早苗は目を細めた。
照りつける日差しは眩しく、思わず手を翳して遮ってしまうほど。
――だが。
「…わぁ」
目の前に広がるその景色に、感嘆の息を漏らす。
鮮やかな色彩の花が抜けるような青の空に映えて。
その先に光る、輝くマリンブルー。
八坂様、洩矢様。
早苗は今、美○海水族館に来ています。
階段を降りると、一旦クラス単位で集合が掛けられる。
だが点呼を取り人数を確認すると、その後は時間まで事前に決められた班ごとに自由行動となる。
「…と言うことになります。それでは皆さん、○○校生として節度のある行動を…」
学年主任の長たらしい挨拶が終わって、皆それぞれに行動を始める。
無論、早苗も同じこと。
しかしながら彼女は、何故か一人で血相を変えてある場所へと向かっていた。
彼女がどこへ向かったかは…乙女の秘密である。
「危なかった…バスの中で飲みすぎたかも…」
タオルで手を拭きながら早苗は早足で元いた処へ戻った。班の仲間たちを待たせてしまっているのだ。
何も言わずに飛んできてしまったので、心配させているかもしれないと早苗は申し訳ない気持ちで角を曲がった。
「ごめんなさい!またせて、しま…って」
あなや。これはいかに。
見慣れた顔は、一人も見当たらない。
慌てて辺りを見回すが、やはり誰一人として見知った者はいなかった。
なんてこと。
私を置いて行ってしまうなんて。
これがオンナの友情ってことね…!
なんて、儚い。
ふらふらと、早苗は手近なベンチに座り込んだ。
私はそんなに影が薄いのか。
私はそんなに嫌われているというのか。
おぉ、なんて事。私は貴女を友達だと思っていたのに!花子(仮名)め!
などと早苗が一人で盛り下がったり盛り上がったりしていると、不意に心配そうな声が掛けられた。
「ちょっと貴女、大丈夫?具合、悪いの?」
はっとして顔を上げる。
そこには目の眩むような美しい面立ちの女性。
さらりと長い銀色の髪を編み込んで、緩く一纏めにしている。
すらりと伸びた手足は、これまた真っ白な白衣に包まれていて、なんというか現実離れしていて。
日本人離れした、更に言うなら人間離れした美貌であった。
そんな絶世の美人に似合わぬ(憂いを帯びた表情もまた良い物なのだが)心配そうな瞳で、早苗は見つめられている。
図らずも頭の方に血が昇っていくのを、早苗は抑える事が出来なかった。
「えと、あの」
「気持ち悪い?熱でもあるの?」
そう言って楊貴妃(仮)は早苗の額に手を当ててくる。
少し冷たいその手は、火照った頭にどうにも心地よい。
「うーん、ちょっと熱っぽいわね…貴女、風邪とかひいてる?」
早苗はあわあわと手を振った。
「だ、大丈夫です。ちょっと日差しが強くって太陽のバカヤロウっていうか、女の友情なんて障子紙の様に脆いっていうか」
「あら、障子紙は結構丈夫よ?」
「家のは穴だらけなんです…やんちゃなのが二人いるんで。棒投げたりとか輪っか投げたりとか」
「まぁ、大変なのね…」
クレオパトラ(仮)はそっと手を離すと何やら小脇に抱えた小さめのバッグをごそごそと漁り、小さな銀色の何かを差し出した。
よく見ると小さな白い粒が入っている。
「これ、熱冷ましだから。辛いようなら飲んで。自作だけど効果は実証済みだから」
「あ、はい。ありがとうございます(自作?)」
ぺこりと頭を下げる早苗に小野小町(仮)はクスリと笑う。
「こっちの人にしては礼儀正しいのね」
「こっち、って…お姉さんはどこから来てるんですか?」
「あー、うん。ちょっと遠いところね。修学旅行っていうのかしら?あんな感じで来てるのよ」
「わ、奇遇ですね。私の学校も修学旅行で来てるんですけど。お姉さんは生徒…じゃないですよね?白衣を着ているし…」
「えぇ、私は保険医?だから」
(何故疑問形?)
