注意。
私を抱いて。
このフレーズを聞いてエロい事を考えた人は……
そのままゆっくりとスクロールバーを下に進めて下さい。
「店主さん、これはなに?」
小さな乳白色の両手が、一本の細長い筒を乗せて、本を読む霖之助の目の前に差し出された。
この光景も日が落ちた頃から数えると既に何度目だっただろうか。
霖之助は目線を筒から手の持ち主へと移し、また本に戻して口を開く。
「それは望遠鏡といってね、遠くにある星を見るために作られたものだ。
そこから夜空を覗けば星がうんと近くに寄って来てくれる。」
今宵、紅魔館の主の妹、フランドール・スカーレットは
古い望遠鏡を両手に金色のサイドテールを揺らし、独特な形をした7色の羽をぱたぱたとはためかせながら
感嘆の息を漏らしていた。
「星が近づいて来るの?どうして?」
「その筒には僕のかけている眼鏡と同じ特別な硝子が何枚も入っていてね。
その硝子が遠くに見える小さい物を大きく映して覗く者の目に見せているんだ。」
「?じゃあ店主もその眼鏡で見た私を引き寄せているの?」
なぜそうなる……霖之助の声は心の中で虚しく反響して終わった。
下手なことを口にすれば……想像するのも恐ろしい事が自身の身に起きるだろう。 キュットシテボカーン
フランは一番近くにある窓を開け、望遠鏡ごしに夜空を覗き込んだ。
「…………あんまり変わらない。」
「今日は空が曇っているからね。」
「星が近づいてくるんじゃなかった?」
「それにも限度がある…星は自分が美しく見える位置までしか寄ってこないよ。」
「星はどこから見てもキレイだよ?」
「遠くから見ればそうだが実際は違う。触れるほどの距離で見れば表面がゴツゴツしたただの大きな石だ。」
「……………」
無表情のフランは何故かカウンターの上に乗り、無言で霖之助の目と鼻の距離まで顔を寄せてきた。
霖之助の無表情が驚愕の表情へと変わる。何か気に障るようなことを言ってしまった!?霖之助はそう考える。
小さく開いたフランの口から鋭い犬歯が覗く。
「……今私は貴方の傍にきた…私はキレイじゃない?」
目線を逸らさずに自分が綺麗か否かという疑問を投げかけた。
なぜフランがそんな思考をしたのかは霖之助にも理解できない。だが、ここで機嫌をとらなければ大変な事になる、
何とかしなければならない。思考を重ねること数秒、まばたき数回程度の間をおいて、霖之助は口を開いた。
「そんな事はない、君は十分に美しい。もし僕が星か君を選ぶ選択を迫られたとしたら僕は間違いなく君を選ぶだろう。」
「へぇ…そう。」
まるでそんなことはどうでもいいという風に応えるフラン、とりあえず機嫌を損ねてるわけではないようだ。
深紅の瞳が霖之助を見つめる。互いが互いの顔を見つめあう構図は第三者(主に独身)から見ればとても羨ましい
ものだが、霖之助にとっては何時フランが自分を襲うかと思うと気が気ではなかった。
いい加減目線を外して欲しい、しかし何故かフランは霖之助の目をじっと見つめる。
「その眼鏡…綺麗、私もかけてみたい。貸して。」
見つめていたのは眼鏡だったようだ、こんな眼鏡で満足してもらえるならいくらでもあげよう、霖之助はそう考えた。
くどいようだが霖之助は気が気ではなかった。それは相手がフランドールスカーレットだからだと言わざるをえない。
霖之助より強い妖怪など此処幻想郷にはそこら中にいるがいきなり襲ってくるような連中ではない。
しかし、今目の前にいるのは幻想郷縁起にも「気がふれている」と書かれる吸血鬼なのだ。店で暴れられたら
道具屋の店主1人で対処できる相手ではない。ならばなるべく刺激しないような対応をせざるをえなくなり。
結果、いつも通りの対応が妥当であるとの判断を霖之助は出したのだ。
「いいだろう。そのまま動かないでくれ。」
霖之助は自分の眼鏡をすぐに外し、目の前のフランの顔に慎重な手つきでかけた。だがここで気づくべきだった。
眼鏡というものは伊達でない限り必ず目の悪い者が使うものだという事を。
そして人を遥かに超える視力を持った妖怪…すなわち吸血鬼が使ったらどうなるかという事を。
「……店主さんがぼやけて見える…近すぎる?」
当然視界はぼやける、状況をつかめない者なら多少のパニックを起こし…
「ならちょっとだけ後ろに……きゃっ!」
後ろに何か障害物でもあればそれにつまづき…後ろ向きに転ぶ。とここまでは想定の範囲内だ。
この後転んだ拍子にびっくり箱をひっくり返してしまい箱の中から飛び出たナズーリンに驚いて窓を割って外に出て、
その結果外に出したままにした鯉のぼりに足を絡めとられて
約3メートルの高さから宙ぶらりんになるのもふくめると想定の範囲外だがな!
