◇宝の話
ある日、博麗の呑気巫女は八雲紫に問い詰めていた。
何百年も生きた妖怪ならば、お宝話の一つや二つ知っているに違いない。
「だから、お宝と言ってもそれに見合う対価で手に入らなければ、それはお宝とは呼べないわ。
人間はよくそれに命まで賭けるけど、それは金貨で石粉を買おうとしているようなものよ」
「……で、結局知ってるの? 知らないの?」
「────そうねぇ。このお茶菓子の質が変われば、答えも変わるかもしれないわ」
より小さな対価で手に入るものならば、お茶菓子でも宝になるだろう。
古く賢い妖怪はそれを知っているのだった。
◇器用な話
夕暮れの紅魔館。
そこでは瀟洒なメイド・咲夜がせっせと編み物をしていた。
珍しく早めに起き出した館の主・レミリアがそれを興味深そうに眺めている。
「一体何を編んでいるのかしら?」
「特に決まってないですね。ただ、こうすると手先が器用になりますので」
「? あなた程器用な者はそうそういないと思うのだけど」
「だからこそ、です」
言葉少なに返して黙々と作業を進めるメイドを見て、ああ、とレミリアは納得する。
完璧な者ほど、より完璧に訓練を欠かさないのだという事を。
一人頷き、レミリアは心を浮き立たせた。
器用さにまた磨きを掛けた手先が捌く今夜の夕食は────格別に美味しいだろう。
◇数の話
人間の里。
そこのとある一軒家で不老の妹紅は半獣の慧音から相談を受けていた。
最近慧音の主催する寺小屋の授業の集まりが悪いのだという。
「別にいいじゃないか、そんなに集めなくても」
「────そういう訳にはいかない。授業とは数で決まるのだから」
「……数で決まるのかい?」
「ああ、古来より多くの数を制した歴史は残り、数の少ない者の歴史は消えていっている。
その歴史の授業を受ける人数が少ないと言うことは、即ち由々しき事態という……」
「小難しいことはわからないけど────要するに授業の回数を増やせばいいんじゃないの?」
「……成る程、それも道理だな。回数を重ねる事によって少ない人数を乗算で補うのか。
それならば用事などで来られなかった者も来てくれるかも知れない。良い考えだ。ありがとう妹紅」
「どういたしまして」
「ところで妹紅」
「なんだ?」
「私の授業に来る気はないか?」
「遠慮しとくよ」
数多い経験や交流は、賢明な判断を促す事だろう。
◇歌の話
魔法の森。
香霖堂から興味深い商品を一つ借りてきた普通の魔法使い・魔理沙はその使い方がわからず困っていた。
試しに色々な所を叩いてみると、紐の取っ手から怪しい呪文が聞こえてくる。
しかしどんな呪文か見当のつかない魔理沙は、自分より魔法使いな知り合いの家を訪ねることにした。
「これは私にもわからないわね」
魔法使いで人形遣いなアリスは首を振った。
「なんだ、使えない奴だな。じゃあ、パチュリーにでも聞いてみるか」
「待って。元々これはあの怪しい店から盗んできたんでしょう?
ならば、これは外の世界のものかもしれないわ」
「外の呪文かもしれないという事か? それと盗んでいない。無断で借りてきただけだ」
「外の呪文ね。だから私の魔法の知識が乏しい訳ではないし、あの者にもわかるはずがない」
「そうか、ならば仕方ないな。
でも折角の呪文だ、これを覚えれば新しい魔法が使えるかも知れないな」
「いい考えね。ならば、二人で覚えましょう。丁度取っ手も二つあるし」
そうして二人は取っ手を耳に当て、軽やかに響く外の呪文を聞き始めた。
外の道具はすぐに使えなくなってしまうだろうが、勉強熱心な二人ならすぐに外の魔法を覚える事だろう。
◇記事の話
博麗神社。
あまりにもネタがなく、仕方なく博麗の巫女に一日密着取材を申し込んだ射命丸だったが、
平穏無事に特に何事もなく一日が終わり、ますますネタに困ってしまった。
「これでは記事が書けません」
「いいじゃない。元々誰も読んでない新聞だし、
待ってもいないから締め切りもないでしょう?」
「そんな事はありません。
常に読者は刺激を求めており、すなわち私の新聞を求めています。
……そんな事より本当になにかありませんか?」
「とはいってもねえ、普段の巫女の生活なんてこんなものよ?
