※作者が麻雀の点数計算できない恐れがあります。
紅魔館にはいわゆる遊戯室というものがある。貴族的趣味に溢れたそこには、チェスや
バックギャモンといった古風なものから、ビリヤード台にダーツなどという比較的
新しい遊具などが一通り揃っている。
そこに、4つの影があった。館の主要人物たち。主である吸血鬼『レミリア・スカーレット』、
その従者『十六夜 咲夜』、レミリアの親友にして強大な魔女『パチュリー・ノーレッジ』、
そして紅魔館の門番『紅 美鈴』である。彼女らが一堂に会して談笑しつつ朗らかに
遊戯を楽しんでいるか、と思えばさにあらず。
刺々しい雰囲気を押し隠しもせず、彼女たちが囲むのは雀卓。そこにいつもの仲
むつまじい光景は、無い。
「ツモ、白のみ」
白魚のような指が瀟洒に雀牌を倒す。これで五連荘、咲夜の早上がりが冴えを見せて
いる。ちっ、と誰かがはしたなくも舌打ちする音と共に卓に投げ込まれる点棒。冷たい目で
何の感慨もないかのごとく、回収する咲夜。即座に八本の腕が積み込み上等とばかりに
牌を掻き混ぜる。
ここしばらく、紅魔の面子は事あるごとに卓を囲んでいる。全員が全員その能力を
フルに生かせばイカサマどころの話ではないので、能力使用一切無しのガチ麻雀である。
だがそれにしても、全員が並みの雀師顔負けの鬼どもであった。
十六夜咲夜のモットーはなにはなくとも和了がること。チーにポンにと鳴きまくり、
安目の点数だろうが和了する。さながら卓の上の時間は私が支配してるのとばかりに、
相手にペースを握らせる暇も与えない速攻麻雀だ。
「相変わらず下賎な麻雀ね、咲夜」
「貴方の麻雀には美しさの欠片もないわ」
レミリアとパチュリーが揃って酷い毒を込めた言葉を投げる。だがしかし、メイド長は
それを鼻で笑って賽を投げる。その下賎で醜い麻雀相手にぐうの音も出ないのは貴女たち
でしょうが、と。そう、雀卓の上では上下関係も何もない。あるのはただ雀師として強いか
弱いか、それだけである。
山から14枚の牌をそろえて、初めてここで咲夜の眉間に皺がよった。早上がりの
難しいばらけた牌配。この場を乗り切れるかどうかが勝負と、九筒を河へと放った。
しばらく、誰もが淡々と牌を切っていく。流れが変わるのは八順目。
「リーチよ。足掻いても無駄、とっとと当り牌を寄越しなさい」
傲慢不遜な笑顔を浮かべ、グングニルよろしく千点棒を場に叩き込んだのはレミリア。
それに他の三人はっとして顔を見合わす。微妙なアイコンタクトがパチュリー、咲夜、美鈴の
間で行われるが、やがて三人は落胆したかのような顔で自身の牌に目を落とした。まだ
テンパイになっているものは誰一人としていない。誰もレミリアを止められそうにないと
知るやせめて一発フリコミは避けるべしと、三者三様に安全牌を河へと流した。
だがしかし。
「……フッ、ツモね。リーチ一発、三暗刻、自風。裏ドラは……フン、2枚しか
乗らないか。ドラ5だ」
ドスンと音でもしそうなほどに、14枚の牌を倒すレミリア。能力を封印していても
この強運、むしろ剛運とでもいうべきか、この一撃がお嬢様麻雀である。
「ぐふっ」
血でも吐きそうな声を出して自身の牌を崩す咲夜。一発で今までのリードを持って
いかれた。震える手で点棒を差し出す。美鈴とパチュリーにしても痛いのは当然ではあるが。
さらに次の場もレミリアは三槓子、ドラ8などという馬鹿げた手をツモってのけた。
「さー! この調子で全員ハコ下にブチこんであげるわ」
洗牌しながら意気揚々と告げるレミリア。そこに冷たい声がかかる。
「そう上手く行くかしら?」
ギロリと睨むレミリアの視線の先には、いつもの茫洋とした、それでいて底の知れない
眠たげな瞳。七曜の魔女は淡々と牌を積み上げた。卓の上で闘いがまた始まる。景気良く
牌を放るのはレミリアだ。大きくリードしているせいもあってか、その捨て牌にも迷いが
ない。迷いがないからこそ、
「ロン。平和、ドラ1。レミィ、そこまであからさまな清一色狙いは猿でも見破れるわ」
