「こんばんは、霊夢」
「あら、紫」
金色に光る月の舞台が空を暗く染める時分。
霊夢がちゃぶ台の上にあるみかんを弄び、所在なげにしているところにすきまからにゅるりと現れた紫。
いつも通りのことなので、驚くこともない。
「暇そうね。ごはんごはんー」
紫が自前の茶碗を箸でチンチンと鳴らす。
「あんたのとこの藍は?夕飯くらい自分の家で食べなさいよ」
「人様のお家で食べるお食事にはまた別の美味しさがありましてよ」
「丁寧にならなくていいわよ。それにご飯はまだ」
「じゃあお風呂?」
「私はさっぱりきれいになった体でご飯を食べたいの」
「ふーん、そう。じゃあ待ってるわね」
紫が珍しく大人しく待っていると言った。
しかしその言葉を素直に受け止めてはならない。
霊夢は考えた。紫は待っていると言った。
ずっと居間で待っているのか…?
それとも風呂場で待っていたりして。まさかね…。
霊夢は脱衣所でその装束をひとつひとつ脱いでゆく。
大きなリボンが外されると同時に、拘束されていた髪の毛はふわりと自然のままに広がる。
巫女装束を脱ぎ、サラシを巻き取る。
年齢相応の少女の体つきをしていた。
色白で、まだおうとつの少ない身体。
脱衣所の棚からあかすりタオルを取り出し、風呂場の戸を開ける。
ぎくっとした。先客がいた。
その人物がこちらを向いた所為で揺れる金髪。
妖艶さをかもし出す、きめ細やかな肌。
ご丁寧にもタオルが巻かれているが、それでもその存在を主張する豊満な胸。
「はぁい、霊夢。待ってたわよ」
「(うわぁ…)」
自分の勘の良さになんともいえない気持ちになった。
「霊夢ちゃん、おいで」
「誰が霊夢ちゃんよ、もう」
ぶつぶつ文句を垂れながらも紫の前に用意された風呂イスに座る。
「口では文句ばっかり言ってるけど満更でもないみたいねぇ?」
「うるさーい」
紫はざばぁっ、と霊夢の頭からお湯をかぶせ、湿らせる。
適当に皮肉を混ぜながら、紫はシャンプーを手になじませ、霊夢の髪の毛をわしゃわしゃとかき上げるように洗い始めた。
「どこか痒いところはございませんか~」
「んー腋の下」
「ここですか?」
「ひ、ひひっ、あぁぁぁ、冗談よ、やめてよもう!ひ、ひぃぃ」
「うーん滑りがいいわ。頭流すわよ」
ざばぁっ、とお湯をかぶせる。泡が流れてゆく。
水に濡れ艶めいた彼女に、紫は心をくすぐられた。
「…おあいこね」
「何の話?」
「いや、こっちの話」
◇◇◇
「体もさっぱりしたことだし、ご飯にしますかー」
「待ってました」
霊夢はエプロンを身につけ、台所に立った。
割烹着じゃないのは個人の嗜好らしい。
割烹着は面倒そうだからだろうか。
研いでおいた米を釜に入れて炊く。
「ねぇ霊夢。音が淋しいわ」
「んなこと言われてもねぇ」
「しりとりの…り」
「りんご」
砂抜きしておいたシジミを水の張られた鍋に入れる。
「ゴルゴンゾーラ」
「らっきょう」
豆腐をさいの目に切る。
「ウシガエル」
「る…るいべ」
「紅しょうが」
「あ…あれ!?シジミの味噌汁作るつもりだったのに豆腐切っちゃった…」
「麻婆豆f」
「面倒だから一緒に入れちゃえ♪」
「……」
火にかけ、出てきた灰汁を掬う。
そして味噌を溶き入れ、ひと煮立ちさせる。
「よぉし、しじみの味噌汁完成っと」
「次は西京焼きね」
『最強やきー!?』
「これ美味しいんだけどまだ魚を切ったりするのって慣れないのよねぇ。
魚持ってきてくれるのは嬉しいけど切っておいてくれない?」
「私は魚を捌いたことは一度もありませんの」
「藍にやらせてもいいからさぁ」
紫は先日、ビチビチとはねる鰆をすきまから神社のちゃぶ台の上に放り投げたのだ。
霊夢は何事かと驚いたが、美味しい魚なので調理して食べることにした。
霊夢はでんと構える冷蔵庫から漬けておいた鰆を取り出し、網にはさんで焼いた。
焼き過ぎないようによく様子を見ながら焼く。
そのうちに部屋の中に香ばしい味噌の匂いが広がっていく。
「ん~良い匂い!」
「んー、これよこれ。匂いだけでご飯がいけそうね~」
「紫にしちゃ貧乏くさい言い様ね」
「身を食べたときの感動を強調したいだけよ」
「あ、そろそろご飯が炊き上がってるかも」
釜の蓋を取ると、中には白い宝石のような白米が炊き上がっていた。
「うん、バッチグーね」
「霊夢ー早くしてーおなかすいたー」
「はいーできましたぁ」
ちゃぶ台に並べられたのは白米と、シジミ(と豆腐)の味噌汁、そして鰆の西京焼き。あとちょっぴりお酒。
食欲を掻き立てるには十分だが、何か物足りない。
「美味しそうね。でも何か物足りないんだけど…」
「面倒くさい」
「ま、いっか。いただきます」
「いただきまーす」
「うわっ味噌汁ぬるっ」
「豆腐細けぇぇぇぇ」
◇◇◇
寝室に布団が一組敷かれている。
薄くて硬い、いわゆるせんべい布団だ。
寝巻に着替えた二人が布団にもぐりこむ。
「相変わらず硬い布団ねぇ」
「うっさい。この布団は私の母なのよ」
「そういえばずっと昔からこの布団ね」
「使い古すと愛着が沸いてね」
「ふーん、そう…」
「うん…」
「霊夢、もっと寄ってもいい?」
「いいわよ」
「霊夢、こっち向いて」
「何?」
ちゅっ、と二人の唇が触れ合った。
それは親愛のキス。親が子にするように、優しく抱擁するがごとく。
「おやすみのチューよ」
「…ふふっ、こんなこと、されたことない」
「(どうして、どうしてこんなに近くて遠いの…?
