Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

まずは、それから

2009/04/29 19:10:25
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私は嫌われ者だ。
地底に閉じ込められたものたちは得てしてそういう妖怪ばかりだが、その妖怪たちにすら私は恐れられる。
「強いから怖い」のではない。「心を読まれて気持ち悪いから嫌」なのだ。
普通に考えれば誰だって嫌だろう。
力を悪用するつもりがないにせよ危険で忌むべき能力である事には違いない。地上に顔を見せる私は、そこに住む妖怪や妖精からは煙たがられている。これではおちおち地上観光もできないし、ペット探しに至っては論外だ。
結局、私は地底に戻る。

地上に出る場合、もしくは地上から帰る場合には必ずここを通らねばならない。
同じく忌み嫌われる妖怪、番人がいる穴を。
番人の名は水橋パルスィ。
今日も彼女はそこにいた。
「またペット探しに失敗?」
外に出れるあなたが妬ましい。ペット探しに情熱を傾けるあなたが妬ましい。
嫉妬の妖怪の心の中はひどい有様だった。こういうときばかりは第3の眼を閉じたいと思うのだが、残念ながらできない。
パルスィの心の声を極力無視するように勤めつつ、さとりは困り顔を彼女に向けた。
「そうですね。なんとかならないものでしょうか」
「その前に自分の妹を何とかしたら?」
妹がいるあなたが妬ましい、妹想いなあなたが妬ましい。
「耳が痛いですね。聞かなかったことにしておきましょうか、そしたら痛くなくなるはずですから」
「間違ってはないけど随分と奇抜な考えね」
「こいしは何とかなるでしょう。いけないことをすれば紅白や白黒がまた動き出すに違いありませんから、監督者が増えてなによりです」
「ペットを信じすぎて痛い目見たのはどこの誰だったかしら」
すぐに気分をいれかえられるあなたが妬ましい、ペットを持つあなたが妬ましい。
・・・・・・・・、
彼女との会話の間、ずっとこれを聞いていなければならないのだろうか?
「まったく、厄いですね」
自分の心の葛藤を口にしただけだったのだが、パルスィはなぜか反応をよこしてきた。
「厄?何があったのか知らないけど、お払いしてあげましょうか?」
「あなたは嫉妬の妖怪ではなかったのですか?」
「縁切りもできるわ」
切ってどうする。
「それでは駄目ではないですか・・・・・・あぁなるほど」
さとりはパルスィの心を読んで納得した。
「悪い縁を切ると」
「えぇ」
「できもしないことを口にしてはいけません」
その先の心まで読めるさとりに、気休めの言葉はまるで意味がなかった。
パルスィが頭をかく。同時に、どうやって会話を成立させたらよいのかと心の中で悩む声もともに聞こえた。
「やっぱり、心が読まれるとやりずらいわね」
心を読めるあなたが妬ましい。
やっと止んだと思ったのにまた始まった。悪い縁を切る前に、パルスィからの心の声を切って欲しい。
「そんなに嫌われてるのに、何で地上に行くのよ」
「地上のペットも欲しくなりましたので」
「ふぅん」
そんな理由なんだ。と続けて彼女の声が聞こえてくる。
もっと深遠な理由があると思ったのだろうか。興味を失ったようで、パルスィは適当に相槌をうつだけだった。
「地上の妖怪はシャイですね」
「物は言いようとはまさにこのこと。心が読まれるのが嫌なんだから当然でしょうに」
「わかっていますよ」
そんなことは百も承知だ。言語を持つ者たちは、わざわざ言わなくてもいいものをどうして口にしたがるのだろうか。
・・・・・・自分のことを棚にあげていましたね。少し反省することにしましょう。
するとパルスィはにやりと笑って、
「そんなあなたに朗報」
「『文通をすればいいじゃないの』ですか。なるほど確かによい手段だと思います」
「あ~、だから心を読むなと」
「読めてしまうのですから仕方ありません」
口は災いの元。反省したつもりだが、この癖は用意に治るものではないらしい。気をつけよう。
しかし文通と言うのは画期的かもしれない。
「文通でも交換日記でもいいけど。
遠方にいる相手の心は読めない。相手も心を読まれる心配がないのだからまっとうに付き合えると言う寸法ね」
「私の独白セリフを取りましたね?」
「ささやかな仕返しよ」
仕返しができてスッキリしたのか、彼女から放たれる妬ましいオーラがすこしだけ薄れた。
「その文通案は採用です。早速方々に送りつけてみましょう」
「紅白はめんどくさがってやりそうもないし、頭の弱い奴とはそもそもできないから人選ミスはしないようにね」
「えぇ」
あぁ妬ましい、妬ましい。
「・・・・・・」
彼女の心からは、嫉妬にまみれた声しか読み取れない。



