朝の八雲家。
布団の中でまどろんでいた紫は、味噌汁のいい香りで目を覚ました。
いつも藍は完璧なタイミングで朝餉の用意をしてくれる。
そろそろ起きようかな、と思う頃に合わせていい香りがしてくるから、自然と目覚めがいい。
本当にいい式を持ったものだ。
そう思いながら、紫は伸びをしつつ台所へ向かった。
「おはよう、藍。今日の朝ごはんは何かしら?」
朝食の準備の途中だった藍は、紫に向き直して答えた。
「おはようございます。今日は以前紫様がおっしゃっていた西京焼きですよ。お味噌汁の具は紫様の好きななめこです。」
「うーん、いつもながら最高の朝食ね。…あら?あなたの分は?」
居間に行こうとした紫は、藍の食器が出ていない事に気づいた。
おかしい。いつもは一緒に食べるのに。
私がどんなに遅く起きてきても、待っていてくれるのに。
「すみません、今日は外でいただきます。橙が一緒に出かけようと言ってきかないので…ですから、紫様お一人で召し上がってください。」
ああ、そういえば今日か。
だから橙は…
「ええ、いいわ。片付けも私がやるから、あなたは早く行ったら?」
紫は藍の目を見ずに言った。
「で、ですが…」
「いいのいいの。早く行きなさいよ」
「では、お言葉に甘えて私は行きますね。」
あーあ、行っちゃった。
なんで私、あんな言い方したんだろう。
今日感謝したかったのは、橙だけとは限らないわ。
私だって伝えたかったのに。いつも言えずにいた言葉を、今日は伝えたかったのに。
目の前に並べられた朝食を見つめながら、紫は溜息をついた。
霊夢の所にでも行こうか。
だめだ、そんな気になれない。
ああ、どうしよう…
不意に、お腹がぐぅと鳴った。
うん、こんなときはまず腹ごしらえだ。
紫は朝食を食べ始めた。
うん、おいしい。
本当に私はいい式を持ったものだ。
* * *
最近は人間の里にも色々な店ができた。
その中に、落ち着いた雰囲気で、かつ洒落たデザインのカフェがある。
その雰囲気とリーズナブルさがウケて、人妖問わず大人気だ。
その店で、藍と橙は少し遅めの朝食をとっていた。
紫様はどうしているだろうか。
別れ際、少し寂しそうな眼をしていた。
気のせいならいいが…
はあ、思いは伝わらないものだな。
今日は紫様に感謝したかったのに。
朝食だって、いつも以上に張り切って作った。
一緒に朝食を食べて、それが話すきっかけになったらいいな。
そう思って、頑張ったのに…
「藍さま、どうかしたんですか?」
藍は顔を上げた。
どうやらいつの間にか俯いていたらしい。
橙に悪い事をしたな。
「い、いや、なんでもないよ。ごめんな、橙。」
そう、なんでもない。
少なくとも、橙は知らなくていいことだ。
私は、橙の前ではいつもお母さんでいてあげたい。
だから、この子の前ではしっかりしなければ。
「もしかして、紫さまのこと考えてたんですか?」
橙が見事に言い当てたものだから、藍は驚いて飲みかけたコーヒーを取り落としかけた。
子供は知らないうちに成長するというが、こうも成長に気づかないものか。
まだまだ子供だと思っていた橙も、人の気持ちを読み取る事ができるようになったのか。
なんだか不思議な気持ちだ。
誇らしい反面、少し寂しい気もする。
あの日の紫様も、きっとこんな気持ちだったのだろう。
感傷に浸りながら、藍は答えた。
「えーとね、違うと言ったら嘘になるが…でも、今は橙の事をだな」
「いいんですよ。前言ってたじゃないですか、藍さまにとって紫さまはお母さんみたいだって。今日は母の日なんですから、感謝したいなって思うの当然ですよ」
本当にいい子に育ってくれたものだ。
感謝というなら、お前にもしたいよ、橙。
人の気持ちがわかる優しい子に育ってくれてありがとう。
藍は何も言わずに橙の頭をポンと撫でた。
くすぐったそうに顔をしかめて、橙は言った。
「藍さま…でも今は、今だけは私を見てください!私の気持ち、受け取ってください!」
ちぇえええええええん!!!!
