「大と小の掛け合い」の続きです
紅魔館を目指して大妖精は進んでいた、手には前に借りた本、余りにも先が気になりすぎて寝る間も惜しんで読んだ、なので予定より早い返却となる。
「面白かったな~、この「銀田一少女の事件簿」、続き読ませてもらえるかな…」
などと思っていると大きな紅魔館の門が見えてきた、そして門の前には美鈴の姿が、
「美鈴さーん!」
と手を振って大きな声で美鈴の名を呼ぶ、美鈴も大妖精の姿に気づき手を振り返した。
「おはようございます美鈴さん」
「おはようございます大妖精さん、今日は一体何ようですか?」
「実は前に借りた本を返そうと思いまして…」
「そうですか、構いませんよ大妖精さんなら、ようこそ紅魔館へ」
軽く頭を下げ美鈴は大妖精を紅魔館へと通した。
中に入り、今回はメイドに案内してもらって図書館へとたどり着く、大妖精には少し大きめな扉を叩くと中から「はーい」と声が聞こえ、少ししてから扉が開けられた。
「はーい、どなたですかー、あっ、大妖精さん!」
「おはようございます小悪魔さん、本返しに来ました!」
「はい、では中にどうぞ!」
中に入り、借りていた本を本棚へと戻し、また新しい本を持って椅子へと座った。
大妖精が座ると、パチュリーが声をかけてきた。
「随分早かったわね」
「は、はい、面白かったものですから、その…」
「そう、ならよかったわ」
クスッと笑ってパチュリーは視線を本へと戻した。
それからは、たまに小悪魔と他愛もない会話をしながら本を読んでいた、
お昼になり軽い昼食を食べさせてもらう、それからまた同じように本を読む、
そしてそれは三時のおやつ時に起きた。
「失礼します」
一人のメイドがお茶とクッキーを持ってきた、それをそれぞれの場所に置いて行く、そしてそのメイドが大妖精の元へと向かったとき…
「あっ…」
床にあった本につまずきお茶を大妖精の服に溢してしまったのだ。
「あなた、何やってるの!」
「ご、ごめんなさい!」
慌ててメイドがハンカチで大妖精の服を拭く、幸い熱いお茶ではなかったので火傷はなかった。
「ごめんね大妖精さん、着替え持ってくるから」
「ううん、ありがとう小悪魔さん」
小悪魔は急いで代わりの服を取りに行った、溢したメイドは終始謝っていたが、大妖精は「気にしなくていいよ」とほほ笑んでいた。
服についたお茶を拭きとると、小悪魔が戻ってきた。
「ごめん大妖精さん、服…これしかなかった」
と言って見せられたのは紅魔館のメイド服だった、それも一昔前の…
「ううん、大丈夫だよ、ありがとう小悪魔さん」
しかし大妖精は来ていた服を脱ぎ、代わりにそのメイド服を着た。
「ごめんなさいねウチのメイドが、すぐに洗濯するから、さっ、早く行きなさい」
何度も頭を下げながらメイドは大妖精の服を持って図書館を出て行った。
それからはまた先ほどと同じように時間が流れる、大妖精のお茶も新しく持って来てもらった。
おやつを食べ終え、少し経ってから
「あ、あの…小悪魔さん」
「はい、なんですか大妖精さん」
「その…お手洗いって何処ですか?」
「お手洗いですね、ご免なさい少し手が離せないので、あなた悪いんだけど大妖精さんをお手洗いに連れてってあげて」
と近くにいたメイドに頼んだ、頼まれた妖精メイドは「はい」と返事をして大妖精を連れ出していった。
「ゴメンね、すぐ戻るから」
と少し慌てながらトイレへと入っていく大妖精、そして大妖精をトイレまで連れてきたメイドはトイレの前で待っていた、しかし
「ちょっとそこの貴女、悪いんだけど手伝って!」
「えっ、でも…!」
「いいから、早く!」
「は、はい!」
と先輩に呼ばれてその場を離れてしまった。
「お待たせしまし……あれ?」
トイレから出てきた大妖精、しかし見渡せども先ほどのメイドはいない。
「どこ行っちゃったんだろう……ん?」
ふと隣を見ると箒と塵取り、そしてさらによく見ると廊下の端の方に取りきれてないゴミ、
「……戻ってくるまでいいよね?」
元々、きれい好きな大妖精はこういったのを見過ごすことが出来なかった、やり方なら図書館のメイドを見ていたので少しならわかる、なのでトイレ前だけを掃除しようとした……のだが、
「ごめんなさい大妖精さ……あれ?大妖精さん!?」
