・本SSは、拙作 ヒトリきりの聖戦(創想話作品集74) の後時談となっております。
ヒトリきりの聖戦は続く。
彼女の正義を押し付ける為。
彼女の愛する幻想郷を保つ為。
彼女の愛する少女達を守る為――。
此処は外の世界。紫は、失われゆく文化を押し戻そうと、抗っている。
通話相手のいないPHSを耳に当てつつ、紫は言葉を吐き続けた。
「あ? うん、見られてる見られてる。
アウトオブガンチューよ、アウトオブガンチュー。
パンピーの目なんて気にしないっての、でも、びみょーにMN5かも?」
MN5。マジで泣きだす五秒前。うん、泣きそう。
「ママー、パンピーってなぁに? 食品製造会社?」
「いいえ、一般ピープルが転じた言葉よ」
「レイコーと同じだね」
若干違う。
視線を集める事には慣れている。
けれど、好奇のとなるとまた別であり、紫は羞恥に頬を染める。
白い肌に朱が混じる――が、厚塗りしていた黒い化粧により周囲には見えない。
好奇の視線を感じる。
物々しい無機質な音が耳を突く。
埃まみれの不自然な空気が肌に触れる。
(戻りたい……!)
空虚に声を張り上げながら、心の内で紫は嘆く。
澄んだ空気に身を預けたい。
静寂にも似た風の音を聞きたい。
愛する者達の、生暖かい視線を感じたい。
(だけど……)
戻れない。
紫は想像する。
髪を金色に染めた霊夢。
唇を白く塗る魔理沙。
顔を黒くする早苗。
そして、そんな彼女達が口にするのは――。
有り得ない。否。有り得てはならない。
だから、紫はヒトリきりで抗う。戻る訳にはいかない。
「でっさー、ゆかりの連れ? そーそ、お花畑のあの子! 鬼なんちゃっていじめっ子、みたい、な……」
一人称を名前で言うってどうなのよ。
鬼が何で形容詞で使われているの。
みたいな、って確定しなさいよ!
――紫は、震える声で続けた。
「ママー、お姉ちゃん、泣いてるよー」
「女の子だもの。涙くらい出るわ」
「あ、ちょっと嬉しそうに?」
母娘の言葉に、紫は薄らと笑みを浮かべる。
(そう、私を見なさい。私の言葉を聞きなさい。そうすれば、目的は果たせる……)
再び、瞳に力が宿る。
マシンガンのように言葉を吐き続ける。
それは全て、自身の為。自身の正義を押し付ける為。
頬へと伝う寸前だった水滴を、指で拭った。
同時。触れる。綺麗な爪。小さな指。柔らかい感触。
弾かれたように顔をあげる紫が見たのは、その動作に驚いた娘の表情。
(接近に気付けなかった――だけど、好都合よ)
言葉を吐き出す。
直前に、撫でられる。
髪を、そして、心を――。
紫の視界を、娘の笑顔が奪った。
「お姉ちゃん、いい子いい子。泣いちゃ、メーだよ」
えへへ――一切の穢れを感じさせない笑みを残し、娘は母の元へと戻る。
少女。いや、少女とも呼べぬ容姿。童。
行為を母に褒められ、娘は又、笑んだ。
紫は、ふらりと立ち上がり、母娘の視界から逃れられる場所へと移る。
壁に手を乱暴につけ、頭を項垂れ、歯を食いしばった。
掌に込められた力により、タイルに罅が入る。
紫の口から零れ落ちたのは、抑えきれない慟哭。紫は、声をあげ、哭いた。
「――無様ね。八雲紫」
後ろから、罵声が浴びせられる。
紫は震えを抑え目を見開いた。
言葉にではなく、声に。
「そう……そうね、今の私は無様よ。慣れない化粧に聞きかじりの言葉――」
「違うわ。わかっているでしょう? いいえ、解っていない筈はない」
淡々とした指摘に、唇を噛む。覚えのある台詞であった。
「……だったら、空虚な独り言の事かしら」
「紫! 妖怪の賢者! 結界の大妖! はぐらかさないで!」
言い逃れはできない。
彼女は、全てわかっていたから。
ヒトリの大妖が、ゆっくりと口を開く。
彼女の名は、八雲紫。
「解っているわ。いいえ、解ってはいたのよ。
幻想入りを防ぐ。それは、外にアレを留まらせる事。
正義なんかじゃない。私は、ただ、我がまま故に、抗っている……」
心情を吐露し終えた紫の肩は、震えていた。
