「あなたは何故、そこまで箒にこだわるの?」
……あの時、もう少し言葉を選んでおけば。
あるいは、こんな事にはならなかったのかもしれない。
【翼よ羽ばたけ、どこまでも】(前編)
あの時以来、魔理沙を見かけなかったが。その内また来るだろうと思っていた。
まさか、こんな形で再開するとは思ってもみなかった。
――深夜2時、草木も眠る丑三つ時。
突如起こった閃光と轟音が、魔法の森の静寂を破った。
現場に駆けつけた私が見たものは、焼け野原に倒れていた魔理沙の姿だった。
目立った怪我こそなかったが、意識不明。しかも箒が行方不明になっていた。
事故か、それとも事件か。
分からないけど放っておく事もできず、私は魔理沙を自宅に背負って帰る。
「蓬莱はレギオンを連れて周囲を警戒。ただし人間には手出ししない事」
蓬莱は黙ってうなずき、人形軍隊を率いて夜空に散っていく。
これで妖怪が来ても先手を打てるだろう。
「上海は悪いけど、箒を探してきて」
魔理沙はおそらく過労と霊力枯渇。
意識が戻るまでゆっくり寝かせておけば何とかなりそうだが、何があったか聞けないのが痛い。
これが事故なら、このまま何も無いだろう。でも事件なら、近いうちに誰かがここに来るはず。
厄介事に衝突する前に、相手のサイズを測っておきたかった。
しかしいつまで経っても上海と蓬莱からの連絡は無く、ただただ時間が過ぎていく。
さすがに緊張の糸も中だるみしそうになった頃、遠慮がちに玄関のドアを叩く音がした。
一瞬緊張が戻るが、妖怪だったら蓬莱に足止めされるはず。相手は人間だ。
こんな時間に迷い人が来るとも思えないし、紅白だろうか?
腐っても博麗の巫女、さすがに反応が素早い。
つい気が緩んだ私はドアを開けてしまい……次の瞬間、間違いを悟る羽目になった。
「こんばんは、アリス」
外に待っていたのは寝ぼけ眼の巫女ではなく、赤い目をしたメイド長だったのだ。
どう考えたって、こんな時間にこんな所に来る人物ではない。
しかも左手を後ろに回し、何かを持っている。最悪だ。
「こんな夜中にごめんなさい。こちらに魔理沙がお邪魔していないかしら?」
あくまで穏やかな笑顔で咲夜は尋ねてきた。
……やはり魔理沙が目当てか。相手は時間を止められる、ドアを閉めるのは間に合わない。
とぼけるか、それとも力づくで追い払うか?
一瞬迷ったが、上海も蓬莱も表に出しっぱなしだ。どちらもうまく行きそうにない。
丁寧にノックしてくる以上、話は出来るだろう。私は覚悟を決めた。
「ええ、でも何の用かしら?」
「あぁ、構えないで。様子を見に来ただけだから」
そして咲夜は、後ろ手に持っていた荷物を私に見せた。
てっきり抜き身の銀ナイフかと思っていたそれは、意外なことに救急箱だった。
「餅は餅屋、人間は人間。ちょっと診せてもらっていいかしら?」
中に通された咲夜は、私の返答を待たずに魔理沙の診断を始めていた。
何かの参考になればと私なりの診断結果を言うが、生返事しか返ってこない。
応急処理もメイドの嗜み、と言わんばかりに手馴れた手つきで進めていく。
器用なものね、と思いつつも咲夜が変なことをしないか見張っていたが……結局何も無かった。
切り傷は無かったし、彼女は白と考えてよさそうだ。