心の中でそう叫びながら、平静を装って藍は言う。
「そ、そうか。じゃあ、今日はいっぱい遊ぼうか?」
「はい!」
そうだ、まだ今日は終わっていない。
帰ってから気持ちを伝えれば、それでいいじゃないか。
橙に教えられるとは、私もまだまだだな。
そう思いながら、藍はカップに手を伸ばした。
* * *
家に帰る頃には、もうすっかり夜になってしまった。
橙は遊び疲れて寝てしまい、藍におんぶされていた。
やっぱりまだまだ子供だな。
まあ、このくらいのほうが世話の焼き甲斐があるというものだ。
「ふにゃ…らんしゃま…」
橙の寝言に藍の頬が緩む。
それを引き締めて、藍は玄関を開けた。
昼間は橙の気持ちを受け止めた。
今度は、私が紫様に思いを伝える番だ。
「ただいま帰りました。…紫様?」
返事はなかった。
玄関まで出迎えてくれこそしないが、それでも普段おかえりくらいは言ってくれる。
もしかして、怒っているのだろうか。
紫様を放っておいて、こんなに遅く帰ってきて。
こんなんじゃ、紫様の式失格だな。
藍は久しぶりに泣いた。
ほんの少し瞳が潤んだだけだったが、こんなに悲しい気持ちになるのは久しぶりだ。
それだけ、自分は幸せに囲まれていたのだろう。
紫様のお世話をして、橙と遊んで、三人でお出かけして。
思い返せば、本当に、ほんとうに毎日が楽しかった。
謝ろう。謝って、紫様に許してもらおう。
客間に橙を寝かしつけながら、藍は強く決心した。
藍は紫の部屋の前にいた。
この襖を開ければ、そこに紫様がいる。
そう思うと、妙に入りにくかった。
ええい、こうしていても仕方がない。
自分に気合を入れると、藍は紫に声をかけた。
「紫様ー?」
やはり返事はなかった。
それほど怒っているのだろうか。
そうだとしたら、尚更ちゃんと謝らなければ。
失礼します、そう言うと藍は紫の部屋の襖を開けた。
紫は机に突っ伏すようにして寝ていた。
服は着替えたようだが、靴下が同じものだった。
もしかして、今日はどこへも出かけなかったのかもしれない。
とにかく、風邪をひいては大変だ。
藍が布団をかけようとすると、不意に机の上に置かれた手紙が目に入った。
気になって手に取ると、宛名は自分だった。
悪いと思いながら、藍は手紙を開こうとする自分を止められなかった。
藍へ
突然手紙なんて変に思うかしらね。まあそんな身構えず、気楽に読んでくれればいいわ。
あー、やっぱり恥ずかしいな。ええっとね、その…今日は母の日ね。お母さんに感謝する日よね?でも、対象がお母さんじゃなきゃいけない、なんて決まりはないでしょ?何が言いたいかっていうと、つまり…藍、いつもありがとう。貴女のおかげで、いつも助かってるわ。本当にありがとう。
思えば貴女が私の式になってからずいぶん経つわね。あの時はまだまだ貴女は子供で、私がお母さんみたいだったわね。懐かしいわ…本当に、つい昨日の事みたい。それが、いつの間にか成長して、今では式が持てるまでになった。誇らしいけど、なんだか少し寂しい。ふふ、なんでかしらね。変な感じ。
貴女はとても立派に成長したわ。それこそ、私のほうが甘えたくなってしまうくらいね。でも私にとって、貴女はいつまでも子供なの。だから…偶には、私に甘えてくれてもいいのよ?そうしてくれないと、少し私も寂しいから。
じゃ、これからもよろしくね!
八雲 紫
追伸:勝手に読んじゃ駄目よ?読んだら怒るんだから!