「ぎぎぎ……」
「ロン。対々和、小三元、發、中。ねぇレミィ、中を鳴いてる私に良くそんな牌を堂々と
捨ててくるわね」
「う、うるさい!」
「ツモ。平和、タンヤオ、一盃口、ドラ2。良かったわねレミィ、その捨て牌、安目
だから見逃してあげたわ」
「お、おにょれ……」
「ツモ和了りは所詮天運のボルテージ。けれどね、ロン和了りは雀師の腕の現れよ。
覚えておくといいわ、レミィ」
「きーっ!!」
ことごとく牌の魔術師、パチュリーに振り込みまくる。剛運の持ち主とはいえ、麻雀自体は
脇目も振らぬイノシシ麻雀のレミリア。己の手だけを見て我儘に手を進めていくも、それを
甘やかしてあげるほど紅魔の雀鬼達は優しくはない。特にパチュリーはこれが普段親友だと
言っているのが信じられないほどにレミリアをカモにしている。あっという間にレミリアの
点棒はパチュリーの箱のもとへと大移動だ。にやりと黒い笑みを浮かべる魔法使い。かくて
今宵の勝負、趨勢は決したに見えたが……。
「あ、パチュリーさま。それロンです。チートイ」
「むっ」
ぱたたたと牌が倒れて美しい手役が緑の河に姿を見せる。ここにきて紅美鈴、一矢報いる。
「すみませーんパチュリーさま。それもロンですー。リーチ一発、チャンタ、自風、ですね」
「きゅー」
いや、矢は一本とは限らない。とうとう美鈴が本気を出した。このあとツモ和了がり
1回、咲夜からロン和了り1回、パチュリーからロン和了がり2回とまさしく鬼のような
攻めっぷり。先までレミリア狩りにいそしんでいた魔法使い、今では本人こそが矢ぶすまの
様相である。
「も、もうやだ。美鈴嫌い。嫌いよ貴方なんか! 読めないもの貴方の手筋! あー!!
むきゅー!!」
「いやそりゃまぁ読ませないようにしてますから。で、むきゅむきゅ唸るのは後にして
とっとと点棒寄越してくれませんか?」
喘息もなんのその吼えるパチュリーを軽くあしらって美鈴。彼女もパチュリーと同じく、
手役を大事にするスタンダードな麻雀がモットーではあるが、その変幻自在っぷりは
七曜の魔女の比ではない。必要とあらば手を崩して安目で速攻を決めれる上手さをも
兼ね備えている。なにより紅魔館にこの遊戯を持ち込んだのは美鈴なのだ。経験に基づいた
打ち筋は万能に強い。むしろパチュリーのようなタイプこそ美鈴のもっとも得意とする
ところだ。とはいえ彼女も咲夜の無茶苦茶な速度の麻雀には手を焼いているのだが。
卓の主役がぐるりと一周して、おおよそ誰も彼も点棒の数は似たり寄ったりなものと
なった。多少美鈴が多い程度だが、一瞬で優位さが覆りかねない。意を決して、美鈴は
勝負の場に臨む。
目の前の14枚の牌を見て、ついリアクションをとってしまいそうになった美鈴。
ここにきて国士無双リャンシャンテン。この破壊力のある役満を叩き込めば、ロン和了り
ならその相手を勝負の場から蹴落とせる。ツモ和了りでも全員に圧倒的な差を広げることが
できる。どちらにしろ勝利の女神は美鈴の方向へと大きく舞い降りるだろう。八萬を切って
様子を見る美鈴。たすんたすんと全員が牌を切っていく。レミリアがダブリーでもかけて
くるかと思ったが、その気配もなさそうだ。一巡して引いた牌が手元にない西。即座に
引き入れて二索を切り飛ばす。さらに一巡して引くのは九索。レミリアお嬢様の運も知れた
ものですね、私だってほら、と内心ほくそえみつつ三索切って国士無双十三面待ち。捨て
牌も微妙に迷彩がかってて実に申し分ない。
役満をはったのに気付いた風もなく三者三様に牌を切り飛ばしている。咲夜、安牌二索。
タンヤオ狙いですか咲夜さん? 鳴いた時が貴方の最期ですよ。レミリア、五萬。相変わらず
いらない牌なら何でも捨てますねレミリア様。もったいないお化けがいるってのをご覧に
なりますか? パチュリー、しばらく考えて七萬を切る。ふむふむ、場に1枚出てますしね、
いいんじゃないですかパチュリーさま。でも、馬鹿の考え休むに似たりって諺知ってますか?
