠、証拠ね。こういうのはどうかしら?
書斎のサイドテーブル、一番下の引き出しは二重底になっていて、その中には一冊のノートがあるわ。
そこには……痛いっ! 痛いってば! 上海をけしかけるのはやめてっ。上海、貴女もニセモノーニセモノーじゃないわよ、どっちも本物なんだから。
もう。でも、これでわかったでしょ? 私は未来の貴女なの。
それでね、今すぐ荷物をまとめて人里へ行きなさい。今日一日だけでいいから。慧音に頼めば一晩くらい泊めさせてもらえるから、ね?
どうしてって、もうすぐ貴女の身に重大な不幸が訪れるの。その運命を回避するために一番都合が良いのが人里なのよ。
あそこならあの娘も入って来られないでしょうから。
ん? ええ、そうよ。貴女は魔理沙のせいでひどい目に遭うの。そんなはずないって、まぁ怒るのも無理はないわね。
でも、事実なのよ。貴女にとっては未来の、私にとっては過去の。
確かに、魔理沙はちょっと暴走することがあっても基本的には良い娘だし、信じられないのも仕方のないことかもしれない。
ただ、今回は私を信じてくれないかしら。
はぁ、結局きちんと詳細を話すまで納得してくれないのね。そんな気はしてたけど。
わかったわ、心して聞きなさい。
もうすぐ、それほど時間を置かずに魔理沙が訪ねてくるわ。
手にカゴ一杯のキノコを持って。ここまでは珍しくもない光景よね、なんだかんだでお互いの家を行き来することも多いし。
こら、そこで照れない! こっちまで恥ずかしくなってくるじゃない。
問題はこれからよ。
貰ったキノコを使って魔理沙と一緒に夕食を作ったんだけど、どうやらその中に、やっかいな効果を持った毒キノコが混ざっていたみたいなのよ。
みたいっていうのは、食べちゃった後では特定が難しかったって事なんだけどね。
その後魔理沙が帰ってからは悲惨、の一言よ。
最初にぼんやりとした発熱、徐々に意識が朦朧としてきて、一晩寝れば良くなるかも、なんて楽観してたら全身にエノキみたいなキノコが生えてきて。
3日後、魔理沙が発見してくれるまで延々とうなされ続けるの。
魔理沙も驚いていたみたいだから、故意ってわけでも無いんでしょうけど。
そのまま、魔理沙に担がれて永遠亭まで運ばれたわ。魔理沙も責任を感じたみたいで入院中付きっきりで看病してくれたけど、本当に苦しかったのよ。
魔理沙が付きっきりで看病してくれるならそれくらい平気?
ああ、そう。
それなら、自分のこととはいえ私が口出しする問題じゃなさそうね。
死なない程度に達者に暮らしなさい。私は帰るわ。
聞きたいことがある? 未来の自分と出会える機会なんてそうそうあるものじゃないから、答えられる範疇ならかまわないわ。
……それは、そうね。貴女の努力次第、と答えておくわ。
結構身近に、努力の天才がいるでしょ。できる限り参考にしてみなさい。私に言えるのはこれくらいね。
それじゃ、さようなら。
景色を懐かしそうに見やる少女。ここは日中でもほとんど日の差さない魔法の森。
得体の知れない菌糸類の胞子が舞う中を、特に気にする様子もなく闊歩する。
彼女は、きょろきょろと周りを見渡しお目当ての人物を発見する。
※
※
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おーい、そこの黒ずくめに白のエプロンドレスつけて三角帽子。
いかにも魔法使いでございってな格好のテンパー金髪の生意気そうな顔の子供。
そうそう、おまえだおまえ。
不思議そうな顔をするなよ。ここには今、わたしとお前しかいないじゃないか。
え? お前は誰だって?
まぁ、当然の質問だと思うぜ。聞いて驚け、わたしは未来から来たお前だ。
なに? 信じられない? あー、昔のわたしはこういう反応するよなー。可愛くないぜ、まったく。
よし、それなら証拠を示そうじゃないか。
──キャラデザだけで変更4回、丁寧言葉でうふうふ笑い──
あー、ほらほら服が汚れるから土下座なんてするもんじゃないぜ。
お前にとって痛い過去は、わたしにとっても痛いんだ。でも、これで信じてもらえたろ?
