魔法の森の入り口に、辺りの雰囲気に似つかわしくない雑多な物が溢れる店が存在していた。
滅多に人の訪れる事の無い万屋紛いのその店へと、一人の男が近づいて行く。
扉を開け中に入ると、積もり積もった埃達が視界を遮らんと辺りへと拡散する。
鼻腔を通して進入してきたそれに咳き込みながらも奥へと進んでいくと、
これまた用途の理解できない数多の物に囲まれる中、一人の優男の姿が視界に入る。
白い髪を真っ直ぐに伸ばし眼鏡を掛けた優男は来客の姿を確認すると、手に持った書物から目を離す事無く接客を開始した。
「やあ、いらっしゃいませ。
ようこそ香霖堂へ」
彼はそれだけを言うと再び口を閉じ、本の虫へと成り果ててしまう。
彼がこの店の店主なのだろう。 全く、接客する気があるのだろうか。
男は内心憤慨しながらも、静かに店内を見て回る事にした。
だが結局は使い道の分からない物ばかり置いてある店である。
店の壁に掛けてある時計の長針が次の数字を指し示す前に、男は店内の散策をあらかた終えてしまった。
やる事も無くなり、男は店から出て行こうとする。
そこでようやくやる気を見せたのか、店主は立ち上がると男の元へと近づいて口を開く。
「まぁ、そう急がずに。 どうです? お茶でも一杯。
先日博麗の巫女も買って行った、それはそれは素晴らしい緑茶があるんですよ」
店主の一言に男は帰る足を止め、彼の後に続いて店の奥へと入って行く。
案内された場所は彼の居住空間なのだろう。 一つの卓袱台といくつかの収納棚。
それにどういう原理で動いているのかは知らないが、眩しく輝く光を入れた球が天井よりぶら下がり、辺りを柔らかく照らしていた。
「そこに座って待っていて下さい」
店主の言うまま、男は卓袱台の前に正座する。
男の行動を見届けた後に、店主は暖簾の奥へと消えていった。
それから数分後。
店主は盆に急須と二つの湯呑みを持って暖簾の向こうから現れた。
「どうぞ」
店主から差し出された湯呑みを受け取ると、店主はそれに急須の中身を注いでいく。
茶の零れ落ちる心地の良い音と共に湯呑みはいっぱいになっていき、八分目程になった所で店主はその手を止めた。
男は湯気の立つ緑茶に近づけ、香りを堪能する。
鼻腔を通り過ぎる甘い空気に、ほぅ、と溜め息を一つ吐いた。
「おや、お客様は分かっていらっしゃる。 そう、まずは香りを楽しんで下さい。
緑でも紅でも、茶の本分は香りです。 味など二の次ですよ」
店主の多分に主観に頼った楽しみ方の説明に、しかし男は気にせずに頷く。
その返答に満足したのか店主は笑みを浮かべて茶に口を付けた。
それに倣う様に、男も一口。
茶を啜る音が二つ、室内へと響き渡る。
音が止んで一拍の間を起き、次は深く息を吐く音が空間を支配した。
「いやぁ、お茶は素晴らしいですねえ。 心が落ち着きます。
あ、勿論お代は入りませんよ。 サービスです」
すっかり和みきった顔で一人会話を進めていた店主は、思い出した様にそう告げた。
勿論男もタダだと思ったから彼の誘いに乗ったのだ。 そうでなければ今頃とっくに野路をさすらっていた。
「御馳走様でした」
店主は両の手を合わせ、糧となった緑茶に対し感謝の念を向ける。
男もそれに倣い、両手を合わせて眼を瞑る。
数秒の沈黙のあと男が目を開けると、目の前には丸い目で興味深そうにジッと顔を覗き込む店主の顔が映り込んだ。
驚き後ずさる男の姿に店主がくすくすと小さく笑うと、面白い物を見させてくれてありがとう、と言って立ち上がり、背を向ける。
店主としてその行動はどうなのだと男が嗜めるも、店主は悪戯っぽい笑みを浮かべながら振り返り、こう言った。
「だって、貴方の表情があんまりにも面白い物だから、つい」
彼の笑顔に、男はううむと唸りながら胡座を掻いて黙り込んでしまう。
その様に店主はまたくすくすと笑うと、盆の上にすっかり乾ききった湯呑みを乗せ、片付けに行こうとした。
その時だった。
片付けを得手としない彼の性格が災いしたのか、床に転がっていたガラクタに足を取られ、倒れかけてしまう。
次に訪れるだろう衝撃に身構える店主だったが、予想されていた衝撃はいつまで経っても襲い来る事はなかった。
「あ……」
店主は目を見開き、天井を遮る様に写り込む男の顔を見詰める。
仰向けに倒れる体を、男はいつの間にか近寄り、支えていたのだ。
「あ、ありがとう、ござい、ます」
支えから退いた店主は顔を赤らめながら、割れた湯呑みを拾い集めて行く。
「……っ!」
だが、どうやら相当焦っていたのだろう。
湯呑みの破片が指の表皮を切り裂き、人差し指からは赤い線が流れを作っていく。
店主の行動に男は呆れながらも指を出す様に告げるが、店主は未だ赤いままの顔を更に赤らめ、首を強く横に振った。
「い、いいいいいいえ大丈夫です!
