「紅魔館の庭にはこんなところもあるの?」
「アリス…?よくここがわかったわね」
よくわかったと言うか、適当に飛んでいたら咲夜の姿が見えてしまっただけだ。
広すぎる庭の一隅にぽつんと建てられている鉄でできた十字架、何も知らない私でもそれはお墓だとわかる。
「これは誰の墓なの?」
「さぁ、私は詳しく知らない」
「知らないやつなのに墓参りしてるの?」
「ええ」
「ふーん」
大して興味はないけど、咲夜がそこまで人の生と死を気にかけているとは思わなかった。
「こいつのことを聞いても、誰も詳しくは知らないって言うけどね」
「え?………じゃあどいつもこいつも、誰のだか知らないお墓を拝んでるわけ?」
「ええ、そういうこと」
「………なんだかな」
「無駄だって思う?」
「………そうね、無駄かもね」
「でももしかしたら、このお墓は私やレミリアお嬢様の深い知り合いだったのかもしれない」
「………例えば、ね」
「ええ」
そう考えてしまえば、蔑ろに出来ないのはわからないでもないけど。
「それだったら、誰も知らないってことはないでしょ」
「そうかもね、じゃあ………この館を作った奴で、骨を埋めさせてもらったってのはどうかしら、それなら私には参拝する理由があるわ」
「強引ね、貴女どうしてもそうしたいだけなんじゃない?」
「そうかもね」
別にどうてもいいという感じで、咲夜は答えた。
もし知人の墓だったら、か……
くだらないことだとは思うけど、私は十字架の前に座り、手を合わせた。
「………何してるの?」
「………よし」
「貴女言ったじゃない、もしかしたら知らないだけで、自分達の知人だったかもしれないって」
「だから貴女もって?」
「ええ」
「………ふぅん」
お茶を出してやるとは言われなかったけど、私は咲夜と一緒に紅魔館の中に入った。
途中何人かのメイドの子とすれ違った、咲夜が言うには彼女達も参拝にいくらしい。
「咲夜さん、この本って…」
「図書館のやつじゃない?」
「あ、やっぱり………もー、みんなちゃんと片付けないから…」
「咲夜さん!私の髪型そんなに変ですか!?オシャレに決めたつもりなのに誰も気が付いてくれないんです!」
「ああ………三つ編みを四つ編みにしたのね」
「さすが咲夜さん!わかってくれましたか!」
「ええ………うん、結構可愛いんじゃないかしら、でも本気で気がつかれたいならもっと大胆にしないとだめよ」
「大胆に……!?」
「ま、誰かオシャレなやつにでも聞きなさい」
「咲夜さん、夕飯の準備始めますね」
「ん、お願い」
何度か足止めを食って、ようやく自室にたどり着いた。
あきもせず咲夜さん咲夜さんと………
「貴女も大変ね」
「そんなこともないわ、みんないい子だもの」
「ふーん……」
「………アリス、さっきちょっと考えてたんだけど」
「死人を弔えるのって、幸せなことかしら」
「……何?本当に突然ね」
咲夜の部屋で遅いティータイムを過ごそうと思っていたが、妙な話を振られた。
若干思いつめた表情をしているけど…
「貴女はどっちがいい?死体ものこらないような殺され方をして、墓だけができるか、死体が残って一緒に埋められるか」
「………死後の話か、言っとくけど私はなかなか死なないわよ」
「そうね、どう考えても先に入るのは私だわ」
「………どっちも幸せなことじゃないかしら」
「どっちも?」
「例えそこに実際死んじゃったやつがいなくても、その人が死んでしまったことを忘れないようにって、証拠を残してもらえるなら」
なんだか、人並みなことを言ってしまった。
でも咲夜は笑わず、からかわず話を聞いてくれた。
「………そうね、わからない話じゃないわ」
「これがわからないようじゃひねくれ過ぎだと思わない?」
「ええ」
ちょっとだけ笑みが見えた、こういう答えが欲しかったんだろうか、咲夜は。
「………アリス」
「ん」
「貴女は、私が死んだら墓を作ってくれる?」
「………くだらないこと言うんじゃないわよ」
「そんなこともないわよ」
咲夜の表情は確かに真剣だった、真剣というか少し虚ろな……感情を読み取れない。
「私のことを忘れないようにって、お墓を作ってもらえるならきっと私は幸せだわ」
「やめなさいよ、それに多分私は作らない」
「………そう」
それでも構わないというように、笑って見せた。
強がっているようでもない、きっと咲夜はそんな答えは期待していないと思う。
でも、私もはずっと強がっているつもりはない。
「だって、考えても見なさいよ」
「もう会えない人を忘れないためにお墓なんて作ってどうするの?忘れたいわ、思い出すたびにきっと私は、今の貴女のような虚ろな、無気力な表情をしてしまう」
「………」
「もうここに居ないから、それを認めろって自分に言い聞かせるために墓を作るくらいなら、私なら死体を剥製にでもして貴女そっくりの人形を作るでしょうね」
「………趣味悪いわね、私が死ぬまでずっとその調子なの?」
「知らないわ」
「ともかく咲夜、自分が死ぬだなんてくだらないこと言うんじゃない、少なくとも私が貴女に興味を持ってる間はね」
こんなことを言ったら確実に私は不利になる、しかしここまで口を滑らせてしまったらもういいだろう。
恥ずかしいとも思ったが、悟られないように私は咲夜の顔から視線をはずさなかった。
なのに、咲夜の表情は私の期待していたものとはまったく違った。
「………やれやれ」
「なによ」
「貴女、さっき自分が言ったことの真逆のことを言ってたわよ?」
「………あ」
「ガラにもないこと聞いた私も私だけど、貴女もちょっとムキになりすぎなんじゃない?」
うって変わって、咲夜の表情は明るかった。
もしかして、からかわれていたのか………?
