◇銃の話
香霖堂。
魔法の森入り口近くににある道具屋である。
そこでは外の世界から迷い込んだ多くの品が集まる。
「よおぅ、香霖。またなにか拾ってきたぜ」
「ああ、魔理沙。またなにか拾ってきたのか。……どれどれ」
「神社の近くで拾ったんだ。周りに服が散らばっていたから、
おそらく妖怪に襲われた外の人間の形見だな。どうやら鉄のブーメランみたいだけど……どう?」
「……。残念ながら、ただのガラクタだな。────だから」
「おいおい。人がせっかく持ってきたのを壊すなよ」
「部品や素材なら少しは役に立つかもしれない。……これでよし」
「やっぱり投げつけるくらいにしか、使い道なさそうだな」
忘れられ、または偶然に幻想郷に迷い込む外の品々。
その多くは幻想郷でも使い物にならないものばかりだが、
なかには外では現役のものもあるかもしれない。
◇お金の話
博麗神社。
幻想郷の東の境に位置する神社である。
そこにある賽銭箱の中身を確かめて、霊夢はため息をついた。
「これだと薪を買うのももったいなくなってくるなあ。
でも今から自分で切るのはめんどくさいし……あれ?」
境内の隅に、見慣れない黒い鞄が置いてある。
「また外から流れてきたのかしら……。わぁ、紙がいっぱい。
なんだか変な顔が書いてある絵札だけど、薪代わりくらいにはなりそうね」
霊夢は満足そうに鞄を抱えて家に戻る。
しばらくして、台所からおいしそうな料理の香りが漂い始めた。
◇粉の話
暗く小さな森。
幻想郷のかしこにあるそれは、人間以外の憩いの場である。
そこで妖怪達が、どこかの人間から奪った品を検分していた。
リグル 「見たところ、透明な袋に白い粉が入ってるだけだけど……」
ルーミア 「そーなのかー! そーなのかー!!」
リグル 「なんだかルーミア妙に機嫌がいいね。うーん、この袋、口がないなあ。
……あ、破れた」
チルノ 「私これ知ってる! なにかにばら撒くと花が咲くって、けーねが言ってた」
リグル 「そういえば、人間の絵本でそういうのあったよね」
ルーミア 「……食べられなかったのかー」
リグル 「食べてたんだ。……そんなに落ち込まなくても。
そういえばルーミアが持ってきたんだっけ、これ」
チルノ 「どうでもいいから、早くばら撒きたい!」
妖精はそう言って、白い粉袋を掴み天に舞い上がった。
結局、枯れ木に花が咲くことはなかったが、
季節外れの粉雪は暗い森の中を、僅かな間沸き立たせたという。
◇丘の話
無名の丘。
遠い過去に忘れ去れたかのような、寂しい場所である。
ただ、昔と変わらずに大量の鈴蘭が咲き乱れている。
「プリズムリバー楽団のコンサート、はっじまるよ!!」
ただここ最近、此処は騒霊三姉妹の主催するコンサートで賑わっていた。
鈴蘭の毒が充満する会場なので、客もそのほとんどが幽霊である。
曰く、
鈴蘭の寂しげな風景が情緒漂う。
体中が痺れて演奏に集中できる。
毒霧で靄のかかる演出がファンタスティック。
演奏を聞いているうちに気が遠くなる感覚がたまらない。
等と、好評のようだ。
「まあ、いいアルバイトになるから良いけどね」
と、鈴蘭畑のオーナーを自負するメディスン氏もおおむね満足の模様。
「ええ、薬の宣伝にもなりますから」
また、生きている人間・妖怪相手には演奏後に八意印の解毒薬処方など、サービスも怠っていない。
今秘かな人気スポットとして注目を浴びる無名の丘。
貴方も一度訪れてはいかがだろうか。
◇魚の話
妖怪の山。
そこの隠れた岩場の沢で、庭師の妖夢と主人の幽々子が釣りをしている。
「っ、わ、すごい。また釣れましたよ幽々子様! これなら今晩の夕食は心配ありませんね!」
「そうねぇ」
「しかしすごい穴場ですね。いつ見つけたんですか?」
「ついさっきよ。河童の動きを見ていたの。道具もあったし、それで慌てて戻って貴方を連れてきたのよ」
「そうだったんですか。……ん? でもそれなら、見つけた時に魚を釣れば良かったのでは」
「自分でお魚とると一回だけお腹が膨れるけど、貴方に教えればずっとお腹が膨らむわ」
そう言って幽々子はピンと張った糸を引く。
釣り上げられた魚はしばし宙を泳ぎ、微笑む幽々子の手に収まった。
◇山の話
守矢神社。
最近幻想郷に引っ越してきた神社である。
山での厳しい冬も通り過ぎ、裏の湖も春の息吹を受けて煌めいていた。
諏訪子 「あぁー! また取ったぁ!
