Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

弾幕少女達が消えた日

2009/04/25 16:01:03
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 その日は特別な日だった

 自分の親友が結婚した日で、自分も披露宴に出てきた

 少し昔の自分なら、思いっきり騒いで祝福するのだろうが

 親友におめでとうと伝えると、二次会にも行かずに静かにしていた

「…私も丸くなったものだぜ」

 多分それは、親友の幸せそうな姿を見て嫉妬していたに違いない 

 霧雨魔理沙はそう思いながら、静かに飲める場所に向かっていた










 静かに飲める場所にたどり着く

 そのお店の看板には『閉店』の看板が掲げられているが
 
 魔理沙は、そんな事気にしないでお店の中に入ると

「…というわけだ、愚痴を聞いてもらうぜ」
 
「…どういう意味か僕には全く分からないんだがね」

 お店の店主の言葉も聞かないで、勝手知ったるお店の奥に入って行く

 その様子に、お店の店主も呆れながらも何か思う事があるのだろう

 台所から一本お酒を取り出して魔理沙の後を追った




「…うまいなこのお酒」
「そうか、それはよかった」
 魔理沙と霖之助が静かにテーブルの上に置いてあるお酒を飲む
 普段なら魔理沙が色々と、明るい話をしたりするのだが
 今日は無言のまま、静かにお酒を飲んでいた
「…今日の披露宴なんだけどさ…」
 不意に魔理沙が口を開く
 霖之助は何も言わずに魔理沙の言葉に耳を傾ける
「…綺麗だったよな」
「ああ、とても綺麗だった」
 霖之助もその場に出ていたので、魔理沙の言葉に頷く
 今日の披露宴の会場にはいろんな人や妖怪が集まっていた

「…霊夢、幸せそうだったよな」
「そうだな…」


 今から少し前、博麗霊夢が結婚するという連絡が流れた
 冗談かと思っていたら、本当の事であった
 結婚した男は里の者で、偶然知り合ったのだったが
 霊夢もその男もそれからよく会うようになり
 気がつけば、二人ともお互いを想いあうような仲になっていたらしい


「これで、霊夢と戦う事はもう出来なくなったな」
「ああ、これからは新たな博麗の巫女を育てるって言ってたしね」 
 もっとも、すぐに霊夢が博麗の巫女を辞めるわけではないが
 これからは、色々と忙しくなるはずだから
 しばらくは誰も霊夢に相手にしてもらえないだろう
「レミリアや紫が駄々をこねていたぜ」
「…だろうね」
 霖之助と魔理沙が御猪口に入れたお酒を静かに飲み干す 
 そして再び二人とも無言になる

「…ん、一本空いたか」
「今、新しいのを出そう」
 気がつけば、お酒が一本空になっていた
 飲むペースとしてはけして早い物ではないが
 無言の空間の中でお酒が無いのは少々辛い物がある
 霖之助がもう一本別のお酒を持って来て自分の御猪口に注ぎ
 次に魔理沙の御猪口に注ごうとしたが

「いや、もう良いぜ…」
 魔理沙がそれを止める
 いつもなら、先に何処からかお酒を持ってくるはずなので
 霖之助が少し驚いた様子で伝える
「珍しいね、君が静かになるなんて」
「…たまには静かにするのも悪くないぜ」
 霖之助の言葉に困ったように笑みを浮かべた
 
 そして再び静かな空間が広げられるかと思っていたら
「…これで私だけになっちまったな」
 魔理沙がそう小さく呟いた
「なにがだい?」
 霖之助にはそれがどういう意味かはわかっていたが
 あえて、魔理沙にそう問いかけると
「弾幕少女がだ…」
 魔理沙が目を瞑って答える
「…人間の中で、私以外は皆結婚しちまったからな」
 その言葉が全ての答えであった


「あの咲夜は、今じゃあメイド長で母親だしな」
 今から数年前に、紅魔館のメイド長が結婚した事は
 当時のトップニュースだった

「早苗の奴も、幸せそうだしな」
 守矢神社の巫女である早苗も、今から数年前に里の者と結婚している
 今では子供を育てるのに大忙しだ
  
「…それに今日の霊夢で最後だ…」
 そして、一番結婚する事が無いと思われていたあの霊夢も今日結婚した


 その事実に、魔理沙が皮肉交じりに笑みをこぼす
「皮肉だぜ…恋の魔砲使いの名を貰っていた私が行き遅れになるなんてな」
 結局、人間の弾幕少女達の中で一番最後に残ってしまったのが
 恋の魔砲使いである霧雨魔理沙だったのだ
 
