訪れた時、彼女は机に向かって理論を書いている所だったらしい。
今も話を聞きながら書き続けている。
私の手には茶色い小ぶりの酒瓶。
瓶の外からじゃ液体の色はさっぱり判別がつかないけど、みてくれはソース。
これは魔力を高め、能力を付加する画期的な薬酒の試作品。
「という訳で、そういう薬が出来たのよ」
「唐突過ぎるわ」
「で……こればっかりは、飲まないと判らない」
「私で毒見?」
「毒じゃないわ、数滴舐めたから安心して。本来必要な量飲めば充分な効果を得られる筈」
割と不味くなかったし、力は感じたし。
「で、何故私?」
「魔法使いだから」
「あいつは?」
まー、確かにあいつも居るけど奴の出る幕は無い。
「恐らく耐えれないし、頼まれても飲ませない」
「ちょっと、まさか人間が耐えれないような薬なの?」
「試しに一滴ペットのご飯に混ぜたわよ? 拒絶反応起こしたと思ったら死んだけど」
そんな嫌そうな顔しないでよ。
「それに耐えたとしても、あいつが強大な力を身につけたらどうなる?」
心配してるのは毒性よりも、人間性よ。
思い浮かぶ答えは一つしかない筈。
ほら、どうみても苦笑い。釣られて笑いそうになったわ。
兎に角貴女も被害者だし、判ってる筈よ。
「ふふ、流石ね。話が早い」
「家の結界破られても困るしね……で、成分は?」
よくぞ訊いてくれた。聞いて驚くがいい。
「洋酒をベースに数々のハーブと魔法のキノコを精製して、小悪魔と兎と吸血鬼の血を」
「ちょっと」
む、遮られた。
「後半どう考えても無茶よ。小悪魔は判るけど、兎ってまさか竹林の? 吸血鬼の血なんてどう採ったの? 私達まで吸血鬼になったりしないの?」
幾つも訊かないで頂戴。
確かに一般的に考えれば無茶な素材かしら?
でも、研究の為なら苦労を厭わないのよ。貴女がそうであるように。
「狂気を操る能力と破壊する能力は研究で欲しいの。後、私は吸血鬼にならなかった。人間なら……なるかもしれないわね」
ま、吸血鬼になる前に死ぬかもしれないけど。
「破壊って、まさか……?」
「勿論」
「随分命懸けな事してるのね」
「道具と魔法があれば簡単よ」
「へえ、そうなの」
ふっふ、医者に小悪魔の爪を支払って採血器具を譲り受けた甲斐があったというもの。
小悪魔の爪を誰に使うのか知らないけど、あいつにはそれだけの価値があるんでしょうね。
血液なんざ、麻酔と採血器具があれば寝込みを襲って問題なしよ。
ま、流石に吹っ飛ばされたら全てが終わるから慎重だったけどね。
計画を立てれば可能な事は何でも出来るのよ。
「で、貴女に頼むもう一つの理由。私が強くなり過ぎて欲望に負けた時、対抗できる相手が必要」
万一私が暴走したら、誰かが止めてくれないと困るのよね。
なんか腑に落ちて無さそうな顔してるわ。
さて、ティーカップも二つ用意したし……いよいよ飲む時ね。
それにしても素敵なティーカップね。里にこんなの売ってたかしら?
うわー、改めて見ると気持ち悪いわ。
やっぱり貴女でもそういう顔するわよね、ごめんねこんな醜悪極まりない液体で。
でも味は悪くないのよ?
舌触り最悪だけど。
ほら、アルコールとハーブの香りが最高よね、まるで上品な香草酒。
見た目最悪だけど。
あ、ティーカップ小さすぎた。八分目まで入れたのに入りきらない。
「さあ、飲みましょうか」
うーん、味は良いのに舌触りが形容し難い。一気飲みだ。
「ふぅ……馴染むまで少し時間がかかる筈」
「じゃ、それまで続きでも書こうかしら」
やっと一口飲んでくれた。
あ、意外そうな顔……って、露骨に不味そうな顔しないでよ。
そんな警戒してちびちび飲まないで。
「早く飲んでよ」
「舌触り最悪だし、怖いんだけど」
そうよね、最悪にも程がある。
「大丈夫、私が死なないんだから貴女が死ぬ訳無いわ」
あ、一気に飲んでくれた。やっぱり貴女は物分りが良い。
ふう、ちょっと体が重くなってきた。このままベッドで横になろう。
アルコール一気飲みはちょっとまずかったかしら。
でも、少しずつ体に力が満ちてくるわ。
未知の力が満たされていくような、そうよ、私が求めていたのはこの感じよ。
ペンの音が少し頭に響くわね……。
満たされる、というよりは侵食されるような──
「……はぁ……はぁ」
体が、熱い。
「どうしたの?」
そんな心配そうな目で見ないで。大丈夫だから。
って、貴女は平気そうね。私だけなのね。
「顔赤いわよ。まさか急性アルコール中毒!?」
「か、らだが……熱い、の……彼方此方、疼いて」
ああもうどうしよう、言葉も途切れ途切れになっちゃうし。
って、ええ!? アルコール中毒じゃないわよ!