読み終わる頃には、藍はぼろぼろ涙を流していた。
ああ、紫様はやっぱりお母さんだ。
いつまでもいつまでも、私のお母さんなんだ。
うれしくて、気づいたら泣いていた。
それに気づいたのか、紫は目をこすっていた。
「うーん、らん…?わわっ、藍なんでここに!?って、なんで泣いて…」
「ゆかりさま…ゆかりさまぁ!!」
藍は紫に抱きついていた。
もう何を言おうとしたか忘れてしまった。
いや、もうそんなのどうでもいい。
今はこうして紫様のそばにいたい。
「あー、手紙読んじゃったのね。駄目よって書いておいたのに…」
「ごめんなしゃい…」
「ほら、鼻水出てるわよ?ふふ、懐かしいわね。あの頃の貴女は何かあるとすぐに泣きついてきてね。はい、ちーんして?」
「はい。あの、紫様…私、紫様に言いたい事があるんです。」
鼻水と涙を拭くと、藍はなんとかいつもの落ち着きを取り戻した。
その変わりように、紫も思わず息を呑んだ。
「自分で言うのは変ですが、私は立派な式です。ですが、こうなれたのは全て紫様のおかげです。紫様がときに優しく、ときに厳しく鍛えてくださったから今の私があるんです。だから…だから今日は、紫様に感謝したかったんです。でも、橙との約束があって…」
「ストップ!」
紫は藍の唇に指を当てた。
これ以上言わせるとまた泣き出しそうだったから。
「手紙には書いてないけど、私は貴女と橙の関係を見ていたいの。それこそ、昔の私達みたいで微笑ましいのよ。だから、いちいち気にしなくていいのよ。」
そう言うと、紫は藍を抱きしめた。
藍はビクっとしたが、すぐに紫を抱きしめ返した。
暖かい空気が二人を包んだ、まさにその時――
不意に、お腹がぐぅと鳴った。
「―ぷっ!」
「あははは!!」
「あー恥ずかしい!何これ、雰囲気台無し!!」
「お夜食でもどうですか?お夕飯、食べてらっしゃらないんでしょう?」
「そうね、いただこうかしら。――今度は、二人一緒にね?」
「はい。もちろん、ご一緒に。」
二人は夜食を楽しく食べることにした。
二人の時間がゆっくり過ぎていった。
時に笑い、時に皮肉を言い合う。
ほんとうに、幸せな時間だった。
もっとも、夜食の匂いで起きてきた橙の参加により、三人のお夜食パーティが始まるわけだが。
布団の中でまどろんでいた紫は、味噌汁のいい香りで目を覚ました。
いつも藍は完璧なタイミングで朝餉の用意をしてくれる。
そろそろ起きようかな、と思う頃に合わせていい香りがしてくるから、自然と目覚めがいい。
本当にいい式を持ったものだ。
そう思いながら、紫は伸びをしつつ台所へ向かった。
「おはよう、藍。今日の朝ごはんは何かしら?」
朝食の準備の途中だった藍は、紫に向き直して答えた。
「おはようございます。今日は以前紫様がおっしゃっていた西京焼きですよ。お味噌汁の具は紫様の好きななめこです。」
「うーん、いつもながら最高の朝食ね。…あら?あなたの分は?」
居間に行こうとした紫は、藍の食器が出ていない事に気づいた。
おかしい。いつもは一緒に食べるのに。
私がどんなに遅く起きてきても、待っていてくれるのに。
「すみません、今日は外でいただきます。橙が一緒に出かけようと言ってきかないので…ですから、紫様お一人で召し上がってください。」
ああ、そういえば今日か。
だから橙は…
「ええ、いいわ。片付けも私がやるから、あなたは早く行ったら?」
紫は藍の目を見ずに言った。
「で、ですが…」
「いいのいいの。早く行きなさいよ」
「では、お言葉に甘えて私は行きますね。」
あーあ、行っちゃった。
なんで私、あんな言い方したんだろう。
今日感謝したかったのは、橙だけとは限らないわ。
私だって伝えたかったのに。いつも言えずにいた言葉を、今日は伝えたかったのに。
目の前に並べられた朝食を見つめながら、紫は溜息をついた。
霊夢の所にでも行こうか。
だめだ、そんな気になれない。
ああ、どうしよう…
不意に、お腹がぐぅと鳴った。
うん、こんなときはまず腹ごしらえだ。
紫は朝食を食べ始めた。
うん、おいしい。
本当に私はいい式を持ったものだ。
* * *
最近は人間の里にも色々な店ができた。
その中に、落ち着いた雰囲気で、かつ洒落たデザインのカフェがある。
その雰囲気とリーズナブルさがウケて、人妖問わず大人気だ。
その店で、藍と橙は少し遅めの朝食をとっていた。
紫様はどうしているだろうか。
別れ際、少し寂しそうな眼をしていた。
気のせいならいいが…
はあ、思いは伝わらないものだな。
今日は紫様に感謝したかったのに。
朝食だって、いつも以上に張り切って作った。
一緒に朝食を食べて、それが話すきっかけになったらいいな。
そう思って、頑張ったのに…
「藍さま、どうかしたんですか?」
藍は顔を上げた。
どうやらいつの間にか俯いていたらしい。
橙に悪い事をしたな。
「い、いや、なんでもないよ。ごめんな、橙。」
そう、なんでもない。
少なくとも、橙は知らなくていいことだ。
私は、橙の前ではいつもお母さんでいてあげたい。
だから、この子の前ではしっかりしなければ。
「もしかして、紫さまのこと考えてたんですか?」
橙が見事に言い当てたものだから、藍は驚いて飲みかけたコーヒーを取り落としかけた。
子供は知らないうちに成長するというが、こうも成長に気づかないものか。
まだまだ子供だと思っていた橙も、人の気持ちを読み取る事ができるようになったのか。
なんだか不思議な気持ちだ。
誇らしい反面、少し寂しい気もする。
あの日の紫様も、きっとこんな気持ちだったのだろう。
感傷に浸りながら、藍は答えた。
「えーとね、違うと言ったら嘘になるが…でも、今は橙の事をだな」
「いいんですよ。前言ってたじゃないですか、藍さまにとって紫さまはお母さんみたいだって。今日は母の日なんですから、感謝したいなって思うの当然ですよ」
本当にいい子に育ってくれたものだ。
感謝というなら、お前にもしたいよ、橙。
人の気持ちがわかる優しい子に育ってくれてありがとう。
藍は何も言わずに橙の頭をポンと撫でた。
くすぐったそうに顔をしかめて、橙は言った。
「藍さま…でも今は、今だけは私を見てください!私の気持ち、受け取ってください!」
ちぇえええええええん!!!!