早苗の疑問は沖縄の青い空へと消えていった。めんそーれ。
五分後。
謎の美女は踵を返し、「お大事に」と言って人ごみの中に消えていった。
早苗もベンチから腰をあげて、何の気なしに腕時計を見やる。
集合時間まで、あと二時間半はゆっくりあった。
「まいったなぁ…」
自分の班を探すというのも、この人ごみの中ではなかなか難しいだろう。
だからと言ってせっかくここまで来たのに、何も見ないでじっとしているのはあまりに惜しい気がした。
「とりあえず、適当に回ってみようかな」
結局早苗は、歩きながら探すことにした。
(そういえば、さっきのお姉さんのも修学旅行って言ってた。何処かで会うかもしれないわ…)
ふらふらと歩いてたどり着いたのはジンベエザメの水槽。
なんでも世界最大級の水槽らしい。
「うわー、すっごーい…」
見上げると、まるで空を飛ぶように水中を泳ぐ巨大なジンベエザメ。思わずため息が出た。
呆けたように見上げていると、なにやらすぐ後ろで騒ぎ立てる声が聞こえた。
「大きいわねぇ。これ捌いたら何人前になるのかしら、ねぇ妖夢?」
「やめて下さいね、そんなことしませんからね、普通のお魚で我慢してくださいね」
「けちー」
なんてことだ。後ろの人はこれを食べるつもりなのか。
一体何枚お皿を使うつもりなのだろう。
洗う方の身にもなってほしい。
…違うな、さばく方が大変か。
けしからん、と思いながら早苗はその場を後にした。
次にたどり着いたのは、なにやらでっかい鮫の歯が置いてある所。
「うわー、すっごーい…」
こんなものに齧られたら一巻の終わりだろうと身震いしていると、またしてもすぐ近くで騒ぎ立てる声。
「こわいねー、こんな大きいの、私達なんか一口で食べられちゃいそうだよ…」
「なによ大ちゃん!こんなのあたいの方が強いんだから!けちょんけちょんにしてやるわ!」
「駄目だよチルノちゃん!冷気漏れてるから興奮しないで!あと見られちゃうから羽しまって!」
なんか涼しい。冷房の効き過ぎじゃなかろうか。
環境問題に厳しい昨今、冷房の温度はちゃんと管理してほしい。
暑ければ冷蔵庫に顔を突っ込めばいいのだ。
…違うな、冷凍庫の方が涼しいか。
けしからん、と思いながら早苗はその場を後にした。
次にたどり着いたのは、よく分かんない魚のコーナー。
ちょっと暗めのその空間には、ムードもくそもないお魚の水槽がいっぱい。
仮にカップルでここに来てもちょっと気が乗らないなと思っていると、やはり反対側で騒ぎ立てる声。
「あっはっは、霊夢、見ろよこれ!ちんあなごだって!ちんあなご!うははは!」
「ちょっと魔理沙、子供じゃないんだからそんなもので喜んでんじゃないわよ。こっちが恥ずかしいわ」
「だってちん、ちんあなごだぜ?うぷぷぷ…ちんあなご!」
ちん、ちんあなごがどうしたというのか。
ん?ちんってどういう意味かしら。
珍?朕?朕のアナゴ?
…卑猥です、不潔です。
けしからん、と思いながら早苗はその場を後にした。
「結局、合流できなかった…」
出口のお土産コーナーで早苗は肩を落とした。
時間はあと五十分ほど。微妙なところだ。
お土産は買ってしまったし、バスに乗れるのは三十分前ぐらいだと言っていたし。
どうしたものかと悩んでいると、不意に肩を叩かれた。
「あれ、貴女さっきの子、よね?もう大丈夫なの?」
「あ…お姉さん…と?」
「こんにちは」
またしても超絶美人。その様はまるで不○子ちゃんとシェ○ーが並んで立っているかのよう。
個人的にはコラボレーションはしない方がよかったと思います。
立ち話もなんだし、と三人は売店で紫芋アイスを買って腰を落ち着けた。
「そう、東風谷さんっていうの。私は八雲紫。こっちは八意永琳」
「ごめんなさい、名前、教えてなかったわね」
金髪で、緩くウェーブのかかった髪の女性、紫が名乗ると、薬をくれた永琳はすまなさそうに笑った。
「いえいえ!さっきはありがとうございました!えっと、八意さん?」
「永琳でいいわ」
「はい、じゃあ私の事も早苗と」
「えぇ、早苗ちゃん」
「それにしても、永琳さんって、変わったお名前ですね?」
こんなことを聞くのは失礼だろうかとも思ったが、話題もないので何となく早苗は聞いてみた。
永琳も別段気にした様子もなく、にっこりと笑っている。
「そうね。生まれがちょっと遠い処だし、実は本名じゃないのよ、これ」
「そうなんですか?」
元の名前はヤゴコーロ・エリーンとか?
