Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

はじまり

2009/04/27 19:10:55
最終更新
サイズ
9.72KB
ページ数
1

分類タグ


そこには何もなかった。
何もない空間と言えば一面真っ暗闇の世界を想像していたのだが、ここは白一色に染め上げられている。
あまりにまぶしくて瞳を閉じると黒の世界しか見えなくなる。当然だけど。
黒一色と言う光景を見ていると不安になり、結局私は目を開ける。

すると先ほどまでなかったはずの人が目の前にいた。
逆さまで。
重力すらない空間なのでどちらが正方向かなんてわかるはずもないが。この状態で話すのは失礼だろうと、私はちゃんと向き合うように体を動かした。
「迷ったの?」
誰だろう?知らない顔だ。そもそもこの空間に誰かがいると言うこと自体がおかしいことなので、知っている人がいてもらっても困るわけだが。
とりあえず答えておく。
「迷ったと言えばまさにその通りね」
「あらあら」
銀髪の女性はおかしそうに笑う。
私は苦労の末、ようやく魔法使いとなることができた。そして魔法研究を進めていた矢先にどこをどう間違えたのか、研究中に今いる異質な空間に放り出された。
恐らく研究の途中で式を組み間違えたに相違ないだろう。元居た場所に戻るにはこの魔法式を解除しないといけないのだが、どこをどう間違えたのか見当が付かない。つまり解除ができない。
解除ができなければこの空間の住人にならねばならない。しかしこんな場所に移住する気はさらさらないので、何とかして戻りたい。
さぁ困った。
「こんな場所に迷い込むなんておかしな子ね」
「そんなあなたも迷宮に囚われているのかしら?」
「私はここに住みに来たのよ」
そして移住しに来た先で私に会ったと。この場合、第一村人はどちらだろうか。
・・・・・・訂正。私も彼女も『人』じゃないからどっちでもいいや。
「こんなところに住むだなんて、変な人」
「こんなところに迷い込むだなんて、変な人」
切り返された。
「ねぇあなた、名前はなんていうの?」
「私はすぐにここを出て行くし、名乗る必要があるのかしら」
「困っていたみたいだから助けてあげようと思ったのに」
言って彼女はあさっての方向を見る。
しかしこの女性は私を助けてくれるのか。助かる。
「助けてくれるの?」
「名前を教えてくれたらね」
「・・・・アリスよ」
下の名前は言わない。
彼女は少なくとも人間ではない。魔人にしろ妖怪にしろ悪魔にしろ、人外にフルネームを教えてやるのは非常に危険な行為だ。だから普通は別の名を名乗るが、こっちは切羽詰った状況なのでそこまで頭が回らなかった。
すると私の名前を聞けてうれしかったのか、彼女は小躍りなんぞを始める。
「私は神綺っていうの」
「あぁそう」
「ねぇアリスちゃん」
「何よ」
自らを神綺と名乗る彼女は両手をお釈迦様のように合わせ、わざとらしく
「アリスの名前が知りたかっただけなの。つまりさっきの嘘。ゴメンね~」
このやろう。
思い切り殺意が芽生えたが、そこは思いとどまる。
「でね、アリス」
「役に立たない奴に興味はないわ。ここに住みたいんでしょう?よかったじゃない、どうぞ存分に心行くまでニューライフを送ってね」
「ひどい、ひどいわアリス!お母さん、そんな子に育てた覚えはありませんよ」
「誰が誰のお母さんだ、このあほ毛!」
あほ毛にしか見えないサイドテールの持ち主を指差し、わめいておく。
「そんな口の利き方、神様の前でしていいのかしら?あと人を見て指差さない」
こんな軽いノリの神様がいたら世界も平和だろうて。
「へぇ、神様ねぇ?どこのよ」
「魔界の」
サタンとかそんな感じだろうか。しかし魔界神サマがこんな空間に何の用だろうか。
「出張お疲れ様」
「出張?」
神綺は何の事かと首をひねり、その後で私のいいたいことを理解したようで手をぽんと叩くと、
「ここに魔界を作るのよ」
「神様候補ってだけかい!」
何だこの人は。天然か?ぼけてるのか?
「ところでアリス」
「・・・・何よ」
「わたしって前後左右上下よくわからないし初めてだから、アリスにも手伝って欲しいのよ~」
「あんたの手下になれってこと?何で魔界創造の片棒担がないといけないのよ・・・・・・・・と言いたいところだけど」
私は自分の体を見回してため息一つ。
「どうせ帰れないしね」
「ありがとう」
反則的な笑顔を振り撒き心底うれしそうに両手を合わせる魔界神、になる予定の人。
「でも私は一介の魔法使いだから、何もできないに等しいわ」
「アリスは人間の社会制度とか町並みとか知ってるの?」
「まぁ、一応。まさか魔界を作るのに人間社会を基礎にするわけ?」
「最初は私が適当に作ろっかな~と考えていたんだけど。アリスに出会えるなんて、これは神のお導きね」
あんたはその神になるんじゃないのかと問いただしたい。
ともあれ、神綺の魔界創造はここから始まった。



