Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

優曇華の花・前編

2009/04/12 19:02:11
最終更新
サイズ
8.01KB
ページ数
1

分類タグ


さて、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
月から逃げてたどり着いた地球で頼る場所もなく、各所をふらふらと彷徨った挙句に見つけた竹林の屋敷で罪人の輝夜様と八意様に遭遇。どうしたものかと思案している途中で先制攻撃を受け、昏倒している間に縄で縛られ、その状態で私は輝夜様と対面している。
瞳の能力を使えばここから逃れることも可能だろう。しかしあえてそうする理由もない。
本当に危なくなったらやるけど。
「月からの密偵のようですが、どうなさいますか」
先にも述べたが密偵じゃない、そう言いたかったが何せ口まで塞がれているこの身ではどうしようもない。
たどり着いたこの地で勘違いをされ、果てるのか。
「本当に密偵なの?」
この声の主こそ蓬莱山輝夜。
蓬莱の薬を飲んで月より追放され、月からの使者を倒してでも地上に残る道を選んだ「罪人」。
なるほど美しい方だ。
「ここに侵入できる者など」
「たまたま迷い込んだということもありえなくはないんじゃない?」
「月の民がこのようなところで迷うわけがありません」
「なんにせよそのままでは会話もできない。はずしてあげなさい」
あぁありがたい。
手も足もぐるぐる巻き状態だが口周りの束縛だけは外される。とはいえ今時ガムテープで口を塞ぐのはいかがなものか。剥がす時すごく痛かった。
「あなた、名前は?」
「レイセンといいます」
「そう」
輝夜様はそれだけ聞いて一つ頷く。
そして八意様に目配せ。後は一任すると言うことだろう。
「レイセン、なぜこの屋敷の場所がわかったのかしら?」
「わ、私はただ迷っていただけでして・・・・・・・」
かくかくしかじか。
自分の身が危ない状況だ、恐々しながらなのでうまく話せなかったが必死に説得を試みる。
それで何とか要点だけは伝わったようだ。
「要は月から逃げてきて、行き場がないわけね・・・・・・・・姫」
八意様が輝夜様に耳打ちする。こちらに聞こえないよう小声で話しているつもりなのだろうが残念。戦闘訓練を受けエリートとさえ呼ばれた身だ、すべてと言うわけには行かないが八意様の声は聞き取れる。
漏れ聞いた内容から察するに私が月の出であること、能力を使えば月の情報を得られるだろうから囲ってしまってはどうか、という魂胆らしい。腹黒いなぁ。
でも当面の生活と身の安全を保障されるのであれば協力すべきだろう。支払う対価としては十分のはず。
輝夜様はうなずきもせずに耳を傾ける。
そして聞き終えた後に放った言葉は、
「永琳、席を外しなさい」
暗殺者かもしれない相手を前にしてのそのセリフに八意様は驚かれた様子。そりゃそうだろう、私だってびっくりだ。
「姫、それは」
「臆病な脱兎に何ができるというの?仮にこの者が暗殺者だとしても遅れは取らないわ」
胸がズキンと痛む。
臆病な脱兎。
まさしくその通りだ、返す言葉もない。
「・・・・では」
一礼して、八意様はその場を立ち去っていく。
残された二人。
私と輝夜様とはさして面識もない。人払いまでして、一体何の話だろう?
輝夜様が私を見つめる。
黒い瞳で。
「ようこそ永遠亭へ」
言うが、まるで歓迎しているようには聞こえない。
冷めた目。
虫けらですらない、ゴミでも眺めるかのように。
「プライドのカケラもない兎が。仲間を見捨ててきた?大して強くもない上に敵前逃亡するほど臆病ときたか。それでおよくもまぁこんな土地までやってきたものね」
辛辣な言葉。
散々な言われようだ。確かにその通りではあるのだが、ほとんど初対面の相手にここまで言われるとカチンと来るものがある。
そんな私の心境を読み取ったのだろう。
輝夜様は嘲笑する。
「あら怒ったかしら?でも勘違いしないでほしいわ」
道端に転がる石ころほどの価値も見出さずに。
「あなたにはその資格もない」
「・・・・・・・」
ここに来ても。
こんな名も知らぬ土地に逃げても。
私の居場所はないと言いたいのだろうか。
「私は・・・・・」
言葉にならない。
頭の中が煮えたぎって、この思いをどこかにぶつけたいのに。
「私、は!」
目の前にいる輝夜様はそれをぶつけていい相手ではない。
真に伝えるべきは、月に残した兎や姫たち。
だからそこで言葉は詰まる。
「悔しがる程度の気力は持ち合わせてるのね。少しは見直したわ」
輝夜様は目を細め、口元を緩ませる。
さきほどの険のある態度とはうって変わって柔らかい物腰で。
「それならば拒む理由もなし、改めて歓迎しましょう。
私はあなたを束縛しない。あなたは自由、好きになさい。
ただ2つだけ。
一つ、あなたがここにいる限り他のイナバ達と分け隔てなく扱うことを約束しましょう。私もあなたのことはイナバと呼ぶことにするわ。
一つ、留まるも出て行くもあなたの自由意志だけどあなたが私に反旗を翻す、または月に戻ると言う場合はそれ相応の覚悟をすることね」
輝夜様が提示した内容。
妥当なところだろう。
私としては身の安全が保証され、可能なら屋根とご飯のある生活が欲しい。
輝夜様としては月からの追っ手とは遭遇したくないのだから、万一にも居場所が割れるような事は避けたい。
利害は一致している。むしろ身の自由を得ている分、私のほうが得をしているとさえいえる。
「勝手がわからないだろうから、困ったことがあったらてゐか永琳に相談するといいわ。もっとも、てゐの方は一癖も二癖もあるから手を焼くとは思うけど」
「私をここに置いてくださると」
「まだ不足かしら?」
「十分過ぎます」
「それなら不満はないわね」
かくして。
私、レイセンは永遠亭に住むことになったのだった。