帰化した、とかいう奴だろうか。それとも言えないような理由なのか。
聞かない方がよかったかも、と思い始めた頃。
「どうもこのあたりの人には発音できないみたいでねぇ。××って。仕方なくね」
「…?」
今の何語?
聞き取れすらしなかった。
早苗は持ち前のスルースキルで気にしないことにした。
「紫さんは先生ですか?」
「ん?あぁ、そうね。一応団体の責任者かしら。ま、そんなに人数もいないんだけどね」
責任者と言う事は、校長?こんなに若いのに。
「こう見えて結構生きているのよ、私達は」
まるで考えを読んだかのようなタイミングで、紫は笑っていた。
あぁ、そういうことか。
(最近の整形技術ってすごいんだなぁ…)
早苗は自分も歳をとったらシワ取りとかやってみようかな、と思った。
あ、駄目だお金ないや。
「いくらかかったんですか?」
「は?」
参考までに聞いておこうと思ったら紫は怪訝な顔をした。
…言えないぐらいお金がかかったのか。これは私には厳しそうだ。
隣で腹を抱えて笑っている永琳は、早苗の眼には入らなかった。
「あ、そろそろ時間だ…」
つい楽しくて話し込んでしまったが、ふと時計を見ればもう集合時間の十五分前。
此処からだと、そろそろ帰らないと時間的にまずい。
「ごめんなさい、私…」
「ん?もう帰る時間かしら?」
「はい…」
すまなさそうに頭を下げる早苗。
それを見て紫達は笑う。
「そうよね。集団生活ってのは時間を守らなければいけないわ。…うちの子たちは全然戻ってこないけど」
「まぁこっちに来たのも初めてだし。はしゃいでしまう気持ちもわからなくはないけど」
「あら永琳、なんだったら貴女もはしゃいでいいのよ?」
「気が向いたらね」
おいてけぼりの早苗が目を瞬かせると、それに気づいた永琳がごめん、と笑った。
「ごめんなさい、急いでるのよね。それじゃ、体に気をつけてね」
「あ、はい。お二人も、お元気で。では失礼します」
くるりと踵を返して集合場所に向かおうとした早苗は、しかし歩き出すことはできなかった。
「まぁお待ちなさいな。私が送っていってあげるわ」
がっしと肩を掴まれる。
「ちょっと、紫…?」
永琳は何を言ってる、と言わんばかりの顔で紫をねめつけた。
紫はそれに応えてか、ひらひらと手を振ると有無を言わさず早苗の手を引いた。
「こっちが近道よ」
手を引かれ、早苗が向かったのは誰もいない行きどまり。
「あの…紫さん、私戻らないといけないんですけど」
どうしたものかととりあえず声をかける。永琳は先ほどの場所に残ったままなのでこの場にいるのは二人だけ。
紫は握っていた手首を離すと、先ほどまでとは違う、どこか恐ろしさを感じる笑みを浮かべ早苗に向き直った。
「ごめんねぇ。悪いんだけど…」
はっ、と早苗は息をのんだ。
誰もいないこの状況。紫の張り付けた様な笑み。
まさか…
「私…食べられちゃう?」
「…違うわよ」
ため息を一つついて、紫は早苗の顔の前に手を広げた。
「ごめんなさいね。貴女には私達の事を覚えていてもらっては困るのよ」
あまり済まなさそうな顔をしないで紫は話した。
「あの?」
早苗には紫が何を言わんとしているのかよくわからなかった。
紫の手が段々と顔に近づいてくる。
やがてその手が、ぴたりと鼻先で止まった。
「だから、忘れて頂戴ね」
「東風谷さん!」
「…お?」
気がつくと、そこは集合場所。
目の前には担任の先生。
「何処行ってたの!一人で勝手に行っちゃったんですって?」
「えーと…」
確か、そうだ。私は…
ここについて、
急いでトイレに行ったら、
誰もいなくなってて、
仕方ないから一人で回って、
お土産を買って出てきたら時間が余って、
一人で紫芋アイスを食べてのんびりしてたんだっけ…?