先ほどの用事が終わったので、トイレに戻ってみると大妖精はいなかった、
中にいるかもっと探してみるがどこにもいない、
「どうしよう、まさか一人で戻ったのかなぁ」
確認すべく、メイドは図書館へと戻って行った。
一方で大妖精は、知らず知らず図書館とは全く逆の方向へと向かっていった。
廊下でメイドが三人並んで話していた。
「あー、次何やればいいんだろう?」
「メイド長は?」
「いない、確か用事があるって出てる」
咲夜に言われた仕事も終わり、何をやっていいのか分からずウロウロするメイド三人、そこに……
「あれ?あんな子居たっけ?」
一人が指さした先を二人は見る、そこにはメイド服でせっせと廊下を掃いている大妖精がいた。
「え~わかんないよ、でも紅魔館って人数多いし入れ替わり激しいからなぁ~」
「あれ?でもあの服って前にやつじゃない?それにあの子私たちよりも力が強いよ?」
言われて二人が大妖精の強さを探る、その大きさに他の二人は驚く、もちろん妖精での中での強さではあるが…
「なんにせよ、ここで働いてるんでしょ?なら聞いてみようよ!」
三人のメイドは今も黙々と掃除を続けている大妖精の元へと向かっていった。
「すいませーん!」
少し離れたところから大妖精を呼ぶが全く反応しない、なのでもっと近づいて呼んでみることにした。
「すみません!」
「ひゃい!?」
いきなり呼ばれ、びっくりして辺りを見渡せば、そこは全く知らない場所だった。
「あ、あの、ここは一体……」
「掃除終わったんですけど、次はどこをやったらいいですか?」
「次の……ところ?」
ざっと見回すと、壁や棚の上など少し汚れていた。
「じゃ、じゃあ貴女は雑巾で壁を、貴女は棚の上などを、貴女は階段の手すりを……
そ、それでここは……」
「わっかりましたー!さっ、早く行こう!」
「うん、ありがとうございました!」
居場所を聞こうとしたのに、聞く前に三人は張り切って行ってしまった。
「勝手に指示出しちゃった……どうしよう、と、とにかく図書館探さなくちゃ」
大妖精は図書館を探して歩きだした。
用事も済み、咲夜は紅魔館へと帰っていく。
「思ったより早く終わったわね、でも…」
館のメイドたちの事を思い出すと溜息が出てきた。
「言われればやるんだけど、言われなきゃ何にもやらないのよね~、内勤のメイド、
外勤のメイドたちは美鈴が居なくても素振りや草むしりくらいはするのに全く……
早く帰らなきゃ」
飛ぶスピードをさらに早め、咲夜は紅魔館を目指した。
「お帰りなさい咲夜さん」
「ええ、ただいま美鈴、なにか異常は?」
「ありません、今日は誰も侵入してきませんでしたよ」
「そう、また後でね美鈴」
「はい!」
美鈴と門で少しだけ会話し、正門へと立つ。
それから一度深呼吸をして扉を開ける、そこには…
「……なんで、みんなちゃんと仕事してるの?」
忙しく動き回るメイドたちだった、当然これは喜ばしいのだが、普段見ない光景だけに違和感がる、そこへ一人のメイドがやってきた。
「お帰りなさいませ、咲夜メイド長」
「え、ええ、ただいま、これは一体どういう……」
「それにしてもメイド長、副メイド長なんていつ決まったんですか?」
「へ?なに?副メイド長?そんなの知らないんだけど……」
「えっ、だって居ましたよ?一昔前のメイド服着て、私たちより力の大きな妖精が」
咲夜が何のことか分からず戸惑っていると慌てた様子で小悪魔がやってきた、後ろには一人のメイドもいる。
「さ、咲夜さん!」
「どうしたの、小悪魔?」
「実は大妖精さんがいなくなっちゃって!」
「なんですって!?何でいなくなったのよ!」
「先ほどのことなんですけど、大妖精さんがお手洗いに行きたいと申されまして、小悪魔さんの代わりに私が付き添ったのですが、大妖精さんがお手洗いに行っている時、先輩の救援を頼まれ、手伝って戻ってきたら……ごめんなさい!」
説明し終えるとメイドは涙目で深く頭を下げた、そんなメイドに咲夜も怒ることも出来ず「わかったわ、取り敢えず手分けして探しましょう、たぶんそのトイレからそう遠くには行ってないはずよ!」
「「はい!!」」
こうして咲夜と小悪魔、メイドの三人で大妖精を探すことになった、残されたメイドはずっと頭に?マークを浮かべていた。
