「師匠、これは何ですか?」
永遠亭の一室、20畳はあろうかという大広間を狭く思わせるほどの密度で、銀色に鈍く輝く機械が鎮座していた。中心にパソコンのキーボードらしきものがあるが、そのボタンの数は数百に及ぶ。その背後からはケーブルが幾本も延び、竹の形をした筒状のものへ接続され、それが林立している。
確かに普通ではこれが何であるかは不明だ。だが弟子にはわかってもらいたかったという感情が少なからずあり、私は溜め息をついた。
「優曇華、では何だと思う?」
質問に対し質問で返す。
少しは自分で考えてもらわないと首の上のものが役立たずになってしまう。
考える素振りを見せたへにょり耳の弟子は迷った口調で答えた。
「コンピュータ、でしょうか。こういった形のものは見た事ありませんが、キーボードがありますし、筒状のものは演算装置だと思います。画面がない事と師匠の意匠はもう少し変態て、いえ一般のものからかけ離れている事から確信はできませんが」
「正解よ、優曇華。でも言い直したことはどちらにしろ失礼ね」
私はそう言いながらレバーを引き、起動させた。
部屋の奥に黒い画面が浮かび上がる。
「これは現在の月にあるスーパーコンピュータの最新モデル、の設計図を月にハッキングして手に入れ、私なりに手心を加えたものよ。そうね、名前は『E-RINⅡ』」
「何やってるんですか本当に、というかどこから材料を」
「ああ、竹で事足りたわ。かのエジソンも竹で電球を作ったのよ」
「竹を使ったのはフィラメントだけですってば!」
私のボケに忠実に突っ込みを入れてくれる優曇華、私が月にいたころは私、姫、豊姫がボケ、依姫がツッコミで3対1で依姫はさばききれていなかった。今も私、姫、てゐがボケるのだが、優曇華は冷静に突っ込みを入れ、焦げる。
果たして優曇華のツッコミスキルが高いのか、豊姫のボケが優れているのか。おそらく前者だろう、座薬だけに。
「それはそうとコンピュータに自分の名前をつけるだなんて師匠もお茶目ですね」
「生意気なこと言わないの」
そう言って軽く耳をつねる。
「いたた、耳をつねらないでください」
手を放したら優曇華の顔に少し残念そうな表情が浮かんだ。
これが師匠にいじってもらって嬉しいのか、痛みに対して喜んでるのかで今後の教育方針を考えねばならない。
「で、これを一体? 幻想郷では役立たずなのでは」
「馬鹿ね、知的好奇心を満たさずに何が知的生命体なのかしら。あなたは食う寝るまぐわうの野良兎ではないのだからもっと数学的分野に興味を持ちなさい」
「ぐぐぐ、今は薬学で手一杯です、すみません」
「私の弟子として恥ずかしくないように、永遠の時間をかけてありとあらゆる知識を叩き込んであげるから、心配はいらないわ」
「私は蓬莱人じゃ‥‥‥」
黙る弟子を尻目にキーボードの前へ座り、指を走らせる。
「これから性能実験をはじめるわ。よく見ておきなさい」
「へ、性能実験とはまさか!?」
「計算に滅法強い妖怪に喧嘩を挑むのよ」
そして私はenterキーを叩き、静かに笑みを浮かべた。
「ただいま帰りましたー」
玄関から聞こえる式の声に反応して布団から這い出る。
「おかえり、藍。おはよう」
そう声をかけ、私の一日ははじまる。
「はい、おはようございます、紫様」
「早速だけど夕飯をお願いできるかしら」
「わかりました。半刻ほどお待ちを」
台所へと入り、調理の準備をはじめる藍。結界の見回りから帰ってきて疲れているはずだが、甘やかしては式のためにならない。
藍にもそう言った事があるのだが、藍は橙に決して無理をさせようとしない。尻尾が一本減るくらいの経験をしないと成長しないというのに。