と、説明したら
「みんなに迷惑をかけたのだから反省文を書いてください!」
と言われてしまった。
なんか理不尽だ。置いて行かれたんだから仕方なかったと思うんだけど。集合時間には戻ってきた訳だし。
ま、いいか。
~早苗さん帰宅~
「ただいま帰りましたー」
「「おっかえりー!」」
「お土産ですよー」
「なになにー(わくわく)」
「こら諏訪子、勝手に開けるなよ(わくわく)」
「雪○ちん○こうですよ。試食で食べたらおいしかったので」
「「わーい」」
「今お茶入れますからねー」
「「はーい(わくわく)」」
照りつける日差しは眩しく、思わず手を翳して遮ってしまうほど。
――だが。
「…わぁ」
目の前に広がるその景色に、感嘆の息を漏らす。
鮮やかな色彩の花が抜けるような青の空に映えて。
その先に光る、輝くマリンブルー。
八坂様、洩矢様。
早苗は今、美○海水族館に来ています。
階段を降りると、一旦クラス単位で集合が掛けられる。
だが点呼を取り人数を確認すると、その後は時間まで事前に決められた班ごとに自由行動となる。
「…と言うことになります。それでは皆さん、○○校生として節度のある行動を…」
学年主任の長たらしい挨拶が終わって、皆それぞれに行動を始める。
無論、早苗も同じこと。
しかしながら彼女は、何故か一人で血相を変えてある場所へと向かっていた。
彼女がどこへ向かったかは…乙女の秘密である。
「危なかった…バスの中で飲みすぎたかも…」
タオルで手を拭きながら早苗は早足で元いた処へ戻った。班の仲間たちを待たせてしまっているのだ。
何も言わずに飛んできてしまったので、心配させているかもしれないと早苗は申し訳ない気持ちで角を曲がった。
「ごめんなさい!またせて、しま…って」
あなや。これはいかに。
見慣れた顔は、一人も見当たらない。
慌てて辺りを見回すが、やはり誰一人として見知った者はいなかった。
なんてこと。
私を置いて行ってしまうなんて。
これがオンナの友情ってことね…!
なんて、儚い。
ふらふらと、早苗は手近なベンチに座り込んだ。
私はそんなに影が薄いのか。
私はそんなに嫌われているというのか。
おぉ、なんて事。私は貴女を友達だと思っていたのに!花子(仮名)め!
などと早苗が一人で盛り下がったり盛り上がったりしていると、不意に心配そうな声が掛けられた。
「ちょっと貴女、大丈夫?具合、悪いの?」
はっとして顔を上げる。
そこには目の眩むような美しい面立ちの女性。
さらりと長い銀色の髪を編み込んで、緩く一纏めにしている。
すらりと伸びた手足は、これまた真っ白な白衣に包まれていて、なんというか現実離れしていて。
日本人離れした、更に言うなら人間離れした美貌であった。
そんな絶世の美人に似合わぬ(憂いを帯びた表情もまた良い物なのだが)心配そうな瞳で、早苗は見つめられている。
図らずも頭の方に血が昇っていくのを、早苗は抑える事が出来なかった。
「えと、あの」
「気持ち悪い?熱でもあるの?」
そう言って楊貴妃(仮)は早苗の額に手を当ててくる。
少し冷たいその手は、火照った頭にどうにも心地よい。
「うーん、ちょっと熱っぽいわね…貴女、風邪とかひいてる?」
早苗はあわあわと手を振った。
「だ、大丈夫です。ちょっと日差しが強くって太陽のバカヤロウっていうか、女の友情なんて障子紙の様に脆いっていうか」
「あら、障子紙は結構丈夫よ?」
「家のは穴だらけなんです…やんちゃなのが二人いるんで。棒投げたりとか輪っか投げたりとか」
「まぁ、大変なのね…」
クレオパトラ(仮)はそっと手を離すと何やら小脇に抱えた小さめのバッグをごそごそと漁り、小さな銀色の何かを差し出した。
よく見ると小さな白い粒が入っている。
「これ、熱冷ましだから。辛いようなら飲んで。自作だけど効果は実証済みだから」
「あ、はい。ありがとうございます(自作?)」
ぺこりと頭を下げる早苗に小野小町(仮)はクスリと笑う。
「こっちの人にしては礼儀正しいのね」
「こっち、って…お姉さんはどこから来てるんですか?」
「あー、うん。ちょっと遠いところね。修学旅行っていうのかしら?あんな感じで来てるのよ」
「わ、奇遇ですね。私の学校も修学旅行で来てるんですけど。お姉さんは生徒…じゃないですよね?白衣を着ているし…」
「えぇ、私は保険医?だから」
(何故疑問形?)