「優曇華院、ですか」
永琳様、もとい師匠が私に用事があるというので部屋まで来てみたら、何故か私に名前を付けてあげるという話だった。一応レイセンって名前はあるんだけど、そういうことはお構いなしらしい。
八意様が私の師匠になったのは別に深い意味はない。「他のイナバより賢そうだし」「一応脱走しないかお目付けの為に」ということで八意様の元で薬師の修行を行うことになり、見かけ上師弟関係となったわけだ。私としても破格の待遇を受けていながらのんべんだらりと日々を過ごすつもりはなかったし、どこかで罪滅ぼしができればと考えていたから願ってもないことだった。
で、与えられた名前なのだが。
優曇華といえば月に生えていた植物の名前だと記憶している。
「気に入らない?」
「いえそんなことは」
レイセン。
輝夜様の言う、弱くて臆病な脱兎。
そんな名を捨てるにはいい機会だろう。
「じゃあ決まりね。今日からあなたは鈴仙・優曇華院・イナバよ」
「・・・・は?」
「だから、鈴仙・優曇華院・イナバ」
むやみやたらに長い名前だ。というより、改名しろと言う話ではなかったのか。
「その心は?」
「鈴仙はあなたの当て字、優曇華院は新しいあなたの名前、イナバは兎と言う意味。レイセン・イナバじゃ格好がつかないから間に入れてみました」
師匠、すばらしい理由です。すっごい適当臭がするのは気のせいでしょうか?
「なんで優曇華院なんですか?」
「月のことを考えていたら、そういえばそんな植物があったなと思い至ったの」
「つまり私は植物と同レベルと」
「気に入らない?」
ギラリと師匠の目が光る。ここで肯定した場合の展開については考えないようにしよう。きっとR-18指定だろし。グロテスクな意味で。
「いいえ喜んで」
「うどんげがよろこんでくれてうれしいわ」
「それが愛称ですか」
うどんげって、その変なあだ名は・・・・・・・・・、
「何か?」
「涙が出るくらいにうれしいです」
うどんげはやっぱりやめて欲しいと思うが後の祭り。というより、ここ永遠亭に来た瞬間からいろいろと終わってる気がする。もういいや、諦めよう。
ついでだから『レイセン』はここで終わらせる。
『鈴仙・優曇華院・イナバ』はここから始まる。
「早速で悪いんだけど、人里まで薬を届けてもらえる?」
パシリですか。
「その後でてゐを探して、私の前まで引っ立ててきなさい」
果たして私の人生は始まる・・・・・・のか?