藍がその経験をした時は狐狸妖怪レーザーを撃てるようになったので、私に向かって撃ってきたが、ストレートとカーブの夢郷でレーザーごとねじ曲げ藍に向かって返したのはいい思い出である。
昔のことを思い出しているうちにいい匂いが漂ってきた。
鰆を焼いているのだろうか。海の魚が手に入るのは役得である。
やがて藍がご飯をのせたお盆を持ち、やってきた。のせられた皿からは湯気が立ち上る。
だが私の目はおいしそうに湯気をあげる夕飯ではなく、藍の頭に向けられていた。
そんな私を見て不審に思ったのだろうか、藍が尋ねてきた。
「紫様、私の頭に何か? 帽子には非常食の油揚げと煮干と味噌しか入っていませんよ」
そう言って藍は自分の頭に手を伸ばす。
さわ、さわさわ。頭を触る。さわさわさわ、急にあせり始める。
脱兎のごとく洗面所に駆ける。その際に放り出したお盆は私をグレイズ。
足音が止まりきっかり三拍。
「うさみみになってる‥‥‥」
そう落胆した藍の声が耳に届いた。
「では本当に紫様の仕業ではないと」
「さっきからそう言っていrむぐむぐ。口に茄子を突っ込まない!」
藍はうさみみのショックで奇行に走っていた。
「見なさい鏡を、ほら、憑依荼吉尼天で鏡に突進しない!」
落ち着かせ正面を向かせる。
藍の目がその耳を捉えた。
「‥‥‥これは!?」
「そう、永遠亭の月の兎の耳よ」
もとの狐の耳の換わりについているうさみみはどこからどう見てもへにょっていた。
「早速永遠亭に!」
「ええ、わかっているわ」
紫が手を上げると空間がパックリと割れ、黒々、いや紫々としたスキマが現れた。
もし耳ではなく藍の尻尾が奪われてたらここで飛行虫ネストを放り込むが、まずは話合おうと足を踏み入れる。
「待ちなさい」
突如ここにはいないはずの者の声がする。
二人は音源を捜しうさみみに辿り着いた。
「話したい事があるわ。八雲紫、いえ紫色のババロア」
「あら奇遇、こちらもちょうど言いたい事があるわ。八意永琳、いえ蓬莱の筍の根」
お互いの姿は見えないものの空気が張り詰める。ともに幻想郷の実力者、声だけで多くの者を恐れさせる。
ちなみに筍の根には毒がある。
「勝負をお願いしたいのだけれど、いいかしら?」
「望むところよ、さしずめあなたの弟子と私の式の耳を賭けて弾幕勝負というところかしら」
「ちがうわ、賭けるのはあなたの式の体のみ。勝負は計算。月と電子の頭脳による頭脳戦よ!」
永琳は言い放つとキーボードを高速で叩き始めた。画面には無数の数式。
そして藍の体が光り始めた。
「藍っ!」
八雲藍は式である。最強の妖獣に無数の方程式がつけられた状態である。式の状態では自身も方程式であるが、式がとれても姿は変わらないし、服装は普通の素材、と言っても妖気が織り込まれた逸品である。
だが体を包む光が解けたとき、そこにはナース服に身を包む藍がいた。耳は戻っている。
「なん、だと」
後に八雲紫はこう語る。藍につけた式をいじっても姿が変化する事はないと。しかしそんな矛盾はどうでもいい。なぜならここは幻想郷、何が起きても不思議でないと。頬を赤らめながらナース服の裾を押さえ、ナースキャップからきつねみみが片方のぞく藍を見れば、思わずハイジャンプして背が5センチ伸び受験に受かり告白が成功し世界経済は回復し紛争は収まるだろうと。
そして八雲紫はハイジャンプして右ふくらはぎを攣った。
「どうかしら。こうやってあなたの式に数式を打ち込み、好きな姿にした方が勝ちなのだけれど」
「ふふ、ふふふ、もちろん受けてあげるわ。これ以上私の式を辱められてたまるものですか」
「紫様っ」
「藍、待ってて。すぐにもとのチャイナドレスにしてあげるから」
「それもとじゃねえぇぇぇ!ぐすっ」
「さて、式がおとなしくなったところではじめましょうか」
