さとりが地霊殿の有り余る熱量を利用し、おでんを作りはじめたのは何かに対するささやかな復讐だったのかもしれない。
夏が近づくにつれ、地霊殿の中は天然サウナのようになってきた。
ペットたちもよりつかない。
そんな中でさとりだけが、煮え立つだし汁を汗だくで見つめている。見つめているのだ。
妹であるこいしは、もう数ヶ月帰ってきていない。地上で遊び歩いているのだろう。
それを咎めるつもり気など、さとりの中からは既に消えうせていた。
薄口醤油で煮込まれる、見ているだけで体の底からあったまりそうな具の数々。
さとりは竹輪を口に運び、何を思ったかだし汁をそれで吸った。
「……!?」
その瞬間、さとりの表情が曇った。
熱い、熱いのだ。
さとりは竹輪をはむはむしながら、この痛みを生涯忘れぬと誓った。
痛みを背負った者は、誰よりも優しくなれる。
その冬のことである。
地霊殿にはさとりのおでんを求める、やさぐれ者が集まっていた。
鉢巻を頭に巻いたさとりは、くだを巻く客へと日本酒を差し出しつつ、竹輪をはむはむしていた。
「聞いてくれよ、大将」
「……」
「霊夢がな、この前一緒に温泉入ったら、乳がでかくなってたんだ」
顔を伏せ、おいおいと泣き始める白黒魔法使い。
さとりはハンペンを皿に載せ、それをそっと差し出した。
「聞いてくれる? 大将」
「……」
「霊夢がね、最近冷たいの。寒いからって私の相手してくれないし。
うちの式は私のことを蔑ろにするし。邪魔だから寝てろって言うの」
そう言って酒を呷る、妖怪の賢者。
さとりは大根を皿に載せ、それをそっと差し出した。
「聞いてくれますか、大将」
「……」
「私って可愛いじゃないですか。それとなく天界でアピールしてたら要石で縛られた挙句、
地底に放置されましてね。ああもちろん財布なんて持っていないんですけど」
そういって牛蒡巻きを齧る竜宮の使い。
さとりはおでんの汁を器に溜め、それをそっとかけてやった。
今日も盛況だった。
地底のみならず、地上からもリピーターが絶えない地霊お殿。
失った物は大きかったけれど、徐々に隙間は埋まっていく。
さとりは明日の仕込みをしつつ、鉢巻をしめなおした。
「……?」
人の気配がする。もうとっくに店仕舞いの看板を出したはずなのに。
さとりはそっと竹輪を齧った。
「お姉ちゃん」
「……」
いつのまにか、カウンター席にはこいしが座っていた。
「お姉ちゃんの作ったおでんが食べたくって、帰ってきちゃった。
今からでも、大丈夫かな?」
「……」
さとりはそっと、食べかけの竹輪を差し出した。
それを嬉しそうに齧るこいし。
二人の溝が、徐々に埋まっていく。
「私ね、思ったんだ。色々見てきたけど、やっぱりここが一番だって。
ぽかぽか暖かいし、お燐もおくうもいるし、何よりお姉ちゃんがいるから。
だから、これからはずっと一緒に居ようね。お姉ちゃん」
こいしは恥ずかしそうに、恥ずかしそうにそう言った。
閉じていた第三の目が、ほんの少しだけその瞼を開いた。
「……」
さとりは口の中を火傷しているため、喋ることができなかった。
やったことはある。
ストローみたいに吸いたくなるんだよw
そして火傷、いてえ。
ちくわにご飯を詰めてだし汁を吸うのが好きなのは私だけで良い。
ボクも竹輪はむはむしたいです。
私の名前を言ってみろぉ!!
>14さん
こうですか、分かりません!(>_<)<ぐんもどき
そして衣玖さん、空気読んデ!
幻視したサトリさまにヒゲが生えてるよ
何で冬になっても口の中火傷してるんですかwww
こいさとと一緒におでん食べたい。