言動と行為の故か、もたらされる結果の為か。
それとも、自身に笑顔を向けた娘を思ってか。
もうヒトリの大妖に、其処までは解らなかった。
「……貴女の我がままに、賛同するモノもいるでしょうに」
顔をあげ、紫は首を振る。
「駄目よ。
神奈子や永琳、幽々子は、大人び過ぎている。
逆に、諏訪子やレミリア、さとりは幼すぎる」
だから――紡ごうとした言葉は、肩と同じく、震えていた。
その肩に触れる手。
優しく抱きこまれる。
瞳を閉じたままの紫に、花の匂いが感じられた。
もうヒトリの大妖。彼女の名は――。
「だけど――私が、いるじゃないの」
「ゆう、か……?」
――風見幽香。
「橙が、憂いていたの。
私は、だから、藍の元に行ったわ。
貴女の式は、泣いていたわよ。八雲紫」
「……同情で、此処に来たの?」
「リグルは、あの子は、とても女の子なの。里の娘にも負けないほど、流行に敏感なのよ。
ミスティアの爪。知ってる? あの子、手は荒れがちだから、爪は綺麗にしているの。
――ルーミアの肌もね、柔らかくて、白くて、とても、とても素敵」
あぁ、そうか。
「確かに、貴女もミルクの匂いを漂わせていたわね」
紫は肩を抱く手に触れた。
幽香もまた、微かに震えていた。
震動が重なる。想いと、同じように。
「少女臭を振りまく貴女に言われたくはないわ」
交わされる軽口に、フタリの震えは治まっていた。
紫は手を外し、振り向く。瞳を開けながら、言った。
「メイク、してあげる。貴女も、賛同ぶほぉ!?」
吹いた。
「な、何よ!? 是でいいんでしょう! 違うの!」
「い、いえ、まさか、もう塗装済みと、ひ、ひぃー」
「引きつけ寸前の笑い方しないで! 帰るわよ!?」
幽香の頬が朱に染まる。塗られた色と重なり、赤黒くなった。
「あはは、あははははっ!」
「指さして笑うなぁ!」
「げはぁっ!?」
渾身の右ストレートが紫の腹に決まる。風見幽香は物理的な攻撃が得意。豆知識。
「……ったく。何時まで蹲ってるのよ。行くわよ」
「ご、ごめんなさい、でも、面白すぎて……」
「そっち!? もう一発入れておこうかしら!」
幽香の声に肩を叩き返し、紫は前へと視線を向ける。
「冗談、冗談だから! だけど、完璧なメイクよ。誰に?」
追随するように、幽香も前を向いた。
「大ちゃんよ」
歩き出す。
紫は手をあげた。
幽香もまた、手をあげる。
「……どうでもいいけど、貴女が誰かを『ちゃん』付けって、似合わないわねぇ」
ぱぁん――と、小気味のいい音が、狭い室内に響いた。
「煩い。――行くわよ」
「ええ、行きましょう」
紫と幽香は外へと出た。
大妖達の瞳には、確固たる意志が宿っている。
彼女達の正義を押し付ける為。彼女達の愛する幻想郷を守る為。彼女達の愛する少女達を護る為。
「ちょっとー、ゆかりん、やばいってー。ルーズのやり方、ちょ→間違ってるぅって感じぃ↑」
「やだ、レコーディングから出てくる前に言ってよ、ゆうかりんってばゲロ超SW」
でも、泣きそう。だって、私達、女の子なんだもん。
「ママー、あのお姉ちゃん達、笑ってるけど泣いてるよー」
「公衆トイレから出てきて、羞恥に頬を染める少女二人。……いいわね」
「ハッテン? あと、SWってなぁに? ソードワールドの頭文字かなぁ」
フタリきりの聖戦は、今、始まりの鐘を告げたのだった――。
<了>
だが二人の顔を想像すると噴いてしま(ry
まさかの続編に超ビックリでした。
二人の山姥化を想像したくないですが、幻想郷の住人が山姥化するのはもっと想像したくありませんねぇ・・・。
頑張れゆかりん。
超頑張れゆうかりん。
幻想郷は全てを受け入れますが、受け入れてはいけない物も世界にはごまんとあるのですよ。
確かに幻想郷の住人があれな姿になるのは嫌ですねぇ、がんばれゆかりん、ゆうかりん。超がんばれ
未来永劫全開バトル!(違)
つーかこの母子はいつまで見てんだ
大妖の名に恥じない強さでした。
特に娘さん、ソードワールド知ってるとかどんだけエリートだよ
さあ三人目を!