「橙。私の柏餅を食べたのはあなたかしら?」
八雲紫はご機嫌斜めだった。
自分がどこぞの神社の巫女と話し込んでいる間にとっておいたはずのおやつが無くなっていたのだ。
「ええぇっ!?あれ紫様のだったんですか!?てっきり誰のものでもないかと思って・・・。」
「食べたのかしら?」
「え?」
「食べたのかしら?」
「・・・すみませんでした。」
ハァと紫はため息をついた。橙は藍の式神なのだがいまいちまだ垢抜けていないのだ。
「仕方ないわね・・・。橙?」
「はい。」
「柏餅を買ってきなさい。藍が買い物へ行くそうだから。」
「かしこまりましたです!」
橙は普段見せないような素早い動きで走っていった。
「・・・まだ自分の事を分かってないのねぇ・・・。」
紫は誰にも聞こえない程度にそう言った。
「藍さま藍さまー!」
「どうしたの?橙?鼻息がどこぞの魔法使いを見た本の虫状態になってるわよ?」
藍は玄関口で靴を履いていたようだ。
「ちょっ、そこまではハァハァしてませんよ。紫様にお使いを頼まれたので私も荷物持ちでお供させてください!」
「あら?そのくらいだったら私が買ってくるわよ?」
「いえ、お供します!」
「・・・じゃあ早く準備しなさい。すぐに出るわよ?」
橙はその言葉に大きくうなずいた。
「藍様、今日の晩御飯は何でしょうか?」
橙と藍は買い物へ徒歩で肩を並べて出かけていた。
「今日?そうねー、まだノープランだけどー・・・。うどんとか蕎麦とか冷麺にしようかしら。」
「麺類が食べたいんですか?」
「知らないの橙?今日は年に一回の小麦粉デーなのよ?今日に麺を食べるのは風習なの。」
「そ、そうだったんですか!?私知りませんでした!」
「嘘よ。冗談。そんな記念日は聞いたこと無いわ。」
「ズコーッ!」
橙は思いっきり前へ向かってスライディングした。
「・・・え?何その懐かしい臭いのするリアクションは?」
橙は身体についたほこりをはたきつつ言った。
「紫様に『誰かが冗談を言ったらこの反応をするのよー。』と言われて教えていただきました。」
「紫様・・・・・・。橙に変なことは吹き込まないでくださいとあれほど・・・。」
「ご、ごめんなさい藍様。また私藍様に迷惑を・・・。」
涙目に橙が言った。
「よし、可愛いから許す!」
「藍様・・・。」
「はいはい。さっさと行くわよ。日が明けるわ。」
「ズっ。」
「それ以外の反応しなさい。」
「今はまだ白昼もいいとこですよ!」
「それでいいわ。さっ、行くわよ。」
橙はその後姿に返事をし、ついて行ったのだった。しかし藍は思った。『橙・・・つっこみ下手だな』と。
一方、八雲家では・・・。
「ねぇ紫?最近あんた妙に静かじゃない?なんか企んでるの?」
「さあてね。まぁ確かにさいきん茶菓子をどう確保するかとか考えてるわね。霊夢はどう思うかしら?」
「は?茶菓子?適当にスキマでも使って取ってくればいいんじゃないの?」
「めんどいのよ。私は寝たい。」
「あんた自堕落な生活やめなさいよ。食って寝てるだけだと太るわよ?ぶくぶくの『八雲紫』なんてカリスマもクソもないじゃない。」
「太る?はっ、まさかね。最近スポーツに目覚めたからそれはないわ。」
「へぇ?あんたが?なんのスポーツ?」
「鬼ごっこ。最近は特に回数が増えたわ。」
「それスポーツ違うじゃない。」
「何かきっかけが必要よねー?あなたはどう思うかしら?」
「話が見えないんですけど・・・。」
ーーーーーー・・・
私は紫様の式神だ。名前は八雲藍。一応式神としての自分の能力に自信が持てるほどの実力を持っている。
私は生き続ける紫様の式神だ。
いきなりでなんだが、どんな生物でも、自分の世界では自分の世界しか見えない。
どんな魔術かを用いればなんとか出来るのだろうが、相手の視覚から見た自分の姿は普通では絶対に見ることが出来ない。
鏡、水面、金属類と自分の姿を投影できるものはいくらでもあるだろうが、あくまでもそれは、並行世界の虚像によって模られた自分で、
自分とはまったくの別人だ。だからこそ自分の視点から見る世界とは唯一無二の存在にある。
それと同じで自分の世界は終わるまでなら永遠にある。もちろん私は永遠亭の姫や竹林に住む人間のように不死身ではないが。
あくまで『自分の世界』は自分だけのものだ。だからこそ私は永遠と詠うことが出来るのだ。
こんな事を言うと私自身とても悲しい気持ちになるのだが、私の周りにあるもので永遠でないものもある。
死んでいく者達だ。まぁ別に?私も人外なので人が死んでも特にといった感情はない。
だが、それとは別に失いたくない存在も私にはある。絶対に守りたい存在がある。
それらは私にとって永遠ではないので永遠であってほしいとも願っている。え?ああ、紫様は例外ですよ?
