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ある日、雲行きも怪しくなってきた人里で
永遠亭のマスコット、鈴仙・優曇華院・イナバはこれまでにない危機を迎えていた
「ほら、どうするよ嬢ちゃん」
「あ、う・・・・ぅ・・・・・」
にやつく男の前で、汗をかきながら押し黙る鈴仙
今になって悔やむ
ああ、なんて馬鹿な話にのったのだろうと
事の始めは、いつものように薬箱の補充に回っていた時の事
三軒目を終えた辺りで、妙な噂を長い長い耳が聞きつけた
「最近、里の薬屋が薬の値段をべらぼうにあげるのです」
永遠亭の薬は価格、効果とも良心的なのであるが
薬売りも常に回ってきているわけでもなく
邸もそうおいそれと行ける様な所ではない
それ故緊急時には、里の薬屋で事を済ませる人も多いのだが
どうやら店主が代わったらしく、薬は必需品だと図に乗り始め
酷い物では前の価格の倍近い値で置いているらしい
聞いて、鈴仙は激怒した
「呆れた奴だ。生かして置けぬ。」
早速件の薬屋へ単身乗り込み、店主を呼び出し直談判
すると意外や、あっさりと鈴仙の言い分は聞き入れたが
その前に一つ、条件を出してきた
「ちょいとお遊びにつきあってもらおうか」
聞けばこの御仁、大層賭け事がお好きなようで
あちらの出すお題で鈴仙が勝つ事ができれば、店主を降りるとのこと
ふむ、と顎に手をあて考える鈴仙
そう賭け事は得意ではないが、たかが人間相手の浅知恵
まさか早々こちらが負けると言う事もあるまい
更に、こちらには人を惑わす眼もあることだし
それで里の暮らしも良くなるならば、と承諾する
しかし、その安直な返答がまず間違いの元だった
「それじゃ、こいつをかけてもらうよ」
と、店主が差し出したのは
どこにでも目に付くようなありふれた様子の眼鏡
「これは?」
「いいからかけてみなよ」
はて、と首をかしげながらそっと浅くかけてみる
「・・・っ?!」
まず感じたのは、ほんの微弱な違和感
そして次に店主に向き直ると、眼を見開き口に手を当て屈みこんだ
「あんた、今幻術使おうとしたね?」
店主は嫌らしい笑みを浮かべながら
「魔法の森に近い店で見つけた代物でね。
悪いがあんたには、そのおかしな力は使わないでもらうよ」
ぎりっと歯をかみ締め睨みつける鈴仙をせせら笑う店主
迂闊だったと後悔するが、なに、奥の手が一つ封じられただけ
実際の勝負で勝てば問題はない・・・
「それじゃあ準備するからあんたも手伝ってくれ」
「え・・・ここでするんじゃないの?」
「こんな誰も居ない店の中でやってもつまらないだろう。
ほら、持った持った」
運ばされたのは、椅子を二つにボールを一つ
店主は机を一つとカップを三つ、店先に運んできた
「さて、それじゃあ始めようか」
ルールは、昔ながらのシャッフルゲーム
逆さに三つ並べたカップの一つにボールを隠し
残りのカップの位置を入れ替えて、ボールの隠してある場所を当てるというもの
確率は三分の一
これならさっさと勝負がつきそうだ
が、なんだなんだと観客も揃いだした頃
「ああ、ちなみに野球拳形式で進めていくからそのつもりでな」
「なっ?!」
散々舞台が整ってからしれっと言う店主に、呆気に取られる鈴仙
つまり、相手が当てるごとに一枚脱げと言う事か
初めからこうして逃げにくい場を作ってから明かすつもりだったのだろう
こうなってから逃げ出しては、永遠亭の名に傷がつかないとも限らない
「・・・望むところじゃないの」
「ほぅ、いい気概だ」
大丈夫、ブレザーとネクタイ、靴と靴下までなら心配ないから、四敗までは持ちこたえられる
それまでにどうにかしてケリを・・・っ!
そうして現在に至る
戦績、一勝四敗
ブレザーとネクタイは既に椅子に干してあり、靴と靴下は足元においてある
「はやく選ばんと日が暮れてしまうんだが」
「う・・・っ」
唇をかみ締め、右のカップに手を伸ばしかける
「おっと、そっちで大丈夫かい?」
「っ!」
慌てて手を引っ込め、歯軋りする鈴仙
さっきからこの調子で手を乱されまくっているのだった
大体、男対女で同じ条件の野球拳形式というのが不条理すぎる
こちらはもう退くに退けないのに、あちらはまだ上半身全部残っているではないか!