うどんげが永遠亭を後にした後、永琳の部屋に輝夜がやってきた。
「小洒落た名前ね」
「立ち聞きとははしたないですよ、姫」
優曇華。
地上の穢れを取り込んで成長する、月の植物。
月から地上にやってきたレイセンに与えた名前。
「この地で己を磨き、成長なさい」
鈴仙・優曇華院・イナバ。
逃げ出してしまった弱き兎。
地上へ移動し、そこで力を蓄え。
本当の強い兎に。
「本人はうれしくなさそうですが」
「はたから聞いたらふざけて付けたとしか思えないもの」
それに、永琳は困り顔に冷や汗をかく。
「やっぱり姫もそう思いますか?ひねくれたまま成長していかなければいいのですが」
「それは困るわ。てゐと違って聞き分けはよさそうだから、レイセンにはいろいろと緩衝材になってもらわないと」
「それに比べて姫はひどいですね。わざわざイナバ、地上の兎と呼んで鎖をかけるなんて」
月へなど返すつもりは毛頭ないということ。
レイセンは何がきっかけで月に帰りたいといい出すかわからない。それもまたよし、そんなことを言い出す頃には心身共に立派に強くなっているということだ。それまでは目の届く場所において置けるよう鎖に繋いでおく、それだけの話。もっとも、悪意を持って裏切りを行うような奴には見えないのでそのあたりは信用していいだろうというのが輝夜の考えなのだが。
輝夜は永琳をじっと睨む。
「酷いのはどっちよ」
「そうですね、私も悪役ですわ」
永琳は肩をすくめる。
「うどんげには早速薬のお勉強でもさせましょうか」
「それがいいわね。それと一つ、私からレイセンに仕事をさせたいのだけどいいかしら?」
「姫からですか?別に構いませんよ」
「そう。じゃあ戻って来次第、部屋にレイセンを呼んで頂戴」
長い黒髪をかき上げ、輝夜は瞳を閉じた。



 
書いてたら長くなったので分割。初永遠亭!
うどんげについての考察を交えて、今回は過去話という形になります。シリアス展開ゆえにてゐが出しにくい罠。
かなり以前に言っていた、輝夜カリスマアップの為の話がなぜかうどんげ中心になってしまいました。命だけはお助け(ry


私にとっての新参ホイホイはアリスだぜ。


一応話が完結してないこともないですが、後編に続きます。

PS、儚月抄持ってないのでその人物は出ませんです。あと後編は主役変わります。
水崎
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
レイセンの過去のお話!!!
後編が楽しみです。

>私にとっての新参ホイホイはアリスだぜ
自分もです。
2.Jupiter削除
過去の話か~後編も期待

>私にとっての新参ホイホイはアリスだぜ。
確かに。納得。某電波曲が原因かな?
3.名前が無い程度の能力削除
>新参ホイホイ

・・・ごめん、幺樂団の歴史から入った俺のホイホイは
あっきゅんなんだ・・・
4.名前が無い程度の能力削除
永遠亭中心の話と聞いて、期待しております。
特に最近少ないのですし。

>私にとっての新参ホイホイ
自分は輝夜でした。黒髪ロングですよ?
5.名前が無い程度の能力削除
続きをwktkしながら待ってます

>>新参ホイホイ
確かに
でも大学でチャウシェスクの子供達について調べていて某考察サイト(?)のアリスに行き当たったのは俺くらいかと(ry
6.水崎削除
>1様
アリスのかわいさは異常
またアリス主役のSS書きたいです。

>Jupiter様
ZUN絵のアリスとその会話で残機なくなりました。
そして二次創作のツンデレはぶられアリスを見てコンティニュー連打です。
某電波曲?アリステーマ曲を聴いて勝手に脳内再生されておりますw

>3様
サントラですか。東方はどの曲も大好きです。
もちろん投票の際にはアリスと早苗さんの曲に票を投じましたが

>4様
永遠亭って、書こうとすると「ニート」「薬」「座薬」「う詐欺」の4大四天王にぶち当たるので敬遠せざるを・・・・壁は厚い。
美しい姫様絵の黒髪ロングは反則。

>5様
すごい経緯ですねw
って人の事はいえませんね。某動画サイトの某動画を見て、「東方はチルノが主人公のRPGゲーム」だと思っていた若かりし頃。


うどんげの過去話のコンセプトのはずが、後編書いてたら妹紅と輝夜が中心になってきたんですがどうしよう。うどんげの影が薄く・・・・