ひ、一人で、出来ますから……」
一体何を想像したのだろうか。
店主は透き通る様な白い肌を全身真っ赤に染まったまま、再び暖簾の奥へと消えていった。
それから暫くして、店主はお騒がせして申し訳ありません、と言いながら居間へと戻ってきた。
指には絆創膏が巻かれている。 恐らくかなりの不器用なのだろうか。
お世辞にも上手いとは言えないその巻き方に、男は呆れた様な溜め息を吐きながら、店主の腕を手繰り寄せる。
「え……ちょ、ちょっと、何するんですか?」
狼狽する店主を気にも留めず、男は絆創膏を剥がし、再び巻き直した。
店主がこちらへと戻ってくる半分以下の時間で行われたそれは、先程とは比べようも無い程綺麗に巻かれている。
暫しの間店主は絆創膏を見やっていたが、やがてはっと気が付いた様に肩を跳ね上げると、慌てて男へと頭を下げた。
「ど、どうもありがとうございます!」
ペコペコと何処かのバッタの様に頭を下げる店主の姿に、男は思わず苦笑してしまう。
全く、こんなのが良くこんな場所に店を構えようなどと思った物だ。
彼の様子に店主は頭を掻くと、照れ隠しなのかそっぽを向いてしまう。
やれやれ、やり過ぎたか。 男は自分を嗜めるが、不思議とこの店主に悪い想いを抱いてはいなかった。
それから暫くの間、男は店主の機嫌を回復させようと奮闘していた。
色々と話をする内に、店主の名前を知る事が出来た。
名を森近霖之助。 人間と妖怪のハーフらしい。
それを聞いて男はようやく合点がいった。
ならば妖怪も人間も彼の事を気に留める事は無いだろう。
一生半人前だな、と笑うと、霖之助は頬を膨らませながら男の胸をぽかすかと叩き始める。
そんな彼等の談笑も終わりの時間が近づいていた。
壁掛け時計を見やった男は、そろそろ日が沈む時間だと言う事に気が付く。
いい加減に行かねばならぬと告げると、霖之助は一瞬寂しそうな顔を浮かべるが、すぐに気を取り直して気丈な振る舞いで男に声を掛けた。
「そう、ですよね。
貴方にも貴方がやらねばならない事がありますもんね……
あ、そうだ! さっきから貴方にずっと言いたかった事があるんですよ。
少し、よろしいでしょうか?」
霖之助の言葉に男は首を傾げる。
はて、初対面の男に一体何を言い出すつもりなのだろうか。
男の様子など気にも掛けず、霖之助は頬を赤く染めながら話し始めた。
「うん、えぇっと……その……」
言い淀み、股の前で腕を組んでもじもじとする彼の姿は、堪らなく庇護欲をそそられるものだった。
思わず生唾を飲み込んだ男は、彼の次の言葉をジッと待ち続けた。
数十秒後、やっと腹を据えたのか霖之助は男の目を真正面から見詰め返し、それでも遠慮がちに小さな声で呟いた。
「すいません、『また』なんです」
霖之助は顔を耳まで赤く染めながらそう言った。
彼の言葉に、男は呆気に取られる。
一体何が『また』だと言うのだろうか。 呆然とする男を他所に、店主は更に話を続ける。
「映姫の顔もっていうし、誤って許してもらおうとも思ってない。
でも分類を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
『ざわめき』みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした創想話で、そういう気持ちを忘れないで……いや、忘れて欲しいかな。
とにかく、そう思って、このタグを付けたんだ
じゃあ、何か買ってって貰おうか」
いつの間にやら店主は剣を構え、男を脅迫し始めた。
何かを開き直ったのか、店主は威圧感タップリと言った風に男を見下ろしている。
それから少しの後。
身ぐるみを剥がされた男は使い道も知らない大道具を抱え、涙を流しながら地平線の彼方へと走り去って行った。
こうして今日も香霖堂はわずかながらの売り上げを伸ばし、細々と経営を続けていくのだった――
(疲れた)
滅多に人の訪れる事の無い万屋紛いのその店へと、一人の男が近づいて行く。
扉を開け中に入ると、積もり積もった埃達が視界を遮らんと辺りへと拡散する。
鼻腔を通して進入してきたそれに咳き込みながらも奥へと進んでいくと、
これまた用途の理解できない数多の物に囲まれる中、一人の優男の姿が視界に入る。