「何か薬飲ませた?」
「ううん、ずっと起きないから何も」
「それは何より。妖怪用の薬は毒になるからね」
「失礼ね、ちゃんと人間用の薬もあるわよ……使わなかったけど」
迷い人もたまに来る以上、ちゃんと人間用の薬も一式用意してある。
大抵の場合、それを使うのは魔理沙だったりするのだが。
「骨折か内臓破裂でもしてたら厄介だったけど、これなら寝かせておけば大丈夫そうね」
「だから私もそう言ったじゃない」
「誤診じゃないのが証明されてよかったじゃない」
咲夜は堂々としらばっくれた。
さすがに何か言い返してやろうと思ったが、このままだと何となく態勢が悪い。
一度仕切りなおそう。
「来てもらって悪いけど、魔理沙はしばらく目を醒ましそうにないし。また明日にでも」
「悪いけど、待たせてもらってもいいかしら?」
一瞬返答に迷ったが、私も何があったのか知りたい。
わざわざ薬箱を持ってきたということは、何か心当たりがあるのだろう。
私は咲夜を客間に招き、人形たちに珈琲を運ばせる事にした。
予め誰か来ると分かっていればもう一品付け加えられただろうけど、この際贅沢は言えない。
これはお茶会ではないのだ。
珈琲の香りを楽しむでもなく、私は真っ先に質問をぶつける。
「どうして分かったの?」
「場所の事? それとも魔理沙がいる事?」
「両方よ」
時間を止めながら、蓬莱の包囲網や謎の襲撃者をすり抜けてきたのだろうか?
それにしても、私の家まで迷わず飛んでこれるとも思えないのだが。
しかし返答は驚くほどあっさりしていた。
「単純な理屈よ。魔法の森に普段いないはずの人形があれだけ飛んでいれば、ね」
「……」
「まぁ、何もしてこなかったのは意外だったけど」
「そういえば、あなたも人間だったわね。迂闊だったわ」
いきなり大失敗をしたらしい。
この悪魔の犬を素通りさせてしまった理由は簡単。
派遣した人形たちに『人間には手出ししない事』と指示してあった為だ。
「そして場所の事だけど。人形の糸を辿って来れば、迷わずここまで来れたわ」
確かにその通り。ここまで裏目に出るとぐぅの音も出ない。
これは警戒網のシステムを1から見直さないとならないだろう。
「もう人形は引っ込めて構わないわ。犯人を捜しているみたいだけど、十中八九そんなの居ないわよ」
「どういうことよ?」
「むしろ、もう捕まっているといった方がいいかしらね」
「ごめん、さっぱり話が見えてこないわ」
咲夜が何を言いたいのか、さっぱり見えてこない。
それにしても、上海も蓬莱も居ないとこんなにも落ち着かないとは。
「多分、魔理沙は襲われたんじゃなくて墜落したのよ。いつもの箒じゃなかったから」
「そんな事あるの?」
「あるのよ。元の箒は壊れてしまったの」
「ちょ、ちょっと待って、それは聞き捨てならないわよ。一体何が起こったの?」
「……」
一瞬流れる、気まずい沈黙。
お互いの顔を見つめあうことしばし、先に口を開いたのは咲夜だった。
「どうしても聞かないと納得しそうにない顔ね」
「ええ、一応。今の魔理沙は私の保護下にあるから」
「分かったわ、でも他言は無用よ。……ウチのフラン様が、魔理沙の箒を壊したのよ」
幻想郷で妖怪が人間と喧嘩する場合、守らなくてはならないルールがある。
