彼女が選べること
私が最初に貰ったのはお姉様に似た人形だった。
美鈴が「プレゼントです」といって、10回目の誕生日にくれた。
ところどころ裁縫が上手くいっていなくて、お世辞にも綺麗といえるようなものじゃなかったが、本当に嬉しかった。
私は毎日お姉様の人形と一緒に過ごした。
人形と一緒に、お姉様がくれた絵本を読んだ。
人形と一緒に、お姉様がくれたクレヨンで絵を書いた。
人形と一緒に、メイドと遊んだ。
人形と一緒に、美鈴とお茶をしたりした。
お姉様と一緒にお茶をしているときでさえ、胸には人形を抱いていた。
お姉様が苦笑しながら「フランのお姉様はその人形ね」と言っていたのを覚えている。
20回目の誕生日に貰ったのはチェスだった。
ポーンとキングだけで戦うお姉様に勝てなかった。
毎日のように部屋で練習し、私の世話をしてくれるメイドに勝てるようになると、もう一度お姉様に挑戦した。
ポーンとキングだけで戦うお姉様には勝てたけど、ビショップを加えたお姉様には勝てなかった。
私は美鈴にチェスを習いに行くようになった。
人形を右手に、チェスを左手に持って、メイドにお茶の用意を命じてから美鈴の元に行く。
そんな日々が400年近く続いた。
美鈴に初めて勝った日、お姉様がパチュリーを連れてきた。
お姉様が『親友』と呼ぶパチュリー。
なんだか裏切られた気がした。
翌日からパチュリーは大図書館に篭った。
少しだけ、ホッとした。
私はお姉様にチェスで挑んだ。
お姉様は相変わらずポーンとキング、それにビショップ。
クイーンとルークで追い詰め、勝った。
お姉様が頭を撫でてくれた。
とても嬉しかった。
でも、ナイトを使うようになったお姉さまには手も足もでなかった。
次の日、私は大図書館に行くことにした。
お姉様が知識の宝庫と絶賛したパチュリーにチェスを教わるためだ。
一昨日、私の担当になったばかりのメイドにお茶の用意を命じた。
パチュリーは強かった。
試しに、美鈴とやらせてみたが危なげなく勝利した。
パチュリーを倒せればお姉様にも勝てるかもしれない。
私は更にチェスにのめり込んでいった。
パチュリーと勝負して何回目だっただろう?
毎日のようにチェスで遊んでいたから正確にはわからない。
確か、10000回は越えていた思う。
私は、いつものようにメイドにお茶を命じて大図書館へと向かった。
パチュリーは私を見るなり怪訝な顔をした。
何か気に触ることをしただろうか?
私がいままでの行動を思い返していると、ようやく思い至ったようにパチュリーが口を開いた。
「人形はどうしたの?」
人形?
いつものように、右手に持っているはずだ。
しかし、右手にはチェスを持っている。
私は慌てて全身を見た。
ない!!
お姉様の人形がない!!
私はすぐに自分の部屋へと戻った。
壁に穴が開いていて、そこから冷たい空気が入っている。
お茶を命じたメイドが倒れていた。
お姉さまの人形はメイドの手に握られていた。
首が破裂して、頭と胴が離れている。
もう、助けることはできない。
私は内から沸いてくるよくわからない感情に身を任せた。
何かを叫び、暴れた。
なんといったか、なにをしたのかなんて、覚えていない。
ただ、人が癇癪をおこしたときのように、ただ暴れた。
私はお姉様のベッドで目を覚ました。
「もう大丈夫なの?」
声がしたほうをみると、お姉様が椅子に腰掛け本を読んでいた。
「うん」
私が体を起こすと、お姉様も本を閉じた。
変身物語
私にはわからない本だ。
「ねえ、フラン?」
「なに?」
ああ、なんだか久しぶりにお姉様の声を聞いた気がする。
今日はお姉様に甘えてみよう。偶には、チェスのことなんて忘れてもいいかもしれない。
「あなたは狂っているの」
告げられた言葉は、考えを吹き飛ばすのに十分な威力を持っていた。
「え?」
狂っている?
私が?
