このお話はパラレルな設定です。
慧音てんてーは考古学者、永琳は薬剤師とか、製薬会社に勤めてらっしゃるとか、女医さんとか、保健医とかそんな感じです。
そして妹紅と輝夜は学生です。たぶん。しかももこたんが男口調だったりします。
あと「なにこの少女漫画臭?」なノリです。
そんなパラレルでも大丈夫という方はどうぞお進み下さい。
ある休日。
空は晴れ渡り、だが日射しはそこまで強くない、絶好のピクニック日和だ。
「……本当につまらないと思うぞ?」
「いいのよ。私が行きたいって言ったんだから」
車の運転をしながら、慧音は永琳に念を押した。
来ない方が良いという言葉選びにもかかわらず、口調は少し嬉しそうだった。
休日。恋人と二人きりでドライブ。ピクニック日和。
この三つが重なったらこれは誰がどう見てもデートなのだが、これから行く場所はデートとしては一風変わっていた。
「着いたぞ」
車から降りると、でこぼこだらけの茶色い土が目の前に広がった。
「そこまで大きくないのね」
「教科書とかに載ってるような遺跡はそうないさ」
そう答えながら、慧音は車のトランクに身体を乗り出して、いそいそと準備を始めていた。
取り出したのは、プラスチック製の箕。その中にスコップやら刷毛やらが入れられていた。
今日来た場所とは、慧音の仕事場。つまり、発掘現場だ。
先日見つかったばかりだという割には、かなり掘り返されている。
「こっちだ」
両手がふさがっているので、慧音は視線で指示する。
永琳は素直に慧音のあとに続いた。
「勝手に部外者が入って良いの?」
「誰もいないんだからバレないさ」
休日まで土いじりをしよう思う人はいないらしく、言葉通り人っ子一人いなかった。
規則に厳しい慧音だが、存外アバウトなところがある。いや、甘いと言った方が正しいだろうか。
「ここで掘ってたの?」
「まぁな。探知機が反応したんだが、何故か出てこないんだよ」
慧音はすでに腰を下ろして、発掘体勢に入っていた。
子どもみたいに目を輝かせているのを見て、永琳は苦笑を漏らした。
「どうかしたか?」
その挙動に気付いたのか、慧音がきょとんとして問いかける。
永琳は、何でもないと軽く首を振った。
慧音は特に疑問も持たずに、再び地面と向かい合った。
暫く辺りを掘る慧音。
『掘る』というよりは、『掻く』という感じだ。
片手ねじり鎌で、地面を慎重に掻いている。
慧音の額にはじわりと汗が浮いていた。
作業量はないが、消費している集中力や精神力は物凄いらしい。
真剣な顔をして地面と向き合う慧音。
普段は厳しい顔で図面や書物に向き合っていることが多いから、こんな凛々しい顔は新鮮だ。
カッコいいなと、思ってしまう。
永琳は内心でほくそ笑みながら、静か過ぎる空間に身を任せる。
地面を慎重に掘る音。
慧音の静かで、でも力強い呼吸音。
遺跡特有、というのだろうか。
こういう所にはなかなか来る機会がないから分からないが、なんというか、神秘的というか、そんな匂いがする。
湿った土独特のひんやりとした空気。でも、何処かあたたかいような気配。
古い古い、長く生きた大木に触れている感覚と似ているかもしれない。
永琳が時間が止まってしまったかと思うほどに、静かな空気を感じていると、ふと慧音の表情が一変した。
「永琳! ちょっとこっちへ来てくれ! ほら! これ!」
突然声を上げる慧音。
その顔は子供が宝物を発見した時の表情だ。
「え? どうし……」
立ち上がり、慧音の傍へ行こうとする永琳。
だが、湿った土に足と取られてバランスと崩してしまった。
「きゃぁっ!」
「永琳!?」
転倒する永琳を、慧音は慌てて支える。
しかし慧音も足を滑らせてしまい、体勢を崩した。
(こっちに倒れたら……!)
遺跡に傷を付けてしまうっ!