「ええ、涙目の藍もそそるわ」
「「‥‥‥‥‥‥」」
おそらく永夜異変の時に何か仕込まれたのだろう。月人禿げれと思って、回転する藍を近づけすぎたのがよろk、悔やまれる。だがこれは一世一代の大チャンス、今まで良識が邪魔してできなかったあんな格好、想像するだけで実際に存在しない格好を藍に着せられるのだ。
そして紫は藍の額に軽く触れた。
藍は感じた。膨大な数式が自身に流れ込むのを、服が深紅のチャイナドレスに変わるのを、スリットが思っていたのよりも7.58センチも深いのを。
永琳は感じた。八雲紫の予想以上の力を。そして驚嘆している場合でないと思い返し、指を視認できない速度で動かし始めた。
紫は感じた。鼻腔内にほとばしる熱くて赤い奔流を。決して正義感などではない。むしろ性義感である。
ちら見でこれである。けれども次で噴出すであろうスカーレットを顧みず、顔を上げた。
既に改変は始まっていた。藍の上半身は光に包まれ徐々に上からメイド服へと変わっている。
邪道、既存の人物が着用している服装などをと瞬間思い、次の瞬間はメイド服でパタパタと埃を払う藍を妄想し、最終的に巫女服への改変へと移った。無論、幻想郷スタイルである。
その改変は永琳の改変に追いつき、容易く上書き、腋が開いた巫女服へ変貌していく。欲望に囚われた脳であってもその数学的思考は衰えず、楼観剣のごとく研ぎ澄まされているかのようであった。さらに永琳の打つ数式よりヘルシーである。
「なっ!ここまで速いの!」
永琳は追い詰められていた。月のスーパーコンピュータを凌ぐ八雲紫の演算能力from煩悩に。
そして逃げるように改変を下半身へと移し、スクール水着への書き換えを開始、これが予想外の結果を生んだ。
勝ちを確信した紫の目に飛び込んできたのは、上半身が腋巫女服、下半身がスクール水着の藍の姿であった。上下のアンバランスに発育がいい藍のサイズ的アンバランスが加わり、謎の色気が生まれていた。ついでに言えば藍はいじけて体育座りをしている。
下手に萌え要素を組み合わせると駄目になるがこれは一体、衝撃が走った。これにより紫に大きな隙ができた。
永琳は隙を見逃さなかった。思考する。有利な点は藍の格好がツボにはまれば紫は停止するという事と式に不可をかけすぎられない事、またこの停止は奇跡的な偶然によって成り立っている。ならばここで必殺を放ち、勝利まで一気に持ち込む。手が今まで以上に難解な数式を入力していく。それが勝利への方程式であると信じ。
紫は未だ行動を起こせなかった。
紫もまた、これが奇跡的な偶然により起きた状況であることを知っていたからだ。
だから藍の全身が光り始めた時もそれが崩れるショックで動けなかった。
光が収まった時、その姿は
スッパテンコー
全裸であった。
勝った、そう思った永琳は深く息を吐き、呆れて帰った優曇華の代わりにてゐにコーヒーを頼んだ。あとは改変が終了するのを待つだけ、紫は衝撃に動けない。そう考える故に画面に新しく数式の羅列が生まれた時は戦慄した。
「馬鹿な、あなたは動けないはず!?」
「藍の裸なんてお風呂でいつも見てるのよっ!」
「そんなこと他人に言わないで下さいっ!」
そんな声が聞こえ、周りの演算装置から煙が上がり始めたとき、永琳は負けを感じた。
「やっぱり人様のものに手をだすべきじゃないわね」
永遠亭の一室は爆散した。
八雲紫の目は怪しく光り、脳内では那由他の桁が蠢いていた。
そして目の輝きと藍の体の輝きは同時に終わり、紫はひざをつき、藍は白に包まれる。
「紫様っ! ってこれはっ!?」
「見たとおりウエディングドレスよ」
純白のベールとドレスに包まれた藍は輝いていた。
とりあえず親指をたて突き出す。
「あの、戻せません?」
