Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

嘘をついても良い日

2009/04/03 00:09:43
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それはちょっとだけ昔の話。


渡るものが殆どいない橋の上、一人の少女が欄干に体を預けて彼方を見やり、ぼんやりと佇んでおりました。
軽くため息を吐く彼女の眼は憂鬱げで、鈍い緑色をしておりました。

暫くそのまま重い気配を纏っていた彼女ですが、ふと何かに気づいたように、一点を凝視します。
凝視したその点はだんだん大きく近づいて来て、彼女はいつしか飲み込んでいた息を大きく吐き出すのでした。



+++


「おおーい! パルスィ! 今日も来たよー」
「毎日毎日毎日毎日ここに来て、飽きない?」
「飽きないねえ。楽しくて仕方がないよ」
「こんな寂れた場所に楽しみを見出すなんて奇特な鬼ね。妬ましいわ」
「そりゃあだって、ここにはお前さんが居るからね」
「よく回る軽口だこと」
「本心に決まってるじゃないか。鬼は嘘を吐かないよ」
「あーはいはい。妬ましい妬ましい」

大きく手を振り振りやってきた一本角の鬼。
この鬼は毎日橋に現れては、きまって彼女にジゴロ真っ青の台詞を吐くのです。
それをそっけなくスルーする彼女。
余りに連日同じようなやり取りが続くものですから、もはやそこまでが挨拶のテンプレートになりつつありました。

「で? 今日は何の用」
「おお、そうそう。地上の話を聞いたんだけど、4月1日は嘘をついても良い日になったそうなんだよ」
「ふうん。妙な日もあったものね。そんなものが無くても皆普通に嘘をつく癖に」
「そりゃそうともいえるがまあまほら、お祭りみたいなもんさね。それでそういう真っ当な突っ込みはともかく、今日は何日だい」
「4月1日」

瞳をキラキラさせて問う鬼に、彼女は軽い頭痛を覚えながらも律儀に答えるのでした。
鬼は嬉しそうにそうなんだよそうなんだよと頷きます。

「つまり今日は嘘をついても良いお祭りの日なんだ」
「はぁ、そうなの」
「そうなんだ。で、一つ訊きたい事があるんだが……えぇと」

鬼はここまで言うと、ちょっと口を噤んでしまいました。
さっきから一口も呑んでないのにその顔がほんのり赤く染まって来ています。
滲み出るような鬼の色気溢れる様子に、彼女もほんのり心が染まりました。嫉妬色に。
鬼の癖に色っぽいなんてああ妬ましい。パルパルパル。

「まあ、あれだ。パルスィ」
「何よ妬ましいわね」
「何がだ。ああいや、その、お前さんはだね、私をどう思う。好きか、嫌いか」
「はあ?」
「いやこんなの卑怯だとは思ったんだ、けどどうしても訊いてみたくて」

突然何を言い出すのかと嫉妬も忘れ、彼女はぽかんと鬼を見つめます。
鬼は赤い顔でぐしゃぐしゃと己の金の髪をかき乱し、あー、うー、ごめん、とぶつぶつしきりに唸っています。
首をかしげつつも彼女は返答する為に口を開きましたが、すぐに何かに気づいた様子で口を閉じました。
呆れた顔で鬼を見やり、改めて口を開きます。

「……ああ、そう。そう言う事。だから『卑怯』なのね」
「ごめん」



今日は嘘をついても良い日。
つまり例え嫌いと言われても、逆の意味なんだと思いこめる唯一の日。



「嘘でも構わないから、好きと言わせたかったんだ」
「嘘を嫌う鬼の癖に」
「こればっかりはどうしようもない。恋は鬼をも駄目にさせる」

やけを起こしたのか、鬼は赤い顔のまま立派な胸を張りました。
その豊かさにまた嫉妬の念を呼び起こしそうになった彼女ですが、そこはぐっと堪えます。
何故って一見堂々としたように思える鬼の視線が、情けなく足元へ下げられていましたから。
彼女は暫し思案すると、小さく息をつき、対抗するように胸を張って鬼を見据えました。
緑色の両眼を明るく輝かせ、少し早口で勢いよく言葉を吐き出します。

「好きよ、貴女が好き。この世で一番、大好き」

鬼が、沈みかけていた頭を音を立てんばかりの勢いで元に戻しました。

「え、あ、パ、パルスィ!?」
「今日は『嘘をついても良い日』なのよね」

勢いよく上がった頭が、心もちまた下がります。

「う、むう、ああ、うん……」
「何へこんだ顔してるの。聴きたかったんじゃないの?」
「いやあ……うん、そうなんだけど、やっぱりこれは複雑だったねえ……」
「仕様の無い鬼ね。そんな情けない所も、好きだけど」
「ぐぅ」

彼女が好きだと言う度に、鬼はどんどん何とも言えない表情になってゆきます。
ぐるぐる変わる鬼の表情を堪能しているのか、彼女は笑って鬼に囁きかけました。

「好きよ、勇儀」
「ぬうぅ」












「ところで。ねえ、私も鬼だってこと、忘れてない?」
4月1日は嘘をつかなくても良い日。


パルスィは橋姫ですが、橋姫って守り神でもあり嫉妬狂いの鬼でもあるので、今回は鬼という事で、ひとつ、なにとぞ。
紺碧
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
あまっ!あま、びゃあぁあまぃいー!
エイプリルフールにさえ嘘をつけない鬼は、他人に嘘を求めるしかないのですね。確かに作品内でパルスィは「今の言葉は嘘だ」とも言わずに「今日は嘘をついてもいい日なのよね?」と、確認しかしてません。
そうやっていぢめるなんてパルスィは鬼畜ですね!そう、鬼だけに!
2.紺碧削除
>1. 名前が無い程度の能力 ■2009/04/03 02:57:21 様
コメントありがとうございます! いぢめだなんてそんな。愛です、愛。多少ひねくれてますが。
しかし、その、……誰が上手い事を言えと!!(大笑)
3.名前が無い程度の能力削除
甘いぃぃぃぃぃ!!!にやにやが止まりません!
たまにはぱるぱるさんに振り回されてる姐さんもいいですねっ。

勇パルもっと増えればいいと思います><
4.名前が無い程度の能力削除
最後で引っくり返したwこれは予想しなかった。
二人とも可愛い。