「選ばないのなら、パスと言う事でこちらの番にしてもいいか?」
「ま、まって!」
慌てて制し、頭を抱える鈴仙
男はあっさりしすぎるほどボールの隠れたカップを続けて当て続け
このままではブラウスかスカートかを選ばなくてはならない
さすがに五回連続で当て続けるとは考えにくいが
しかし万が一にも・・・・
「・・・いい加減にしてくれんかなぁ。もう勝負する気が無いならやめさせてもらうよ」
苛立った調子で毒づく店主に、目尻をにじませる鈴仙
店主が呼び出したらしい天狗がカメラを構えてこちらをみているのがやるせない
畜生、いちいちカメラむけんな
「あーっ、たく! だったら後三秒な」
「えっ、ちょっと待って!」
「待たんね。はい三、二・・」
ええい、こうなったらやけだ!!
眼をつぶり、右手を思い切り前に差し出す鈴仙
「こっ「こっちでお願い」」
すわ、何事か
右腕を強く掴まれたかと思うと、ぐいっと左側へ寄せられた
「・・・なんだいあんた」
「ん?や、別に。晩御飯の支度が遅いんで呼びに着ただけ」
ふと聞き覚えのある声だと眼を開けて
おそるおそる顔を上げると・・・
「てゐ・・っ!」
「あのね。おゆはん、鈴仙が当番だったはずだけど」
ぶすっと不機嫌そうな顔のてゐがそこにいた
「・・・あんた、俺が隠すの見てたんだろ」
「んやー、私もこの子と同じように後ろ向いてたよ?」
「ふざけんな! こんなんじゃ勝負にならん!」
「あ、そう」
てゐは軽く首を傾げると
「てゐっ!!」
「ぎにゃっ!」
鈴仙を椅子からおっことし、自らそこにふんぞり返った
「それじゃあ、私が次から相手をしようか」
「は、嬢ちゃんがか?」
「そ。私だったらこの服一枚でギリギリだし、精々稼げてもこのペンダントぐらい
経過としても問題ないと思うけど」
「・・・・ふーん」
店主はしばらく顎をさすっていたかと思うと、ふてぶてしい笑みを浮かべ
「・・・もう後悔しても遅いぞ?」
「お生憎様」
机にひじを乗せ、不敵に微笑むてゐ
「それじゃ、こっちから隠させてもらうよ」
「いいのかい? 俺からのほうが一戦稼げるのに」
「いいのいいの。あんただって早く当てて消化したいでしょ?」
「・・・違いない」
かははと笑い声をあげて後ろを向く店主に、オロオロと落ち着かない鈴仙
今まであまりに順調に勝ち進んできた店主相手に自信満々なてゐ
つい流れで任せてしまったが、大丈夫なのだろうか
「ね、ねぇてゐ・・・やっぱり私が・・」
「だってねぇ。鈴仙も下着みせつけながら帰るのは嫌でしょ?」
「う・・・・そ、それならてゐだって」
「だーいじょうぶだいじょうぶ。ま、見てなって」
にひひと笑うてゐに、呆れるやら情けなくなるやら
「ほい。こっち向いていいよ」
「よし、それじゃ今晩はウサギを二匹剥いて仕舞いにしようか」
頭をかいて笑いながらカップの方を向き直る店主
「なっ・・・・っ?!」
しかし、そこで眼にしたものは
カップの上にのっかっているてゐちゃんぬいぐるみっ(ミニサイズ)!!