心の中でそう叫びながら、平静を装って藍は言う。
「そ、そうか。じゃあ、今日はいっぱい遊ぼうか?」
「はい!」
そうだ、まだ今日は終わっていない。
帰ってから気持ちを伝えれば、それでいいじゃないか。
橙に教えられるとは、私もまだまだだな。
そう思いながら、藍はカップに手を伸ばした。
* * *
家に帰る頃には、もうすっかり夜になってしまった。
橙は遊び疲れて寝てしまい、藍におんぶされていた。
やっぱりまだまだ子供だな。
まあ、このくらいのほうが世話の焼き甲斐があるというものだ。
「ふにゃ…らんしゃま…」
橙の寝言に藍の頬が緩む。
それを引き締めて、藍は玄関を開けた。
昼間は橙の気持ちを受け止めた。
今度は、私が紫様に思いを伝える番だ。
「ただいま帰りました。…紫様?」
返事はなかった。
玄関まで出迎えてくれこそしないが、それでも普段おかえりくらいは言ってくれる。
もしかして、怒っているのだろうか。
紫様を放っておいて、こんなに遅く帰ってきて。
こんなんじゃ、紫様の式失格だな。
藍は久しぶりに泣いた。
ほんの少し瞳が潤んだだけだったが、こんなに悲しい気持ちになるのは久しぶりだ。
それだけ、自分は幸せに囲まれていたのだろう。
紫様のお世話をして、橙と遊んで、三人でお出かけして。
思い返せば、本当に、ほんとうに毎日が楽しかった。
謝ろう。謝って、紫様に許してもらおう。
客間に橙を寝かしつけながら、藍は強く決心した。
藍は紫の部屋の前にいた。
この襖を開ければ、そこに紫様がいる。
そう思うと、妙に入りにくかった。
ええい、こうしていても仕方がない。
自分に気合を入れると、藍は紫に声をかけた。
「紫様ー?」
やはり返事はなかった。
それほど怒っているのだろうか。
そうだとしたら、尚更ちゃんと謝らなければ。
失礼します、そう言うと藍は紫の部屋の襖を開けた。
紫は机に突っ伏すようにして寝ていた。
服は着替えたようだが、靴下が同じものだった。
もしかして、今日はどこへも出かけなかったのかもしれない。
とにかく、風邪をひいては大変だ。
藍が布団をかけようとすると、不意に机の上に置かれた手紙が目に入った。
気になって手に取ると、宛名は自分だった。
悪いと思いながら、藍は手紙を開こうとする自分を止められなかった。
藍へ
突然手紙なんて変に思うかしらね。まあそんな身構えず、気楽に読んでくれればいいわ。
あー、やっぱり恥ずかしいな。ええっとね、その…今日は母の日ね。お母さんに感謝する日よね?でも、対象がお母さんじゃなきゃいけない、なんて決まりはないでしょ?何が言いたいかっていうと、つまり…藍、いつもありがとう。貴女のおかげで、いつも助かってるわ。本当にありがとう。
思えば貴女が私の式になってからずいぶん経つわね。あの時はまだまだ貴女は子供で、私がお母さんみたいだったわね。懐かしいわ…本当に、つい昨日の事みたい。それが、いつの間にか成長して、今では式が持てるまでになった。誇らしいけど、なんだか少し寂しい。ふふ、なんでかしらね。変な感じ。
貴女はとても立派に成長したわ。それこそ、私のほうが甘えたくなってしまうくらいね。でも私にとって、貴女はいつまでも子供なの。だから…偶には、私に甘えてくれてもいいのよ?そうしてくれないと、少し私も寂しいから。
じゃ、これからもよろしくね!
