「うーん、困った…」
癖っ毛の頭を掻きながら、文はある種の葛藤に悩まされていた。
今、読者参加型の新聞がアツい!
山の記者達の間で、そんな噂が密かに広まっていた。
いつもの文なら、所詮噂は噂だと言って気にも留めなかっただろう。
しかし、その時は違った。
その頃、文はスランプに陥っていた。
何を書いても売れない。
配っても読んでくれない。
文々。新聞創刊以来の危機に際し、文は藁にもすがる思いだった。
だから、次の特集を公募する記事を載せることにした。
狙い通り、新聞の売れ行きは好調だった。
しかし、公募結果を調べてみて、文は驚愕した。
「特集してほしい人公募企画 第一位 犬走椛」
予想外の結果だった。
というより、公募後の計画など全く考えずに公募を出してしまっていた。
なんにせよ、椛を特集だなんて駄目だ!
椛はかわいいから、知りたくなってしまうのはわかる。
だけど、椛は私のものだ。
こういう言い方は嫌いだけど、でもあの子にはいつまでも自分だけの椛であってほしい。
かといって、特集を公募しておいて、それをうやむやにしたとあっては記者としてのプライドに傷がつく。
ああ、どうするべきか。
悩む文に、机に飾った写真の中の椛が笑いかけた…気がした。
ええい、ウダウダしても仕方ない!
決意した文の眼は、自信や不安、喜びなど様々な思いに満ちていた。
その日、椛は早起きしていた。
せっかくの休日なのだからもう少し寝ていようか。
でも今日は、なんだかドキドキする。
もしかしたら、文様が来てくれるかもしれない。
椛が根拠のない期待に胸をときめかせていると、不意に玄関を叩く音がした。
こんな朝早く誰だろう。
まあ、心当たりはあるけど。
でも変だな。鍵は渡してあるから、いつも勝手に入ってくるのに。
不思議に思いながら、椛はドアを開けた。
「おはようございます!毎度おなじみ、射命丸文です!」
「え?あ、文様?」
椛は呆気に取られ、言葉を失った。
「ああ、今日は取材ですから文様はやめて下さい。ええっとですね、椛さんの特集をやりたいなと思いまして。それで、今日は一日密着取材を行いたいのですが、如何でしょう?」
「えっと…で、ではお茶でも」
「OKということですね?では、早速!」
なんだか落ち着かない。
椛といるとき、文はいつもフランクな話し方をする。
立場的にそれが当然なのだが、椛は文の飾らない語り口が好きだった。
でも、取材と言った文はとても丁寧な口調で話した。
それが他人行儀な気がして、少し椛は寂しかった。
まあ、強引なところは変わっていなかったが。
「お茶どうぞ。」
「ありがとうございます。いやーさすが読者人気ナンバー1ですね、気立てもよくかわいらしい!」
「そんな、恥ずかしいですよ」
恥らう椛の姿を見て、文の口元が一瞬緩む。
それを誤魔化すように手帖に目を落としながら文は取材に取り掛かった。
「さて、早速ですがどのように休日をお過ごしですか?」
「そうですね…お買い物に行く事が多いですかね」
「お一人でですか?それとも…」
「え!?あ、あの…」
「なるほど、相手はいます、と。では、実際に出かけてみましょう!」
そう言うと、文は立ち上がり、玄関へ向かった。
「ちょ、ちょっと待ってください!取材じゃないんですか!?」
「取材ですよ。なんでしたら、その…私を、相手と思ってくれていいんですよ?」
「じ、じゃあ…そうさせてもらいます。」
この時、椛は気づいていた。
これは、取材とは名ばかりのデートなんだと。
だから、思わず尻尾を振ってしまった。
その様子を見て、文は気を引き締めた。
これ以上されては、取材なんて放り出してしまいそうだったから。
* * *
二人は天狗の里のショッピングモールに来ていた。
最近完成したばかりだが、もうすでに立派なデートスポットとして近隣のカップルに大人気だ。
「いつもどのようなお店を回るのでしょうか?」
文は真面目な顔で訊いた。
その様子から、これは取材だと自分に言い聞かせているのが丸分かりだ。
だから椛も真面目に答える事にした。
「最近料理に凝っているので、雑貨屋さんとかをよく見ますね。」
「なるほど。やはりその相手に作っているのですか?」
文はニヤニヤして尋ねた。
もう、本人なんだから分かってるでしょ?