「壊れたみたいよ。憑いていた仕掛けも機械も。だから無理」
見る間に塞ぎ込む藍、床にのの字を書き始める。木が削れる速度で。
ならば最高の慰めの言葉をかけるしかない。
「藍、気に病む必要はないわ。とってもよく似合っているもの。脱ぐ必要なんかないわ。このまま祝言を挙げればいいのよ」
「祝言なんて意味ないです‥‥‥」
「あら、なぜ?」
「だってもう、私は紫様のものですから」
どうやら藍は塞ぎ込んでいる間に反撃の手を考えていたようだ。そして、私はその一撃に直撃したようだった。色恋など幾つも経験してきた私の顔が火照っていたからだ。
よく見ると藍の顔も上気している。
お互いに顔を見合わせ笑った。
私は指を弾き、スキマを二つ生む。落ちてくるのは猫と烏。驚いた顔をしている。
もう一度指を弾けば、私の服はロングタキシード、橙の服は小洒落た洋服に。
「服換えれるじゃないですか」
「紫様、服装がずるいです」
「まあまあ、そう言わずに並ぶ並ぶ。さてカメラマンさん、一枚お願いできるかしら?」
年を経ている分、橙よりも反応が遅れている烏天狗に声をかける。
「あ、ええ、はい。私は新聞記者であってカメラマンではありません。しかしてこんないい被写体に出会ってシャッターを切らないほど欲がないわけでもないですよ」
まったく、天狗という奴は回りくどい。会話をする分には中途半端に賢く好きなのだが。
「早く撮りなさい」
「もちろん、速さが売りです。えいっ」
シャッターボタンが押される瞬間、私は藍の頬にくちづけた。
翌々日、文々。新聞では私たちの写真の半分以下で永遠亭の爆発について書いてあった。
永遠亭の一室、20畳はあろうかという大広間を狭く思わせるほどの密度で、銀色に鈍く輝く機械が鎮座していた。中心にパソコンのキーボードらしきものがあるが、そのボタンの数は数百に及ぶ。その背後からはケーブルが幾本も延び、竹の形をした筒状のものへ接続され、それが林立している。
確かに普通ではこれが何であるかは不明だ。だが弟子にはわかってもらいたかったという感情が少なからずあり、私は溜め息をついた。
「優曇華、では何だと思う?」
質問に対し質問で返す。
少しは自分で考えてもらわないと首の上のものが役立たずになってしまう。
考える素振りを見せたへにょり耳の弟子は迷った口調で答えた。
「コンピュータ、でしょうか。こういった形のものは見た事ありませんが、キーボードがありますし、筒状のものは演算装置だと思います。画面がない事と師匠の意匠はもう少し変態て、いえ一般のものからかけ離れている事から確信はできませんが」
「正解よ、優曇華。でも言い直したことはどちらにしろ失礼ね」
私はそう言いながらレバーを引き、起動させた。
部屋の奥に黒い画面が浮かび上がる。
「これは現在の月にあるスーパーコンピュータの最新モデル、の設計図を月にハッキングして手に入れ、私なりに手心を加えたものよ。そうね、名前は『E-RINⅡ』」
「何やってるんですか本当に、というかどこから材料を」
「ああ、竹で事足りたわ。かのエジソンも竹で電球を作ったのよ」
「竹を使ったのはフィラメントだけですってば!」
私のボケに忠実に突っ込みを入れてくれる優曇華、私が月にいたころは私、姫、豊姫がボケ、依姫がツッコミで3対1で依姫はさばききれていなかった。今も私、姫、てゐがボケるのだが、優曇華は冷静に突っ込みを入れ、焦げる。
果たして優曇華のツッコミスキルが高いのか、豊姫のボケが優れているのか。おそらく前者だろう、座薬だけに。
「それはそうとコンピュータに自分の名前をつけるだなんて師匠もお茶目ですね」
「生意気なこと言わないの」
そう言って軽く耳をつねる。
「いたた、耳をつねらないでください」