早苗の疑問は沖縄の青い空へと消えていった。めんそーれ。
五分後。
謎の美女は踵を返し、「お大事に」と言って人ごみの中に消えていった。
早苗もベンチから腰をあげて、何の気なしに腕時計を見やる。
集合時間まで、あと二時間半はゆっくりあった。
「まいったなぁ…」
自分の班を探すというのも、この人ごみの中ではなかなか難しいだろう。
だからと言ってせっかくここまで来たのに、何も見ないでじっとしているのはあまりに惜しい気がした。
「とりあえず、適当に回ってみようかな」
結局早苗は、歩きながら探すことにした。
(そういえば、さっきのお姉さんのも修学旅行って言ってた。何処かで会うかもしれないわ…)
ふらふらと歩いてたどり着いたのはジンベエザメの水槽。
なんでも世界最大級の水槽らしい。
「うわー、すっごーい…」
見上げると、まるで空を飛ぶように水中を泳ぐ巨大なジンベエザメ。思わずため息が出た。
呆けたように見上げていると、なにやらすぐ後ろで騒ぎ立てる声が聞こえた。
「大きいわねぇ。これ捌いたら何人前になるのかしら、ねぇ妖夢?」
「やめて下さいね、そんなことしませんからね、普通のお魚で我慢してくださいね」
「けちー」
なんてことだ。後ろの人はこれを食べるつもりなのか。
一体何枚お皿を使うつもりなのだろう。
洗う方の身にもなってほしい。
…違うな、さばく方が大変か。
けしからん、と思いながら早苗はその場を後にした。
次にたどり着いたのは、なにやらでっかい鮫の歯が置いてある所。
「うわー、すっごーい…」
こんなものに齧られたら一巻の終わりだろうと身震いしていると、またしてもすぐ近くで騒ぎ立てる声。
「こわいねー、こんな大きいの、私達なんか一口で食べられちゃいそうだよ…」
「なによ大ちゃん!こんなのあたいの方が強いんだから!けちょんけちょんにしてやるわ!」
「駄目だよチルノちゃん!冷気漏れてるから興奮しないで!あと見られちゃうから羽しまって!」
なんか涼しい。冷房の効き過ぎじゃなかろうか。
環境問題に厳しい昨今、冷房の温度はちゃんと管理してほしい。
暑ければ冷蔵庫に顔を突っ込めばいいのだ。
…違うな、冷凍庫の方が涼しいか。
けしからん、と思いながら早苗はその場を後にした。
次にたどり着いたのは、よく分かんない魚のコーナー。
ちょっと暗めのその空間には、ムードもくそもないお魚の水槽がいっぱい。
仮にカップルでここに来てもちょっと気が乗らないなと思っていると、やはり反対側で騒ぎ立てる声。
「あっはっは、霊夢、見ろよこれ!ちんあなごだって!ちんあなご!うははは!」
「ちょっと魔理沙、子供じゃないんだからそんなもので喜んでんじゃないわよ。こっちが恥ずかしいわ」
「だってちん、ちんあなごだぜ?うぷぷぷ…ちんあなご!」
ちん、ちんあなごがどうしたというのか。
ん?ちんってどういう意味かしら。
珍?朕?朕のアナゴ?