椛はわざと質問で答えた。
「そういえば、文さんはそういう方、いらっしゃるんですか?」
ほう、そう来たか。
椛も立派な皮肉が言えるようになった。
うんうん、何より。
「ええ、いますよ。そうですね…貴女によく似てますね」
「そ、そうですか」
そう答えると、椛は俯いてしまった。
はぁ、まだまだ甘いな。
そう思いながら文がペンを走らせていると、不意に手を握られた。
「な!?ななな、何するんですか!?」
「恋人のように、と言ったのは文さんでしょう?そんなに意識する事ないじゃないですか」
前言撤回。
やっぱりこの子は色々な意味で成長した。
さりげなく触って確認したところ、胸の方はそうでもないようだが。
椛の家につく頃には、もう日が暮れていた。
「今日はありがとうございました。おかげ様でいい記事が書けそうです!」
「そうですか。協力できて何よりです」
「では、今日はこれで」
「え!?で、でも…」
今日は取材を通してしか会えないの?
いつもの文様とは会えないの?
せっかく一緒にお出かけできたのにこれじゃ…
椛は泣き出しそうな顔をしていた。
そんな彼女を見て、文は肩をすくめて言った。
「やれやれ…しょうがない子ね」
「え!?文さm…」
椛が顔を上げた瞬間、文は椛の唇を奪った。
甘い時間がゆったりと流れる。
「な、なんでいきなり…」
椛は真っ赤になっている。
それと同じくらい頬を紅潮させ、文は言った。
「記者の時間はここまで。この後は、誰も知らない貴女の秘密を堪能させてもらうわよ?」
「だ、だけど…」
「…嫌?」
「ほんとうに…ずるいですね。」
そう言うと、今度は椛から口付けをした。
* * *
椛効果のおかげで、新聞は売れに売れた。
取材に身悶えした甲斐があったわ。
文は誇らしげに新聞を売る天狗に聞いた。
「こんにちは!今日こそは売り上げ一位取れそうですね!」
「お、文ちゃんか。いやいや、そうでもないみたいだよ?しかしあれだ、その…おめでとう。」
おめでとう?
一位は取れていないのに?
じゃあいったい何がおめでたいのか。
困惑する文に、天狗はある新聞を差し出した。
「激撮!“取材”デート!!~天狗の情事~」
射命丸文と犬走椛。恐らく、二人を知らない読者はいないだろう。しかし、二人が通じている事を知っている者は、果たしていただろうか。
先日、筆者は二人のデート現場を撮影する事に成功した。この時二人は“取材”デートなるものを行っており、如何に二人が親密であるのかを物語っている。取材デートについて筆者は詳しく知らないが、恐らくプレイの一種であろう。
更に、この二人をよく知る人間からも話を聞くことができた。内容を以下に記す。
「ああ、あいつら仲いいよな。カップル?カップルっていうのか知らないけど、まあ私とアリスの関係みたいなもんだろ?(M・K氏)」
「山の天狗の事なんかどうでもいいわよ。確かに宴会のときいつも一緒だから仲いいんじゃない?ところで、これ取材料出るわよね?え、出ない?よこせぇ!(R・H氏)」
更に、犬走氏の家の前でキスをする二人も目撃されている。その後二人は家に入り、射命丸氏は翌朝帰宅した模様。どうやら、この二人はカップルといって差し支えなさそうだ。 (筆者:鞍馬某)
「なんですか、これは?」
「それが売り上げ一位の…ちょ、ちょっと待った!俺が書いたわけじゃないよ!そんな怖い顔しないでくれ!」
「そうですね。確かこいつの住所は、と」
ふわりと舞い上がった文の表情は、まさに鬼神のそれだった。
尚、これを書いた天狗の新聞は週刊なのだが、なぜか翌週は発刊されなかったという。
山の天狗どもに可愛い可愛いって目で見られてる椛たんを妄想してまたひとつ萌え。(僕だけか)
取材プレイ…文ちゃんらしい。
それとその記事の載ってる新聞一部いただけますか?ファイルに綴じるので
とゆうことで続きを!!
ところでオンとオフの切替が上手いとクールビューティに見える事に気づいた。
皆にじろじろ見られて恥ずかしがる椛かわいいよ!
新聞は何者かの圧力により発禁・回収処分になりましたので残念ですが一部もないですね。いったい誰の仕業か…
>>奇声を発する程度の能力
今まで何度か文椛を書いていますが、実は僕の中で設定など全部繋げて書いてますw
なのでまた文椛を書いたら「うわまた書いてるよこいつ…」と生温かく見守ってやってくださいw
>>3さん
たぶん書いてるときの僕ほどはニヤニヤしてませんよww
>>4さん
おお!確かにできる女って感じで素敵ですね!かっこいい文ちゃんいいなあ…でもかわいい文ちゃんもまた…うーむ