「…今からでも相手を探してみるかい?」
 そんな魔理沙の御猪口にお酒を注ぎながら霖之助が声をかけると
 魔理沙が笑いを少し堪えながらつぶやく
「はは、残念だな…今更男を探してももう遅いぜ…」
 魔理沙がそう言うと、御猪口をグッと飲み干して
「もう私も三十路だしな…」
 なんだか寂しそうにそう答えた
 
「人間達は皆引退して行っちまって」
 かつて弾幕少女と呼ばれていた白黒の魔法使いにも
 時という呪いで、既に弾幕で戦うという事も少なくなっていた
 それでも、魔理沙は今日まで戦い方を考え続けていた
「せめて、霊夢に勝つまではって思っていたんだけど…」
 だが、その霊夢も今日、弾幕少女を引退した
「霊夢が結婚するの見てからな…」
 魔理沙が寂しそうな顔で、御猪口にお酒を入れる
「なんだか夢を見るのも…今日までだなって思い始めてきたんだ」
 そう注げてから、御猪口のお酒を再びグッと飲み干した
 その様子に、霖之助が静かに目を瞑り
「…魔理沙…今日は飲もう」
 魔理沙にそう伝えて、もう一本お酒を用意した

 それが不器用な霖之助にできる、精一杯の慰めであった








「へへっ…此処まで飲んだのは…神社の大宴会以来だぜ」
 魔理沙がそう言って頬を染めながらテーブルに突っ伏す
「…これでお開きかな?」
 テーブルに突っ伏した魔理沙に
 自身も随分酔っている霖之助が声をかけると
「…最後に一杯だけ…」
 魔理沙がそう伝えて、小さな御猪口にお酒を注ぐ 
 霖之助も、それに応じる為に御猪口にお酒を注ぎ

「これが…楽しかった少女時代にお別れの乾杯だぜ」
「わかった」

 そして、お互いに御猪口を軽くぶつけて
 それを飲み干してから、魔理沙が倒れるように眠った
「…お疲れ様」
 その様子を確認した霖之助は
 昔に比べると成長した魔理沙を抱えてベッドに運んだ
 
 






「…あ~…頭が痛い…」
 次の日、魔理沙は久しぶりの二日酔いに頭を痛める事になった
 香霖堂のベッドの上で、二日酔いの薬を飲みながら
 これからどうするか考える
「…魔法使いになってもなぁ~…」
 霊夢に勝とうと思って頑張ってきたが
 その霊夢が弾幕をしなくなってしまっては情熱が湧いてこない
(…本当に…どうするかな~)

 既に完全な魔法使いになるための『捨食の法』も
 会得しようとすればできる所まで来ているのだが
(…意味も無く長生きするつもりは無いしな)

 目標が無く長生きする事ほど辛い物は無い
 それは、蓬莱人などを見てよくわかっている
 
「…親父さんと和解してみたらどうだい?」
 そんな魔理沙の後ろから、霖之助がそう声をかけてきた
「…親父と和解か…」

 昔の魔理沙なら、その話題だけで機嫌を悪くして逃げたであろう
 だが、今の魔理沙は言葉を受け止める事ぐらいは出来る
 魔理沙は、その言葉を静かに頭の中で考え始めて
「…それも悪くないかもな」
 一言、小さくそう呟くと
「それに、結婚相手も探さないと、霖之助のように行き遅れになるしな」 
 照れ隠しにそう言って霖之助をからかい始める 


 それから数日後、霧雨魔理沙が
 里の実家に戻ったと言う話が流れた
 何時までも、親と喧嘩するわけにもいかないと思ったのだろう
 自分の親父と話し合いを行い
 実家に戻ることを決めたとの事だった…













「…で、家に一旦戻ってから、何ですぐにまた僕のお店に来るかな…」
「だってな~…親父の奴うるさいんだぜ」
 香霖堂の中に再びやってきた魔理沙の一言は
『しばらく匿ってくれ!』だった
「はぁ…これじゃあ前と変わらないじゃないか」
 ため息をつく霖之助に、魔理沙が頭をかきながら答える