よしよし、素直さは美徳だと思うぜ。
それで、なんの用だって?
今日は忠告しにやってきたんだ。お前、このキノコ採取が終わったらパチュリーのところに魔導書を盗みにいくんだろ?
盗む訳じゃない借りるだけだ、だって?
死ぬまで返さないならそれは単なる窃盗だぜ。まぁ、この頃のわたしにいくら言ってもききゃしないとは思うけどさ。
まあいい、あのな。今日は紅魔館に行くのやめておけ。死ぬほど後悔することになるぞ。
どうしてだって?
んー、あんまり未来のことをはっきり伝えるなって紫のやつに止められてるんだが……。
仕方ない、伝えないことにはわたしがここに来た意味も半減だしな。
いいか、よく聞け。
図書館に出入りするようになってから、研究の内容も速度も上昇傾向だったお前は、ここ最近難易度の高めな魔導書ばかり盗んでたろ。
お気に入りの本を立て続けに取られたパチュリーがキレてな。対お前用の防備にフランを使うんだ。
お前との弾幕ごっこの最中に能力を暴走させるおまけ付きだ。
その影響で紅魔館は全壊、お前も生き埋めだぜ。
まぁ、瓦礫が降ってくる直前に、上空目掛けてマスタースパークぶっ放して九死に一生を得るんだけどな。
それなら問題ないじゃないか? ばか、本当の恐怖はこれからなんだぜ。
紅魔館の再建に、資金はともかく時間が必要だって事でレミリアと咲夜と門番が博麗神社に住み着く事になる。
ここで名前の出てない奴が居るだろ? そう、パチュリーとフランだ。
『責任を取りなさい』とか言いながら、やって来るんだよ。ウチに。
ロイヤルフレアのスペルカードをチラつかせたパチュリーと、右手を開いたり握ったりしながらにこにこしてるフランを追い返せるか?
無理だろ?
パチュリーは我が物顔でわたしの研究室を占領するし、フランはあちこち跳ね回っては商品やマジックアイテムを壊すし。
まったく心の安まらない日々が延々と続くんだぜ。
それだけじゃない。
どこで噂を聞きつけたのか、アリスの奴が『嫉ましい、嫉ましいわぁ』とか言いながら押しかけてきて、何故かそのまま棲み着くし。
レミリアの我儘に耐えかねた霊夢が『あんた、なんとかしなさいよ』なんて針とお札を片手に迫ってくるんだぞ。
あいつのラストワードは痛いぜー、いやだろ?
うんうん、わかってくれて嬉しいぜ。近いうちに読み終わった本と茶菓子でも持参してパチュリーにワビいれとけ。
しおらしい姿でも見せておけば簡単にむきゅむきゅ言うから。
そうそう、帰る前にひとついいことを教えてやろう。
お前が手に持ってるそのキノコな、薬草と一緒に煎じて飲むと胸を大きくする効果があるんだぜ。
必要な薬草の種類は、この紙に書いてあるから頑張って探せよ。
ん? 礼なんていいんだよ。わたしの事なんだしな。
よし、それじゃあ帰るぜ。幸運を祈ってる。達者で暮らすんだぜ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
……懐かしいわね、この空気。あなたたちも久しぶりね。
あらあなた、袖口のところが解れてるわよ。直してあげるわ。…………これで良し。
さあ、この時間ならきっとリビングでお茶でも飲んでるはずだから。
さっさと『私』を説得しにいこうかしらね。
※
※
※
読書中に失礼するわ。って何をそんなに驚いているの? 結界が反応しなかった? ああ、結界の内側に直接送ってもらったから。
それにしても階段を下りる音で気がつきそうなものだけど。相変わらずの集中力ね、さすが私。
そんなことはどうでもいいの。分かっているかもしれないけど、私は未来の貴女。今日は貴女に忠告したいことがあって来たのよ。
証拠を見せろ?
わざわざ当時来ていた服まで引っ張り出して、髪型まで揃えてきた私にそんなこと言うなんて。
魔法使いとして、その疑り深さは褒められるべき素養かもしれないけど、自分に対してくらいはもうちょっとおおらかに生きてもいいんじゃないかしら?
