Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

フタリきりの聖戦

2009/04/24 00:58:14
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・本SSは、拙作 ヒトリきりの聖戦(創想話作品集74) の後時談となっております。













 ヒトリきりの聖戦は続く。



 彼女の正義を押し付ける為。
 彼女の愛する幻想郷を保つ為。
 彼女の愛する少女達を守る為――。

 此処は外の世界。紫は、失われゆく文化を押し戻そうと、抗っている。



 通話相手のいないPHSを耳に当てつつ、紫は言葉を吐き続けた。

「あ? うん、見られてる見られてる。
 アウトオブガンチューよ、アウトオブガンチュー。
 パンピーの目なんて気にしないっての、でも、びみょーにMN5かも?」

 MN5。マジで泣きだす五秒前。うん、泣きそう。



「ママー、パンピーってなぁに? 食品製造会社?」
「いいえ、一般ピープルが転じた言葉よ」
「レイコーと同じだね」

 若干違う。



 視線を集める事には慣れている。
 けれど、好奇のとなるとまた別であり、紫は羞恥に頬を染める。
 白い肌に朱が混じる――が、厚塗りしていた黒い化粧により周囲には見えない。

 好奇の視線を感じる。
 物々しい無機質な音が耳を突く。
 埃まみれの不自然な空気が肌に触れる。

(戻りたい……!) 

 空虚に声を張り上げながら、心の内で紫は嘆く。

 澄んだ空気に身を預けたい。
 静寂にも似た風の音を聞きたい。
 愛する者達の、生暖かい視線を感じたい。

(だけど……)

 戻れない。

 紫は想像する。

 髪を金色に染めた霊夢。
 唇を白く塗る魔理沙。
 顔を黒くする早苗。

 そして、そんな彼女達が口にするのは――。

 有り得ない。否。有り得てはならない。

 だから、紫はヒトリきりで抗う。戻る訳にはいかない。

「でっさー、ゆかりの連れ? そーそ、お花畑のあの子! 鬼なんちゃっていじめっ子、みたい、な……」

 一人称を名前で言うってどうなのよ。
 鬼が何で形容詞で使われているの。
 みたいな、って確定しなさいよ!

 ――紫は、震える声で続けた。



「ママー、お姉ちゃん、泣いてるよー」
「女の子だもの。涙くらい出るわ」
「あ、ちょっと嬉しそうに?」



 母娘の言葉に、紫は薄らと笑みを浮かべる。

(そう、私を見なさい。私の言葉を聞きなさい。そうすれば、目的は果たせる……)

 再び、瞳に力が宿る。
 マシンガンのように言葉を吐き続ける。
 それは全て、自身の為。自身の正義を押し付ける為。

 頬へと伝う寸前だった水滴を、指で拭った。
 同時。触れる。綺麗な爪。小さな指。柔らかい感触。
 弾かれたように顔をあげる紫が見たのは、その動作に驚いた娘の表情。

(接近に気付けなかった――だけど、好都合よ)

 言葉を吐き出す。
 直前に、撫でられる。
 髪を、そして、心を――。

 紫の視界を、娘の笑顔が奪った。

「お姉ちゃん、いい子いい子。泣いちゃ、メーだよ」

 えへへ――一切の穢れを感じさせない笑みを残し、娘は母の元へと戻る。
 少女。いや、少女とも呼べぬ容姿。童。
 行為を母に褒められ、娘は又、笑んだ。

 紫は、ふらりと立ち上がり、母娘の視界から逃れられる場所へと移る。
 壁に手を乱暴につけ、頭を項垂れ、歯を食いしばった。
 掌に込められた力により、タイルに罅が入る。