異変があれば違うけど、それでも大抵一日二日で解決してしまうものだし」
「……はあ」
「それに私がこうして動かないのは、人間にとっても妖怪にとっても良いことじゃない。
毎日がとりたてて問題があるわけでもなく、異変を起こすほど暇でもない訳でしょう。
私は暇だけど」
「平和は記事にならないんですよ。
……そうだ、あなたの動きを見ていれば異変が察知できるのなら、
それを利用して異変予報なんてどうでしょう?」
「鯰(ナマズ)じゃあるまいし。
……第一たまにしか出さない新聞の予報なんて誰もいらないと思うけどなあ。
それにうっとおしそうだから止めてほしいわね」
射命丸は勘違いをしていた。
博麗の巫女にとって異変は待つものであって、起こすものではない。
すぐに記事にしたいなら最初から次の異変の犯人を密着取材するべきだろう。
◇相変わらずの話
冥界の白玉楼。
そこの桜は今年も見事に咲き誇っていた。幽霊達の花見もまた変わらず盛大に冷めやかに行われる。
その掃除に日々追われる庭師の妖夢でも、たまには息抜きとばかりに地上に訪れる。
無論、幽々子の使いや付き人としてだが。
幽々子「あら紫、貴方も来ていたのね」
妖夢 「こんにちは……」
紫 「いらっしゃい。ちょうど良かったわ。
────いいお茶菓子があるのよ。食事の用意ももうすぐ整うわ」
幽々子「遠慮無く頂くわ。妖夢、あなたもくつろぎなさいな」
妖夢 「えーと、あの、その」
幽々子「紫に遠慮する必要はないのよ。あら、おいしいお茶菓子」
紫 「ねぇ、今年は桜の様子はどうかしら?」
幽々子「いつも通り変わらないわ。妖夢が相変わらず手際が悪いくらいに変わらないわねぇ」
紫 「そう、相変わらずなのねぇ」
妖夢 「ひうんっ」
幽々子「そういえば紫、あなたも最近相変わらずねえ」
紫 「あら、何のことかしら?」
幽々子「今年の花見客も相変わらず出たり入ったり。
妖夢がしっかりしてない所為もあるけど、
やはりお茶碗に穴があいたままだとキリがないのかも、と少し思ってるの」
紫 「ああ、その事ね。
まあ、とても簡単な事よ、とても。
でもその前にお茶碗に入っている中身がそのままでいられるかは
────まだ確かめておきたいところなのよねぇ」
幽々子「つまりはしばらく変わらないという事なのねぇ」
妖夢 「ぽりぽり……」
現世と冥界との境は未だに修復されていない。
それはなにか意図があっての事ではないか、かと妖夢も気づくのだが……
それがどのようなものかは、この二人の言っている事が半分も理解できない半霊前な自分には考え及ぶところではないのだろう。
紫 「いいじゃない。お宝も空を飛びそう時代だし……あら、お茶がもう足りないわ」
幽々子「ほら妖夢。早くお茶を淹れなさいな」
妖夢 「はい。……うわ、相変わらず酷く安物の急須ですね」
霊夢 「……あんたら相変わらず人の家でくつろぎ過ぎよ」
緩やかに過ぎていく日常。
幻想郷は相変わらず変化に乏しく見える。
もしかしたら、どこからかそう求められているからかもしれない。
幻想郷がいつまでも変わりませんように、と
でも慧音の口調に違和感が最初ありました。
あと、台詞の前に名前はつけないほうが個人的にはいいです。
あと二人で顔くっつけてイヤホンを分けてるアリマリが最高。
慧音の口調はひょっとして原作小説準拠?
名前は、俺は入ってる方がいいと思うな。
地の文なしの会話だけで構成できるので、こと、こういう小ネタに限ってはプラスになる。
個人的に歌の話のオチが他に比べると弱かった気がします。
あと一回転半捻り欲しいです。
うまい!!!!
そして文と霊夢の絡みがあってテンション上がりましたw
ほんわかしたり、時折くすっと笑ったり。眼福でした。
よきお話でした。
ごちそうさまでしたー。