※このお話は後編になります。是非前編と併せてご覧ください。(前編は作品集42にあります)
ここは地霊殿。
普段は誰も寄り付かないこの館だが、今日は二人の冒険者を迎え入れていた。
チルノと大妖精の二人は、さとりに促され、応接間に入った。
「さあ、掛けて頂戴。」
「あ、はい。チルノちゃん、座ったら?」
「え?あ、うん!」
チルノはあまりに楽しくて我を忘れていたらしい。
人型になる猫。不思議な感触の怨霊。
どれも初めて見るもので、チルノの胸をときめかせるには十分だった。
椅子に腰掛けても落ち着きのないチルノを見て、さとりは微笑んだ。
「ふふ、本当に楽しそうね。こっちまでうれしくなってくるわ。」
「はーいお茶が入りましたよーっと」
そうしているうちに、燐がお茶を運んできてくれた。
「ありがとう、燐。さあ二人とも、召し上がれ。」
「はい、いただきます。」
「いただきまーす!…あちち!」
ティーカップできちんとお茶を飲むのは不慣れらしく、チルノは一気に飲もうとして火傷しかけた。
「チルノちゃん大丈夫!?もう、一気に飲んじゃだめだよ。」
「うー…」
大妖精は、チルノの口を拭いてあげた。
その様子を見て、燐はニヤニヤしている。
まったく、燐ったら何を考えているのかしら。
この二人はそういう関係じゃないわよ?
もっと微笑ましい関係よ。
そう思いながら、さとりも自身の頬が緩んでいる事に気づいていた。
何か話さなければ。
さとりが言葉を発しようとしたその時。
「あー!?あたいのおかしがない!!」
チルノが大声を上げた。
見ると、確かに出したはずのお茶請けがなくなっていた。
「そんなわけ…あれ?私のもない!?」
チルノは泣き出しそうな顔をした。
大妖精は、かける言葉を探しているようだ。
「さとり様、もしかして…」
「そうね。まったく、困った子なんだから…こいし、出てきなさい!悪戯が過ぎるわよ!」
さとりは何者かに対して声を上げた。
二人の妖精は、その行為に戸惑いと期待を隠せない。
無理もない。不思議なことだらけのこの館で、また不思議な事が起きたのだ。
それに、さとりはふざけてこういうことをする人ではない。
だから、誰かがいるのだ。
二人が気づいていない誰かが、今この空間にいる。
それだけで二人の気分は高揚した。
間もなく、誰も座っていないはずの椅子から声が聞こえた。
「いやーバレちゃったか。さすがお姉ちゃんだね」
二人が注目していると、急にその場所に一人の少女が現れた。
「すっげー!!」
チルノがうれしそうに声を上げる。
お茶請けをとられ、泣きかけたのはもう忘れてしまったらしい。
「お姉ちゃん、お客さん?」
「ええ。チルノと大ちゃんよ。二人とも、この子はこいし。私の妹よ。」
「よろしくね、チルノ、大ちゃん」
そう言って笑うこいしの笑顔は本当に素敵で、二人を自然と笑顔にした。
「さてこいし、まずは二人に謝りなさい」
さすがは地霊殿の主というべきか。
取られた本人が忘れても、さとりはしっかりと覚えていた。
「うーん、そうだね。二人とも、ごめんね。みんなが驚く顔が楽しくて、ついいたずらしちゃったの。」
こいしが素直に謝ったことに、さとりは驚いた。
いつもは叱っても何か反論するのに、今回は特に言い訳もせずに謝った。
それが不思議でたまらなかった。
どうしてこいしは素直になったのだろう。
さとりは色々考えたが、どうにも答えは見つからない。
そうしていると、燐がそっと耳打ちした。
「さとり様、きっとこいし様は二人と友達になりたかっただけだと思いますよ?」
「え?だ、だけどあんなに素直だなんて…」
さとりは慌てて答えた。
「さとり様はなんでも一人で背負いすぎるんですよ。もっとこいし様の事、見守ってあげてもいいと思いますよ?」
燐に言われて気づいた。
自分は、いつの間にかこいしを監視していたのだ。
はじめは、彼女を優しく見守るつもりだった。
でも、もしもあの時自分が彼女の辛さに気づいてあげられたら、彼女は瞳を閉ざす事はなかったのではないか。
考えれば考えるほど、その思いが強くなっていった。
気づけば、自分は妹を優しく見守る姉ではなく、妹の行動を逐一監視しようとする嫌な姉になっていた。
「あれ?さとりどうかした?」