充分ありえる話だ、だってこいつ、吹き出しそうになってるぞ。
「あんた……ねぇ」
「ええ」
「あんた性格悪すぎ!」
このお茶を思いっきりぶっ掛けたやりたかったが、さすがにそこまで品の無いことはできない。
とりあえず気分を晴らしたい、図書館で本漁りだ。
「次はいつくる?」
「うっさいわね!」
「ケーキ焼いてあげる」
「明日!」
物で釣ろうなんて、どこまで私をバカにしてるんだ。
冗談も相手を選べって話よ、やっぱあいつはよっぽどのバカね。
「アリスさんご機嫌ですね、何かいいことありました?」
「………ご機嫌そう?私が!?」
「ええ、とっても」
………私もヤキが回ったか。
.
「アリス…?よくここがわかったわね」
よくわかったと言うか、適当に飛んでいたら咲夜の姿が見えてしまっただけだ。
広すぎる庭の一隅にぽつんと建てられている鉄でできた十字架、何も知らない私でもそれはお墓だとわかる。
「これは誰の墓なの?」
「さぁ、私は詳しく知らない」
「知らないやつなのに墓参りしてるの?」
「ええ」
「ふーん」
大して興味はないけど、咲夜がそこまで人の生と死を気にかけているとは思わなかった。
「こいつのことを聞いても、誰も詳しくは知らないって言うけどね」
「え?………じゃあどいつもこいつも、誰のだか知らないお墓を拝んでるわけ?」
「ええ、そういうこと」
「………なんだかな」
「無駄だって思う?」
「………そうね、無駄かもね」
「でももしかしたら、このお墓は私やレミリアお嬢様の深い知り合いだったのかもしれない」
「………例えば、ね」
「ええ」
そう考えてしまえば、蔑ろに出来ないのはわからないでもないけど。
「それだったら、誰も知らないってことはないでしょ」
「そうかもね、じゃあ………この館を作った奴で、骨を埋めさせてもらったってのはどうかしら、それなら私には参拝する理由があるわ」
「強引ね、貴女どうしてもそうしたいだけなんじゃない?」
「そうかもね」
別にどうてもいいという感じで、咲夜は答えた。
もし知人の墓だったら、か……
くだらないことだとは思うけど、私は十字架の前に座り、手を合わせた。
「………何してるの?」
「………よし」
「貴女言ったじゃない、もしかしたら知らないだけで、自分達の知人だったかもしれないって」
「だから貴女もって?」
「ええ」
「………ふぅん」
お茶を出してやるとは言われなかったけど、私は咲夜と一緒に紅魔館の中に入った。
途中何人かのメイドの子とすれ違った、咲夜が言うには彼女達も参拝にいくらしい。
「咲夜さん、この本って…」
「図書館のやつじゃない?」
「あ、やっぱり………もー、みんなちゃんと片付けないから…」
「咲夜さん!私の髪型そんなに変ですか!?オシャレに決めたつもりなのに誰も気が付いてくれないんです!」
「ああ………三つ編みを四つ編みにしたのね」
「さすが咲夜さん!わかってくれましたか!」
「ええ………うん、結構可愛いんじゃないかしら、でも本気で気がつかれたいならもっと大胆にしないとだめよ」
「大胆に……!?」
「ま、誰かオシャレなやつにでも聞きなさい」
「咲夜さん、夕飯の準備始めますね」
「ん、お願い」
何度か足止めを食って、ようやく自室にたどり着いた。
あきもせず咲夜さん咲夜さんと………
「貴女も大変ね」
「そんなこともないわ、みんないい子だもの」
「ふーん……」
「………アリス、さっきちょっと考えてたんだけど」
「死人を弔えるのって、幸せなことかしら」
「……何?本当に突然ね」
咲夜の部屋で遅いティータイムを過ごそうと思っていたが、妙な話を振られた。
若干思いつめた表情をしているけど…
「貴女はどっちがいい?死体ものこらないような殺され方をして、墓だけができるか、死体が残って一緒に埋められるか」