「何を言っているのかわからないわ、お姉様。そんなはずないじゃない!どうしちゃったの?」
おかしい。とっても優しいお姉様がこんなこというわけないわ。
「そうね、そんなはずないわ。でもね、あなたは狂っているのよ。フラン」
おかしい。
おかしいわ。言葉が通じていない。
会話になっていない。
「ねえ・・・本当にどうしたの、お姉様?」
私はお姉様の顔を見た。
私と同じ瞳が冗談という可能性を否定してくる。
「・・・いらっしゃい」
お姉様は立ち上がり、ゆっくりと窓の外へとでていった。
夜の空をゆっくりと飛ぶお姉さまを追う。
でも、並んで飛ぶようなことはしない。
今のお姉様はなんだかおかしいから。
なんだか怖いから。
一体、何があったというのだろう?
氷精の住む湖を越えて、魔法の森に入る。
月明かりがあるのに、木が、地面が姿を現さない場所に出会った。
暗い闇。
そう、まるで全てを覆い隠すような暗い闇。
お姉様が闇の中に入る。
数秒もしない内に闇が一点へと収束していき、人の形まで縮まった。
月光を跳ね返すような金髪にリボンを結わえ、黒を基調とした服に身を包んだ少女。
まさしく闇に愛された存在なのだろう。
彼女はどこかへと飛び去ってしまった。
お姉様が森の中へと降り、私もそれに続く。
降りた先には巨大な石があった。
お姉様の3倍、いや、4倍はあるだろうか?
まるで石の回りは綺麗に整えられており、花までも添えてある。
綺麗に磨かれ、彫刻がなされたそれは、威圧感と孤独を感じさせる。
「これは?」
なんとなく、見続けることができなくてお姉様へと視線を向ける。
「フラン、あなたのメイドの名前、全部覚えてる?」
メイド?
そういえば覚えていない。
いつもいつの間にかいなくなってしまうから、どんどん替わっていくし、覚える気なんてなかった。
「覚えてないわ」
「あなたのメイド、今まで何人なったか覚えてる?」
何人だったろう?
人間はすぐいなくなるし、寿命も短いから覚えてない。
「覚えてないわ」
お姉様はただ微笑んで私をみている。
なんだろう?
なにか悪い事をしたかしら?
「フラン、一番上から読んでみなさい。声には出さなくていいわ」
お姉様が石碑を指差す。
お姉様に逆らうなんてしたくないから、ちゃんと向き直り、一番上から読み進める
・・・
・・・
・・・え?
私はこれを知っている?
なんで?
一行進んでいく毎に、人の顔が浮かんでは消えていく。
・・・ああ、思い出した。
最後の行を読み、お姉様の顔を見る。
なぜかハッキリと見えない。
「お姉様・・・」
書かれているのは全部私のメイドだった人間の名前だ。
「フラン、全てあなたがその力で殺したの。」
ああ、お姉様。
なんてことを教えてくれるの?
私は何も言えず、お姉様に縋りついた。
そう、狂っている。
お姉様はいつも正しい。
知らない内にこれだけたくさんのメイドを殺していたなんて、狂っているとしか言いようがない。
「フラン、あなたは狂っているわ」
「本当なら、あなたを生かしておいてはいけないのかもしれない」
「でもね・・・私はあなたを失いたくないの」
「だからね、フラン・・・」
私はお姉様の胸の中で、ただ、首を縦に振って泣き続けた。
おおきな地下室。
何も感じず、ただ時間だけが過ぎていく。
お姉様の人形が白、私が黒でずっとチェスを打ち続ける。
朝、昼、晩、美鈴がご飯を届けに来る。
昼、お姉様が美鈴と一緒にお茶をしにやって来る。
夜、パチュリーが美鈴と一緒に勉強とチェスを教えに来る。
その時にだけ、私は紅魔館の一員に戻れる。
もうすっかり地下室に慣れた頃、お姉様が咲夜を連れてきた。
人間だから壊してしまうかもと思ったが、ただの思い過ごしだった。
咲夜がお茶の給仕をしてくれる中で、お姉様とチェスをした
ポーン、キング、ビショップ、ナイト。
ギリギリの勝負になってしまったが、なんとか勝つことができた。
お姉様が頭を撫でてくれた。
本当に久しぶりのことだった。
続けて、ルークを加えたお姉様と勝負したが、勝つことはできなかった。
紅魔異変後、私は館内を再び自由に歩けるようになった。
美鈴は魔理沙と霊夢が口添えをしたと言っていたが、実際はどうなんだろう?