「本当に死ぬかもしれないわよ!? 永遠亭行きましょう!」
「だ、だめ……それ、だけは……ダメ」
そんな事されたらアルコール中毒になる前に恥ずかしくて死んじゃう。
「手遅れになる前に行かないとだめよ!」
そんな被さらないで……って、えぇ!? お姫様抱っこなんてしようとしちゃだめえ!
「んぅっ……だ、だめ……今、触っ、ちゃ」
嗚呼……もうだめ。我ながらなんていう情け無い声っ!
でも手が離れた、最悪の事態は回避でき……そうにない、わね。
って、そんな、そんな目で見ないで!
「あれ、は、い……ま、だから」
もうだめ、頭がぼやけて自分が自分じゃないみたい……。
「だっ、だめ……我慢、できない」
「んっ!?」
ああああ、もうだめだ、理性なんて吹っ飛んでる。考えと行動が一致しないよおお!
ハーブ風味の、唇が。口内が!
おいしい……じゃないよ! 誰か私を止めて!
「ご、ごめん……ほんと、ごめんな、さい! 収ま、るまで……この、ままで!」
「ちょ、ちょっと!?」
焦ってる。焦るよね、ごめんなさい!
体が言う事聞かないの!
止めたいのに、手が勝手に……貴女の頭をそっと抱きしめるの。って、だめ、だめだってば!
唇伝ってる糸が綺麗……違う!
嗚呼、可愛いよ、なんでこんな可愛いの!?
「もう我慢出来ないの何しでかすか判らないからこのまま!」
言えた! じゃなくてこんな事言っちゃだめだってば! 手を放さなきゃ……!
あれから何時間過ぎただろう。
何回、いや、何回だろうが貴女には地獄よね。
「むきゅー」
「治まったの?」
「醜態を晒してしまったわね」
もうやだ、すっごい自己嫌悪。
やっと体が言う事を聞くようになったけど、なんで貴女は逃げないの。
その気になれば力ずくで逃げれた筈なのに。
「どうせ、変な薬草入れたんでしょ」
「小悪魔のせいよ」
「そういえば、何で小悪魔の血を入れたの?」
「安定させるのに悪魔の血が必要だったのよ」
吸血鬼と兎の血に耐えて、淫魔の血に耐えれないなんて。
だめだ、今の私きっと顔真っ赤。見られたくないなあ。
じゃなくて、そう! そんなことよりも!
「薬の効果はどうなった!?」
「生憎、全部抜けちゃったわね」
嗚呼、何て事……お約束過ぎる。
私の体にも残ってないし。
こんな失敗作を飲ませた挙句、醜態晒すだけで一日が終わるなんて。
もう溜息しか出ないわ。
「で、いつまでこのままなのかしら」
あ、抱いたままだった。
ちょっと名残惜しいけど手離すね、ああもう、恥ずかしい。
今何時だろう?
暗いわね、これじゃ帰れない。
あれ? 体重かけててもいいのに、そんな遠慮がちに四つん這いにならなくても。
灯りに照らされた顔が綺麗ね。このまま額縁に収めたい。
「今日、泊まって良いかしら」
「別に構わないわよ。ご飯食べる?」
え、ご飯?
「普段食べてるの?」
「そうよ」
「捨食でしょう?」
「貴女が貧弱なのは栄養不足だからじゃないの?」
む、何故それを知っている。
別に食べなくても大丈夫だけど、折角だし悪くない。
「ふむ、お手並み拝見ね」
「もうすぐ出来るわ」
「え?」
「人形に作らせてるからね。それじゃ、手を放して頂戴」
そういえば、貴女は何でも人形にやらせてるんだったわね。
この指輪、洒落っ気無いわ。……成程、魔力制御用か。
それにしても、細くて綺麗な指ね。吸い込まれそう。
「どうかした?」
「いえ、何でもないわ」
無意識に手が出るなあ。まさか、後遺症……?