それが巫女の定めたスペカルールであり、雪合戦ならぬ弾幕合戦以上の事はしてはいけない事になっている。
馬鹿馬鹿しいようだが。妖怪が幻想郷で生きていこうとするならば、このルールは非常に重要だ。
この狭い幻想郷で妖怪と人間が本気で殺しあえば、結局共倒れになってしまう。
だから、それを守れない妖怪は退治される……文字通りの意味で。
「それが何を意味するか、分かってる?」
「ええ……」
スペカルールでは、命を奪ってはいけないことになっている。
そして、これは明記されている訳ではないが。命と同じぐらい大事な物も奪わないのも、暗黙の了解となっている。
魔理沙の大事な物、というとミニ八卦炉が真っ先に思い浮かぶが。私に言わせれば、アレは無くても何とかなる。
マスタースパークは撃てなくなるが、他のスペカで代用できるだろう。
魔理沙にとって一番大切な物は、あまりにも当たり前すぎて意識の向かない物。
空を飛ぶための箒、だと思う。
「ごめんなさい、あなたに言っても仕方なかったわね。先を続けて」
「……場所はウチの図書館、魔理沙がフラン様とパチュリー様、それに小悪魔と一緒に居た時だったわ」
「ふむ」
「私がちょうど、紅茶を運んできた時にそれは起こったの」
「先に仕掛けたのは、その妹さんのほう?」
「そう。まぁいつもそうと言えばそうだけど、その日はかなり唐突だった気がしたわね」
私は妹さんに直接会った事はない、でも魔理沙から少し話は聞いている。
普段は館から出ようとしないが、たまにやってきてスペルカードで遊ぼうとするらしい。
いささか物騒な遊びだし、元気が有り余って周囲を散らかす事はあるが。
それでもスペルカードのルールは守っていたはずだ。
「途中まで普段と同じだったけど、スターボウを逆向きに撃ったのよ。そこからおかしくなってきたわ」
「逆向き?」
「こんな感じで……スターボウは普通、空から直射を打ち下ろす技なんだけど。その時は後ろに回りこんで空に打ち上げていたの」
「まるでアースライトレイね?」
「レーザーじゃないけど似たようなものよ。ま、これは発射方向以外は普通だったわ。安地もそのままだったし」
「ちなみに安地ってどこ?」
「フラン様から見て4時の方向、比較的近くの場所ね」
逆さ流れの流星群、といったところだろうか?
なるほど。魔理沙とよく遊んでいたのなら、アースライトレイを真似したのかもしれない。
でもこれは別に、問題行動でも何でもない。
人のスペカの真似なら、魔理沙のほうがよくやっている。
「最後に仕掛けた弾幕は、今まで見たことの無い物だったわ」
「新スペカかしら?」
「でしょうね。強いて言うなら……そうね、カゴメカゴメを4つ切りにして全部上から重ねた感じよ」
「ごめんなさい、そう言われても。妹さんのスペカ見た事ないから見当付かないわ」
「そうねぇ、言葉で表現するとなると。外から見るとちょうどドーム型になっていて、それが内側にゆっくり崩れていく感じかしら」
「ふむ。私なら包み込まれる前に上海で……っと。魔理沙だからマスタースパークで風穴開けて脱出するかなぁ」
「一瞬風穴を開けてもすぐ塞がってしまう発生密度だったのよ。魔理沙は天井が降って来た、と話していたわ」
マスタースパークでも塞がってしまうほどの弾幕?
