カフェテラスでお茶を飲む。
何とも優雅な一時だけど、誰かを待っているという要素が全てを台無しにしていた。メリーはトントンとテーブルを叩きながら、いまだ姿を現さない相方を待ち続ける。
「ごめんごめん」
蓮子がやってきたのは、待ち合わせの時刻から三十分遅れてからだった。
「どうしたのよ。待ち合わせの時間、忘れたわけじゃないでしょ」
「面白い物を売ってたからさ。ちょっと見てたのよ」
「面白いもの?」
首を傾げるメリーに、蓮子は不思議な機械を差し出した。
「これ何?」
「昔の携帯電話」
「へえ、これが」
雑誌か何かで見たことがあるけれど、実物をお目にしたのはこれが初めてだ。歴史的には貴重なものかもしれないけれど、持っていても役には立たないだろう。
なにせ、もうアンテナがない。
「でもさ、一応電気は残ってるみたいだからさ。ひょっとしたら未知の世界からメリー当てに電話がくるかもしれないよ」
ホラー映画の見過ぎよと、ツッコミを入れようとした時だった。
突然、携帯電話が鳴り出した。
驚いて、テーブルの上に落としてしまう。しかし、それでも電話は鳴りやまない。
まさか本当に?
二人は顔を見合わせて、メリーがゆっくりとした手で電話を握る。
通話のボタンを押して、耳にあてた。
「もしもし?」
しばらくそうしていたメリーはやがて、電話を切ってしまう。
「誰からだった? 何て言ってた?」
蓮子の質問に、困ったような顔でメリーは言った。
「講義で習ったじゃない、ほらあれ」
「あれ?」
「そうよ何だったかしら……えっと……」
難しい顔で唸っていたメリーは、頭に電球が浮かんだような顔で言い放つ。
「そう、俺俺詐欺よ!」
「藍様、見てください!」
そう言って橙が掲げたのは、幻想郷には馴染みのない携帯電話であった。一応、これでも藍は結界の管理に携わるもの。それなりに向こうの世界の知識はあったが、それにしてもどうして橙が携帯なんぞ持っているのだろう。
首を傾げた。
「紫様がくれたんです。そろそろ橙も携帯を持つ年頃だろうって!」
自分の主ではあるが、相変わらず紫の考えは読めない。式神に携帯を持たして何になるかというツッコミを入れるよりまず、幻想郷では携帯が通じない。アンテナも無ければ、受ける側の携帯もないのだ。
いや、携帯はあるかもしれない。外の世界から流れつく可能性だってあるわけだし。
だがあったから、どうだと言うのだ。どうせ通じない事に変わりはない。
「そうか……」
しかし、それらを全てオブラードに包むことなく言えば橙は悲しむだろう。せっかくわざわざ遊びに来てくれたのだ。悲しませたまま、山へ帰らすのも忍びない。
せめて登録ぐらいは手伝ってあげるか。
「いいかい、橙。携帯ってのはね、誰か相手を登録することが出来る優れものなんだよ」
「登録って式神にするってことですか?」
「んー、いやそうじゃない。要は真っ白なノートに名前を書き込んでいくようなものだ」
「それだけなんですか?」
その書き込んだノートの相手とはいつでも会話する事が出来るのだと、普通なら続けるところだけど。そんな事を教えれば色々と面倒になる。
「まぁ、概ねはそんなところだ」
「へぇー、じゃあチルノちゃんやリグルちゃんの名前も登録できるんですか?」
「いや、登録できるのは携帯電話を持っている者だけだ。よし、今日は丁度暇だから、橙が登録できる相手を捜してやろう」
「ありがとうございます、藍様!」
本当は紫に色々と相談ごとがあったのだが、寝ているので暇になったところだ。橙に携帯をあげる時間はあっても、藍と相談する時間はないらしい。
だがおかげで、こうして橙とお出かけする事が出来たわけで。そういった面では感謝しないといけない。
藍は橙を連れ、まず守矢神社に向かった。
まずというより、そもそも幻想郷で携帯を持っていそうな奴は一人しかいなかったのだ。
案の定、東風谷早苗はまだ携帯電話を持っていた。
「登録ですか? ええ、構いませんよ」
橙の申し出に、二つ返事の早苗。
いそいそと橙は早苗の番号を登録していた。
「しかし、まだ携帯を持っていたんだな。使えないから、てっきり捨てているもんだと思ってたぞ」
橙に聞こえないよう、小声で耳打ちをする。
「それがですね、どういうわけか偶に繋がるんですよ。ほら、現にさっきからアンテナが四本立ってますし。幻想郷の人とも通話したりメールできたりするんですよ」
確かに、早苗の携帯はアンテナが四本も立っていた。しかし、元から四本もあるものだったろうか。うろ覚えなので分からない。
「外の世界と繋がっているのか?」