美鈴が私とお姉様に嘘を言うわけがないので、それは事実なのだろうが腑に落ちない。
私は狂っているのだ。
だからお姉様が仰ったとおりに地下室に居た。
・・・ダメだ。
私を地下室からだす意味がわからない。
とりあえず、折角地下室からでてもいいといわれたのだから、偶に散歩する位はやることにしよう。
なぜかわからないが、魔理沙が私の部屋に遊びに来るようになった。
基本的には弾幕ごっこかおしゃべりをする位だから、なにかをたくらんでいるわけじゃないとようだ。
霊夢のところにお姉様が遊びにいっている間にくるから、それが関係しているのかもしれない。
毎回、壊さないように魔理沙と遊ぶ。
お姉様と一緒にいたいから。
壊したら、何が起こるかわからない。
私が殺されるだけじゃなく、お姉様まで殺されるかもしれない。
紅魔館自体が幻想郷の敵にされるかもしれない。
だから、壊さない。
私はお姉様と一緒にいたいの。
お姉様が霊夢のところに出掛けなくなった。
嬉しいことのはずなのに、まったく嬉しくない。
お姉様がなんだか変わってしまったのだ。
黒のチェス
ポーンは美鈴
ナイトは咲夜
ビショップはパチュリー
クイーンが私で、キングがお姉様。
なのに今のお姉様はまるで白のキングの様。
あんなに威厳に満ち溢れ、あの石碑のように威圧感をもっていたのに。
今のお姉様にそれはない。
今のお姉様はまるであの鴉みたい。
やっぱりルークがいないのがいけないのかしら?
ルークさえ揃えば黒のチェスは全部揃うわ。
そうね・・・魔理沙でいいかもしれない。
駒が揃えばいいの。
少しぐらい壊れてもかまわないわよね?
階段を降りてくる足音がする。
魔理沙だ。
魔理沙がやってきた。
さあ、魔理沙・・・扉を開けて頂戴?
今日はノックなんていらないわ。
だって、魔理沙が紅魔館の仲間になる日だもの。
ああ、ちゃんとできるかしら?
お姉様に教えてもらっておけばよかったわ。
私が最初に貰ったのはお姉様に似た人形だった。
美鈴が「プレゼントです」といって、10回目の誕生日にくれた。
ところどころ裁縫が上手くいっていなくて、お世辞にも綺麗といえるようなものじゃなかったが、本当に嬉しかった。
私は毎日お姉様の人形と一緒に過ごした。
人形と一緒に、お姉様がくれた絵本を読んだ。
人形と一緒に、お姉様がくれたクレヨンで絵を書いた。
人形と一緒に、メイドと遊んだ。
人形と一緒に、美鈴とお茶をしたりした。
お姉様と一緒にお茶をしているときでさえ、胸には人形を抱いていた。
お姉様が苦笑しながら「フランのお姉様はその人形ね」と言っていたのを覚えている。
20回目の誕生日に貰ったのはチェスだった。
ポーンとキングだけで戦うお姉様に勝てなかった。
毎日のように部屋で練習し、私の世話をしてくれるメイドに勝てるようになると、もう一度お姉様に挑戦した。
ポーンとキングだけで戦うお姉様には勝てたけど、ビショップを加えたお姉様には勝てなかった。
私は美鈴にチェスを習いに行くようになった。
人形を右手に、チェスを左手に持って、メイドにお茶の用意を命じてから美鈴の元に行く。
そんな日々が400年近く続いた。
美鈴に初めて勝った日、お姉様がパチュリーを連れてきた。
お姉様が『親友』と呼ぶパチュリー。
なんだか裏切られた気がした。
翌日からパチュリーは大図書館に篭った。
少しだけ、ホッとした。
私はお姉様にチェスで挑んだ。
お姉様は相変わらずポーンとキング、それにビショップ。
クイーンとルークで追い詰め、勝った。
お姉様が頭を撫でてくれた。
とても嬉しかった。
でも、ナイトを使うようになったお姉さまには手も足もでなかった。
次の日、私は大図書館に行くことにした。
お姉様が知識の宝庫と絶賛したパチュリーにチェスを教わるためだ。
一昨日、私の担当になったばかりのメイドにお茶の用意を命じた。
パチュリーは強かった。
試しに、美鈴とやらせてみたが危なげなく勝利した。
パチュリーを倒せればお姉様にも勝てるかもしれない。
私は更にチェスにのめり込んでいった。
パチュリーと勝負して何回目だっただろう?