でも橙はどうだろうか、橙は私の式神だ。私も死ぬ前は弱っていくだろう。
それと同時に私の力で身体を保っている橙は、私の永遠の中で消えてしまうのだろう。
勿論、そんな事は考えたくない。だが事実は残酷過ぎるのだ。
だからこそ、私は、守ろうと思う。橙を紫様を、八雲の家を。
そんな事はずっと先の話だろうな、と私も思うのですがね。馬鹿馬鹿しいのも分かっていますよ。
「らんさまらんさまー!わーい!」
橙が手を振っている。夕日を背に。
「ちょっと待ちなさーい!ちぇーん!」
駆け出すくらいの速度で先に行っていた橙に私は追いついた。
「橙。ちょっと。」
「なんですか?藍さま。ってにゃふっ!・・・え!?なんで抱きつくんですか!?」
「ちぇーん。だーい好き。はなさないわよ。」
「え?え?。・・・・・・大丈夫ですよ藍様。私はどこにも行きませんよ?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「わーい。ふかふかー。もこもこー。」
「・・・橙?」
「なんでしょうか?」
「今日の晩御飯。ハンバーグにしようか。」
「ハンバーグは私も紫様も大好きです!」
「ふふ、そうね。・・・じゃ、帰ろうか。」
「はい!」
私は橙の永遠を守りたいと思う。その永遠をまっとうできるように。
私達は夕日を背に帰っていった。
「あらあら。橙は疲れて寝てるの?」
私は疲れて寝てしまった橙を背負っていた。
「はい。この子あんまりに走っていくから遊びつかれたんでしょうね。ちょっと寝かせてきます。」
「少しは自分の周りが見えるようになったかしら?」
「え?」
「ぐふぅ。にゃふっ。ってあ!すみません藍さま!」
「あ、起きちゃった?」
「おはよう橙。柏餅は買ってきた?」
「あ!!」
「『あ!!』?・・・ってまさか!」
「はい・・・、まさかです。」
「教育が必要のようね・・・。」
「すみません紫様!」
「大丈夫ですよ紫様。そんな事もあろうかと私がケーキを買ってきましたから。」
紫「え?マジで!?」橙「ほんとですか!?」
「ほんとです。夕食後に皆で頂きましょうか。しかも今日の夕食はハンバーグなんですよ?」
紫「重ねてマジで!?」
「重ねてマジです。」
紫様と橙は手をあげて喜んでいた。
・・・私がこの家を守るんだ。絶対に。永遠を共有するために・・・。
・・・・・・紫様がフッと笑ったような気がした。全てを見透かしているような顔で。
まったくやれやれです。
~永遠を最後まで謳歌できるように~
なんてね。さて、明日の晩御飯は何にしようか。
また、一行ごとに改行を挟むのも、この文章だと逆に見づらい気がします。まあここは好き好きですが。
雰囲気や流れは良かったので、細かいところを詰めていけばもっと良くなると思います。
ご指摘ありがとうございましたw
次回からは語り口を三人称か一人称かはっきりと考えて書きたいと思います。
これからもつたない文章ですが続けていきたいと思うので、またのご指摘待ってます。