白い髪を真っ直ぐに伸ばし眼鏡を掛けた優男は来客の姿を確認すると、手に持った書物から目を離す事無く接客を開始した。
「やあ、いらっしゃいませ。
ようこそ香霖堂へ」
彼はそれだけを言うと再び口を閉じ、本の虫へと成り果ててしまう。
彼がこの店の店主なのだろう。 全く、接客する気があるのだろうか。
男は内心憤慨しながらも、静かに店内を見て回る事にした。
だが結局は使い道の分からない物ばかり置いてある店である。
店の壁に掛けてある時計の長針が次の数字を指し示す前に、男は店内の散策をあらかた終えてしまった。
やる事も無くなり、男は店から出て行こうとする。
そこでようやくやる気を見せたのか、店主は立ち上がると男の元へと近づいて口を開く。
「まぁ、そう急がずに。 どうです? お茶でも一杯。
先日博麗の巫女も買って行った、それはそれは素晴らしい緑茶があるんですよ」
店主の一言に男は帰る足を止め、彼の後に続いて店の奥へと入って行く。
案内された場所は彼の居住空間なのだろう。 一つの卓袱台といくつかの収納棚。
それにどういう原理で動いているのかは知らないが、眩しく輝く光を入れた球が天井よりぶら下がり、辺りを柔らかく照らしていた。
「そこに座って待っていて下さい」
店主の言うまま、男は卓袱台の前に正座する。
男の行動を見届けた後に、店主は暖簾の奥へと消えていった。
それから数分後。
店主は盆に急須と二つの湯呑みを持って暖簾の向こうから現れた。
「どうぞ」
店主から差し出された湯呑みを受け取ると、店主はそれに急須の中身を注いでいく。
茶の零れ落ちる心地の良い音と共に湯呑みはいっぱいになっていき、八分目程になった所で店主はその手を止めた。
男は湯気の立つ緑茶に近づけ、香りを堪能する。
鼻腔を通り過ぎる甘い空気に、ほぅ、と溜め息を一つ吐いた。
「おや、お客様は分かっていらっしゃる。 そう、まずは香りを楽しんで下さい。
緑でも紅でも、茶の本分は香りです。 味など二の次ですよ」
店主の多分に主観に頼った楽しみ方の説明に、しかし男は気にせずに頷く。
その返答に満足したのか店主は笑みを浮かべて茶に口を付けた。
それに倣う様に、男も一口。
茶を啜る音が二つ、室内へと響き渡る。
音が止んで一拍の間を起き、次は深く息を吐く音が空間を支配した。
「いやぁ、お茶は素晴らしいですねえ。 心が落ち着きます。
あ、勿論お代は入りませんよ。 サービスです」
すっかり和みきった顔で一人会話を進めていた店主は、思い出した様にそう告げた。
勿論男もタダだと思ったから彼の誘いに乗ったのだ。 そうでなければ今頃とっくに野路をさすらっていた。
「御馳走様でした」
店主は両の手を合わせ、糧となった緑茶に対し感謝の念を向ける。
男もそれに倣い、両手を合わせて眼を瞑る。
数秒の沈黙のあと男が目を開けると、目の前には丸い目で興味深そうにジッと顔を覗き込む店主の顔が映り込んだ。
驚き後ずさる男の姿に店主がくすくすと小さく笑うと、面白い物を見させてくれてありがとう、と言って立ち上がり、背を向ける。
店主としてその行動はどうなのだと男が嗜めるも、店主は悪戯っぽい笑みを浮かべながら振り返り、こう言った。
「だって、貴方の表情があんまりにも面白い物だから、つい」
彼の笑顔に、男はううむと唸りながら胡座を掻いて黙り込んでしまう。
その様に店主はまたくすくすと笑うと、盆の上にすっかり乾ききった湯呑みを乗せ、片付けに行こうとした。
その時だった。
片付けを得手としない彼の性格が災いしたのか、床に転がっていたガラクタに足を取られ、倒れかけてしまう。
次に訪れるだろう衝撃に身構える店主だったが、予想されていた衝撃はいつまで経っても襲い来る事はなかった。
「あ……」
店主は目を見開き、天井を遮る様に写り込む男の顔を見詰める。
仰向けに倒れる体を、男はいつの間にか近寄り、支えていたのだ。
「あ、ありがとう、ござい、ます」
支えから退いた店主は顔を赤らめながら、割れた湯呑みを拾い集めて行く。
「……っ!」
だが、どうやら相当焦っていたのだろう。
湯呑みの破片が指の表皮を切り裂き、人差し指からは赤い線が流れを作っていく。
店主の行動に男は呆れながらも指を出す様に告げるが、店主は未だ赤いままの顔を更に赤らめ、首を強く横に振った。
「い、いいいいいいえ大丈夫です!