手を放したら優曇華の顔に少し残念そうな表情が浮かんだ。
これが師匠にいじってもらって嬉しいのか、痛みに対して喜んでるのかで今後の教育方針を考えねばならない。
「で、これを一体? 幻想郷では役立たずなのでは」
「馬鹿ね、知的好奇心を満たさずに何が知的生命体なのかしら。あなたは食う寝るまぐわうの野良兎ではないのだからもっと数学的分野に興味を持ちなさい」
「ぐぐぐ、今は薬学で手一杯です、すみません」
「私の弟子として恥ずかしくないように、永遠の時間をかけてありとあらゆる知識を叩き込んであげるから、心配はいらないわ」
「私は蓬莱人じゃ‥‥‥」
黙る弟子を尻目にキーボードの前へ座り、指を走らせる。
「これから性能実験をはじめるわ。よく見ておきなさい」
「へ、性能実験とはまさか!?」
「計算に滅法強い妖怪に喧嘩を挑むのよ」
そして私はenterキーを叩き、静かに笑みを浮かべた。
「ただいま帰りましたー」
玄関から聞こえる式の声に反応して布団から這い出る。
「おかえり、藍。おはよう」
そう声をかけ、私の一日ははじまる。
「はい、おはようございます、紫様」
「早速だけど夕飯をお願いできるかしら」
「わかりました。半刻ほどお待ちを」
台所へと入り、調理の準備をはじめる藍。結界の見回りから帰ってきて疲れているはずだが、甘やかしては式のためにならない。
藍にもそう言った事があるのだが、藍は橙に決して無理をさせようとしない。尻尾が一本減るくらいの経験をしないと成長しないというのに。
藍がその経験をした時は狐狸妖怪レーザーを撃てるようになったので、私に向かって撃ってきたが、ストレートとカーブの夢郷でレーザーごとねじ曲げ藍に向かって返したのはいい思い出である。
昔のことを思い出しているうちにいい匂いが漂ってきた。
鰆を焼いているのだろうか。海の魚が手に入るのは役得である。
やがて藍がご飯をのせたお盆を持ち、やってきた。のせられた皿からは湯気が立ち上る。
だが私の目はおいしそうに湯気をあげる夕飯ではなく、藍の頭に向けられていた。
そんな私を見て不審に思ったのだろうか、藍が尋ねてきた。
「紫様、私の頭に何か? 帽子には非常食の油揚げと煮干と味噌しか入っていませんよ」
そう言って藍は自分の頭に手を伸ばす。
さわ、さわさわ。頭を触る。さわさわさわ、急にあせり始める。
脱兎のごとく洗面所に駆ける。その際に放り出したお盆は私をグレイズ。
足音が止まりきっかり三拍。
「うさみみになってる‥‥‥」
そう落胆した藍の声が耳に届いた。
「では本当に紫様の仕業ではないと」
「さっきからそう言っていrむぐむぐ。口に茄子を突っ込まない!」
藍はうさみみのショックで奇行に走っていた。
「見なさい鏡を、ほら、憑依荼吉尼天で鏡に突進しない!」
落ち着かせ正面を向かせる。
藍の目がその耳を捉えた。
「‥‥‥これは!?」
「そう、永遠亭の月の兎の耳よ」
もとの狐の耳の換わりについているうさみみはどこからどう見てもへにょっていた。
「早速永遠亭に!」
「ええ、わかっているわ」
紫が手を上げると空間がパックリと割れ、黒々、いや紫々としたスキマが現れた。
もし耳ではなく藍の尻尾が奪われてたらここで飛行虫ネストを放り込むが、まずは話合おうと足を踏み入れる。
「待ちなさい」
突如ここにはいないはずの者の声がする。
二人は音源を捜しうさみみに辿り着いた。
「話したい事があるわ。八雲紫、いえ紫色のババロア」
「あら奇遇、こちらもちょうど言いたい事があるわ。八意永琳、いえ蓬莱の筍の根」
お互いの姿は見えないものの空気が張り詰める。ともに幻想郷の実力者、声だけで多くの者を恐れさせる。
ちなみに筍の根には毒がある。
「勝負をお願いしたいのだけれど、いいかしら?」