ちくしょう、笑うな。
「ふふっ、良いもの見れたし、少しぐらいサービスしてあげるわよ」
「ご飯だけで充分よ」
「あら、本当に'それだけ'でいいの?」
それだけじゃ満足しないわよ。
「貴女、顔に出やすいわね」
この先回りの嘲笑、なんかむかつく。
ん、顔に出てる? 何が。
ちょっと、そんな優しく頬撫でるな。
もっとして欲しくなっちゃう。
薬の残り、どうしようかなぁ。
今も話を聞きながら書き続けている。
私の手には茶色い小ぶりの酒瓶。
瓶の外からじゃ液体の色はさっぱり判別がつかないけど、みてくれはソース。
これは魔力を高め、能力を付加する画期的な薬酒の試作品。
「という訳で、そういう薬が出来たのよ」
「唐突過ぎるわ」
「で……こればっかりは、飲まないと判らない」
「私で毒見?」
「毒じゃないわ、数滴舐めたから安心して。本来必要な量飲めば充分な効果を得られる筈」
割と不味くなかったし、力は感じたし。
「で、何故私?」
「魔法使いだから」
「あいつは?」
まー、確かにあいつも居るけど奴の出る幕は無い。
「恐らく耐えれないし、頼まれても飲ませない」
「ちょっと、まさか人間が耐えれないような薬なの?」
「試しに一滴ペットのご飯に混ぜたわよ? 拒絶反応起こしたと思ったら死んだけど」
そんな嫌そうな顔しないでよ。
「それに耐えたとしても、あいつが強大な力を身につけたらどうなる?」
心配してるのは毒性よりも、人間性よ。
思い浮かぶ答えは一つしかない筈。
ほら、どうみても苦笑い。釣られて笑いそうになったわ。
兎に角貴女も被害者だし、判ってる筈よ。
「ふふ、流石ね。話が早い」
「家の結界破られても困るしね……で、成分は?」
よくぞ訊いてくれた。聞いて驚くがいい。
「洋酒をベースに数々のハーブと魔法のキノコを精製して、小悪魔と兎と吸血鬼の血を」
「ちょっと」
む、遮られた。
「後半どう考えても無茶よ。小悪魔は判るけど、兎ってまさか竹林の? 吸血鬼の血なんてどう採ったの? 私達まで吸血鬼になったりしないの?」
幾つも訊かないで頂戴。
確かに一般的に考えれば無茶な素材かしら?
でも、研究の為なら苦労を厭わないのよ。貴女がそうであるように。
「狂気を操る能力と破壊する能力は研究で欲しいの。後、私は吸血鬼にならなかった。人間なら……なるかもしれないわね」
ま、吸血鬼になる前に死ぬかもしれないけど。
「破壊って、まさか……?」
「勿論」
「随分命懸けな事してるのね」
「道具と魔法があれば簡単よ」
「へえ、そうなの」
ふっふ、医者に小悪魔の爪を支払って採血器具を譲り受けた甲斐があったというもの。
小悪魔の爪を誰に使うのか知らないけど、あいつにはそれだけの価値があるんでしょうね。
血液なんざ、麻酔と採血器具があれば寝込みを襲って問題なしよ。
ま、流石に吹っ飛ばされたら全てが終わるから慎重だったけどね。
計画を立てれば可能な事は何でも出来るのよ。
「で、貴女に頼むもう一つの理由。私が強くなり過ぎて欲望に負けた時、対抗できる相手が必要」
万一私が暴走したら、誰かが止めてくれないと困るのよね。
なんか腑に落ちて無さそうな顔してるわ。
さて、ティーカップも二つ用意したし……いよいよ飲む時ね。
それにしても素敵なティーカップね。里にこんなの売ってたかしら?
うわー、改めて見ると気持ち悪いわ。
やっぱり貴女でもそういう顔するわよね、ごめんねこんな醜悪極まりない液体で。
でも味は悪くないのよ?
舌触り最悪だけど。
ほら、アルコールとハーブの香りが最高よね、まるで上品な香草酒。
見た目最悪だけど。
あ、ティーカップ小さすぎた。八分目まで入れたのに入りきらない。
「さあ、飲みましょうか」
うーん、味は良いのに舌触りが形容し難い。一気飲みだ。
「ふぅ……馴染むまで少し時間がかかる筈」
「じゃ、それまで続きでも書こうかしら」
やっと一口飲んでくれた。
あ、意外そうな顔……って、露骨に不味そうな顔しないでよ。
そんな警戒してちびちび飲まないで。
「早く飲んでよ」
「舌触り最悪だし、怖いんだけど」
そうよね、最悪にも程がある。
「大丈夫、私が死なないんだから貴女が死ぬ訳無いわ」
あ、一気に飲んでくれた。やっぱり貴女は物分りが良い。
ふう、ちょっと体が重くなってきた。このままベッドで横になろう。
アルコール一気飲みはちょっとまずかったかしら。
でも、少しずつ体に力が満ちてくるわ。
未知の力が満たされていくような、そうよ、私が求めていたのはこの感じよ。
ペンの音が少し頭に響くわね……。
満たされる、というよりは侵食されるような──
「……はぁ……はぁ」
体が、熱い。
「どうしたの?」
そんな心配そうな目で見ないで。大丈夫だから。
って、貴女は平気そうね。私だけなのね。
「顔赤いわよ。まさか急性アルコール中毒!?」
「か、らだが……熱い、の……彼方此方、疼いて」
ああもうどうしよう、言葉も途切れ途切れになっちゃうし。
って、ええ!? アルコール中毒じゃないわよ!