ひ、一人で、出来ますから……」
一体何を想像したのだろうか。
店主は透き通る様な白い肌を全身真っ赤に染まったまま、再び暖簾の奥へと消えていった。
それから暫くして、店主はお騒がせして申し訳ありません、と言いながら居間へと戻ってきた。
指には絆創膏が巻かれている。 恐らくかなりの不器用なのだろうか。
お世辞にも上手いとは言えないその巻き方に、男は呆れた様な溜め息を吐きながら、店主の腕を手繰り寄せる。
「え……ちょ、ちょっと、何するんですか?」
狼狽する店主を気にも留めず、男は絆創膏を剥がし、再び巻き直した。
店主がこちらへと戻ってくる半分以下の時間で行われたそれは、先程とは比べようも無い程綺麗に巻かれている。
暫しの間店主は絆創膏を見やっていたが、やがてはっと気が付いた様に肩を跳ね上げると、慌てて男へと頭を下げた。
「ど、どうもありがとうございます!」
ペコペコと何処かのバッタの様に頭を下げる店主の姿に、男は思わず苦笑してしまう。
全く、こんなのが良くこんな場所に店を構えようなどと思った物だ。
彼の様子に店主は頭を掻くと、照れ隠しなのかそっぽを向いてしまう。
やれやれ、やり過ぎたか。 男は自分を嗜めるが、不思議とこの店主に悪い想いを抱いてはいなかった。
それから暫くの間、男は店主の機嫌を回復させようと奮闘していた。
色々と話をする内に、店主の名前を知る事が出来た。
名を森近霖之助。 人間と妖怪のハーフらしい。
それを聞いて男はようやく合点がいった。
ならば妖怪も人間も彼の事を気に留める事は無いだろう。
一生半人前だな、と笑うと、霖之助は頬を膨らませながら男の胸をぽかすかと叩き始める。
そんな彼等の談笑も終わりの時間が近づいていた。
壁掛け時計を見やった男は、そろそろ日が沈む時間だと言う事に気が付く。
いい加減に行かねばならぬと告げると、霖之助は一瞬寂しそうな顔を浮かべるが、すぐに気を取り直して気丈な振る舞いで男に声を掛けた。
「そう、ですよね。
貴方にも貴方がやらねばならない事がありますもんね……
あ、そうだ! さっきから貴方にずっと言いたかった事があるんですよ。
少し、よろしいでしょうか?」
霖之助の言葉に男は首を傾げる。
はて、初対面の男に一体何を言い出すつもりなのだろうか。
男の様子など気にも掛けず、霖之助は頬を赤く染めながら話し始めた。
「うん、えぇっと……その……」
言い淀み、股の前で腕を組んでもじもじとする彼の姿は、堪らなく庇護欲をそそられるものだった。
思わず生唾を飲み込んだ男は、彼の次の言葉をジッと待ち続けた。
数十秒後、やっと腹を据えたのか霖之助は男の目を真正面から見詰め返し、それでも遠慮がちに小さな声で呟いた。
「すいません、『また』なんです」
霖之助は顔を耳まで赤く染めながらそう言った。
彼の言葉に、男は呆気に取られる。
一体何が『また』だと言うのだろうか。 呆然とする男を他所に、店主は更に話を続ける。
「映姫の顔もっていうし、誤って許してもらおうとも思ってない。
でも分類を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
『ざわめき』みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした創想話で、そういう気持ちを忘れないで……いや、忘れて欲しいかな。
とにかく、そう思って、このタグを付けたんだ
じゃあ、何か買ってって貰おうか」
いつの間にやら店主は剣を構え、男を脅迫し始めた。
何かを開き直ったのか、店主は威圧感タップリと言った風に男を見下ろしている。
それから少しの後。
身ぐるみを剥がされた男は使い道も知らない大道具を抱え、涙を流しながら地平線の彼方へと走り去って行った。
こうして今日も香霖堂はわずかながらの売り上げを伸ばし、細々と経営を続けていくのだった――
(疲れた)
もってけどろぼー。おつりはとっといて<十万円から
変態ガチホモじゃない正統派妖忌×霖之助の薔薇を期待したのに!
とりあえず霖之助さんの生活のため※を!
※?所持金0だw
リリカル801霖之助を期待してクリックしたぼくの心を裏切ったな!
なんでだろうなぁ?
叫びながら開いてしまった私は、もうだめかもわからんね。
つ1万円冊(幻想郷子供銀行券)
乙女な霖之助にきゅんきゅんしていたかったのに、畜生ッッ!!