慧音は更にわざと更にバランスを崩して、方向を強引に曲げる。
思いのほか勢いがついてしまったようで、慧音は背中を強く打った。
「っっ!」
鈍い音が、永琳の耳にまで届く。
慧音は呻いてはいたが、そんなに痛そうな顔はしていなかった。
土が湿っていたお陰で滑ったが、湿っていて柔らかかったお陰で怪我もせずに済んだらしい。
なんてことを冷静に分析しきり(一瞬の間にだが)、永琳は自分が慧音の上で、慧音に抱きしめられる形でいることに気付いた。
同じように慧音もそのことに気付いたのか、顔を仄かに染めている。
「ご、ごめんなさいっ! い、いまどくから……」
「あ、いや……」
慌ててどこうとする永琳。
だが慌て過ぎて、また転倒した。
「っ、ぁ!!」
「わぁっ!」
「ご、ゴメンなさいっ! ほ、ほんとにごめっ」
「い、いいから。ここの土は少し滑りやすいし……」
滑るので容易に動けない永琳は、一人でわたわたとしてどうしようかと悩む。
永琳の下で泥まみれになっている慧音は、赤くなった顔をふっと緩めると、永琳の背中と腰に手を回した。
「っ!?」
抱き寄せられて、辛うじて四つん這いだった体勢まで崩す。
永琳の綺麗な銀色の髪まで泥に汚れてしまったが、慧音は構わず抱き寄せ、泥のついた顔で永琳の頬に寄せた。
「ふふ。大丈夫だから落ち着いてくれ」
ぎゅっとしっかりと抱き締めて、慧音は上体を起こす。
永琳は自然と慧音の膝上に座る形となった。
「け、慧音……」
「すまないな。泥塗れになってしまった」
真っ白な白衣を着て、薬の調合をするために無菌室にいたりする彼女が、こんなにも泥まみれになってしまっている。
その落差に、慧音は苦笑よりも笑みが零れてしまっていた。
「泥まみれな永琳も、なかなか可愛らしいぞ」
無邪気な笑みに、永琳は「もぉ……」と困った顔で呟く。
二人して泥まみれ。
土の感触は、童心を思い出させるというが、それは本当にようだ。
気付けば永琳も笑っていた。
二人して泥まみれ。
服も顔も、髪の色も瞳の色も違うけど、でも二人で泥まみれだから。
「まぁ、こんなもいいわよね」
「何がだ?」
永琳の言葉に首を傾げる慧音。
なるほど。慧音が可愛らしいといった意味が理解できる。
泥のついた慧音の顔も可愛らしい。
永琳は「ふふ」といたずらっ子のように小さく笑った。
そうして慧音の前髪を掻き上げると、額に口付けを一つ落とした。
「だって、貴女とお揃いでしょ?」
慧音は一瞬きょとんとして。
でも、頬を緩めて楽しげに笑った。
「……ふふ。そうか」
離れていく永琳の唇を、笑みの形のまま、慧音の唇で追う。
土臭さと一緒に、永琳の匂いが鼻腔を擽った。
「みたいなことしてるのよ、きっと」
「アホか、お前」
人に組み敷かれながら何いってんだか。
妹紅は呆れた顔で輝夜を見下ろすが、輝夜は至極真面目だった。
「だってそう思わない?」
「思わねぇーよ。ってか、そんなことに興味ねぇ」
「そうなの? でも、絶対に二人は今頃イチャイチャしてるわ。人目も憚らずに」
「わぁーったって」
「発掘っていっても、二人っきりで旅行って考えればそう悪くはないんじゃない?」
「あのなぁ……」
「……私も行けば良かったかな?」
「…………」
だから、組み敷かれてるって分かってんのか、コイツは?
妹紅は「いい加減にしろ」というように、動きの止まらない唇を塞いだ。
「んっ! ぁ、ちょっ、もこっ! んん、んぅ……」
「……ぷはっ。もっ、お前いい加減にしろよ」
「んはっ、ん……だって、心配なんだもん」
「大人だから平気だろう? せっかくそのうるさい保護者がいないんだから、その……集中しろよな………」
妹紅は赤い顔を逸らしながら、なんとかいう。
恥ずかしがり屋で照れ屋で、それから意地っ張りで、素直じゃない妹紅がこんなこというのはなかなか珍しい。
輝夜はくすりと小さく笑うと、両腕を妹紅の首に絡めた。
「何に? あと、誰に集中すればいいの?」
「……分かってんだろ」
首に絡めた片腕を動かして、妹紅の髪に潜らせる。
輝夜の華奢な指先が、頭を撫でるように妹紅の頭皮と刺激する。
爪先が後頭部をさりさりとなでる。
背筋にぞくりとしたものが滑り落ちた。
「じゃぁ、集中させてよ」
――――アナタだけに。
妹紅は誘うように笑っている輝夜に、不敵に笑った。
「私しか感じないようにしてやる」
耳許で悪戯に囁かれる声。
もう、どうなったって知らない。
生憎止めに入る大人はいないんだから。
END
そして甘っ!
この設定で続きとか読んでみたい
カプらせればいいってもんじゃないだろうに
頑張ってくだしあ