精神的に異常に優位に立った美鈴は、口にすれば即”全世界殺人プリンセスナイトメア
ウンディネドール”でも飛んできそうなことを思うほど。思いながら山に手を伸ばした。
刹那、ぬたりっ……とした感触が美鈴の背筋を走る。まさか。いくら調子が良くてもこうまで……。
「はやくツモりなさい」
イライラした幼い声が美鈴の耳朶を打つ。知らず手が止まっていたようだ。す、とツモ牌を
手に取るや指先に全神経を集中させて盲牌。しかしてそこには実に読み取りやすい、
ある意味で美鈴を象徴するかのような一文字。にま、と弧を描く唇。ようやく他の三人も、
美鈴がとんでもない役を手にしていたことに気付くも時既に遅し。美鈴は高らかに勝利の役を宣言
「つ……」
「……まんなあああああい!!」
しようとしたところにキュッとしてドカーン。一瞬にして雀卓が破壊された。誰の仕業か
言うまでもがな、この館で唯一麻雀を打てない『フランドール・スカーレット』。四百年
以上の仲間外れからようやく開放されたと思ったら、美鈴の持ち込んだ馬鹿げた遊びで
またも同じ憂き目。とうとう堪忍袋の緒が切れた。舞い散る麻雀牌。その向こうに、唇を
噛み締め涙目のフランドール。唖然とした一同の顔に、ようやく後悔の灯がともる。
「……そう、ね。ごめんなさいフラン、私ってやっぱりダメな姉ね。あなたにまた、
寂しい思いをさせてしまった。あなたの涙を見るまで気付かないだなんて……首を括って
死にたいくらいだわ」
「断罪されるなら私も一緒よレミィ。一時の快楽に身をゆだね、本当に大事な絆を見失って
しまっていた。……妹様、許してくれとは言わないわ。でも、もう一度やり直すチャンスを頂戴」
「私のこの手は、お嬢様に、そしてフランドール様を労わり、美味しい料理と素敵なお菓子を
作るためのもの。こんな象牙の塊を握るものではなかった。ただただ、猛反するのみですわ」
真摯な思いの瞳を見つめ、鼻をすすりつつもフランドール、
「うぐ……ひっく。うぅ、うん。わかって、わかってくれたならいいの」
慈悲あふるる涙声で応えた。
そう、やはり紅魔館はこうでなくてはな
「いやちょっと待ってえええええ!?」
……愛に満ちた空間を破壊して、ただ一人唖然としたままだった美鈴が叫んだ。
「何よ美鈴」
「うるさいわね美鈴」
「刺すわよ美鈴」
絶対零度の視線を浴びせるレミリア、パチュリー、そして咲夜。しかしそれにひるむ
ことなく、右手に掴んだ”中”を見せ付けるように掲げなお続ける美鈴。
「なにうやむやにしようとしてるんですか三人とも!? 国士ですよ国士!!
十三面待ち! ホラ、これ! ツモったんですよ中を!! だから……」
「だから、なに? コクシだかコケシだかラナンシーだか知らないけど、それは私とフランの
絆より大事なものなの?」
「いや……それは大事ですけど、しょ、勝負は勝負……」
レミリアがフランを抱きしめながら、非難囂々とした視線を叩きつける。
「ふん、まぁ美鈴がそれをツモだのなんだのしたとして証拠なんてもうないわね。卓はもう
すでに破壊されつくされてるし。いいかげん過去にこだわるのはよしなさい美鈴」
「いや流れで分かるでしょう普通……。過去って、まだ5分も経ってないですよ!?」
さっきまでむきゅうむきゅう唸ってた姿が嘘のように、知識人めいた表情で美鈴を
言いくるめようとするパチュリー。
「刺すわよ」
「もう刺さってます」
視線が合っただけで、全てのやり取りを放棄してナイフを一閃した咲夜はいつもの完全で
瀟洒なメイド然とした姿だ。
数の暴力と書いて民主主義と呼ぶ。紅魔館はこの瞬間だけ絶対君主制から体制を大きく
変更した。あまりといえばあまりな決着に、美鈴は牌と卓の破片散らばるその場に
崩れ落ちた。
「ううう……いつか革命してやる……紅魔館を思想まで赤く染めてやる……うわああああん!」
そんな美鈴をほっといて、和気藹々と四人は遊戯室を後にしはじめた。
「それでは妹様、何をしましょうか。UNOでもいいですし、トランプゲームならすぐに
でも準備できますわ」
「んーとねぇ。なんか美鈴が革命とか言ってたから大富豪かなー!」
「ふふ、まさに私たちに相応しい遊びねフラン」
「果たしてそうかしら? 大貧民からの奇跡の復活を遂げる魔女を目撃すればカタルシスの
なんたるかが云々……」
ちなみに。大富豪はぶっちぎりでフランちゃんが強かったそうです。もちろん手加減なし
能力使用なしのガチ勝負で。そしてパチュリーは始終大貧民や貧民の身分を楽しんでいました
とさ。
どっとはらい。
「しょうがないですね、美鈴さん。脱衣アリなら私が一緒に打ってさしあげますから!」
「……だが断る」
小悪魔終わっとけ。
純正チューレンなら1112345678999の九面待ちになるはずで
字牌は必要ないはずです
うわっすっごい恥ずかしい間違い! すぐ訂正します!
小悪魔はピンクがかるとマジで負けそうな気がしないから困る
剛運ってワシズ様かw
その後に中ツモったらなぜか国士???
わけがわからない
俺は何時もなしでやってるから違和感覚えたw
ピンヅモって…20+2で30?
じゃなくて本来の定義通り上がり符なしで20?
毎回これで揉めてたなぁ。