◇剣の話
昔の白玉楼。
そこの庭で冥界西行寺のお嬢様、幽々子と、
その剣術指南役を務める剣士が稽古をしている。
「問います」
稽古の最中に、幽々子が顔を上げた。
「剣とは、なんでしょう」
剣士は刀を振るう腕を止め、一瞥と僅かな間の後、
私見ですが、と断ってから珍しく教えを述べる。
「剣とは、忘れない事です。
他人と自分のその時に振るった技を、心を、そして体を。
全てを忘れず、そして最後に無想の極致に至るものなのです」
「成程」
幽々子が頷くと、また黙々と二人の稽古が始められた。
「ゆゆさま~、おししょう~、ふぁあああああん」
広い白玉楼の庭外れ。
一緒に稽古をやるはずの約束を忘れられた、小さな妖夢が泣いていた。
◇訳の話
昔の何処か。
人里離れた辺鄙な場所で、妖怪退治の修行をする妹紅と、
それを教える人間が、修行に精を出している。
「どうすれば」
妹紅が顔を上げる。
「どうすれば、もっと強くなれる」
その言葉に、妹紅を黙って見守っていた人間が、すぐに口を開いた。
「訳を持ちなさい。あなたが強くなるための言い訳を。
一つでも、二つでも、無数でも。
より効果的な訳を持てたなら、あとは他のことを気にしない」
「……それが八つ当たりでも?」
「それが訳ならば」
妹紅は舌打ちをして、人間を睨みつけた後、また修行を再開した。
火の鳥が高く空に目掛けて飛んでいった。
◇期待の話
昔の博麗神社。
巫女の代替わりが済んだばかりのその場所に、
山の天狗が降りてきた。
「あれが新しい巫女ですか……なんだか頼りなさそうですねぇ」
天狗が溜息まじりにそう呟く。
「頼りないからいいのよ。
頼り無さ過ぎて、逆に先が楽しみになるじゃない?」
いつの間にか、どこからか現れた妖怪がその呟きに言葉を返した。
「まぁ、それはそうですね。
確かにどちらでも、面白そうではありますね」
「──ええ、とても」
池の亀相手に遊んでいる少女を眺めながら、
二人の妖怪は優しく、冷たく微笑んだ。
◇聞く話
昔の霧雨店。
変わらない姿の霖之助が店の道具を揃えている。
「こーりん」
幼い魔理沙が、戸棚に向かっていた霖之助に話しかける。
「これはなに?」
何処かからか持ってきたらしい、ある品を手渡される。
霖之助はしばらくそれを眺めた後、
「ああ、これは○○■×といってね。
使用目的は××××で■■△な時に○×■×するものだ。
主に大人が使う」
「へー」
半分も意味を理解していなかったような魔理沙が、
へへへ、と嬉しそうに笑う。
「こーりんは、なんでもわかってすごいなぁ」
「それ程の事でもないさ」
最近の魔理沙は何でも自分に渡して聞きたがる。
それは単に、よどみ無く答える自分の事を面白がっているからだろう。
霖之助はそう考え、魔理沙が品に興味を失った事を確かめると、
そっとそれを戸棚の上にしまった。
◇興味の話
昔の永遠亭。
月から逃げてきたばかりの兎と、
それを匿った月人の永琳が部屋で話している。
「本当に、ありがとうございます」
休養をとり、落ち着いた兎が頭を下げる。
「いえいえ」
そちらを見ずに、永琳は薬の具合を検分している。
「あの、なにかお礼がしたいのですが」
「いえいえ」
硝子瓶の中でこぽこぽと音を立てている何かを見つめている。
「えっと、これからどうすれば……」
「いえいえ」
「あの……」
「…………」
「実は私、前から薬に興味がありまして──教えて頂きたいのですが」
「あら、そうなの?」
兎の言葉に、永琳が振り向いた。
誰かに自分の事を興味を持って欲しければ、
まずその人が興味を持つものに興味持つべし。
どこかで読んだ本の事を、思い返し、兎はそんな振りをしようと考えた。
◇昔の話
こんにちは、清く正しい射命丸です!
今回は幻想郷の人達に昔の事を突撃インタビューしてみましたよ!
ではどうぞ!
「えっと……よく覚えてないですねぇ」
「話したくない」
「んー、黒歴史ってやつなのかなぁ?」
「あー? 今と大して変わってないぜ」
「昔って、いつの事かしら」
幻想郷の住人は、昔(かこ)を語るのが苦手のようである。
こうも引き込まれる文ってすばらしいですね
次回作も期待してます
そして黒歴史ってどういう意味だ霊夢ww
アイスカフェオレ飲みながら読ませていただきました。
お供にべっこう飴があればもっと良かったのですが、時間が時間だけに作るのを諦めました。
とはいえまだまだ夜はこれから。
まあ、登校まであと7時間強ありますし、ねぇ?
相変わらず雰囲気が良いですね。
純粋に楽しかったです。
その後を考えてニヤニヤしております
雰囲気良いですね~。
すらすらと染み渡ります