「望むところよ、さしずめあなたの弟子と私の式の耳を賭けて弾幕勝負というところかしら」
「ちがうわ、賭けるのはあなたの式の体のみ。勝負は計算。月と電子の頭脳による頭脳戦よ!」
永琳は言い放つとキーボードを高速で叩き始めた。画面には無数の数式。
そして藍の体が光り始めた。
「藍っ!」
八雲藍は式である。最強の妖獣に無数の方程式がつけられた状態である。式の状態では自身も方程式であるが、式がとれても姿は変わらないし、服装は普通の素材、と言っても妖気が織り込まれた逸品である。
だが体を包む光が解けたとき、そこにはナース服に身を包む藍がいた。耳は戻っている。
「なん、だと」
後に八雲紫はこう語る。藍につけた式をいじっても姿が変化する事はないと。しかしそんな矛盾はどうでもいい。なぜならここは幻想郷、何が起きても不思議でないと。頬を赤らめながらナース服の裾を押さえ、ナースキャップからきつねみみが片方のぞく藍を見れば、思わずハイジャンプして背が5センチ伸び受験に受かり告白が成功し世界経済は回復し紛争は収まるだろうと。
そして八雲紫はハイジャンプして右ふくらはぎを攣った。
「どうかしら。こうやってあなたの式に数式を打ち込み、好きな姿にした方が勝ちなのだけれど」
「ふふ、ふふふ、もちろん受けてあげるわ。これ以上私の式を辱められてたまるものですか」
「紫様っ」
「藍、待ってて。すぐにもとのチャイナドレスにしてあげるから」
「それもとじゃねえぇぇぇ!ぐすっ」
「さて、式がおとなしくなったところではじめましょうか」
「ええ、涙目の藍もそそるわ」
「「‥‥‥‥‥‥」」
おそらく永夜異変の時に何か仕込まれたのだろう。月人禿げれと思って、回転する藍を近づけすぎたのがよろk、悔やまれる。だがこれは一世一代の大チャンス、今まで良識が邪魔してできなかったあんな格好、想像するだけで実際に存在しない格好を藍に着せられるのだ。
そして紫は藍の額に軽く触れた。
藍は感じた。膨大な数式が自身に流れ込むのを、服が深紅のチャイナドレスに変わるのを、スリットが思っていたのよりも7.58センチも深いのを。
永琳は感じた。八雲紫の予想以上の力を。そして驚嘆している場合でないと思い返し、指を視認できない速度で動かし始めた。
紫は感じた。鼻腔内にほとばしる熱くて赤い奔流を。決して正義感などではない。むしろ性義感である。
ちら見でこれである。けれども次で噴出すであろうスカーレットを顧みず、顔を上げた。
既に改変は始まっていた。藍の上半身は光に包まれ徐々に上からメイド服へと変わっている。
邪道、既存の人物が着用している服装などをと瞬間思い、次の瞬間はメイド服でパタパタと埃を払う藍を妄想し、最終的に巫女服への改変へと移った。無論、幻想郷スタイルである。
その改変は永琳の改変に追いつき、容易く上書き、腋が開いた巫女服へ変貌していく。欲望に囚われた脳であってもその数学的思考は衰えず、楼観剣のごとく研ぎ澄まされているかのようであった。さらに永琳の打つ数式よりヘルシーである。
「なっ!ここまで速いの!」
永琳は追い詰められていた。月のスーパーコンピュータを凌ぐ八雲紫の演算能力from煩悩に。
そして逃げるように改変を下半身へと移し、スクール水着への書き換えを開始、これが予想外の結果を生んだ。
勝ちを確信した紫の目に飛び込んできたのは、上半身が腋巫女服、下半身がスクール水着の藍の姿であった。上下のアンバランスに発育がいい藍のサイズ的アンバランスが加わり、謎の色気が生まれていた。ついでに言えば藍はいじけて体育座りをしている。
下手に萌え要素を組み合わせると駄目になるがこれは一体、衝撃が走った。これにより紫に大きな隙ができた。