チルノの言葉で、さとりは我に返った。
「いえ、なんでもないわ。」
「ねえお姉ちゃん、二人についていっていい?灼熱地獄跡に行ってみたいんだって」
何を心配することがあろうか。
こいしは、こんなに元気に生きているじゃないか。
悪戯はするけど、本当にいい子だし。
「ええ、いってらっしゃい。気をつけてね」
さとりはこの日、初めてこいしに対して微笑んだ。
それを見て、こいしもうれしそうに笑っている。
「よーし、しゃくねつじごくあとにしゅっぱーつ!」
「おー!」
元気な二人をよそに、大妖精は心配せずにはいられなかった。
チルノちゃん、溶けないかなぁ…
* * *
こいしを先頭に、三人は灼熱地獄跡への道を辿った。
「あつい…」
チルノは溶けずにすんだようだ。
暑がってはいるが、原型が崩れたりはしていない。
「ねえこいしちゃん、この先には誰がいるの?」
「ん、空だよ。けっこうやんちゃな子でね、お姉ちゃんのペットなの」
「つまりともだちってことだね!」
「んー、どっちかっていうと家族かな。あ、見えてきた」
そう言ってこいしが指差した方向を見て、二人は思わず息を飲んだ。
大爆発。
今まで見た事がない、まるで見る者を圧倒するような大爆発だった。
しかもそれは一回ではない。
何度も何度も、繰り返し爆発が起こっていた。
「やっぱりやってるね。あれが空だよ」
「ええ!?あ、あの大爆発を起こしてるのが?」
「うん。まあいつものことだし」
「すげー!!うつほすげー!!」
こんな時も、チルノの頭には危険や危機回避といった案は浮かばないらしい。
初めて見る超高温の世界にわくわくしていた。
三人は空の元へ着いた。
「おーい空ー元気ー?」
「あ、こいし様!ん?なんですかその二人?」
こいしが声をかけると、空は手を振りながら答えた。
どうやら悪い人ではないらしい。
大妖精が胸を撫で下ろそうとしたその時―
「わかった!敵だ!そうでしょこいし様?」
「ええ!?なんでそうなるの!?」
大妖精は思わず声を出して突っ込んでしまった。
「違うよ、この二人はお客さんで…」
「離れてくださいこいし様!うー…くらええええええ!!」
誤解を解こうとするこいしを無視して、空はあの大爆発を放ってきた。
三人で後ろに飛び退きながら、大妖精は思う。
ああ、やっぱりこの人、悪い人だ。
頭が。
なんとか爆風をかわした三人は一斉に怒りの声を上げる。
「何すんじゃああああ!!」
「え?だ、だって私、この二人がわるいやつだと思って…」
「違うよ、二人はお客さんなの!チルノと大ちゃんだよ。ほら、自己紹介して?」
こいしに促され、空は少しばつの悪そうな顔で話し出した。
「は、はい。私、霊烏路空。お燐はおくうって呼ぶんだ」
「よ、よろしくね空ちゃん」
「ふんだっ!」
チルノにしては珍しく、自己紹介をしなかった。
どうやら空が気に入らないらしい。
「チルノちゃん、失礼だよ?」
「あたいしつれいじゃないもん!あたい、こんなバカとともだちになんかならないもんね!」
「バカとはなんだ!」
空は頭に血が昇ったらしい。
また弾幕を撃ち込もうとしている。
「あーだめだめ!そういうことはしちゃ駄目だよ空!」
「だけどこいし様、こいつが…」
「すぐにじつりょくこうしなんてバカいがいのなんなのさ!」
「またバカっていったな!ムキー!!」
「そもそもさ、こいしとてきがいっしょにいるなんておかしいとかおもわないの?ばかなの?」
「うるさいうるさい!あんたこそ馬鹿みたいな話しかたしてるじゃん!もっとちゃんと話せないの?あ、無理か。馬鹿だもんね」
「なにをー!!」
「落ち着いてチルノちゃん!」
「ほら、空も!」
これ以上放っておくとえらいことになりそうなので、大妖精とこいしが二人を押さえ込んだ。
「はなせ大ちゃん!あたいはこいつをぶっとばさなきゃいけないんだ!!」
「こいし様、離してください!こいつは許せません、殴るだけ、殴るだけですから!!」
二人が必死で宥めようとするが、二人の怒りは引かないらしい。
不意に、押さえていた二人の腕が緩んでしまった。
一瞬の隙をついて、相手の腕からすり抜ける二人。
走り出し、互いの距離を詰める。
チルノは右腕を、空は左腕を振り上げた。
うおおおおおおおおおお!!!!