それはもう弾幕ですらない、もっとえげつない何かだ。
「……それ、どうやって抜けるのよ?」
「中からは抜けようが無いと思うわ」
「避けようのない弾幕ってご法度じゃなかったかしら?」
「ええ、これだけでも問題よね」
スペルカードルールには当然、いくつも禁止事項がある。
避ける隙間が無い弾幕を張ってはならない、というのもその一つだ。
なるほど、確かにここからおかしくなっている。
「そうなると……もうあとはアレね。ダメージ覚悟のブレイジングスターで、一気に突っ切るしか」
「でもそれは出来なかった。その前に、フラン様は一番やってはいけないことをやってしまったのよ」
「それが、破壊の力?」
「そう。フラン様は能力を使って直接、魔理沙の箒を壊したの」
「ちょっと、それはどう見ても遊びの範疇じゃないわよ。墜落しちゃうじゃない」
箒が無ければ魔理沙は飛ぶことが出来ない、そして人間は高い所から落ちれば死ぬ。
間接的だろうが、対戦相手を殺すのはスペカルール最大の禁忌だ。
「いや、弾幕に押されて地面すれすれに浮いていたから。無事だったわ」
「でも、その後弾幕に潰されるだけじゃない。……どうなったの?」
「まぁ予想通りだとは思うけど、私とパチュリー様で止めに入ったのよ。フラン様は抵抗の末に取り押さえられたわ」
「それは何より。……箒以外に損害は出た?」
「怪我人は出ていないわ。ただパチュリー様もいきなりロイヤルフレアを撃ったから……図書館が半壊よ」
「また過激ね。パチュリーは大丈夫だったの?」
「ええ。フラン様もさすがに1:2はきつかったみたいで、防戦一方になっていたわ」
気が付くと、カップは空になっていた。人形たちに代わりの珈琲を用意させる。
ついでに上海と蓬莱を外から呼び戻そうとしたが、糸は何かに引っかかったかのように重くびくともしなかった。
「なるほど、大体話は分かったわ。でも魔理沙を見つけたのは魔法の森よ?」
「みたいね」
「箒がなければ飛べないのを分かってて、夜中に一人放り出したの?」
この場合、誰か飛べる者が魔理沙を送っていくのが筋だと思う。
送れないなら一晩泊めて、後で迎えを呼ぶべきだろう。
私の咎めるような口調に、咲夜はバツが悪そうな顔をした。
「もちろん引き止めたわよ。それでも魔理沙は大丈夫と言い張って、強引に帰ったの」
「大丈夫な訳ないじゃない。箒の無い箒乗りなんて、翼をもがれた鳥と同じよ?」
「箒なら一本、ウチのを持っていったわ」
「紅魔館に魔法の箒があるとは思えないんだけど?」
「パチュリー様は箒に乗りませんから。メイドの箒だったわね」
お話にならない。
紅魔館のメイドは、咲夜以外は全員妖精だ。羽があるのに空飛ぶ箒なんて持っているはずが無い。
「それ、ただの竹箒じゃない?」
「箒なら何でもいいって、言っていたので」
「そんなの嘘よ。清掃用の箒なんてただの棒切れと同じ、乗用の箒はれっきとしたマジックアイテムよ」
「でも飛んで帰ったわよ?」
ただの竹箒でも飛べた、という事自体信じられないが。
咲夜の話はその斜め上を行っていた。
「まるでロケットのように、物凄い勢いで飛び出していったわ」
「ちょっと、それってスペカじゃない?」
「……そう言われてみると、そうかもしれない」
頭痛がしてきた。確かに急加速スペルを使えば空には上がるだろう。
でもそれは飛んでいるのではなく、打ち上げられているだけだ。滑空すらできない。
そして急加速は非常に燃費が悪いのだ、霊力はあっという間に尽きる。
ニュートンの万有引力の法則を持ち出すまでも無く、その後どうなるかは火を見るより明らかだ。
「変だとは思ったけど、まさか全く飛べないとは思わなかったわ。それにしても、よく着地できたわね」
「マスタースパークで逆噴射かけたんじゃないかしら? 焼け野原になっていたし」
「無茶苦茶ねぇ」
私もそう思う。思わずため息が漏れた。
「って、話が逸れたわね。結局その後どうなったの?」
「お嬢様が理由を聞いてもフラン様は黙りっぱなしだし、パチュリー様は怒りっぱなし。小悪魔が困り果てた顔をしていたわね」
「ふむ……」
「結局、お嬢様はフラン様をしばらく地下室に監禁する事に決めたのよ」
やや過激ではあるが、紅魔館ではよくある光景の1コマに過ぎないだろう。
普通に考えるなら、この話はここで終わりだ。
「まぁ色々有ったみたいだけど。魔理沙は無事だし、妹さんも当分は静かにしてるでしょうし。問題ないんじゃない?」
「そうは行かないのよ」
「箒の事ならこちらでフォローしておくわよ。あれは特別製だし、そっちじゃちょっとね」
「そうじゃなくて。アリス、あなたは今の話を聞いて、何か変だと思わなかった?」
咲夜が不満げな顔で、私の目を覗き込んできた。
しかし私はその場に居た訳じゃないし、妹さんと面識も無い。もう少しヒントがないと何とも言えない。
私はサトリでも閻魔でも無いのだ。
「う~ん。あいにく私はその、レミリアの妹さんとは面識が無くて。どうにも判断出来ないのよ」
「え?」
「私、そんなに変なこと言った?」
「……ああいや、気にしないで」
今度は咲夜が目を丸くした。
もしかして、面識があると思われていたのだろうか?
