紅魔館の最奥でひっそりと佇む吸血鬼。レミリア・スカーレットです。
吸血鬼という言葉に馴染みのない人も多いかと思いますが、彼女の主食は人間の血液。それもB型の血液を好むと言われています。
他の血液でも問題なく飲めるのですが、あまりお気には召さないようです。従者の十六夜咲夜が用意した血液入りのバウンドケーキ。乱暴な手つきで振り払われました。哀れバウンドケーキは赤い絨毯のおやつに。
「咲夜、何度も言ってるじゃない。血液が無かったからないで構わないの。無理して赤く染める必要なんてないのよ」
「しかし吸血鬼たるもの、赤くない食べ物を口にするなんてことが許されるはずもありません」
「いや、許されるから」
十六夜咲夜の用意した、血液入りと見せかけて赤ペンキ入りのバウンドケーキ。吸血鬼は赤ペンキを食べないという事が、この行動から分かりました。
本能的に赤ペンキを拒絶するこの反応の事を、発見した学者の名前を取ってパチュリー反応と呼ぶのです。
「とにかく、作り直して頂戴。今度は赤くない、普通のバウンドケーキをね」
「わかりました。ですが、少しばかり時間をください。縄跳び用の縄が切れたんです」
「何をバウンドさせているのか、今度じっくり聞きましょう」
潰れたケーキを回収して、咲夜が部屋を出て行きました。
では、今度は一人になったレミリアがどういう行動をとるのか見てみましょう。
指先でテーブルを叩き始めました。これは苛立ちを表す動作で、催促の意味も込められています。
視線はきょろきょろと落ち着きなく、どうやら退屈しているようです。何か気を紛らわせるものが無いのか、探しているのでしょうか。
「あら」
おや、何か見つけたようです。
レミリアは席を立って、窓際へと足を運びました。
ちなみに吸血鬼は夜行性の生き物。迂闊に太陽の下を歩くことは、それ即ち死を意味します。
試しに、太陽光に限りなく近い光の下へ、レプリカのレミリアを置いてみましょう。
お分かりでしょうか。あっという間に灰になって…………
ダン。
なりました。粉々です。さすが太陽光。
右手のハンマーとかは見なかったことに。
「今夜は月も赤いのね」
感慨深げにレミリアが呟きます。その瞳には微かな郷愁があり、きっと故郷の事を思い出しているのでしょう。
では、レミリアの故郷へと視線を移してみます。
地球から数えるのも面倒なほど離れた星系にある惑星。スカーレットがレミリアの故郷です。
スカーレットは血液に乏しい惑星で、百歳を越えたレミリアは自力で宇宙に飛び立つと言われています。その数はおおよそ一億。
しかし、その中で住みよい惑星に降り立つ事ができるレミリアは極僅かな数だけ。
多くのレミリアは宇宙を彷徨い、儚い命を散らしていくのです。
「パチェ」
実に悲しい話ではありますが、これも自然の理。
そうして淘汰された極一部のレミリアは……
「ねえ、パチェってば」
何よ、レミィ。
せっかく良いところなんだから、邪魔しないで。
「いや、扉の隙間から覗きこみながらブツブツ言ってたら誰だって気になるって」
そう? 私はならないわよ。
「あなたはまぁ、集中力が異常なのよ」
あまり、褒められた気がしないわね。
「それで、さっきから何やってたの?」
何って、決まってるじゃない。
レミィの生態を報告してたの。
「誰に?」
視聴者に。
「視聴者?」
そう、視聴者。
なかなか人気あるのよ、この生き物幻想郷紀行。
稗田とは一線を画した、奥の奥まで踏み込んでいくチャレンジ精神に視聴者は釘付けなのよ。
「はぁ」
だからレミィは大人しく、そこで窓の外を眺めているといいわ。
「いや、まぁ、別に良いけど……ただ故郷ってのは何なのよ」
機密漏洩?
「さっきから口に出して喋ってたわよ。まったく、人をエイリアンか細菌みたいに」
話は変わるけど、永琳庵って甘味処が永遠亭の近くに出来たらしいわよ。
今度、咲夜と行ってレポートを書いてきて。
「どうして私がそんな面倒な事をしないといけないのよ。行く時は行くけど、自由にさせて貰うわよ。レポートが欲しいければ、自分で行きなさい」
むぅ、外に出るのは面倒なのよ。
見えるでしょ、溢れ出る無気力オーラ。
「自分で言わない。大体、そうやって引きこもっているから無気力になるのよ」
無気力だから引きこもってるのよ。
「どうかしら。引きこもりなんてのは、結局のところ負け犬でしかないわけだし。いくら御託を並べたところで、それは言い訳に過ぎないわ」
「……お姉様」
「フ、フラン!」
私の後ろから聞き慣れた妹様の声。
「やっぱりお姉様、私の事をそんな風に思ってたんだ……」
「違うのよフラン! これは言葉の綾なのよ!」
「呼ばれた気がして」
「天狗は山に帰れ!」
弁明を始めるけれど、時既に遅し。
「もういい! お姉様の馬鹿! 鬼! マンボウ!」
「マンボウ!?」
妹様は顔を歪めて、廊下の奥へと走っていった。
去り際に見えた顔は笑っており、この状況を楽しんでいるのだと分かる。
まったく、性格の悪い事をするわね。娯楽が乏しいのは分かるけど、おかげでレミィが切ない事になってるじゃない。
「レミリアさん、レミリアさん」
「なによ、まだいたの?」
「うー」
「マンボウ!」
落ち込んでいてもノリは良いみたい。
これは新しい情報ね。メモしておかないと。
どんな時でも文がいればノリは良い。これを見つけた人の名前を取って、パチュリー反応と呼ぶ。
あら、これだとさっきのと被るわね。
じゃあパチュリー反応Ⅱと呼ぶ。これで良いわ。
「こうしちゃいられないわ。早くフランの誤解をとかないと!」
慌てて駆け出したレミィは、扉を出たところで咲夜とぶつかる。
「ああっ! 青いバウンドケーキか!」
「普通のにしてって言ったでしょ!」
怒鳴りながら、妹様が去っていった方へと飛んでいく。
「あやややや、なんでこのケーキ、絨毯の上で跳ねてるんですか?」
咲夜は平然とした顔で言った。
「バウンドケーキですから」
「バウンドケーキじゃなくて、パウンドケーキでは?」
咲夜は無表情で、てへっ、と舌を出した。
ひょっとしたら、レミィよりもこのケーキを調査をした方が面白いのかもしれない。
私はふと、そんな事を思いながら窓の外を見た。
空からレミィが降ってくる気配はない。
ツッコミきれねぇwww
・・・あれ、どっちだったっけ?
\(^o^)/
ちょっと、NASAに就職してきます。
>ひょっとしたら、レミィよりもこのケーキを調査をした方が面白いのかもしれない。
私はむしろあなたの頭を調査をしたい。
ぱうんどけーき食べたい。
上手い。座布団一枚
燃え尽きてしまうw
白字のテロップで
『パチュリー反応』
ですね、わかります。
次は『蓬莱山輝夜 ~永遠亭に生きる神秘のNEET~』ですね!
一発ネタの方が破壊力が高いんだろうけどぜひともシリーズで見たい!