毎日のようにチェスで遊んでいたから正確にはわからない。
確か、10000回は越えていた思う。
私は、いつものようにメイドにお茶を命じて大図書館へと向かった。
パチュリーは私を見るなり怪訝な顔をした。
何か気に触ることをしただろうか?
私がいままでの行動を思い返していると、ようやく思い至ったようにパチュリーが口を開いた。
「人形はどうしたの?」
人形?
いつものように、右手に持っているはずだ。
しかし、右手にはチェスを持っている。
私は慌てて全身を見た。
ない!!
お姉様の人形がない!!
私はすぐに自分の部屋へと戻った。
壁に穴が開いていて、そこから冷たい空気が入っている。
お茶を命じたメイドが倒れていた。
お姉さまの人形はメイドの手に握られていた。
首が破裂して、頭と胴が離れている。
もう、助けることはできない。
私は内から沸いてくるよくわからない感情に身を任せた。
何かを叫び、暴れた。
なんといったか、なにをしたのかなんて、覚えていない。
ただ、人が癇癪をおこしたときのように、ただ暴れた。
私はお姉様のベッドで目を覚ました。
「もう大丈夫なの?」
声がしたほうをみると、お姉様が椅子に腰掛け本を読んでいた。
「うん」
私が体を起こすと、お姉様も本を閉じた。
変身物語
私にはわからない本だ。
「ねえ、フラン?」
「なに?」
ああ、なんだか久しぶりにお姉様の声を聞いた気がする。
今日はお姉様に甘えてみよう。偶には、チェスのことなんて忘れてもいいかもしれない。
「あなたは狂っているの」
告げられた言葉は、考えを吹き飛ばすのに十分な威力を持っていた。
「え?」
狂っている?
私が?
「何を言っているのかわからないわ、お姉様。そんなはずないじゃない!どうしちゃったの?」
おかしい。とっても優しいお姉様がこんなこというわけないわ。
「そうね、そんなはずないわ。でもね、あなたは狂っているのよ。フラン」
おかしい。
おかしいわ。言葉が通じていない。
会話になっていない。
「ねえ・・・本当にどうしたの、お姉様?」
私はお姉様の顔を見た。
私と同じ瞳が冗談という可能性を否定してくる。
「・・・いらっしゃい」
お姉様は立ち上がり、ゆっくりと窓の外へとでていった。
夜の空をゆっくりと飛ぶお姉さまを追う。
でも、並んで飛ぶようなことはしない。
今のお姉様はなんだかおかしいから。
なんだか怖いから。
一体、何があったというのだろう?
氷精の住む湖を越えて、魔法の森に入る。
月明かりがあるのに、木が、地面が姿を現さない場所に出会った。
暗い闇。
そう、まるで全てを覆い隠すような暗い闇。
お姉様が闇の中に入る。
数秒もしない内に闇が一点へと収束していき、人の形まで縮まった。
月光を跳ね返すような金髪にリボンを結わえ、黒を基調とした服に身を包んだ少女。
まさしく闇に愛された存在なのだろう。
彼女はどこかへと飛び去ってしまった。
お姉様が森の中へと降り、私もそれに続く。
降りた先には巨大な石があった。
お姉様の3倍、いや、4倍はあるだろうか?
まるで石の回りは綺麗に整えられており、花までも添えてある。
綺麗に磨かれ、彫刻がなされたそれは、威圧感と孤独を感じさせる。
「これは?」
なんとなく、見続けることができなくてお姉様へと視線を向ける。
「フラン、あなたのメイドの名前、全部覚えてる?」
メイド?
そういえば覚えていない。
いつもいつの間にかいなくなってしまうから、どんどん替わっていくし、覚える気なんてなかった。
「覚えてないわ」
「あなたのメイド、今まで何人なったか覚えてる?」
何人だったろう?
人間はすぐいなくなるし、寿命も短いから覚えてない。
「覚えてないわ」
お姉様はただ微笑んで私をみている。
なんだろう?
なにか悪い事をしたかしら?