「ん、どうしたの? 別にカップになにか乗っかってるからって関係ないでしょ?」
「・・・っ!」
「あ、それどけるのはなしね。指差してこれって決めたやつだけ開けてもらうから」
ぬいぐるみをどけようとした店主に釘を刺し、椅子にもたれるてゐ
店主は明らかにうろたえた様子でカップを選んでいたが
意を決したかのように右のカップを指さした
「はい、残念」
指したカップを上にあげ、嬉しそうににやつくてゐ
「・・っ、っ! さ、最初からボールなんか入ってないんじゃないか?!」
「見苦しいねぇあんたも」
真ん中のカップを持ち上げ、ボールが入っている事を見せつける
「なっ・・・っ!!」
「大体、あんたはポーカーにゃ向かない顔つきさね」
肩をすくめてボールをつまみ、指先で静かに転がしながら
「博打師としての姿勢もなってないし、観察力も足りてない。
ハッタリの技量もなければセンスも見当たらない」
「なっ・・、てめぇ・・っ!」
「さて、それじゃ次は私が当てる番だけど」
「ま、まてっ!そこの仲間が教えるかもしれないじゃないか!」
「・・・だってさ鈴仙。悪いけど、ちょっと向こう行ってて。帰ってもいいよ」
「え、うん・・・」
「さて、それじゃ、次はこのコップを使ってやろっか」
ごそごそと鈴仙の薬箱から、飲み薬用のコップを三つ出して準備するてゐ
「・・まて!そのコップになんか細工してあるんじゃないだろうな?!」
椅子を倒しながら立ち上がり、声を荒げる店主
しかし、その後すぐに口を押さえて座りなおした
てゐはにやつきながらそれを見ていたが
「・・・ねぇあんた」
「へ?」
観客の一人だった女の子を手招きし
「ちょっとそこの雑貨屋で、同じコップ三つかってきてくれる?」
「コップ?」
「そ。まったく同じ奴ね」
多少の小銭を握らせ、お使いに行かせると
「これで文句は無いでしょ?」
「くっ・・・!」
忌々しそうに睨みつけながら爪を噛む店主
「はい、ありがと」
買ってきたコップを受け取り店主に差し出すと
唇の端を吊り上げ、楽しそうに笑った
「さて、第二ラウンドといこうじゃないか!!」
ぽーっと近場の岩に腰掛け、そわそわとしている鈴仙
追い払われてから幾分時間もたったが、どうなったのだろうか
もしかして負けが重なり、裸寸前まで追い詰められているんじゃ・・・
ドロワの裾をぎゅっと握り締めながら真っ赤に震えるてゐ・・・
「・・・こうしちゃいられない!!」
鼻血を盛大に撒き散らせながら立ち上がる鈴仙
てゐを暴君から救うのだ、と颯爽に人ごみへとかける
「ひいいいぃいぃぃぃぃ!!」
が、それと入れ違いに
人ごみから店主が走り出してきた。
全裸で。
「・・・へ?」
そのあまりの形相に呆気に取られていると
てゐがのんびりと鈴仙の服を抱えながら戻ってきた
「てゐ!」
慌てて駆け寄った鈴仙だったが
顔をあわせた途端盛大なため息をつかれてしまった
「まったく、鈴仙はこれだから」
「ご、ごめん・・・」
「賭け事だったら私を呼ぶなりなんなりしときなさいよ」
「うん・・・」
「ま、これで明日の号外は大して面白くもなさそうなもんになるだろうけど」
「ん・・・・」
「鈴仙の服いいにおい」
「なにかいった?」
「や、別に」
ぶんぶんと首を振り、置いてあった服装を返す
「ありがと・・・あれ、靴下しらない?」
「さぁ? あいつがもってっちゃったんじゃない?」
「あーあ・・・まったく」
ぶつぶつ文句をたれながら素足で靴を履く鈴仙に、ポーカーフェイスでどきどきするてゐ
この・・・このポケットの中身だけは知られてはならない!!
「それにしてもすごいね、てゐは」
「なにが?」
「だって、私のときはずっとあててきてたのに一発目でかわしちゃうなんて」
「ああ、あれイカサマ」
「えっ?!」
「あ、いや。私がじゃなくて、あっちがね」
てゐはさっき店主が使っていたカップを取り出すと
「ほら、これ」
「これが?」
「三つのうち一つだけ、底の天辺の中心にちっちゃい傷があるでしょ?」
「うん」
「で、傷のあるコップが左端にあったとすると
傷が動いてなかったらカップの動いてないそこにボール
傷が隣にあったら、一つ入れ替わっただけだから右端
傷が右端にあったら、両端が動いたから真ん中のがあたりってわけ」
「なっ・・・あいつ!!」
カッと目を赤く光らせ怒る鈴仙
その垣間見せるワイルドさに胸をときめかせながら
「ま、古典的というか。使い古されたトリックだったから、アレ置いて封じといたわけ」
「ふーん・・・・あれ?」