すべてが順調というほどではなかったが、神綺の魔界村製作はそれなりのペースでそれなりの成果を出していた。
地面を作り、森を作り、湖を作り、家を作り・・・・・・
土地の基礎が出来上がったところで、神綺は魔人たちを生み出し始める。
魔人たちは大地に放たれ、神綺の指導の下コミュニティーが形成されていく。それを軸として、魔人たちは自立した生活を営むようになっていった。
私が「死の少女」なんてありがたくもない二つ名で魔界人に呼ばれるようになったのもこの頃だったように思う。夢子には敵わないまでもそこらの魔界人よりは強かったし、魔界を作る際に最初からいたという事で魔界人たちが安直につけたらしい。
神綺はさらに世界を作る。
こんな軽いノリの神様がいたら世界も平和だろう――――冗談交じりにアリスが思っていた通りの空間がいつしか形を成していた。それは『魔界』という禍々しい世界と呼ぶには到底ふさわしくない、割と平和な世界。
アリスは神綺に自らが知る社会制度の知識を教えはしたがそれ以上干渉することはなく、また神綺もアリスを束縛することはなかった。アリスは神綺の住む場所とは違うところに居を構え『魔界人アリス』として他の魔人たちの中に溶け込み、魔法解除のための修練を積んでいた。その間も二人はときどき会い、他愛もない世間話をして日々を過ごしていた。
神綺は創造を続け、やがて魔界は魔界として成立することになる。

そして魔界作りが一段落ついたある日、
神綺はアリスの家へとやってきた。



「人形?」
「そう、人形よ」
神綺は2体の人形をアリスに差し出す。拒む理由はないのでそれを受け取ったが、何故人形なのかと疑問に思い人形と神綺の顔を交互に見る。
すると突然2体の人形が動き出した。人形はアリスの周りをグルグルと飛び回る。
「私が作ったものだから正確には魔人になるんだけどね。アリス、自分の魔法を解けないままでしょ?常時別の魔法を動かしっぱなしだからアリスは本来の力が出せない。
そんな時に変な人に襲われたら困るでしょ?だから、それまでのつなぎにと思ってね」
「何で人形なの?夢子みたいな魔人でもいいでしょうに」
「それじゃかわいくないじゃない」
「そんな理由!?」
「私がかわいくないとおっしゃいますか神綺様?!」
本当にユルい神様だなぁ。ていうかいたのね夢子。
「うそうそ、冗談よ。夢子ちゃんはかわいいわよぉ~・・・・・・・・あら、夢子?」
神綺に頭を撫でられただけで幸せの絶頂に立った夢子はそのまま気絶。天然神様の下にはやっぱりろくな魔人がいないようだ。
夢子のせいで話の腰が折れてしまったので、アリスはもう一度同じ質問をなげかけた。
「で、なんで人形なの?」
「前に自立人形の話を聞かせてくれたじゃない?」
確かにその話はした。
どこで見たかも忘れてしまったが、私は完全自立行動をする人形を見たことがある。アレを見たときの感動は忘れられない。
魔法使いになれたのでそのうち研究をしようと思っていたのだが。今はそれどころの騒ぎではない。
「参考になればと思って」
だから人形をくれたのだろう。
「ありがとう」
「この子達もちょっとした芸ができるから、きっとアリスの役に立つわよ」


人形を貰った私は、改めて魔法解除の為に勉強を重ねた。同時に、人形達をうまく扱えるように練習もした。
そんなある日に彼女たちは現れた。
霊夢。
魔理沙。
魅魔。
幽香。
縦横無尽に弾幕をばら撒き、せっかく神綺が作り上げた空間をみだす輩。
仮にもお世話になった世界だ。愛着くらいはある。だから私は人形を伴って彼女達を排除しようとした。
「しくしくしく・・・・」
しようとした結果がこれだ。
頭が春っぽい巫女に破れ。田舎魔法使いに敗れ。やばげな悪霊に敗れ。危険臭のする妖怪に敗れ。
人形達はよくやってくれた。
足りなかったのは私の技量。