「…悪かったぜ、でも親父の奴『早く結婚して孫見せろ』ってうるさいんだぜ?」
「…まったく…霧雨の親父さんは…」
 その言葉に、霖之助と魔理沙がため息をついた
「仕方ないから、とりあえずお見合いの写真だけは持って来たけどさ…」

 そこにあるのは大量のお見合い写真
「…私一人じゃ辛いから、霖之助も手伝ってくれ」
「…しかたないな」
 霖之助と魔理沙が、写真の中の人物を仕分けしていく
 だが、どれも魔理沙が良いと思える男性は居ない

「…これで最後だぜ…」
「そうか…僕は写真を片付けて置く事にするよ」
 最後の一枚を魔理沙が見る間に、
 霖之助がその辺に散らばったお見合い写真を片付け初めていると
「あ~!?」
 唐突に魔理沙が大声を出した
「ど、どうした魔理沙?」
 
 霖之助が慌てて、魔理沙の傍に寄ろうとするが
「な、なんでもないぜ!」
 魔理沙が慌てて手にしていた写真を隠した
「…そうか…それで、最後の一枚はどうするんだい?」
 霖之助がそう聞くと、魔理沙が頬を染めながら呟いた
「あ、会って見ようかと思うぜ」
「良い人だったのかい?」
「あ~…た、多分な…そ、それじゃあ私は帰るぜ!」 
 しどろもどろになりながら、魔理沙がその写真を抱えて帰って行く

「…この写真、どう処分したものか」
 残された霖之助がため息と共にそう呟いた












 後日、霖之助の元に、魔理沙の父から店の来るように伝えられ
 霖之助がお店に向かってみると
「森近、お前にお見合いをしてもらう」
 ついて早々いきなりそう告げられると
 お見合いの為の部屋に連れられた
(親父さんもむちゃくちゃするな…大体相手は…)

 霖之助が丁重にお断りしようとして
 目の前の相手を見ると…

「え~と…お、お見合い…だぜ」

 目の前に居たのは恥ずかしそうにして
 着物を着た魔理沙の姿だった


 












 それから更に半年後…

 博麗神社で挙式が行なわれる事になり
 幻想郷から人間の弾幕少女達は姿を消した
 どうも、脇役です…

 最近PCゲームとバイトが増えたおかげで
 お話がなかなか書けない…
 でも、お嬢様隠居の話とか魔界神がプロレスする話とか 
 考えているから(期待しないで)待っててください
脇役
コメント



1.Jupiter削除
一番ゲット・・・ですかね。
魔×霖の話は僕も好きです。最後のお見合い写真は霖之助ですね、わかります。
隠居の話は(期待して)待ってますw
2.名前が無い程度の能力削除
最期の一人が結婚して、そして誰もいなくなったと。
しかし三十路で結婚か…キツ(ry
3.削除
和服美人な魔理沙か……それはそれで良し。
4.名前が無い程度の能力削除
やんちゃな三十女か……これはこれでイイ

人間は年を取って世代交代をするものだからなあ
皆がいなくなっても、いつの間にか次が育っていたりするんだろうな
5.欠片の屑削除
人間30年近く生きてりゃ色々分かってくるもんさ、結婚は諦めてするか焦ってするかのどっちかよ
そんでもって三十路がストライクゾーンになる位が男の人生の始まりってもんでしょう
だから霖之助は男だよ、そんな霖之助を描ける脇役さんは粋ですね
6.名前が無い程度の能力削除
最後に霖之助の写真を仕込むなんて……
二人の仲は親父さんにもバレバレだったっていうことか?
7.名前が無い程度の能力削除
弾幕は娘たちに受け継げられることを希望します。

娘VS全然成長しないれみりあとかアリスとか、霊夢がゆかりんと並ぶポジションにいたりして・・・とか妄想するとついにやけます。うふ、うふふふ。
8.通りすがり削除
いや、案外半妖の霖之助とお互い最後まで添い遂げる為に捨食の法を習得しそうだな
そして、自分の皆の娘やレミリアとかアリスを巻き込んで一騒動起こしてそうだな…
やっぱり脇役さんのシリアス成分コミの作品は安心して読めるシリーズですね