「なに?」
「そういえばてゐ、あの様子しばらく見てたんだよね?」
「うん」
「・・・じゃあ、さっさと教えてくれてもよかったんじゃない?」
「だって、鈴仙が負けてくとこみたかったんだもの」
「っ!! このぉ!」
顔を真っ赤にして追いかける鈴仙に、笑いながら走り逃げるてゐ
雲も散り、夕焼けが静かに落ち始め・・・・
ある日、雲行きも怪しくなってきた人里で
永遠亭のマスコット、鈴仙・優曇華院・イナバはこれまでにない危機を迎えていた
「ほら、どうするよ嬢ちゃん」
「あ、う・・・・ぅ・・・・・」
にやつく男の前で、汗をかきながら押し黙る鈴仙
今になって悔やむ
ああ、なんて馬鹿な話にのったのだろうと
事の始めは、いつものように薬箱の補充に回っていた時の事
三軒目を終えた辺りで、妙な噂を長い長い耳が聞きつけた
「最近、里の薬屋が薬の値段をべらぼうにあげるのです」
永遠亭の薬は価格、効果とも良心的なのであるが
薬売りも常に回ってきているわけでもなく
邸もそうおいそれと行ける様な所ではない
それ故緊急時には、里の薬屋で事を済ませる人も多いのだが
どうやら店主が代わったらしく、薬は必需品だと図に乗り始め
酷い物では前の価格の倍近い値で置いているらしい
聞いて、鈴仙は激怒した
「呆れた奴だ。生かして置けぬ。」
早速件の薬屋へ単身乗り込み、店主を呼び出し直談判
すると意外や、あっさりと鈴仙の言い分は聞き入れたが
その前に一つ、条件を出してきた
「ちょいとお遊びにつきあってもらおうか」
聞けばこの御仁、大層賭け事がお好きなようで
あちらの出すお題で鈴仙が勝つ事ができれば、店主を降りるとのこと
ふむ、と顎に手をあて考える鈴仙
そう賭け事は得意ではないが、たかが人間相手の浅知恵
まさか早々こちらが負けると言う事もあるまい
更に、こちらには人を惑わす眼もあることだし
それで里の暮らしも良くなるならば、と承諾する
しかし、その安直な返答がまず間違いの元だった
「それじゃ、こいつをかけてもらうよ」
と、店主が差し出したのは
どこにでも目に付くようなありふれた様子の眼鏡
「これは?」
「いいからかけてみなよ」
はて、と首をかしげながらそっと浅くかけてみる
「・・・っ?!」
まず感じたのは、ほんの微弱な違和感
そして次に店主に向き直ると、眼を見開き口に手を当て屈みこんだ
「あんた、今幻術使おうとしたね?」
店主は嫌らしい笑みを浮かべながら
「魔法の森に近い店で見つけた代物でね。
悪いがあんたには、そのおかしな力は使わないでもらうよ」
ぎりっと歯をかみ締め睨みつける鈴仙をせせら笑う店主
迂闊だったと後悔するが、なに、奥の手が一つ封じられただけ
実際の勝負で勝てば問題はない・・・
「それじゃあ準備するからあんたも手伝ってくれ」
「え・・・ここでするんじゃないの?」
「こんな誰も居ない店の中でやってもつまらないだろう。
ほら、持った持った」
運ばされたのは、椅子を二つにボールを一つ
店主は机を一つとカップを三つ、店先に運んできた
「さて、それじゃあ始めようか」
ルールは、昔ながらのシャッフルゲーム
逆さに三つ並べたカップの一つにボールを隠し
残りのカップの位置を入れ替えて、ボールの隠してある場所を当てるというもの
確率は三分の一
これならさっさと勝負がつきそうだ
が、なんだなんだと観客も揃いだした頃
「ああ、ちなみに野球拳形式で進めていくからそのつもりでな」
「なっ?!」
散々舞台が整ってからしれっと言う店主に、呆気に取られる鈴仙
つまり、相手が当てるごとに一枚脱げと言う事か
初めからこうして逃げにくい場を作ってから明かすつもりだったのだろう
こうなってから逃げ出しては、永遠亭の名に傷がつかないとも限らない
「・・・望むところじゃないの」
「ほぅ、いい気概だ」
大丈夫、ブレザーとネクタイ、靴と靴下までなら心配ないから、四敗までは持ちこたえられる
それまでにどうにかしてケリを・・・っ!
そうして現在に至る
戦績、一勝四敗
ブレザーとネクタイは既に椅子に干してあり、靴と靴下は足元においてある
「はやく選ばんと日が暮れてしまうんだが」
「う・・・っ」
唇をかみ締め、右のカップに手を伸ばしかける
「おっと、そっちで大丈夫かい?」
「っ!」
慌てて手を引っ込め、歯軋りする鈴仙
さっきからこの調子で手を乱されまくっているのだった
大体、男対女で同じ条件の野球拳形式というのが不条理すぎる
こちらはもう退くに退けないのに、あちらはまだ上半身全部残っているではないか!