それから二月ほどが経った頃。

さとりは地上と地下を結ぶ穴の入口へと足を運んでいた。もちろんそこにいる妖怪に会いに行くためであり、それ以外の用件は持たない。
今日も彼女はそこにいた。
「さとり様がここに来るなんて、ここ最近では珍しいわね」
「おかげで文通がうまくいっていますから。今日はその報告に来ました」
「わざわざ?別にいいのに」
その律儀さが妬ましい、文通ができて妬ましい。
覚悟はしていたが今日も声が聞こえる。
「それで、誰と?」
「ワーハクタク、守矢の巫女、永遠亭の輝夜、人里の阿求。あと頻度は低いですが、霊夢とも連絡を取り合っています」
「また随分と節操なく送りつけたみたいね」
「そうですね。全体の約5分の4からは返信がありませんでしたが、それでも十分な戦果といえるでしょう」
「どれだけ送ったのよ・・・・・・」
パルスィが呆れている。
さとりとしてもやりすぎたかなという感はあったが、まぁまずは送ってみるかと言うことで文々。新聞を配る際に一緒に撒いてもらったと言う次第だ。もちろん、その依頼もすべて書面にて行うよう勤めていた。
「あなたのおかげで地上の者達も少し物腰が柔らかくなったように思います。このような手法があるとは、少し能力に頼りすぎていたのかもしれませんね」
話すうちに自分が高揚していくのがわかる。これは大きな進歩だ。
恐れられ、嫌われた妖怪の大きな一歩。
「なんにせよ、よかったわね」
成功するなんて妬ましい、幸せそうな顔が妬ましい。
・・・・・・口に出して言っていることと心の声が真逆になりつつあるのですが、大丈夫でしょうか?幸せな話をする相手が嫉妬の妖怪と言うことを忘れていました。頃合いを見て退散したほうがよさそうな気がします。
そんなことを考えているうちに少々居辛くなってきて、思わず私はパルスィから目線を外してしまった。
妬ましい、憎たらしい、妬ましい。
それでも心は勝手に読めてしまう。それにしても嫉妬に混じって憎たらしいとは、少々危険な香りがしてきた。
妬ましい、妬ましい。
妬ましい、妬ま――――
空白。
無音。
え?
心の声が聞こえなくなった?
この距離で、こんなことは初めてだった。
私は慌ててパルスィの顔に目線を戻す。
その数瞬だけ見えたパルスィの表情。
彼女は、


口元を綻ばせて、

でもほんの少し寂しそうに、

微笑んでいた


嫉妬心にすべてを飲み込まれた妖怪が。
次に瞬きをした後にはいつもの嫉妬心あふれる緑眼になっていたが。
心の声が、また私に届き始める。
妬ましい、妬ましい、妬ましい。
今のは、見間違いだったのだろうか。
「パルスィ?」
「悪い縁は切ってあげたわよ」
そう彼女は言う。
縁切りを彼女がやったわけではない。でも彼女のおかげではある。
「ありがとうございます」
「じゃ、私は番に戻るわよ?最近むやみやたらに騒ぐ活発な妖怪が多くてね」
「えぇ・・・・・・」
彼女はさとりに背を向け、縦穴に戻っていく。そのパルスィの背中をさとりは見つめた。
いけないこととわかっていてもパルスィの心の声はさとりに聞こえてしまう。
あぁ妬ましい、妬ましい。
その心は嫉妬に包まれた喜びの声か、ただの嫉妬心か。
パルスィの献策で私の悪い縁は幾分断ち切れた。
でも、
「あなた自身が救われることはないのですか?橋姫」
小さくつぶやいたその言葉はパルスィには届かない。
さとりのように思い悩むこともできない、ただ嫉妬に駆られるがままの妖怪。
誰からも忘れ去られ、誰からも嫌われた悲しみの妖怪。
彼女は自らの住処に戻っていく。
過去という鎖につながれたまま、彼女はそこに戻るだけ。
結局はそこにしか居場所がないのだ。私にとって、何とか心落ち着けられる場所が地霊殿しかないように。
しかし先ほどのは。
先ほどみせたあの表情は・・・・・・彼女のもう一つの心だったかもしれない。
「パルスィ」
その彼女を呼び止める。
「なに?」
彼女の心を読んでも、嫉妬にまみれた声しか聞けない。
その奥にある心を読むことができない。
彼女の口からも何も語ってはくれない。
今私がしてやれることは、
「暇があるのなら、今度地霊殿に顔を出してみてください。お茶くらいは用意できますよ」
「まぁ、その気になったらね」
その気になったら。
嫉妬心に身を沈めた妖怪がその気になるのはいつの日か。
いくら待ったとしても、彼女は地霊殿には来てはくれないだろう。
「そうですか。いえ、今はこれでいいのでしょうね」
「ん?」
言語を持つものは言葉を話す。しかし言葉だけではすべてを語りつくせない。
私の能力を持ってすれば、パルスィの心もいつかはわかるのだろうか?
ただ共有するだけ。私にはそれしかできない。

私の能力は嫌われる。でも、喜んでくれるものも確かにいる。
あなたは私の能力を嫌う。でも、この力であなたを少しでも幸せにしたい。
だから、あなたの本当の心を、
いつかは私に見させて欲しい。
あなたの悪い縁を断つために。
でも今は、

「パルスィ。私と文通をしてみませんか?」
まずは、それから。

 
 
 
まず始めにこのSSができた経緯を話すぜ。
私は「キューピッドパルスィ」なるギャグものを書いていたはずだった。しかしオチを考えているうちにいつの間にかさとりが出演し、気づけばまったくの別作品になっていた。
そして「・・・・これでいくか」と思い直し、1から書き直したわけだ。
あるぇ~??


地霊殿組を書くなら、さとりとパルスィかな。
これが私の29作目のようなので、次にSSを出したらいよいよ30作品となるわけです。失笑レベルでいいから、がんばってギャグものを書きたいなぁ。
水崎
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
なんか素晴らしいSSを読んだ気がする。
2.名前が無い程度の能力削除
良いですねぇ。
落ち着いた物腰のパルスィがとても素敵です。
3.名前が無い程度の能力削除
さとりとパルスィ、他者を寄せ付けない二人がちょっとだけ近くなったいいお話でした
4.名前が無い程度の能力削除
両方とも心に関連した妖怪、案外仲よさそうですよね。
5.名前が無い程度の能力削除
いいね。女神と鬼が出てて。