…卑猥です、不潔です。
けしからん、と思いながら早苗はその場を後にした。
「結局、合流できなかった…」
出口のお土産コーナーで早苗は肩を落とした。
時間はあと五十分ほど。微妙なところだ。
お土産は買ってしまったし、バスに乗れるのは三十分前ぐらいだと言っていたし。
どうしたものかと悩んでいると、不意に肩を叩かれた。
「あれ、貴女さっきの子、よね?もう大丈夫なの?」
「あ…お姉さん…と?」
「こんにちは」
またしても超絶美人。その様はまるで不○子ちゃんとシェ○ーが並んで立っているかのよう。
個人的にはコラボレーションはしない方がよかったと思います。
立ち話もなんだし、と三人は売店で紫芋アイスを買って腰を落ち着けた。
「そう、東風谷さんっていうの。私は八雲紫。こっちは八意永琳」
「ごめんなさい、名前、教えてなかったわね」
金髪で、緩くウェーブのかかった髪の女性、紫が名乗ると、薬をくれた永琳はすまなさそうに笑った。
「いえいえ!さっきはありがとうございました!えっと、八意さん?」
「永琳でいいわ」
「はい、じゃあ私の事も早苗と」
「えぇ、早苗ちゃん」
「それにしても、永琳さんって、変わったお名前ですね?」
こんなことを聞くのは失礼だろうかとも思ったが、話題もないので何となく早苗は聞いてみた。
永琳も別段気にした様子もなく、にっこりと笑っている。
「そうね。生まれがちょっと遠い処だし、実は本名じゃないのよ、これ」
「そうなんですか?」
元の名前はヤゴコーロ・エリーンとか?
帰化した、とかいう奴だろうか。それとも言えないような理由なのか。
聞かない方がよかったかも、と思い始めた頃。
「どうもこのあたりの人には発音できないみたいでねぇ。××って。仕方なくね」
「…?」
今の何語?
聞き取れすらしなかった。
早苗は持ち前のスルースキルで気にしないことにした。
「紫さんは先生ですか?」
「ん?あぁ、そうね。一応団体の責任者かしら。ま、そんなに人数もいないんだけどね」
責任者と言う事は、校長?こんなに若いのに。
「こう見えて結構生きているのよ、私達は」
まるで考えを読んだかのようなタイミングで、紫は笑っていた。
あぁ、そういうことか。
(最近の整形技術ってすごいんだなぁ…)
早苗は自分も歳をとったらシワ取りとかやってみようかな、と思った。
あ、駄目だお金ないや。
「いくらかかったんですか?」
「は?」
参考までに聞いておこうと思ったら紫は怪訝な顔をした。
…言えないぐらいお金がかかったのか。これは私には厳しそうだ。
隣で腹を抱えて笑っている永琳は、早苗の眼には入らなかった。
「あ、そろそろ時間だ…」
つい楽しくて話し込んでしまったが、ふと時計を見ればもう集合時間の十五分前。
此処からだと、そろそろ帰らないと時間的にまずい。
「ごめんなさい、私…」
「ん?もう帰る時間かしら?」
「はい…」
すまなさそうに頭を下げる早苗。
それを見て紫達は笑う。
「そうよね。集団生活ってのは時間を守らなければいけないわ。…うちの子たちは全然戻ってこないけど」
「まぁこっちに来たのも初めてだし。はしゃいでしまう気持ちもわからなくはないけど」
「あら永琳、なんだったら貴女もはしゃいでいいのよ?」
「気が向いたらね」
おいてけぼりの早苗が目を瞬かせると、それに気づいた永琳がごめん、と笑った。
「ごめんなさい、急いでるのよね。それじゃ、体に気をつけてね」
「あ、はい。お二人も、お元気で。では失礼します」
くるりと踵を返して集合場所に向かおうとした早苗は、しかし歩き出すことはできなかった。
「まぁお待ちなさいな。私が送っていってあげるわ」
がっしと肩を掴まれる。
「ちょっと、紫…?」
永琳は何を言ってる、と言わんばかりの顔で紫をねめつけた。
紫はそれに応えてか、ひらひらと手を振ると有無を言わさず早苗の手を引いた。
「こっちが近道よ」
手を引かれ、早苗が向かったのは誰もいない行きどまり。
「あの…紫さん、私戻らないといけないんですけど」
