※このお話は「思い想い」の後のお話となっておりますが、前作を読まずとも平気と思われます。
※色々とごめんなさい。
「咲夜さん」
季節は春。
今日も忙しく館内業務をこなす咲夜は、突然声をかけられた。
自分の名を呼ぶその声に顔を向ければ、少し申し訳なさそうな笑顔で門番長が立っている。
「どうしたの?何かあった?」
「あ、いえ。そういうんじゃないんですけど……」
言葉の尻を濁すし、彼女はあはははーとごまかすように笑う。
そんな彼女の笑顔に咲夜は顔を曇らせる。
また黒いのがやってきたのかとも思ったけれど、どうやら違うようね……。
「なにかあるならはっきり言って頂戴。いつまでも時間をとられるわけにはいかないのよ、こっちは」
視線を泳がし、あーとかうーとか唸るだけの彼女に痺れを切らしてそう言ってしまう。
実際、うーうー言ってる主の物真似を見てやる程今は暇ではない。
だって今日は、夕方までにいつもの業務を終えなければならないのだから。
「あー……咲夜さんは今日の宴会には参加されるんですよね?」
「ええ、勿論行くわ。お嬢様が行かれるのに私が行かない訳にはいかないもの。」
そう、今日は博麗神社で夜桜見物と言う名の宴会がある。
後片付けの手伝い位してあげないと霊夢がかわいそうだし。
「そう、ですよねー?やっぱりお嬢様のお供ですよねぇ」
「そういうこと。確か今日はあなたも行くのよね?パチュリー様のお供で」
「あ、はい。いきますよー」
彼女はニコニコと、人懐っこいいつもの笑顔を浮かべる。
その笑顔に少しだけドキッとした。
そんな笑顔を浮かべる彼女が大好きだから。
時折こうやってどうでもいいようなことで胸が高鳴るのも、仕方ないこと。
誰に向かっての言い訳かはわからないが、咲夜はそう自分に言い聞かせた。
「えーっと……ただ参加するかしないのか聞きにきただけだったんです!それじゃ!」
そんな咲夜を知ってか知らずか、彼女はそれだけ言うと持ち場に戻るために駆けて行ってしまった。
「?変なの」
ひとり残された咲夜は一人首をかしげていた。
どうにも意図がつかめない。
というか私が参加することなど最初から彼女は知っているはずだ。
なんでそんな事をわざわざ聞きにきたのかがさっぱりわからない。
少しの間首をかしげていた咲夜だったが、すぐに業務へと戻る。
だって今日は、少しでも手を休めるの時間が惜しいのだから。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あっという間に時間は流れ、咲夜は今喧騒の中にいた。
宴会は今日も盛り上がっている。
特に魔理沙の周辺。あれはもうバカ騒ぎってやつだと思う。
私はと言えば、一緒に来たはずの門番の姿を探していた。
いつもならお嬢様についているのだが、今日は主からの命令で近くにはいない。
その主はと言うと腋巫女にべったりとまとわりついている。
つまりは邪魔だからあっちに行ってろと言うことらしい。
まだ巫女の事を諦めていなかったのかと呆れたのは内緒である。
美鈴はパチュリー様についていたはずなんだけど……。
チラリとそちらを見れば、パチュリーはなにやら人形遣いと話し込んでいる。
そのそばに彼女の姿は見当たらなかった。
なんとなくだけれど、多分彼女もどっかいけって言われたんだと思う。きっと。
さて、どうしたものか。
せっかく時間が取れたと思ったのに、彼女がいなければ意味がない。
そんな事を思いながらふと喧騒の隅の方を見やれば、そこには見慣れた紅い髪。
なんだ、そんところにいたの。
見つけられた喜びで、自然と頬が緩んだ。
「あれ?咲夜さん?」
彼女は宴会場、もとい境内の隅の方の桜の木下で一人酒を楽しんでいた。
突然現れた咲夜に驚きながらも、美鈴は笑顔で迎える。
「お嬢様はどうしたんですか?」
「霊夢にべったり。邪魔だからどこかに行けと言われたわ」
「あはは…」
「見たところあなたもそんなところ?」
「何か難しい話をするから好きなところで飲んできなさいって言われました」
「お互い思いがけず息抜きが出来るわね」
「ええ、嬉しい限りです。本当に」
そう言って二人笑いあう。
「さ、折角ですから呑みましょう」
「ふふ、そうね。あまりない機会だし」
主達に呼ばれてもすぐ駆けつけられる位置であるそこに陣取り、二人は静かに乾杯する。
喧騒から少し離れた場所に、二人きり。
まあ厳密には二人きりではないけれども、それは良しとしよう。
夜桜を見上げながらこんな風に彼女を過ごせることなど、この先あるかどうかわからないし。
良く見れば夜空には綺麗な月も浮かんでいる。
「十六夜月、ですね。今日は」
「ええ、そうみたいね」
「咲夜さんの日です」
「何よ、それ」
そんな事を言う美鈴に苦笑を返す。
変ですかねー、と美鈴は笑う。
こんな風に、いつまでもこの夜が続けばいいのに。
「あ、咲夜さん」
気づけば、彼女の顔がすぐそばにあって。
視界が、彼女の顔でいっぱいになる。
わけがわからず、ただぎゅっと目を瞑った。
フッ……
「取れましたよー。花びらがほっぺにくっついてるのに気づかないなんて咲夜さん結構酔ってるんじゃないですかー?」
そんな風に、彼女は楽しそうにあははーと笑う。
そういうあなたが酔ってる。
確実に。
そして、咲夜は時を止める。
周りの喧騒が一気に消えて、一人、咲夜だけの世界が生まれる。
確かに、私も酔っていた。
でもそれは、お酒を呑んだせいではなくて。
私が酔っているのは、あなたのそのとっても甘い笑顔に。
何度こうやって時を止めてこの酔いを覚ましたことか、あなたはしらないでしょ?
照れ隠しのナイフを1本取り出すと、咲夜は美鈴の頭に優しく突き刺した。
ちょっと紅魔館行ってナイフ浴びてくるわ
ナイフはむしろ作者の照れ隠しに見えたw
せっかく途中から期待したのにな・・・
見たところどっちも片思いだって思ってるみたいですね