 紫の口から零れ落ちたのは、抑えきれない慟哭。紫は、声をあげ、哭いた。



「――無様ね。八雲紫」



 後ろから、罵声が浴びせられる。
 紫は震えを抑え目を見開いた。
 言葉にではなく、声に。

「そう……そうね、今の私は無様よ。慣れない化粧に聞きかじりの言葉――」
「違うわ。わかっているでしょう? いいえ、解っていない筈はない」

 淡々とした指摘に、唇を噛む。覚えのある台詞であった。

「……だったら、空虚な独り言の事かしら」
「紫! 妖怪の賢者! 結界の大妖! はぐらかさないで!」

 言い逃れはできない。
 彼女は、全てわかっていたから。
 ヒトリの大妖が、ゆっくりと口を開く。

 彼女の名は、八雲紫。

「解っているわ。いいえ、解ってはいたのよ。
 幻想入りを防ぐ。それは、外にアレを留まらせる事。
 正義なんかじゃない。私は、ただ、我がまま故に、抗っている……」

 心情を吐露し終えた紫の肩は、震えていた。
 言動と行為の故か、もたらされる結果の為か。
 それとも、自身に笑顔を向けた娘を思ってか。

 もうヒトリの大妖に、其処までは解らなかった。

「……貴女の我がままに、賛同するモノもいるでしょうに」

 顔をあげ、紫は首を振る。

「駄目よ。
 神奈子や永琳、幽々子は、大人び過ぎている。
 逆に、諏訪子やレミリア、さとりは幼すぎる」

 だから――紡ごうとした言葉は、肩と同じく、震えていた。

 その肩に触れる手。
 優しく抱きこまれる。
 瞳を閉じたままの紫に、花の匂いが感じられた。

 もうヒトリの大妖。彼女の名は――。



「だけど――私が、いるじゃないの」
「ゆう、か……?」



 ――風見幽香。



「橙が、憂いていたの。
 私は、だから、藍の元に行ったわ。
 貴女の式は、泣いていたわよ。八雲紫」

「……同情で、此処に来たの?」

「リグルは、あの子は、とても女の子なの。里の娘にも負けないほど、流行に敏感なのよ。
 ミスティアの爪。知ってる? あの子、手は荒れがちだから、爪は綺麗にしているの。
 ――ルーミアの肌もね、柔らかくて、白くて、とても、とても素敵」

 あぁ、そうか。

「確かに、貴女もミルクの匂いを漂わせていたわね」

 紫は肩を抱く手に触れた。
 幽香もまた、微かに震えていた。
 震動が重なる。想いと、同じように。

「少女臭を振りまく貴女に言われたくはないわ」

 交わされる軽口に、フタリの震えは治まっていた。

 紫は手を外し、振り向く。瞳を開けながら、言った。



「メイク、してあげる。貴女も、賛同ぶほぉ!?」



 吹いた。

「な、何よ!? 是でいいんでしょう! 違うの!」
「い、いえ、まさか、もう塗装済みと、ひ、ひぃー」
「引きつけ寸前の笑い方しないで! 帰るわよ!?」

 幽香の頬が朱に染まる。塗られた色と重なり、赤黒くなった。

「あはは、あははははっ!」
「指さして笑うなぁ!」
「げはぁっ!?」

 渾身の右ストレートが紫の腹に決まる。風見幽香は物理的な攻撃が得意。豆知識。

「……ったく。何時まで蹲ってるのよ。行くわよ」
「ご、ごめんなさい、でも、面白すぎて……」
「そっち!? もう一発入れておこうかしら!」

 幽香の声に肩を叩き返し、紫は前へと視線を向ける。

「冗談、冗談だから! だけど、完璧なメイクよ。誰に?」

 追随するように、幽香も前を向いた。

「大ちゃんよ」

 歩き出す。
 紫は手をあげた。
 幽香もまた、手をあげる。

「……どうでもいいけど、貴女が誰かを『ちゃん』付けって、似合わないわねぇ」



 ぱぁん――と、小気味のいい音が、狭い室内に響いた。



「煩い。――行くわよ」
「ええ、行きましょう」



 紫と幽香は外へと出た。
 大妖達の瞳には、確固たる意志が宿っている。
 彼女達の正義を押し付ける為。彼女達の愛する幻想郷を守る為。彼女達の愛する少女達を護る為。





「ちょっとー、ゆかりん、やばいってー。ルーズのやり方、ちょ→間違ってるぅって感じぃ↑」
「やだ、レコーディングから出てくる前に言ってよ、ゆうかりんってばゲロ超SW」



 でも、泣きそう。だって、私達、女の子なんだもん。



「ママー、あのお姉ちゃん達、笑ってるけど泣いてるよー」
「公衆トイレから出てきて、羞恥に頬を染める少女二人。……いいわね」
「ハッテン? あと、SWってなぁに? ソードワールドの頭文字かなぁ」





 フタリきりの聖戦は、今、始まりの鐘を告げたのだった――。





                      <了>
頑張れ、ゆかりん。
超頑張れ、ゆうかりん。
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コメント



1.薬漬削除
・・・なんだろう、言葉で表せない微妙な感じ。
2.名前が無い程度の能力削除
ああ…幻想郷の平和は彼女達に託されている
だが二人の顔を想像すると噴いてしま(ry
3.GUNモドキ削除
たーちーあがーれーけだーかーくまーえーさだめーをうけーたせーんーしーよーwww

まさかの続編に超ビックリでした。
二人の山姥化を想像したくないですが、幻想郷の住人が山姥化するのはもっと想像したくありませんねぇ・・・。
頑張れゆかりん。
超頑張れゆうかりん。
幻想郷は全てを受け入れますが、受け入れてはいけない物も世界にはごまんとあるのですよ。
4.名前が無い程度の能力削除
ああ、これを読んでようやく前作を理解できた自分www
確かに幻想郷の住人があれな姿になるのは嫌ですねぇ、がんばれゆかりん、ゆうかりん。超がんばれ
5.謳魚削除
天運は脆くも剛き大妖達の為に。
未来永劫全開バトル!(違)
6.名前が無い程度の能力削除
そんな小さい女の子がソードワールドを知っているとは
つーかこの母子はいつまで見てんだ
7.名前が無い程度の能力削除
よーし作者は歯を食いしばれ!!
8.名前が無い程度の能力削除
立派に幻想郷守ってるよ。
大妖の名に恥じない強さでした。
9.名前が無い程度の能力削除
この母子何者なんだ
特に娘さん、ソードワールド知ってるとかどんだけエリートだよ
10.名前が無い程度の能力削除
三人目は誰だ?

さあ三人目を!
11.名前が無い程度の能力削除
勇ましきヴァルキュリア達に敬礼っ!!