どうしたものかととりあえず声をかける。永琳は先ほどの場所に残ったままなのでこの場にいるのは二人だけ。
紫は握っていた手首を離すと、先ほどまでとは違う、どこか恐ろしさを感じる笑みを浮かべ早苗に向き直った。
「ごめんねぇ。悪いんだけど…」
はっ、と早苗は息をのんだ。
誰もいないこの状況。紫の張り付けた様な笑み。
まさか…
「私…食べられちゃう?」
「…違うわよ」
ため息を一つついて、紫は早苗の顔の前に手を広げた。
「ごめんなさいね。貴女には私達の事を覚えていてもらっては困るのよ」
あまり済まなさそうな顔をしないで紫は話した。
「あの?」
早苗には紫が何を言わんとしているのかよくわからなかった。
紫の手が段々と顔に近づいてくる。
やがてその手が、ぴたりと鼻先で止まった。
「だから、忘れて頂戴ね」
「東風谷さん!」
「…お?」
気がつくと、そこは集合場所。
目の前には担任の先生。
「何処行ってたの!一人で勝手に行っちゃったんですって?」
「えーと…」
確か、そうだ。私は…
ここについて、
急いでトイレに行ったら、
誰もいなくなってて、
仕方ないから一人で回って、
お土産を買って出てきたら時間が余って、
一人で紫芋アイスを食べてのんびりしてたんだっけ…?
と、説明したら
「みんなに迷惑をかけたのだから反省文を書いてください!」
と言われてしまった。
なんか理不尽だ。置いて行かれたんだから仕方なかったと思うんだけど。集合時間には戻ってきた訳だし。
ま、いいか。
~早苗さん帰宅~
「ただいま帰りましたー」
「「おっかえりー!」」
「お土産ですよー」
「なになにー(わくわく)」
「こら諏訪子、勝手に開けるなよ(わくわく)」
「雪○ちん○こうですよ。試食で食べたらおいしかったので」
「「わーい」」
「今お茶入れますからねー」
「「はーい(わくわく)」」
最近のちん○こうはうまい!!!
いっこうに戦おうとしないハブVSマングースぐらいけしからん!!
まだだ!まだ『若』者の位置を退きはせん!!
雪○ちん○こうって伏字にする場所がちょっとひわ(ry
ジンベエザメでかかったなぁw
女の友情って凄いのね。
幻想郷の方々は現世に行っても何時もの通り、と。
>>ヤゴコーロ・エリーン
悔しいっ!でm(ry
早苗さんのネーミングセンスに私の何かが嫉妬団。
ゆかりん×えーりんは(皆の位置を把握しつつ)わざとはぐれていちゃいちゃですね分かります。
沖縄は中学の修学旅行で行きました。
あの頃はわざわざ沖縄まで行っておきながら本屋で「封神演〇」のBLアンソロ買ってホクホクする極々一般的な男子中学生でしたね…………(遠い目)
いろんなメーカーがあるんで、味も値段もピンキリだったりするんですよね…
早苗さんは「あたり」を引いたみたいですが
>>1様
そうですねー、一応考えてはいるので気長にお待ちください。
>>奇声を発する程度の能力様
めんそーれってどういう意味でしたっけ?
ちんすこう美味いですよね。大好きです。
>>3様
す、すみません…煮え切らない平和主義のハブとマングースですみません…
>>4様
え、作者めっちゃ若者ですが保険医だと思ってました。あれ?
養護教諭とかでしたっけ?
>>5様
そうだったらよかったんですけど…
残念ながら。チンアナゴで騒ぐ友人を持っていたあたりですね。
>>6様
早苗さん=ちょっとずれてる←作者のイメージ
>>7様
けしからんですねー。
>>8様
きっと楊貴妃(仮)あたりが介抱に来てくれ…ないな!
>>岩山更夜様
○塩ちん○(ryのほうが良かったですか?
>>10様
あれは感動しましたよー
コバンザメとかもくっついてて面白かったですし。
>>謳魚様
…あえて何も言いませんよ、えぇ、つっこんだりしませんよ。
>>12様
雪塩はほんとにおいしいですよ。個人的に一番だと思います。
>>13様
綺麗なとこでしたよー
それぞれの場面と人物の組み合わせがいいですね。
またんめんそーれ!