触れたらふわあっと蕩けて消えてしまいそうな果実…禁断の果実。
私はこんなに想っているのに…何がこれを許してくれないの?
もっと感じたい。もっと感じてほしい。何が、何が…)」
「紫?」
「あっ?えっ?何っ?」
「何か考え事してたみたいだけど」
「いや…そんなことないわ」
「ふーん…私、今のね。初めてだったの」
「え?」
「初めてのキスは味噌汁の味がした」
「歯ぁは磨いたわよ」
「─紫は何味だった?」
そうね、私は──
「紫って、お母さんみたい」
ああ、そうか。そういうことか。
幻想郷の母なる私が苦悩しなければならないのはこのせいか。
母をやめれば──
「霊夢ったら途端に甘えんぼさんね。仕方のない子」
仕方ない。ならばそれらしくこの立場で理想を求めてみよう。そういうのも悪くない。
擦り寄る霊夢を包み込むように抱きしめた。
霊夢にとっては生涯最高の温かさだった。
と思いつつラストの苦悩するゆかりんに悶えた。
確かに作品を書き込むのは難しいですが頑張ってください。
ゆかれいむいい。
乙女ゆかりんかわいいよ!
禁忌のかほり満点なのにほのぼのなゆかれいむは素晴らしい
先生、アユの塩焼きが食べたいです……
これこそがゆかれいむの醍醐味!
紫しゃまが「ふぁいなるぴんち(くらっしゃあ)」な状況に陥って博麗さんが助けに来た時こう発言するんだ。
「紫には、いえ、私の妹にはグレイズ一回足りとてさせないわ!」
まさかの霊姉(れーねぇ)ちゃんフラグ。
んな訳が米粒弾程度すら無いのは天地神明に誓える程。
でも何故かしら、ドキがワクテカしちゃうのは。
あと妹×姉は真理。
姉×妹は正義。
弟×兄は歪みない程マイフェイバリット。
関係無いですねすいませんです。
ゆかれいむ馳走でした。
西京焼き食べながらこんな作品考えてました。
応援ありがたいです~。頑張りますよぉ。
>2番目の名無しさん
うら若き乙女の心をもつゆかりん!
僕のゆかりんは胡散臭いというよりも乙女ちっく寄りです。
>3番目の名無しさん
確かに言われてみると禁忌に触れかねんことばかりですね…!
でもほのぼのしていられるのはきっと幻想郷だから。
夢の中だけでも自由に幻想郷の空気を味わってみたいです。明晰夢というのがあるみたいですが…
>4番目の名無しさん
この組み合わせは二人とも素直じゃなさそうですからねぇ…w
僕の霊夢は普段は素っ気無い感じでも、夜とかになったら素直になるとかなんとか。
鮎の塩焼きもいいですな。夜なのにお腹が減ります。
>5番目の名無しさん
ゆかれいむは親娘と恋人のリバーシブルが可能!!
ゆかれいむは母娘みたいな関係でもきゅもきゅしてほしい。
>謳魚さん
「助けてぇぇぇ!ぴんちくらっしゃぁぁ!」
幼少期のゆかりんはハクレンジャーロボを抱きかかえ叫ぶんですね。あれ?年齢は…べ、別にいいか。
カズくんは魔理沙で。いろいろとおかしくなってしまいましたすみません。
ドキがムネムネ~。お粗末さまでした。
>7番目の名無しさん
しらうっ…うっ、うっ…うぇぇぇん。
今度は霊夢が子供の立場から恋を自覚してゆかりんの恋人になりたくて悩んじゃうんですね!!!
でもツンツンしちゃって素直になれないと
ゆかれいむは擬似母子で終わっちゃう作品が多いので、じわじわと恋人になっていくとこが見てみたいです
ほくほくほわぁ、です!
苦悩、恋の苦悩っていいですね。ぐっときますね。
いわゆる思春期霊夢ちゃん…!
ゆかりんと霊夢ちゃんの恋の果実が実る日はいつ来るのか。
ゆかりん焦らずじっくり、青い実はすっぱいから気をつけて。
>喉飴さん
ほくほくほわぁ!ありがとうございます。
テンポは大事にしたいと思いますにょん。次はどんなジャンルで書こうかなぁ…。
>青い実はすっぱいから気をつけて。
いや青い果実だからこそおいし(ry
うちで実際に出た豆腐しじみ味噌汁の豆腐は目も当てられない状態であった。
や、そこまでとはいいませんが食べにくいことこの上ないです。
>13番目の名無しさん
なめこもいいですね。しかし僕はシジミの味噌汁を推すッ!
あと毎度食べ物の話でネギが出ると泣く僕がいる。
早摘み霊夢ってやつですね、わかります。