「フラン、一番上から読んでみなさい。声には出さなくていいわ」
お姉様が石碑を指差す。
お姉様に逆らうなんてしたくないから、ちゃんと向き直り、一番上から読み進める
・・・
・・・
・・・え?
私はこれを知っている?
なんで?
一行進んでいく毎に、人の顔が浮かんでは消えていく。
・・・ああ、思い出した。
最後の行を読み、お姉様の顔を見る。
なぜかハッキリと見えない。
「お姉様・・・」
書かれているのは全部私のメイドだった人間の名前だ。
「フラン、全てあなたがその力で殺したの。」
ああ、お姉様。
なんてことを教えてくれるの?
私は何も言えず、お姉様に縋りついた。
そう、狂っている。
お姉様はいつも正しい。
知らない内にこれだけたくさんのメイドを殺していたなんて、狂っているとしか言いようがない。
「フラン、あなたは狂っているわ」
「本当なら、あなたを生かしておいてはいけないのかもしれない」
「でもね・・・私はあなたを失いたくないの」
「だからね、フラン・・・」
私はお姉様の胸の中で、ただ、首を縦に振って泣き続けた。
おおきな地下室。
何も感じず、ただ時間だけが過ぎていく。
お姉様の人形が白、私が黒でずっとチェスを打ち続ける。
朝、昼、晩、美鈴がご飯を届けに来る。
昼、お姉様が美鈴と一緒にお茶をしにやって来る。
夜、パチュリーが美鈴と一緒に勉強とチェスを教えに来る。
その時にだけ、私は紅魔館の一員に戻れる。
もうすっかり地下室に慣れた頃、お姉様が咲夜を連れてきた。
人間だから壊してしまうかもと思ったが、ただの思い過ごしだった。
咲夜がお茶の給仕をしてくれる中で、お姉様とチェスをした
ポーン、キング、ビショップ、ナイト。
ギリギリの勝負になってしまったが、なんとか勝つことができた。
お姉様が頭を撫でてくれた。
本当に久しぶりのことだった。
続けて、ルークを加えたお姉様と勝負したが、勝つことはできなかった。
紅魔異変後、私は館内を再び自由に歩けるようになった。
美鈴は魔理沙と霊夢が口添えをしたと言っていたが、実際はどうなんだろう?
美鈴が私とお姉様に嘘を言うわけがないので、それは事実なのだろうが腑に落ちない。
私は狂っているのだ。
だからお姉様が仰ったとおりに地下室に居た。
・・・ダメだ。
私を地下室からだす意味がわからない。
とりあえず、折角地下室からでてもいいといわれたのだから、偶に散歩する位はやることにしよう。
なぜかわからないが、魔理沙が私の部屋に遊びに来るようになった。
基本的には弾幕ごっこかおしゃべりをする位だから、なにかをたくらんでいるわけじゃないとようだ。
霊夢のところにお姉様が遊びにいっている間にくるから、それが関係しているのかもしれない。
毎回、壊さないように魔理沙と遊ぶ。
お姉様と一緒にいたいから。
壊したら、何が起こるかわからない。
私が殺されるだけじゃなく、お姉様まで殺されるかもしれない。
紅魔館自体が幻想郷の敵にされるかもしれない。
だから、壊さない。
私はお姉様と一緒にいたいの。
お姉様が霊夢のところに出掛けなくなった。
嬉しいことのはずなのに、まったく嬉しくない。
お姉様がなんだか変わってしまったのだ。
黒のチェス
ポーンは美鈴
ナイトは咲夜
ビショップはパチュリー
クイーンが私で、キングがお姉様。
なのに今のお姉様はまるで白のキングの様。
あんなに威厳に満ち溢れ、あの石碑のように威圧感をもっていたのに。
今のお姉様にそれはない。
今のお姉様はまるであの鴉みたい。
やっぱりルークがいないのがいけないのかしら?
ルークさえ揃えば黒のチェスは全部揃うわ。
そうね・・・魔理沙でいいかもしれない。
駒が揃えばいいの。
少しぐらい壊れてもかまわないわよね?
階段を降りてくる足音がする。
魔理沙だ。
魔理沙がやってきた。
さあ、魔理沙・・・扉を開けて頂戴?
今日はノックなんていらないわ。
だって、魔理沙が紅魔館の仲間になる日だもの。
ああ、ちゃんとできるかしら?
お姉様に教えてもらっておけばよかったわ。