4月1日。エイプリルフール。
まだ日も昇らぬ、深夜のド真ん中。
幻想郷の閻魔、四季 映姫・ヤマザナドゥの元に唐突に呼び出しを食らった射命丸 文は、
眠そうな頭を引き擦りながら、映姫の執務室のドアをノックした。
草木も眠る丑三つ時に彼岸に呼び出しなど、
まったく非常識にもほどがある。
TPOというものを知らんのかあの人は。
ジャーナリスト御用達の最新用語辞典を突きつけてやろうと息巻いていた文は、
扉をドアを開いた瞬間、エターナルフォースブリザードを食らったような勢いで凍りついた。
閻魔様は不機嫌ここに極まれりという表情で文を迎え入れたのである。
なぜそんなにも不機嫌そうなのか、と問いかける勇気は、残念ながら備わっていなかった。
ましてや、「ひょっとしてアノ日ですか?」などと冗句を飛ばそうものなら、
神が定めた天命を待たずして、体と魂が永遠に離婚である。
万人が望むように、できれば体と魂は末永くおしどり夫婦でいて欲しいものだ。
「いつまでそうしているのですか。入りなさい。」
ドアの前で硬直していた文を、じろりと射抜くような視線が貫いた。
ジャーナリスト御用達の最新用語辞典は、天狗自慢の握力で見るも無残に折れ曲がっていた。
目の前の閻魔に文句の一つでも垂れてやろうと肩を怒らせていた30秒前の射命丸 文は、
とうにサイクロン掃除機でミクロのゴミに分解されてしまっている。
この閻魔に反抗しようなど、なんと愚かな考えだったのだろう。
これは人間や妖怪が立ち向かって敵う相手ではない。
たとえレベルと装備品を限界まで鍛え上げた勇者パーティでも、
落雷時の停電には絶対に敵わない。
そういう次元のお話なのだ。
「さて、今日はなんの日だかご存知ですか?」
竹串を指で弾いたように、ビィイン、という音を立てて直立で不動な体勢になった文は、
首だけをからくり人形のごとく、かくかくと前後に振った。
「そう、今日はエイプリルフールです。
『一年に一度、嘘を吐いても許される日』などと広く勘違いされている日ですが、
断ッッッッッじてそのようなことはありません!!
1年12ヶ月365日、嘘を吐いても許される日などあろうはずもない!!
それなのに毎年毎年、ことあるごとに人々はつまらない嘘を吐く。
まるで一種のお祭りに参加するかのような気軽さで。
嘘を吐くことはいけないことであると理解しているにもかかわらず、
子供どころか大の大人まで率先してエイプリルフールに嘘を吐くのです。
これは極めて悪質な行為であると私は判断します。
ゆえに―――」
―バァン!!
映姫が両の手を執務机に叩きつけると、
その上に置かれていた湯気のたった湯飲みが5センチ跳ね上がった。
そして華麗に着地。10点。
「―――ゆえに、今日4月1日エイプリルフールに嘘を吐いたものは、
私の考えうる最高限度の罰を与えることとします。
伝えることは以上です。」
並みの名無し妖怪なら視線を受けただけではじけて点符を放出しそうな表情で、
映姫は文の後方のドアを指さした。
つまり、文はこの御触れを幻想郷中に伝える役目に抜擢されたわけだったのだ。
「ち、ちなみに、どのような罰をお考えで・・・?」
もはやドアにすがりつくような体勢で、ありったけの勇気を込めて文は問いかけた。
映姫は菩薩のような一点の曇りもない微笑みでそれに答える。
「聞けば今日一日、口を聞く気も失せますよ?」
かくして、『エイプリルフールに嘘を吐いてはいけない』法案は、
夜が明ける前に幻想郷最速の風に乗ってまたたく間に知れ渡り、
幻想郷全土を恐怖のどん底に叩き落した。
最初は誰もが、なにをいっているんだこいつは、などという目で文を見返したが、
文の尋常ではない怯えっぷりに、すぐにただ事ではないことを察知した。
なにしろ、地獄に落とすも彼女の裁量次第という閻魔のお言葉である。
その閻魔の、考えうる最高の罰だという。
いつもは、ついつい軽い気持ちで口から零れてしまう嘘。
人々は嘘がぽろりと口から零れてしまわないか、その日一日怯えながら過ごしたのだった。
間違っても嘘が出てしまわぬよう、一日中口をきかなかった者もいた。
また、ひどい事例にいたっては、猿轡を噛ませて監禁するといったこともあった。
ごめんねてゐ、これもあなたを思ってのことなのよ。おっと鼻血。
そうして、恐怖のエイプリルフールは終わりを告げた。
4月2日。
連絡係の死神が、信じがたい調査結果を映姫に報告してきた。
昨日4月1日エイプリルフール中に吐かれた嘘や冗句の類は、なんとゼロ。
もちろん、幻想郷の全ての住人を総計した数値である。
それがゼロ。
これはすばらしいを通り越して、もはやありえないというレベルのデータだった。
その調査資料を受け取った映姫は、意外に思った様子で片眉を跳ね上げた。
「ふむ。」
わずかに思案する様子で窓の外に目をやる映姫。
湯気を立てる湯のみを傾け、わずかに困惑した様子で再び資料に目を落とした。
「・・・ま、いっか。」
愛用の万年筆で、資料に書かれていたゼロを二重線を引いて打ち消すと、
脇に数字の1をそっと書き込んだ。
4月1日、エイプリルフールに吐かれた嘘は1つ。
夜も明けきらぬ深夜に一発放たれた冗句のみ。
しかもそれは、幻想郷中の誰一人にも冗句として受け取られなかった。
後書きはなくてもよかったかな。
幻想郷全てが映姫様の手の平で踊っていたと・・・
あぁ~恐ろしいwwwww
つーかてゐw
つーか映姫嘘吐く為に文を深夜に呼び出すなよwww
映姫様もはめをはずしてみたかったんでしょうねえ。きっとちょっとさびしい顔してるんだろうなあ。
こまっちゃん、フォローしてやってくれ。
洒落になってないとはこういうことか。
…いつネタばらしするんですかね?
そういう次元のお話なのだ。
納得できすぎて笑えるw
赤字の意味も納得できた。映姫さま可愛いなあ。