確かに私もパチュリーの図書館には通っている、でも顔を合わせるのは門番とパチュリーぐらいだ。
他は避けて通る。嫌っている訳ではないが、さすがに吸血鬼は苦手なのだ。
それぐらい、メイド長も分かっていたと思ったのだけど。
「いつぞやの新聞記事を信じるなら、別におかしな点は無いと思う」
「気の触れた悪魔の妹なら、何をしでかしてもおかしくないと?」
「ただ私も、天狗のゴシップ新聞を真に受けるほどお人よしじゃないつもりよ。魔理沙からも少しは話も聞いている」
「よかったら、どんな話を聞いていたか。聞かせてもらってもいいかしら?」
「大した内容じゃないわよ? 『元気の有り余った箱入り娘』『加減を知らないが悪気は無い』ぐらいね」
「……悪く無いわね。少なくとも、デマカセ新聞なんかよりずっと正確よ」
でも私は半分ぐらい嘘をついていた。
私が聞いてきた話は大きく分けて2つ。純真無垢な女の子か、狂気に支配され力を無差別に振るう破壊魔か。
魔理沙の話は前者だが、大抵耳に入るのは後者である。
どちらも当てはまる二重人格なのか、片方が嘘なのか、それともその中間が真実の姿なのか……判断はつかない。
いくら考えても2つのイメージはまるで水と油みたいに弾きあい、混ざろうとしないのだ。
「私は……見た目通りの事件じゃないと思うのよ。今のフラン様はそんな事をする人じゃないはず」
咲夜は珍しく困った顔をした。ここまで表情を変えるのも珍しい。
「だから魔理沙に直接話を聞きたかった?」
「ええ、それに……」
「それに?」
「お嬢様から通達が来てるのよ。この事件は終わった事として、もう誰も掘り返さないようにと」
急に話がきな臭くなってきた。
咲夜はレミリアの使いで来ている訳ではなく、内緒で動いている。
「命令違反ね」
「ええ。でも私は納得できないのよ、このまま引き下がれないわ」
「聞いておいて何だけど、私にそこまで話してよかったの?」
「……よかったら知恵を貸して欲しいの。私なりに調べたけど、どうにも情報が足りないわ」
私に助けを求めるなんて、よっぽど切羽詰っているのだろう。
しかし私は、レミリアやパチュリーと違って、安楽椅子探偵なんてやったことがない。
情報は足と人形で稼ぎ、自分で見たものを信じるタイプだ。
人はよく勘違いをし、嘘だって吐く。私だって聞き間違える。
ここで咲夜の話だけを聞いても、正しい推理なんて出来ないだろう。
「法律は私の専門外よ?」
「でも人形使って裁判するみたいじゃない」
「人形裁判はそういう意味じゃ……まぁいいわ」
私のことは、この際どうでもいいのだ。
「本当ならこんな所でくすぶっていないで。真実を知りたいなら閻魔の所へ、本音を知りたいならサトリの所に行くのが一番よ?」
「嫌よ。家族に自白剤飲ませるような真似はしたくないわ」
「じゃあ、机上の空論になるけど。それでもいいかしら?」
「ええ、構わないわ」
「まぁ……図書館には世話になっているし。参考意見でよければ」
一肌脱ぐとしますか。
私はささやかながら、ここに一晩限りの安楽椅子探偵事務所を開くことにした。