二人の雄叫びが響く。
そして―
バキッ。
繰り出された拳は、見事に互いの頬に食い込んだ。
お互いを睨み合う二人。
ニヤリと微笑み、すぐに二人は崩れ落ちた。
* * *
保護者二名はすぐに問題児二名を地霊殿に連れて帰った。
そして、保護者もまた、主に叱られた。
「まったく、何のために貴女がついていったのかしら?」
「えへへ、ごめんごめん」
「二人とも気がつきましたよー」
介抱してくれていた燐が二人を連れて入ってきた。
「ご苦労様。さて、二人とも仲直り…したようね。」
さとりは二人の顔を見て気づいた。
頬は腫れていたが、二人とも清清しい表情をしている。
「はい!こいつ馬鹿だけど、話してみたらすごくいいやつでして。」
「おくうもバカだけどいいやつだよ!」
「そう、よかったわね。でも人に馬鹿なんて言っては駄目よ?」
「はーい!」
そう言うと、二人は外に遊びに行った。
「元気でなにより。さて、二人も機嫌を直したらどう?」
さとりは大妖精と燐に向けて言った。
二人は自分が不機嫌そうな顔をしていることに気づいていなかったようだ。
慌てて否定の言葉を探している。
「ふふ、嘘はいけないわ。大事な友達を取られたような気分なんでしょ?」
さとりは全てお見通しだった。
皆に頼られる、素敵なお姉さん。
それが、大妖精の抱いたイメージだった。
だから、思い切って聞いてみた。
「あの…私、変でしょうか?チルノちゃんに友達が増えてうれしいのに、一方で空さんなんかいらないと思ってしまうんです。空さんが嫌いなわけじゃないのに、なんで私…」
「あたいも!さとり様、あたいもそうです!チルノはいいやつなのに、おくうと一緒にいるのを見るとなんだかムカムカして…」
「何も変なことではないわ。そうね…こういうときは、皆で仲良くするのが一番ね。四人で遊んでみたら?」
さとりは優しく微笑んで言った。
その微笑で、二人の心がどれだけ救われたことか。
二人とも、自分が嫌な奴だと思っていた。
ただ仲良くしているだけで、誰かに嫉妬するなんて最低だ。
だから、自分は最低な奴だ。
そう思い込んでいた二人に、さとりの微笑みは光を与えた。
変なことではない。
その一言で、こんなに救われた気持ちになるとは思わなかった。
「よし、早速行こう!大ちゃん!」
「はい!さとりさん、ありがとうございました!」
そう言うと、二人は外へ走っていった。
世間ではね、それを恋と呼ぶのよ。
さとりは敢えてその言葉を呑み込んだ。
この子達には、まだ早い。
誰かを好きだという気持ちは、自分で見つけ、自分で紡いでいくものだ。
いつか、自分の気持ちが恋だと気づくまで。
それまでは、皆仲のよい友達でいいじゃないか。
もしも自分の想いに気づいたら、そのときはしっかり相談に乗ってあげよう。
そう思いながら、さとりは窓の外を眺めた。
四人でなにやら追いかけっこをしている。
不意に、後ろから抱きしめられた。
貴女は遊びにいかないの?
うん…だって私、お姉ちゃんと一緒にいたいから。
こんな私でいいの?