「…………降ろして。」
「分かった。すぐに何とかするから君はそこから動かないでくれ。」
羽があるんだから自分で飛んで外せばいいとか鯉のぼりの一つや二つ位破壊しても問題ないんじゃ?とか言いたい事も 多々あると思うが。先ず前者は霖之助もフランも予想外のことに混乱している状況なので考えつかず、
後者は思いついたとしてもフランが鯉のぼりどころか店ごと破壊しかねないというある種の危機感が霖之助に「まった」 の声を出させるだろう。霖之助はすぐさま店の物置へと直行、戸の隅で埃を被っていた竹竿を持ち出して、
フランのちょうど真下にあたる場所へすべるように入った。
「今から君をそこから降ろす、そのまま動かないでくれ。暴れるとよけいに絡んで外れにくくなる。」
「はーい。」
サイドテールを垂直にたれ下げながらやけに素直に返事を返すフラン。以外に素直でいい娘じゃないかと霖之助は心の中 で評価を改めた後、難易度ルナティックのミッション、「鯉のぼり救出作戦」に身を投じた。
なに?救うのはフランの方?またまたご冗談をキュットシテボカーン
先ず霖之助は鯉のぼりの方から見ることにした。
3メートルはあろうかという位の高さの棒に4匹の鯉がくっついている。
一番上から真鯉(黒色の鯉)、緋鯉(赤色の鯉)、錦鯉(黒赤白の三色の鯉)、子鯉(小さな青い鯉)だ。
「元々は江戸時代の武家が端午の節句に玄関に旗指物(現在で言う軍旗に近いもの)を飾ったら、
江戸の商人がこれに対抗して色とりどりの吹流し(鯉のぼりの原型)を玄関に飾るようになったのが始まりなんだ。
この頃はまだ鯉の形をしていなかったが、さらに、吹流しを飾るだけでは芸がないと考えたのか一部の家庭で
「竜門」の故事に因んで吹流しに鯉の絵を描くようになった。 そして現在の魚型の鯉のぼりはさらにそこから派生した ものなんだ。ちなみに「竜門」とは中国の正史、二十四史の一つである後漢書による故事で、
黄河の急流にある竜門と呼ばれる滝を鯉のみが登り切り、竜に成ることができたという話だ。
またの名を「登竜門」ともいい…」
「早く降ろして。きゅっとされたいの…?」
「僕が悪かった。だから片手をこっちに向けるのはやめてくれないか?」
前言撤回、なんて恐ろしい娘なんだ。と霖之助に戦慄が走った。
気を取り直して、今度はフランの方を見る。一番上の真鯉の口の部分、
ここに右足首までを布製の生地で絡みとられてる為に身動きがとれないようだ。
だが見たところそこまで複雑に絡まってはいない、これなら数回棒で突けば絡んだ部分はすぐに解ける。
霖之助の目論見通り手に持った竹竿でフラン足の部分をついた所、8回目でその絡みは解けた。
足を開放されたフランはそのまま床へと垂直落下していく。後は羽を使えば床に顔面着地をすることはないだろう。
そう思って真上のフランを見るが一向に飛ぶ気配がしない!?
「危ない!!」
とっさの機転、両手の竹竿を脇に放り投げ、その場で動かずに両腕を前に突き出した。
懐に少女の体が納まると同時に腕に軽い負荷がやってくる。
が、なんとか少女を抱きかかえる事に成功したようだ。
「なんで飛ぼうとしなかったんだ。君には羽があるだろう…あのままだったら顔からぶつけていた。」
「ちゃんと飛んだよ、床に向かって。」
「できれば空に向かって飛んで欲しかったよ。」
「けど貴方が受け止めてくれたからいいじゃない、ありがとう店主さん。」
「気持ちは嬉しいが………っ!何故僕の顔を睨む!?」
抱えた腕の中から眼鏡をかけたまま半目で霖之助の顔をじっと睨むフラン。
口はへの字にまがりいかにも不機嫌といった感じだ。
「…………ずるい。」
「…………なに?」
「こんなに近くで見てるのに貴方の眼は綺麗な琥珀色………不公平だわ。」
何を言っているんだこの子は………………。霖之助のため息は店の空気に溶けて、消えた。
しばらくして、カウンターの上に出される1つの湯のみと4つの葉っぱで包んだ白くて丸い菓子のようなもの。
湯のみにはすでに番茶が淹れてあり、4つの菓子は1枚の長方形の皿に並べてある。
「これはなに?」
「君へのお詫びのしるしだ。君があんな事になったのも元を正せば僕の責任だ、
今はこんな物しかないが……どうかこれで機嫌を直してもらいたい。」
「わーい!」
諸手をあげて喜んだフランは目の前の菓子を一つつまみあげた。
手から伝わるはっぱのざらざらとした感触に白い部分の モチモチとした感触がフランの感性を刺激する、
頬は緩みきり目と口はこれ以上はないというほどにっこりとしたフランが白い物体をそのまま口に頬張ろうとした矢先、
「そこまでだ!」
「………………」
霖之助はそれを声で押し止めた。赤い頬を膨らませてこちらを睨むフランを無視して、霖之助は言葉を続ける。