「本当に死ぬかもしれないわよ!? 永遠亭行きましょう!」
「だ、だめ……それ、だけは……ダメ」
そんな事されたらアルコール中毒になる前に恥ずかしくて死んじゃう。
「手遅れになる前に行かないとだめよ!」
そんな被さらないで……って、えぇ!? お姫様抱っこなんてしようとしちゃだめえ!
「んぅっ……だ、だめ……今、触っ、ちゃ」
嗚呼……もうだめ。我ながらなんていう情け無い声っ!
でも手が離れた、最悪の事態は回避でき……そうにない、わね。
って、そんな、そんな目で見ないで!
「あれ、は、い……ま、だから」
もうだめ、頭がぼやけて自分が自分じゃないみたい……。
「だっ、だめ……我慢、できない」
「んっ!?」
ああああ、もうだめだ、理性なんて吹っ飛んでる。考えと行動が一致しないよおお!
ハーブ風味の、唇が。口内が!
おいしい……じゃないよ! 誰か私を止めて!
「ご、ごめん……ほんと、ごめんな、さい! 収ま、るまで……この、ままで!」
「ちょ、ちょっと!?」
焦ってる。焦るよね、ごめんなさい!
体が言う事聞かないの!
止めたいのに、手が勝手に……貴女の頭をそっと抱きしめるの。って、だめ、だめだってば!
唇伝ってる糸が綺麗……違う!
嗚呼、可愛いよ、なんでこんな可愛いの!?
「もう我慢出来ないの何しでかすか判らないからこのまま!」
言えた! じゃなくてこんな事言っちゃだめだってば! 手を放さなきゃ……!
あれから何時間過ぎただろう。
何回、いや、何回だろうが貴女には地獄よね。
「むきゅー」
「治まったの?」
「醜態を晒してしまったわね」
もうやだ、すっごい自己嫌悪。
やっと体が言う事を聞くようになったけど、なんで貴女は逃げないの。
その気になれば力ずくで逃げれた筈なのに。
「どうせ、変な薬草入れたんでしょ」
「小悪魔のせいよ」
「そういえば、何で小悪魔の血を入れたの?」
「安定させるのに悪魔の血が必要だったのよ」
吸血鬼と兎の血に耐えて、淫魔の血に耐えれないなんて。
だめだ、今の私きっと顔真っ赤。見られたくないなあ。
じゃなくて、そう! そんなことよりも!
「薬の効果はどうなった!?」
「生憎、全部抜けちゃったわね」
嗚呼、何て事……お約束過ぎる。
私の体にも残ってないし。
こんな失敗作を飲ませた挙句、醜態晒すだけで一日が終わるなんて。
もう溜息しか出ないわ。
「で、いつまでこのままなのかしら」
あ、抱いたままだった。
ちょっと名残惜しいけど手離すね、ああもう、恥ずかしい。
今何時だろう?
暗いわね、これじゃ帰れない。
あれ? 体重かけててもいいのに、そんな遠慮がちに四つん這いにならなくても。
灯りに照らされた顔が綺麗ね。このまま額縁に収めたい。
「今日、泊まって良いかしら」
「別に構わないわよ。ご飯食べる?」
え、ご飯?
「普段食べてるの?」
「そうよ」
「捨食でしょう?」
「貴女が貧弱なのは栄養不足だからじゃないの?」
む、何故それを知っている。
別に食べなくても大丈夫だけど、折角だし悪くない。
「ふむ、お手並み拝見ね」
「もうすぐ出来るわ」
「え?」
「人形に作らせてるからね。それじゃ、手を放して頂戴」
そういえば、貴女は何でも人形にやらせてるんだったわね。
この指輪、洒落っ気無いわ。……成程、魔力制御用か。
それにしても、細くて綺麗な指ね。吸い込まれそう。
「どうかした?」
「いえ、何でもないわ」
無意識に手が出るなあ。まさか、後遺症……?
ちくしょう、笑うな。
「ふふっ、良いもの見れたし、少しぐらいサービスしてあげるわよ」
「ご飯だけで充分よ」
「あら、本当に'それだけ'でいいの?」
それだけじゃ満足しないわよ。
「貴女、顔に出やすいわね」
この先回りの嘲笑、なんかむかつく。
ん、顔に出てる? 何が。
ちょっと、そんな優しく頬撫でるな。
もっとして欲しくなっちゃう。
薬の残り、どうしようかなぁ。
とりあえずアリスへの甘え用に取っとこう。そうしよう。