私、お姉ちゃん大好きだもん。
ありがとう。私もよ、こいし。
地霊殿には、季節はずれの花が咲いていた。
全てを見守る、優しい花の蕾。
そこに吹き渡る、自由な風。
二つは混ざり合い、それは見事な花を咲かせたそうな。
ここは地霊殿。
普段は誰も寄り付かないこの館だが、今日は二人の冒険者を迎え入れていた。
チルノと大妖精の二人は、さとりに促され、応接間に入った。
「さあ、掛けて頂戴。」
「あ、はい。チルノちゃん、座ったら?」
「え?あ、うん!」
チルノはあまりに楽しくて我を忘れていたらしい。
人型になる猫。不思議な感触の怨霊。
どれも初めて見るもので、チルノの胸をときめかせるには十分だった。
椅子に腰掛けても落ち着きのないチルノを見て、さとりは微笑んだ。
「ふふ、本当に楽しそうね。こっちまでうれしくなってくるわ。」
「はーいお茶が入りましたよーっと」
そうしているうちに、燐がお茶を運んできてくれた。
「ありがとう、燐。さあ二人とも、召し上がれ。」
「はい、いただきます。」
「いただきまーす!…あちち!」
ティーカップできちんとお茶を飲むのは不慣れらしく、チルノは一気に飲もうとして火傷しかけた。
「チルノちゃん大丈夫!?もう、一気に飲んじゃだめだよ。」
「うー…」
大妖精は、チルノの口を拭いてあげた。
その様子を見て、燐はニヤニヤしている。
まったく、燐ったら何を考えているのかしら。
この二人はそういう関係じゃないわよ?
もっと微笑ましい関係よ。
そう思いながら、さとりも自身の頬が緩んでいる事に気づいていた。
何か話さなければ。
さとりが言葉を発しようとしたその時。
「あー!?あたいのおかしがない!!」
チルノが大声を上げた。
見ると、確かに出したはずのお茶請けがなくなっていた。
「そんなわけ…あれ?私のもない!?」
チルノは泣き出しそうな顔をした。
大妖精は、かける言葉を探しているようだ。
「さとり様、もしかして…」
「そうね。まったく、困った子なんだから…こいし、出てきなさい!悪戯が過ぎるわよ!」
さとりは何者かに対して声を上げた。
二人の妖精は、その行為に戸惑いと期待を隠せない。
無理もない。不思議なことだらけのこの館で、また不思議な事が起きたのだ。
それに、さとりはふざけてこういうことをする人ではない。
だから、誰かがいるのだ。
二人が気づいていない誰かが、今この空間にいる。
それだけで二人の気分は高揚した。
間もなく、誰も座っていないはずの椅子から声が聞こえた。
「いやーバレちゃったか。さすがお姉ちゃんだね」
二人が注目していると、急にその場所に一人の少女が現れた。
「すっげー!!」
チルノがうれしそうに声を上げる。
お茶請けをとられ、泣きかけたのはもう忘れてしまったらしい。
「お姉ちゃん、お客さん?」
「ええ。チルノと大ちゃんよ。二人とも、この子はこいし。私の妹よ。」
「よろしくね、チルノ、大ちゃん」
そう言って笑うこいしの笑顔は本当に素敵で、二人を自然と笑顔にした。
「さてこいし、まずは二人に謝りなさい」
さすがは地霊殿の主というべきか。
取られた本人が忘れても、さとりはしっかりと覚えていた。
「うーん、そうだね。二人とも、ごめんね。みんなが驚く顔が楽しくて、ついいたずらしちゃったの。」
こいしが素直に謝ったことに、さとりは驚いた。
いつもは叱っても何か反論するのに、今回は特に言い訳もせずに謝った。
それが不思議でたまらなかった。
どうしてこいしは素直になったのだろう。
さとりは色々考えたが、どうにも答えは見つからない。
そうしていると、燐がそっと耳打ちした。
「さとり様、きっとこいし様は二人と友達になりたかっただけだと思いますよ?」
「え?だ、だけどあんなに素直だなんて…」
さとりは慌てて答えた。
「さとり様はなんでも一人で背負いすぎるんですよ。もっとこいし様の事、見守ってあげてもいいと思いますよ?」
燐に言われて気づいた。
自分は、いつの間にかこいしを監視していたのだ。
はじめは、彼女を優しく見守るつもりだった。
でも、もしもあの時自分が彼女の辛さに気づいてあげられたら、彼女は瞳を閉ざす事はなかったのではないか。
考えれば考えるほど、その思いが強くなっていった。
気づけば、自分は妹を優しく見守る姉ではなく、妹の行動を逐一監視しようとする嫌な姉になっていた。