「その葉は食べられない、こうやって一度剥がしてから餅だけを食べるんだ。」
「?」
言われた通り葉っぱの部分を剥がしてから口に運ぶ。その小さな口が白い物を受け入れる。
幾ばくかの咀嚼の後、フランは目を星のように輝かせた。
「おいしい!」
残りの白い物…つまりは柏餅を全部口に押し込んだ後、フランは番茶を飲んで一息ついた。
「おいしかった!ありがとう!」
「喜んでもらえて何よりだ。」
「これってまだ残ってるの?」
「勿論。もう子供の日を過ぎたからね、その時の売れ残りが沢山あまっているんだ。」
「子供の日?」
「知らないのかい?」
「知らない。」
「なら教えてあげよう。子供の日と言うのは」
「そんなことより白くて丸いのもっと頂戴!」
「………………」
今度は霖之助の方が恨めしそうな顔でフランを睨む。
案の定フランはそんなことお構いなしに柏餅を要求していた。
柏餅の入った箱を幾つも両手に抱えてフランはとても満足そうな顔をしていた。
霖之助は霖之助で売れ残りが消費された事が嬉しく、銭を懐にとても満足そうな顔だ。
「それじゃあここでお別れにしよう。またのご利用を心待ちにしてるよ。」
「うん!またね香霖堂!」
夜が明ける数刻前、フランは両手いっぱいの柏餅を持って紅魔館へ帰り、
その姿を見送った後に、霖之助は店仕舞いを初めた。
ここは紅魔館の食堂にあたる所。大聖堂を彷彿とさせる空間に部屋の端から端まではある長いテーブル。
シャンデリアとテーブルの上にある蝋燭がシーツの白と白い皿の上に乗せられた夕食を照らしていた。
夜に活動する吸血鬼にとっては朝方前に食べるものがディナーの代わりになるのだ。
今、ここにいるのは、テーブルの一番奥に、血入りのパエリヤを可愛らしく口に含む紅魔館当主、レミリア。
その背後に佇み、ティーポット片手に主の命あるまで待機する完璧で瀟洒なメイド、咲夜。
そしてレミリアの隣の席で血入りのリゾットを前にして浮かない顔をするフランの3名だ。
一向に目の前の夕食に手を出そうとしないフランを咲夜は心配した。調子が悪そうだったからリゾットにしたのだが…
それならば…と行動を起こそうとした咲夜を右手で制し、レミリアは声をかけた。
「どうしたの?まだ一口も口をつけていないわね。」
「お姉様…」
「………今日は外に出かけてたわね。外で何かあった?」
「……………怒らない?」
「何を怒る必要があるの?さあ、聞かせて頂戴。」
「うん…………香霖堂に抱かれて…白いのを一杯もらって…それを全部飲み込んだの…。」
その場が凍りついた。
「最初は香霖堂の(眼鏡)をかけられたの…」
咲夜は落ち着いた物腰でティーポットを傾け紅茶を淹れた……主の頭の上に。
「その後上にいた私を下から何度も突いてきて…。」
偶然食堂のドアの前で盗み聞きをしてしまった子悪魔は、顔を真っ青にして図書館へと一直線に飛んでいった。
「それで…降ろされたら香霖堂の白いのを私にくれたの…。なんだっけ……「しるし」って言っていたよ。」
偶然食堂のドアの前を通りかかった魔理沙の耳に入る。魔理沙は近くの窓へ突進、そのまま夜空へと飛び去っていった。
「最後に「別れよう。」って言われたからここに帰ってきたの。」
偶然食堂のドアの前まで魔理沙を追いかけてきた美鈴の耳に入る。変色する程に強く拳を握り、
近くの割れた窓から飛び出し、そのまま暗闇にとけていった。その顔は激昂の朱に染まっていたという。
そしてレミリアは………
「とっても優しい人だったな……。」
レミリアは……目尻から溢れ、頬を伝い、スカートからそのまま床に流れて染みこむ程の量の………血涙を流していた。
純粋で無垢な妹が……お姉ちゃん大好き!の妹が……知らぬ間に女になっていた(レミリア主観)
男に汚され、あろうことか捨てられたが為に。(レミリア主観)、そんな深い悲しみの果てに生みだした大号泣である。
レミリアが血涙を流す横では、完璧で瀟洒な筈のメイド長が壁に両手をつけ、頭を激しく打ち付けていた。が、
次の瞬間には壁に血痕を残して消え、主の傍で流れ続ける主の血涙をハンカチで拭っているのは流石といった所だろう。
「お嬢様、食後のデザートは何になさいましょう。」
「香霖堂店主100%ブラッドジュース果肉入りよ。すぐに持ってきて。」
「畏まりました。」
オワタ
御愁傷様です
そんなバカな!あんなメガネが別にどうなろうともゲフンゴフン
まあそれはさておき、ほのぼのとして面白かったです
でもフランは霖之助より3倍近く年上の可能性ががが
大人になっても汚れたく無いものですね
>>3
彼は貴方が思っているより年いってるんだなこれが
間違いではないなwwww
さ・・・咲夜さん・・・?なにやってんすかw
日本語って難しいねw
何度読んでも笑ってしまいますw