あんたなんで人の狙ってるおかずばかり攫っていくのよ!」
神奈子 「なによ大げさな。寝起きの蛙はトロくさくて駄目ねぇ。あ、これもおいしそう」
諏訪子 「うう-!」
暖かくなり、それと同時に山にも多くの恵みが訪れた。
天狗や河童から差し入れられたその一部が、食卓やその周りに所狭しと並べられている。
早苗 「まだまだ沢山ありますから……それにしてもこんなにとれるんだ。幻想郷ってすごいなぁ」
神奈子 「あら。昔は外でもこんな感じだったわよ? 今じゃ大分少なくなっていたみたいだけど」
諏訪子 「いいから箸をどかせー!」
改めて、食卓の上を見渡す。
やや緊張したような面持ちで早苗は真ん中にあるそれ見つめた。
早苗 「考えてみれば、食べたことなかったですね。
春に芽吹く山菜……を採っている最中に現る熊」
神奈子 「あれ、そうだったっけ? 獲りたての熊肉は上品なコクがあっておいしいのに。
そっかぁ、早苗が生まれてからは食べてなかったかぁ」
早苗 「何事も挑戦ですね。えいっ……あ、おいしい」
神奈子 「油で揚げるとつまみにも合うし。しばらく肉には困らないなぁ」
諏訪子 「よーこーせー!」
暖かくなると、妖怪の山には様々な恵みが訪れる。
冬眠から覚め、寝ぼけて妖怪の返り討ちにあう動物も、その一つだった。
◇幸運な話
迷いの竹林。
里から見て妖怪の山の反対側にある場所である。
ここでは美味しい筍が取れるので、それ狙ってこの時期は多くの人間が出入りする。
妹紅 「その遭難者を助ける身にもなってほしいけど」
てゐ 「まったくだねぇ」
妹紅 「……。そっちは助けてないだろ?」
てゐ 「助けてるよ? ちゃんと身包みとお財布を剥いでから竹林の外へ放り出してる」
妹紅 「それじゃあ、無事とはいえないだろうに」
てゐ 「ちゃんと命が助かってるのに?
それに迷いのダンジョンで遭難したら無一文になるのはお約束よ」
妹紅 「これのどこが幸運のウサギなんだかなぁ」
てゐ 「ふふん。本来幸運っていうのはその人だけのものでない。
真の幸運とは周りと分かち合えるもの。
迷った人間は命が助かり幸せで、私はその人間のお財布で幸せになれる。
────どう? みんな幸せになれるいい話じゃない」
妹紅 「なるほどなぁ。じゃあ私はその幸せなウサギを獲って、
おいしい肉という幸運を、迷い込んだ人間達と分かち合うかね」
てゐ 「きゃー」
迷いの竹林には幸運のウサギがいる。
迷い傷つき倒れる前に、先に見つければ大量の筍が入る可能性もある。
もし探すつもりがあるなら、果たしてどちらが幸運になれるのかまず秤にかけるべきだろう。
竹林の奥に入らず美味しい筍を探したほうがいいじゃないか、等、ほど良い考えに至れたなら、貴方は幸運な人間だろう。
◆
「いらっしゃい────おや、この辺りじゃ珍しい幽霊だね」
「…………」
「お代は有り金全部。うん、いいよ。構わないよ。それはあちらの仕事さね」
「…………」
「じゃあ、舟を出すよ。少しかかるけど、ゆっくり話をするには丁度良い」
「…………」
「そちらさん、なんだか色々廻ってたみたいだねぇ。
どうだい。幻想郷(ここ)は────」
「…………」
「ああ、私もまあまあ気に入っているよ。色々見てて飽きがないのがねぇ。
あんたもそうだったんだろ? ついつい寄り道してしまう……ああ、うん、さぼっている訳じゃなく」
「…………」
「まあ、少ししか廻れなかったんなら色んな小話でもどうだい?
そういえばこの前だけどね────」
面白かった
外で役に立つものでも、わからなかったりそもそも役に立たなかったり色々ですよね
今回も良かったです
ほのぼのと和みながら面白いですね~
私は金と丘の話が特に好きでしたね~
それを やく なんて もったいない!!
銃の話は深い話ですねぇ。
でも東方の世界観って、昭和くらいの文化らしいですから、リボルバーや古い型のオートマチックくらいの銃は多かれ少なかれ既に存在する筈なんですよねぇ?
弾幕(スペル)ではなく弾幕(鉛玉)で敵を打ち落としていく博麗の巫女・・・正に21世紀型弾幕FPS。
・・・うわぁ。
てゐと妹紅の話にトラウマをえぐられましたが(苦笑
相変わらずのいい話、ごちそうさまでした。
スキマ妖怪が『死んでもいい人間』を攫って来たのでしょうか?