「あれ?さとりどうかした?」
チルノの言葉で、さとりは我に返った。
「いえ、なんでもないわ。」
「ねえお姉ちゃん、二人についていっていい?灼熱地獄跡に行ってみたいんだって」
何を心配することがあろうか。
こいしは、こんなに元気に生きているじゃないか。
悪戯はするけど、本当にいい子だし。
「ええ、いってらっしゃい。気をつけてね」
さとりはこの日、初めてこいしに対して微笑んだ。
それを見て、こいしもうれしそうに笑っている。
「よーし、しゃくねつじごくあとにしゅっぱーつ!」
「おー!」
元気な二人をよそに、大妖精は心配せずにはいられなかった。
チルノちゃん、溶けないかなぁ…
* * *
こいしを先頭に、三人は灼熱地獄跡への道を辿った。
「あつい…」
チルノは溶けずにすんだようだ。
暑がってはいるが、原型が崩れたりはしていない。
「ねえこいしちゃん、この先には誰がいるの?」
「ん、空だよ。けっこうやんちゃな子でね、お姉ちゃんのペットなの」
「つまりともだちってことだね!」
「んー、どっちかっていうと家族かな。あ、見えてきた」
そう言ってこいしが指差した方向を見て、二人は思わず息を飲んだ。
大爆発。
今まで見た事がない、まるで見る者を圧倒するような大爆発だった。
しかもそれは一回ではない。
何度も何度も、繰り返し爆発が起こっていた。
「やっぱりやってるね。あれが空だよ」
「ええ!?あ、あの大爆発を起こしてるのが?」
「うん。まあいつものことだし」
「すげー!!うつほすげー!!」
こんな時も、チルノの頭には危険や危機回避といった案は浮かばないらしい。
初めて見る超高温の世界にわくわくしていた。
三人は空の元へ着いた。
「おーい空ー元気ー?」
「あ、こいし様!ん?なんですかその二人?」
こいしが声をかけると、空は手を振りながら答えた。
どうやら悪い人ではないらしい。
大妖精が胸を撫で下ろそうとしたその時―
「わかった!敵だ!そうでしょこいし様?」
「ええ!?なんでそうなるの!?」
大妖精は思わず声を出して突っ込んでしまった。
「違うよ、この二人はお客さんで…」
「離れてくださいこいし様!うー…くらええええええ!!」
誤解を解こうとするこいしを無視して、空はあの大爆発を放ってきた。
三人で後ろに飛び退きながら、大妖精は思う。
ああ、やっぱりこの人、悪い人だ。
頭が。
なんとか爆風をかわした三人は一斉に怒りの声を上げる。
「何すんじゃああああ!!」
「え?だ、だって私、この二人がわるいやつだと思って…」
「違うよ、二人はお客さんなの!チルノと大ちゃんだよ。ほら、自己紹介して?」
こいしに促され、空は少しばつの悪そうな顔で話し出した。
「は、はい。私、霊烏路空。お燐はおくうって呼ぶんだ」
「よ、よろしくね空ちゃん」
「ふんだっ!」
チルノにしては珍しく、自己紹介をしなかった。
どうやら空が気に入らないらしい。
「チルノちゃん、失礼だよ?」
「あたいしつれいじゃないもん!あたい、こんなバカとともだちになんかならないもんね!」
「バカとはなんだ!」
空は頭に血が昇ったらしい。
また弾幕を撃ち込もうとしている。
「あーだめだめ!そういうことはしちゃ駄目だよ空!」
「だけどこいし様、こいつが…」
「すぐにじつりょくこうしなんてバカいがいのなんなのさ!」
「またバカっていったな!ムキー!!」
「そもそもさ、こいしとてきがいっしょにいるなんておかしいとかおもわないの?ばかなの?」
「うるさいうるさい!あんたこそ馬鹿みたいな話しかたしてるじゃん!もっとちゃんと話せないの?あ、無理か。馬鹿だもんね」
「なにをー!!」
「落ち着いてチルノちゃん!」
「ほら、空も!」
これ以上放っておくとえらいことになりそうなので、大妖精とこいしが二人を押さえ込んだ。
「はなせ大ちゃん!あたいはこいつをぶっとばさなきゃいけないんだ!!」
「こいし様、離してください!こいつは許せません、殴るだけ、殴るだけですから!!」
二人が必死で宥めようとするが、二人の怒りは引かないらしい。
不意に、押さえていた二人の腕が緩んでしまった。
一瞬の隙をついて、相手の腕からすり抜ける二人。
走り出し、互いの距離を詰める。
チルノは右腕を、空は左腕を振り上げた。
うおおおおおおおおおお!!!!