永琳は隙を見逃さなかった。思考する。有利な点は藍の格好がツボにはまれば紫は停止するという事と式に不可をかけすぎられない事、またこの停止は奇跡的な偶然によって成り立っている。ならばここで必殺を放ち、勝利まで一気に持ち込む。手が今まで以上に難解な数式を入力していく。それが勝利への方程式であると信じ。
紫は未だ行動を起こせなかった。
紫もまた、これが奇跡的な偶然により起きた状況であることを知っていたからだ。
だから藍の全身が光り始めた時もそれが崩れるショックで動けなかった。
光が収まった時、その姿は
スッパテンコー
全裸であった。
勝った、そう思った永琳は深く息を吐き、呆れて帰った優曇華の代わりにてゐにコーヒーを頼んだ。あとは改変が終了するのを待つだけ、紫は衝撃に動けない。そう考える故に画面に新しく数式の羅列が生まれた時は戦慄した。
「馬鹿な、あなたは動けないはず!?」
「藍の裸なんてお風呂でいつも見てるのよっ!」
「そんなこと他人に言わないで下さいっ!」
そんな声が聞こえ、周りの演算装置から煙が上がり始めたとき、永琳は負けを感じた。
「やっぱり人様のものに手をだすべきじゃないわね」
永遠亭の一室は爆散した。
八雲紫の目は怪しく光り、脳内では那由他の桁が蠢いていた。
そして目の輝きと藍の体の輝きは同時に終わり、紫はひざをつき、藍は白に包まれる。
「紫様っ! ってこれはっ!?」
「見たとおりウエディングドレスよ」
純白のベールとドレスに包まれた藍は輝いていた。
とりあえず親指をたて突き出す。
「あの、戻せません?」
「壊れたみたいよ。憑いていた仕掛けも機械も。だから無理」
見る間に塞ぎ込む藍、床にのの字を書き始める。木が削れる速度で。
ならば最高の慰めの言葉をかけるしかない。
「藍、気に病む必要はないわ。とってもよく似合っているもの。脱ぐ必要なんかないわ。このまま祝言を挙げればいいのよ」
「祝言なんて意味ないです‥‥‥」
「あら、なぜ?」
「だってもう、私は紫様のものですから」
どうやら藍は塞ぎ込んでいる間に反撃の手を考えていたようだ。そして、私はその一撃に直撃したようだった。色恋など幾つも経験してきた私の顔が火照っていたからだ。
よく見ると藍の顔も上気している。
お互いに顔を見合わせ笑った。
私は指を弾き、スキマを二つ生む。落ちてくるのは猫と烏。驚いた顔をしている。
もう一度指を弾けば、私の服はロングタキシード、橙の服は小洒落た洋服に。
「服換えれるじゃないですか」
「紫様、服装がずるいです」
「まあまあ、そう言わずに並ぶ並ぶ。さてカメラマンさん、一枚お願いできるかしら?」
年を経ている分、橙よりも反応が遅れている烏天狗に声をかける。
「あ、ええ、はい。私は新聞記者であってカメラマンではありません。しかしてこんないい被写体に出会ってシャッターを切らないほど欲がないわけでもないですよ」
まったく、天狗という奴は回りくどい。会話をする分には中途半端に賢く好きなのだが。
「早く撮りなさい」
「もちろん、速さが売りです。えいっ」
シャッターボタンが押される瞬間、私は藍の頬にくちづけた。
翌々日、文々。新聞では私たちの写真の半分以下で永遠亭の爆発について書いてあった。
ただ、永夜から作戦を始めてたのはえーりん凄すぎでは?て思いました。
最高の頭脳だからこそ出来うる芸当なんです!!
永琳最大の敗北は、目の前に藍がいなかったことだな
人類はいつの時代も煩悩を求めて進化してきた
その進化に対抗するには余りにも貧弱すぎる
あの男も煩悩によって人間を超えてたな~wwwww
しかし紫は煩悩で戦った
もう最初から勝敗は決まっていた
…いえ、狐とコンピューターが出てたのでついこの歌が思い出されまして