大体、貴女を騙して得する人なんて……いないじゃない。
損得を別にすれば何人か思い当たるけど、愉快犯的な意味で。油断ならない所よね、幻想郷って。
ああ、こんな話をしに来たんじゃなかった。証拠、証拠ね。こういうのはどうかしら?
書斎のサイドテーブル、一番下の引き出しは二重底になっていて、その中には一冊のノートがあるわ。
そこには……痛いっ! 痛いってば! 上海をけしかけるのはやめてっ。上海、貴女もニセモノーニセモノーじゃないわよ、どっちも本物なんだから。
もう。でも、これでわかったでしょ? 私は未来の貴女なの。
それでね、今すぐ荷物をまとめて人里へ行きなさい。今日一日だけでいいから。慧音に頼めば一晩くらい泊めさせてもらえるから、ね?
どうしてって、もうすぐ貴女の身に重大な不幸が訪れるの。その運命を回避するために一番都合が良いのが人里なのよ。
あそこならあの娘も入って来られないでしょうから。
ん? ええ、そうよ。貴女は魔理沙のせいでひどい目に遭うの。そんなはずないって、まぁ怒るのも無理はないわね。
でも、事実なのよ。貴女にとっては未来の、私にとっては過去の。
確かに、魔理沙はちょっと暴走することがあっても基本的には良い娘だし、信じられないのも仕方のないことかもしれない。
ただ、今回は私を信じてくれないかしら。
はぁ、結局きちんと詳細を話すまで納得してくれないのね。そんな気はしてたけど。
わかったわ、心して聞きなさい。
もうすぐ、それほど時間を置かずに魔理沙が訪ねてくるわ。
手にカゴ一杯のキノコを持って。ここまでは珍しくもない光景よね、なんだかんだでお互いの家を行き来することも多いし。
こら、そこで照れない! こっちまで恥ずかしくなってくるじゃない。
問題はこれからよ。
貰ったキノコを使って魔理沙と一緒に夕食を作ったんだけど、どうやらその中に、やっかいな効果を持った毒キノコが混ざっていたみたいなのよ。
みたいっていうのは、食べちゃった後では特定が難しかったって事なんだけどね。
その後魔理沙が帰ってからは悲惨、の一言よ。
最初にぼんやりとした発熱、徐々に意識が朦朧としてきて、一晩寝れば良くなるかも、なんて楽観してたら全身にエノキみたいなキノコが生えてきて。
3日後、魔理沙が発見してくれるまで延々とうなされ続けるの。
魔理沙も驚いていたみたいだから、故意ってわけでも無いんでしょうけど。
そのまま、魔理沙に担がれて永遠亭まで運ばれたわ。魔理沙も責任を感じたみたいで入院中付きっきりで看病してくれたけど、本当に苦しかったのよ。
魔理沙が付きっきりで看病してくれるならそれくらい平気?
ああ、そう。
それなら、自分のこととはいえ私が口出しする問題じゃなさそうね。
死なない程度に達者に暮らしなさい。私は帰るわ。
聞きたいことがある? 未来の自分と出会える機会なんてそうそうあるものじゃないから、答えられる範疇ならかまわないわ。
……それは、そうね。貴女の努力次第、と答えておくわ。
結構身近に、努力の天才がいるでしょ。できる限り参考にしてみなさい。私に言えるのはこれくらいね。
それじゃ、さようなら。
ただ私もタグが気になってもやもや嫌な気持ちがします
アリスの愛は本物だなw
また、悲しいくらい切なくなるんだよなぁ。ただ伊集院とタグを付けるんだったら
あのラジオ独特の黒さがもうちょい欲しかったかな。
コメントの3氏、7氏の仰るように元ネタは伊集院光氏のラジオ番組でその昔行われていた1コーナー『夏のタイムマシンコーナー』です。もし、自分が過去に行けるとしたら、自分のどういった事件を修正するか、また過去の自分にどういった言葉を掛けるか送ってもらう、という趣旨のコーナーで当時俺も大好きでした。
タグの意味が解らないまま、不愉快な思いをさせてしまった方に関して、改めて謝罪いたします。
申し訳ありませんでした。
伊集院の声が脳内に再生したよwwww