二人の雄叫びが響く。
そして―
バキッ。
繰り出された拳は、見事に互いの頬に食い込んだ。
お互いを睨み合う二人。
ニヤリと微笑み、すぐに二人は崩れ落ちた。
* * *
保護者二名はすぐに問題児二名を地霊殿に連れて帰った。
そして、保護者もまた、主に叱られた。
「まったく、何のために貴女がついていったのかしら?」
「えへへ、ごめんごめん」
「二人とも気がつきましたよー」
介抱してくれていた燐が二人を連れて入ってきた。
「ご苦労様。さて、二人とも仲直り…したようね。」
さとりは二人の顔を見て気づいた。
頬は腫れていたが、二人とも清清しい表情をしている。
「はい!こいつ馬鹿だけど、話してみたらすごくいいやつでして。」
「おくうもバカだけどいいやつだよ!」
「そう、よかったわね。でも人に馬鹿なんて言っては駄目よ?」
「はーい!」
そう言うと、二人は外に遊びに行った。
「元気でなにより。さて、二人も機嫌を直したらどう?」
さとりは大妖精と燐に向けて言った。
二人は自分が不機嫌そうな顔をしていることに気づいていなかったようだ。
慌てて否定の言葉を探している。
「ふふ、嘘はいけないわ。大事な友達を取られたような気分なんでしょ?」
さとりは全てお見通しだった。
皆に頼られる、素敵なお姉さん。
それが、大妖精の抱いたイメージだった。
だから、思い切って聞いてみた。
「あの…私、変でしょうか?チルノちゃんに友達が増えてうれしいのに、一方で空さんなんかいらないと思ってしまうんです。空さんが嫌いなわけじゃないのに、なんで私…」
「あたいも!さとり様、あたいもそうです!チルノはいいやつなのに、おくうと一緒にいるのを見るとなんだかムカムカして…」
「何も変なことではないわ。そうね…こういうときは、皆で仲良くするのが一番ね。四人で遊んでみたら?」
さとりは優しく微笑んで言った。
その微笑で、二人の心がどれだけ救われたことか。
二人とも、自分が嫌な奴だと思っていた。
ただ仲良くしているだけで、誰かに嫉妬するなんて最低だ。
だから、自分は最低な奴だ。
そう思い込んでいた二人に、さとりの微笑みは光を与えた。
変なことではない。
その一言で、こんなに救われた気持ちになるとは思わなかった。
「よし、早速行こう!大ちゃん!」
「はい!さとりさん、ありがとうございました!」
そう言うと、二人は外へ走っていった。
世間ではね、それを恋と呼ぶのよ。
さとりは敢えてその言葉を呑み込んだ。
この子達には、まだ早い。
誰かを好きだという気持ちは、自分で見つけ、自分で紡いでいくものだ。
いつか、自分の気持ちが恋だと気づくまで。
それまでは、皆仲のよい友達でいいじゃないか。
もしも自分の想いに気づいたら、そのときはしっかり相談に乗ってあげよう。
そう思いながら、さとりは窓の外を眺めた。
四人でなにやら追いかけっこをしている。
不意に、後ろから抱きしめられた。
貴女は遊びにいかないの?
うん…だって私、お姉ちゃんと一緒にいたいから。
こんな私でいいの?
私、お姉ちゃん大好きだもん。
ありがとう。私もよ、こいし。
地霊殿には、季節はずれの花が咲いていた。
全てを見守る、優しい花の蕾。
そこに吹き渡る、自由な風。
二つは混ざり合い、それは見事な花を咲かせたそうな。
大ちゃん可愛いよ
www 大ちゃんがんばれ。
チルノかわいいよチルノ。拳で語りあう女の友情。
これこそ、小さな子供にとっての大冒険。
古明地姉妹、かわいいよ!
>>1さん
めでたしになってよかったです。
大ちゃんはかわいいよ!
>>2さん
大ちゃんは苦労人ですよね。何しだすかわからないチルノを御するのはえらく大変そうです。
⑨対決ですが弾幕勝負だと明らかにチルノに分が悪そうなので拳で語ってもらいました。
>>3さん
この二人は最初ものすごい喧嘩をしてその後すぐに仲良くなりそうですね。
>>4さん
きっとこの二人にとっていい経験になったことでしょう。
さとりんもこいしちゃんもかわいいよ!