咲夜達はトイレの前で各自別れて行動すると、通路の真ん中に人だかりが出来ていた。恐らく先ほどの三人が喋ったのだろう。
「あなた達、何してるの!?」
「メイド長、お帰りなさいませ、いえ、今副メイド長に仕事を聞こうと「咲夜さーん!」うおぅ!」
メイドをかき分け、大妖精は咲夜の元へと飛んでいった。少し人見知りなのにいきなり大人数で寄って集られ怖かったのか、大妖精は少し涙目だった。
そんな大妖精の肩に咲夜はそっと手を置く。
「ごめんなさいね家のメイドが、あなた達、この子は紅魔館のメイドじゃないわよ!」
「えっ、そうだったんですか?ここのメイド服着てるし、力も強く掃除も上手なのでそうだと思ったんですが……」
「全く、主要人物くらい覚えときなさい
ごめんなさいね、それじゃあ戻りましょうか」
「は、はい」
ふぅ、とため息をつき咲夜は大妖精を連れて図書館へと戻っていった。
戻る道すがら、咲夜は廊下の隅々を見る、それはいつもより綺麗になっていた。
「これ、貴女がやったの?」
「は、はい、すみません勝手に掃除してしまって……」
「あ、いや、悪いんじゃないのよ!?むしろ助かったから!」
シュンとする大妖精に、咲夜は慌ててフォローをする。
実際、大妖精がやったところは他のメイドがやるより綺麗で、大妖精の指示も的確だった、それに怒る理由もないし、むしろ楽が出来て良かったのだ。
(この子、磨けば光るかもしれないわね)
などと咲夜は考えていた。
そうこうする内に小悪魔とメイドに合流し、四人は図書館へと戻った。メイドはまたも大妖精に謝っていたが……。
図書館に戻った大妖精たち、大妖精は小悪魔と一緒に本を選び、咲夜はパチュリーと話していた。
「大妖精は見つかったの?」
「はい、無事に見つけ出すことができましたパチュリー様」
「そう、よかったわね」
「はい、しかしあの妖精、人を纏める力というか、全体を見回す力と言いますか、なかなか侮れませんね、紅魔館に欲しいくらいですわ」
それもそうである、大妖精は少し目を離すと何をしでかすかわからないチルノと一緒にいるのだ、それにルーミアやリグル、ミスティアも加わるのだ。
リグルやミスティアはまだしも、ルーミアまで加わるとその労力は半端ではない、普通ならとっくに投げ出している、しかし元々優しい性格の大妖精は見捨てることが出来ず、今まで付き合っている、それもあって大妖精はチルノだけではなく、ルーミア達にも慕われている。そういうわけで、大妖精の全体を見る力と、人を纏める力というのは高いのだ。
「頼んでみたらいいじゃない、ここで働いてみないって?」
「しかし、なんと言いますか、いささか図々しいような気がして……」
などと二人が話していると、
「ねえ大妖精さん」
「なに小悪魔さん?」
「ここで……働いてみる気ってない?」
「えっ……ここで?」
の声がした、小悪魔も、咲夜も次の言葉を待つ、やがて大妖精はゆっくりと口を開いた。
「したいけど、勝手に歩き回って迷惑かけちゃったから……」
うつむいてしまう大妖精、そこへここぞとばかりに咲夜が現われた。
「あら、迷惑だなんて、むしろ手間が省けて有難いくらいよ?
もし貴女がいいのなら、ここで働いてみない?」
「でも、何も分からないですし……」
「誰でも最初はそんなものよ、少しづつ覚えていけばいいんだし、ね?」
大妖精は少し考えてから、ゆっくりと咲夜に向きなおる。
「あの、それじゃあ……お願いします!」
「ええ、こちらこそ」
こうして大妖精は紅魔館で働くこととなった。
簡単なことならすぐに覚えたし、基本礼儀正しいのでそういったマニュアルはさほど必要なかった、人見知りなのは少し問題だったが……
紅魔館で一週間ほど働いたとき、このままここで働いてもらえると咲夜は思っていたのだが、チルノが大妖精を取り戻しに(勘違い)来たので仕方なく返すこととなった。
しかし、チルノと一緒にいるのも楽しいが、紅魔館での新しい生活も覚えたので、何も用事がないときは紅魔館へ手伝いに行くことを伝えると、咲夜は上機嫌で「お願いね」と答えた。
このことで大妖精は本格的に紅魔館に出向くことになったのだった。
大ちゃんならありそうだwww
それに統率力もあるんだろうなぁ…
何てったって大妖精だし