結局夢子も神綺も、彼女達には敵わなかった。


このまま黙ってやられるだなんて。
私は自らが記した魔法書をひっさげ、再び彼女らがいるところへと赴く。
究極の魔法を持って。


でも、敵わなかった。


そんな騒動もあったが、それを除けば魔界は至って平和であった。むしろあの騒動で他の世界とのつながりもできたのだから神綺としてはうれしいかぎりだろう。
私は己の未熟さを痛感し、さらに魔法研究を続けた。人形の扱いも前より数段上手になった。
そして騒動からそれなりの時間が立った頃。
見つけた。
自分が組んだ魔法式の間違っていた箇所を。その解除法を。
見つけてしまった。

これを解けば、ここ魔界とはおさらばだ。
帰れるわけだ。
ただしこの空間はたまたま飛ばされてきた場所。魔界への行き方がわからない以上、解いてしまえばここに戻ってくることもできなくなる。
私は解除を躊躇った。
魔界と言う場所は私にとって、すでに故郷であった。
その場所を離れることに抵抗があった。
神綺にも夢子にもよくしてもらっていた。偶然とはいえここに来れてよかった、このまま住んでもいいとさえ思っていたのだ。
しかし私にはやりたいことが2つある。一つは自立人形の研究。ただしこれはここでもできるだろう。
そしてもうひとつは。



「いってらっしゃい」
神綺はそういってくれた。彼女が私を引き止めるとは思っていなかったが、やっぱり心のどこかでは止めて欲しかったのかもしれない。
未練がましい。
それを振り払うように私は2体の人形を取り出す。
「この人形貰っていいかしら」
「アリスにあげた物よ、もっていきなさい」
「ありがとう。でも二つはいらないわ」
言って片方だけを神綺に押し付ける。
「言っておくけど、その子が気に入らなかったからって訳じゃないからね?」
「わかってるわよ」
神綺は人形を受け取ってくれた。
「あなたのことは忘れないわよ、アリス」
私は忘れないからあなたも私のことを忘れないでね。
人形を残した意味がもうばれてた。天然のくせにこういうときは鋭いのね、あなた。
私は手元に残したもう一体の人形を見つめ、
「この子、上海って名前にするわ」
「じゃあこっちの人形には名前をつけないでおきましょう」
「・・・・・・・・」
「いってらっしゃい」
「・・・・・・・・行ってきます」
私は神綺に背を向けた。
もう帰っては来れないかもしれない。
でも、帰ってくる気はある。
だから『行ってきます』。

私は、魔法を解除した。





解除すれば元居た場所に戻れるものとばかり思っていたのだが・・・・・
どうやらここは幻想郷らしい。
忘れ去られた妖怪はここ幻想郷に運ばれる仕組みだそうだ。
私は長年魔界にいた。その間に私の存在は忘れ去られてしまっていたのだろう。
「一からやり直しかぁ」
しかし雪がよく降る、今は季節的に春だった気がするが勘違いだっただろうか。
誰だこんな雪を降らせているのは、寒いじゃないの。
腰に手を当て、空を仰ぎ見た。
その見上げた先。
曇り空を飛翔する影一つ。
「なるほど」
この雪を降らせている犯人をとっちめるつもりだろう。
此処であったがなんとやら。ちょっと付き合ってもらうわよ。
その為に魔界を離れたんだから。
地面を蹴り、空へ昇る。





「しばらくぶりね、霊夢」



 
神綺とアリスの親子関係という二次設定にあえて逆らってみた。
そしてすべてをこじつけてみた。旧作設定は一掃されているらしいし、別にいいよね?
なんぞこれー


アリス考察は際限なく膨らむ。妄想ともいう。



スペインGP - 5/10
モナコGP - 5/24

ふむ・・・・・・・


こっそり誤字修正。5様ありがとうございます
水崎
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
>>アリス考察は際限なく膨らむ
同意。考察家にとってはたまらなく美味しいキャラですね。
細かいキーワードは沢山あるのに謎だらけで難しいところが。
全く別の説を支持する私ですが、このお話はとても面白かったです。
2.名前が無い程度の能力削除
おおー、こういうのも新鮮でいいなぁ。
3.名前が無い程度の能力削除
すごい、何もかも自然に思える。
4.名前が無い程度の能力削除
確かに一掃されてるという記述はありますが、一方で特に変化ないという記述もあって
「どっちやねん」って感じなんですけどねw>旧設定

ともあれアリスは考察の余地が多いというのは激しく同意
色んな話がこれからも出てきそうで楽しみなところです
5.名前が無い程度の能力削除
魔界のある空間は神綺が創ったのか元からあったのか、とか、そっちでも膨らむ膨らむ

>そこ子
 その子?
6.奇声を発する程度の能力削除
水崎さんの書くアリスSSは凄い!!!!!
7.名前が無い程度の能力削除
神アリ親子派だけど、こういうのも良いなぁ。