「………死後の話か、言っとくけど私はなかなか死なないわよ」
「そうね、どう考えても先に入るのは私だわ」
「………どっちも幸せなことじゃないかしら」
「どっちも?」
「例えそこに実際死んじゃったやつがいなくても、その人が死んでしまったことを忘れないようにって、証拠を残してもらえるなら」
なんだか、人並みなことを言ってしまった。
でも咲夜は笑わず、からかわず話を聞いてくれた。
「………そうね、わからない話じゃないわ」
「これがわからないようじゃひねくれ過ぎだと思わない?」
「ええ」
ちょっとだけ笑みが見えた、こういう答えが欲しかったんだろうか、咲夜は。
「………アリス」
「ん」
「貴女は、私が死んだら墓を作ってくれる?」
「………くだらないこと言うんじゃないわよ」
「そんなこともないわよ」
咲夜の表情は確かに真剣だった、真剣というか少し虚ろな……感情を読み取れない。
「私のことを忘れないようにって、お墓を作ってもらえるならきっと私は幸せだわ」
「やめなさいよ、それに多分私は作らない」
「………そう」
それでも構わないというように、笑って見せた。
強がっているようでもない、きっと咲夜はそんな答えは期待していないと思う。
でも、私もはずっと強がっているつもりはない。
「だって、考えても見なさいよ」
「もう会えない人を忘れないためにお墓なんて作ってどうするの?忘れたいわ、思い出すたびにきっと私は、今の貴女のような虚ろな、無気力な表情をしてしまう」
「………」
「もうここに居ないから、それを認めろって自分に言い聞かせるために墓を作るくらいなら、私なら死体を剥製にでもして貴女そっくりの人形を作るでしょうね」
「………趣味悪いわね、私が死ぬまでずっとその調子なの?」
「知らないわ」
「ともかく咲夜、自分が死ぬだなんてくだらないこと言うんじゃない、少なくとも私が貴女に興味を持ってる間はね」
こんなことを言ったら確実に私は不利になる、しかしここまで口を滑らせてしまったらもういいだろう。
恥ずかしいとも思ったが、悟られないように私は咲夜の顔から視線をはずさなかった。
なのに、咲夜の表情は私の期待していたものとはまったく違った。
「………やれやれ」
「なによ」
「貴女、さっき自分が言ったことの真逆のことを言ってたわよ?」
「………あ」
「ガラにもないこと聞いた私も私だけど、貴女もちょっとムキになりすぎなんじゃない?」
うって変わって、咲夜の表情は明るかった。
もしかして、からかわれていたのか………?
充分ありえる話だ、だってこいつ、吹き出しそうになってるぞ。
「あんた……ねぇ」
「ええ」
「あんた性格悪すぎ!」
このお茶を思いっきりぶっ掛けたやりたかったが、さすがにそこまで品の無いことはできない。
とりあえず気分を晴らしたい、図書館で本漁りだ。
「次はいつくる?」
「うっさいわね!」
「ケーキ焼いてあげる」
「明日!」
物で釣ろうなんて、どこまで私をバカにしてるんだ。
冗談も相手を選べって話よ、やっぱあいつはよっぽどのバカね。
「アリスさんご機嫌ですね、何かいいことありました?」
「………ご機嫌そう?私が!?」
「ええ、とっても」
………私もヤキが回ったか。
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この時のアリスはどのような表情をしていたのでしょうか。
下唇をきつく噛んで目の端に涙を溜めていたりしたのでしょうか。
東方キャラの中でも、この二人だからこそ会話の一つ一つが重く深く感じますね。
漫才の中にも多かれ少なかれシリアスの匂いがあるのは咲アリの魅力だと思います。
次も期待。