「さあ。よく知らないところから繋がることもありますし、もしかしたら時空を越えて繋がってるのかもしれませんね。幻想郷ですし」
電波とはいえ、結界を越える以上は何かしらの影響を受けるはず。仮に未来や過去と繋がったとしても、藍は驚かないだろう。
だが、それにしてもアンテナ四本というのは妙である。
首を傾げる藍の後ろで、神奈子が様子を窺いにやってきた。
「わざわざ式神が何の用かと思ったら、携帯の登録とはね。こっちでも、時代の流れってのには逆らえないもんか」
そう言って、背負っていた御柱を置く。
「あ、圏外になりました」
早苗に教えて貰い、他にも携帯を持っているという連中の所をまわった橙と藍。
いつのまにか幻想郷にも携帯ブームが来ていたのか、考えていたより多くの奴が携帯を持っていた。
永遠亭の姫に、人形使い、竜宮の使い、それに閻魔様。
個人的に閻魔を登録するのは、いかがなものかと思ったが橙がしたいというのだから仕方ない。
ちなみに家に戻るまでに、閻魔から長文のお説教メールが届いたことは言うまでもない。
藍は削除という機能を、早速教える羽目になった。
「藍様、藍様。電話、掛かってきますか?」
純真無垢な橙の質問に、答えを濁す藍。
早苗は稀に掛かってくると言っていたが、さて。
などという心配は杞憂に終わったらしい。
橙の携帯が、いきなり鳴り始めたのだ。
「藍様!」
「出てごらん」
嬉々とした表情で電話にでる橙。
藍もこっそりと、聞き耳をたてる。
『わたしメリーさん。いま、あなたの後ろにいるの』
「ら、藍様ぁ!」
涙目で縋ってくる。
下手に怪談を知っているだけに、怖さも増しているらしい。
「まったく、どこのどいつだ。こんな悪戯をしてきたのは」
着信履歴を見ると、蓬莱山輝夜の文字が。
らしいと言えばらしいが、それで苛立ちが治まるわけではない。
「ちょっと注意を言いに行ってくる。橙は留守番、頼んだぞ」
「はい、わかりました!」
そして始まったのが、後に語り継がれる『永遠亭大決戦 かぐや姫VS妖狐VSもこたん』である。
藍がいなくなって数分後。
まるで見計らったように、また電話が鳴り始めた。
先程のこともあり、警戒する橙。
しかしいつまでも経っても鳴りやまないので、仕方なく出ることにした。
『わたしテリーマン。今、あなたの後ろで新幹線を止めているの』
はっとして後ろを見る。
テリーマンはいなかった。
安堵する橙。
よくよく考えれば当たり前の話だ。こんな所に正義超人がいるわけがない。
いたとしても、きっと今頃は靴ひもが切れている。
そう言って、何とか自分を落ち着かせた。
すると、またしても聞こえる電話の音。
恐る恐る、通話ボタンを押した。
『わたしドギーマン。ペットフードはドギーマン』
はっとして後ろを見る。
だが何も無かった。
安堵する橙。
当然だ。橙は犬でない。
まっしぐらするのは、もっと別の何かなのだ。
そしてまた掛かってくる電話。
さすがに三度目ともなると、もう肝も据わっている。
意を決し、橙は電話にでた。
『あー、わたし幻想郷不幸調査委員会のものですけど。おたくの不幸度がですね、どうも基準値を大幅に超えているようでして。出来れば、いますぐ守矢神社でお参りを……あっ、いや違うんです。八坂様、よかれとおもって――』
そして橙は携帯を投げた。
呪縛から解き放たれた式神は、ようやく自由になることが出来たのだ。
ちなみに投げた携帯は、ちゃっかり紫が回収していた。これでも、一応はそれなりの手間をかけて手に入れた物。
そうそう簡単に投げられては困る。
「とはいえ、橙にはちょっと難しかったようね」
あれしきの悪戯で投げるようでは、これから先も携帯ライフを満喫できるとは限らない。
今の内に別れておくのは、ある意味で幸せなのかもしれなかった。
手の中で携帯を弄び、試しに自分も悪戯電話をかけてやろうかと思いつく。
誰かにしようと迷ったすえに、輝夜にかける事にした。
「っと」
しかし、うっかり押し間違える。
ただ、そのまま繋がったので気にせず悪戯を続行させることに。
しばらくして、聞き覚えのない声の女性に繋がった。
『もしもし?』
紫は何を言おうかと少しだけ悩み、オーソドックスに倣って言ったのだ。
「わたし、メリーさん」
そして永遠亭の携帯電話は優曇華なんですね分かります。
ところで皆さんの番号登録したいんですが(ry
橙は電波二本、籃は九本立つんでしょうかね
御柱すげぇwww
是非、書いてくださいwww
フィンランドには携帯電話投げ祭りがありますね
そして橙かわいいよ橙
谷に住んでるカバっぽいヤツですねw
アイツがこんな所にいる訳が……え、ちょ歌ってないからこっちくんn