八雲 紫
追伸:勝手に読んじゃ駄目よ?読んだら怒るんだから!
読み終わる頃には、藍はぼろぼろ涙を流していた。
ああ、紫様はやっぱりお母さんだ。
いつまでもいつまでも、私のお母さんなんだ。
うれしくて、気づいたら泣いていた。
それに気づいたのか、紫は目をこすっていた。
「うーん、らん…?わわっ、藍なんでここに!?って、なんで泣いて…」
「ゆかりさま…ゆかりさまぁ!!」
藍は紫に抱きついていた。
もう何を言おうとしたか忘れてしまった。
いや、もうそんなのどうでもいい。
今はこうして紫様のそばにいたい。
「あー、手紙読んじゃったのね。駄目よって書いておいたのに…」
「ごめんなしゃい…」
「ほら、鼻水出てるわよ?ふふ、懐かしいわね。あの頃の貴女は何かあるとすぐに泣きついてきてね。はい、ちーんして?」
「はい。あの、紫様…私、紫様に言いたい事があるんです。」
鼻水と涙を拭くと、藍はなんとかいつもの落ち着きを取り戻した。
その変わりように、紫も思わず息を呑んだ。
「自分で言うのは変ですが、私は立派な式です。ですが、こうなれたのは全て紫様のおかげです。紫様がときに優しく、ときに厳しく鍛えてくださったから今の私があるんです。だから…だから今日は、紫様に感謝したかったんです。でも、橙との約束があって…」
「ストップ!」
紫は藍の唇に指を当てた。
これ以上言わせるとまた泣き出しそうだったから。
「手紙には書いてないけど、私は貴女と橙の関係を見ていたいの。それこそ、昔の私達みたいで微笑ましいのよ。だから、いちいち気にしなくていいのよ。」
そう言うと、紫は藍を抱きしめた。
藍はビクっとしたが、すぐに紫を抱きしめ返した。
暖かい空気が二人を包んだ、まさにその時――
不意に、お腹がぐぅと鳴った。
「―ぷっ!」
「あははは!!」
「あー恥ずかしい!何これ、雰囲気台無し!!」
「お夜食でもどうですか?お夕飯、食べてらっしゃらないんでしょう?」
「そうね、いただこうかしら。――今度は、二人一緒にね?」
「はい。もちろん、ご一緒に。」
二人は夜食を楽しく食べることにした。
二人の時間がゆっくり過ぎていった。
時に笑い、時に皮肉を言い合う。
ほんとうに、幸せな時間だった。
もっとも、夜食の匂いで起きてきた橙の参加により、三人のお夜食パーティが始まるわけだが。
ゆかりんがお母さん…大賛成だ!
ゆかりん…
「勝手に読んじゃ駄目」って追伸で書かれてもw
ゆかりんと藍さまの関係がいいなぁ。
そして僕もゆかりんが教え込んだに一票。(そんなネタで書いてますしね
僕は母に柿の種とアイスクリームを買っていってあげましたよ。花より団子な母なもので。
涙が真面目に止まらない!!!!
良いお話をありがとう!!!
やっぱりそうですよね!賛同してくれる方がいてよかったです。
なのに友人共ときたららんしゃまだのもふもふだのと…
>>2さん
ゆかりんは緊張して書いていたから全部書き終えるまで内容を確認していなかったのです。
それで見直したら恥ずかしくなっちゃったので照れ隠しに付け足したわけです。
まあどうせ読ませるんだから関係ないんですけどね、机に出しっぱなしだしw
>>3さん
普段は恥ずかしくて伝えにくい事もこういう日は不思議と伝えられますよね。
本当にいい日だ。
>>しんっさん
らんちゃんのことですね、わかりますw
大抵の場合藍さまと橙の親子関係が描写されたりしますが、ゆかりんと藍さまの関係を取り上げる作品って割と少ないですよね。僕が知らないだけかもしれませんが。
>>奇声を発する程度の能力さん
いえいえ、こちらこそありがとうございます。
誰かに感動してもらえるってとてもうれしい事ですね。
でも今回はテーマの力もあると思います。親への思いは誰でも共通ですから。