「選ばないのなら、パスと言う事でこちらの番にしてもいいか?」
「ま、まって!」
慌てて制し、頭を抱える鈴仙
男はあっさりしすぎるほどボールの隠れたカップを続けて当て続け
このままではブラウスかスカートかを選ばなくてはならない
さすがに五回連続で当て続けるとは考えにくいが
しかし万が一にも・・・・
「・・・いい加減にしてくれんかなぁ。もう勝負する気が無いならやめさせてもらうよ」
苛立った調子で毒づく店主に、目尻をにじませる鈴仙
店主が呼び出したらしい天狗がカメラを構えてこちらをみているのがやるせない
畜生、いちいちカメラむけんな
「あーっ、たく! だったら後三秒な」
「えっ、ちょっと待って!」
「待たんね。はい三、二・・」
ええい、こうなったらやけだ!!
眼をつぶり、右手を思い切り前に差し出す鈴仙
「こっ「こっちでお願い」」
すわ、何事か
右腕を強く掴まれたかと思うと、ぐいっと左側へ寄せられた
「・・・なんだいあんた」
「ん?や、別に。晩御飯の支度が遅いんで呼びに着ただけ」
ふと聞き覚えのある声だと眼を開けて
おそるおそる顔を上げると・・・
「てゐ・・っ!」
「あのね。おゆはん、鈴仙が当番だったはずだけど」
ぶすっと不機嫌そうな顔のてゐがそこにいた
「・・・あんた、俺が隠すの見てたんだろ」
「んやー、私もこの子と同じように後ろ向いてたよ?」
「ふざけんな! こんなんじゃ勝負にならん!」
「あ、そう」
てゐは軽く首を傾げると
「てゐっ!!」
「ぎにゃっ!」
鈴仙を椅子からおっことし、自らそこにふんぞり返った
「それじゃあ、私が次から相手をしようか」
「は、嬢ちゃんがか?」
「そ。私だったらこの服一枚でギリギリだし、精々稼げてもこのペンダントぐらい
経過としても問題ないと思うけど」
「・・・・ふーん」
店主はしばらく顎をさすっていたかと思うと、ふてぶてしい笑みを浮かべ
「・・・もう後悔しても遅いぞ?」
「お生憎様」
机にひじを乗せ、不敵に微笑むてゐ
「それじゃ、こっちから隠させてもらうよ」
「いいのかい? 俺からのほうが一戦稼げるのに」
「いいのいいの。あんただって早く当てて消化したいでしょ?」
「・・・違いない」
かははと笑い声をあげて後ろを向く店主に、オロオロと落ち着かない鈴仙
今まであまりに順調に勝ち進んできた店主相手に自信満々なてゐ
つい流れで任せてしまったが、大丈夫なのだろうか
「ね、ねぇてゐ・・・やっぱり私が・・」
「だってねぇ。鈴仙も下着みせつけながら帰るのは嫌でしょ?」
「う・・・・そ、それならてゐだって」
「だーいじょうぶだいじょうぶ。ま、見てなって」
にひひと笑うてゐに、呆れるやら情けなくなるやら
「ほい。こっち向いていいよ」
「よし、それじゃ今晩はウサギを二匹剥いて仕舞いにしようか」
頭をかいて笑いながらカップの方を向き直る店主
「なっ・・・・っ?!」
しかし、そこで眼にしたものは
カップの上にのっかっているてゐちゃんぬいぐるみっ(ミニサイズ)!!
「ん、どうしたの? 別にカップになにか乗っかってるからって関係ないでしょ?」
「・・・っ!」
「あ、それどけるのはなしね。指差してこれって決めたやつだけ開けてもらうから」
ぬいぐるみをどけようとした店主に釘を刺し、椅子にもたれるてゐ
店主は明らかにうろたえた様子でカップを選んでいたが
意を決したかのように右のカップを指さした
「はい、残念」
指したカップを上にあげ、嬉しそうににやつくてゐ
「・・っ、っ! さ、最初からボールなんか入ってないんじゃないか?!」
「見苦しいねぇあんたも」
真ん中のカップを持ち上げ、ボールが入っている事を見せつける
「なっ・・・っ!!」
「大体、あんたはポーカーにゃ向かない顔つきさね」
肩をすくめてボールをつまみ、指先で静かに転がしながら
「博打師としての姿勢もなってないし、観察力も足りてない。
ハッタリの技量もなければセンスも見当たらない」
「なっ・・、てめぇ・・っ!」
「さて、それじゃ次は私が当てる番だけど」
「ま、まてっ!そこの仲間が教えるかもしれないじゃないか!」
「・・・だってさ鈴仙。悪いけど、ちょっと向こう行ってて。帰ってもいいよ」
「え、うん・・・」
「さて、それじゃ、次はこのコップを使ってやろっか」
ごそごそと鈴仙の薬箱から、飲み薬用のコップを三つ出して準備するてゐ
「・・まて!そのコップになんか細工してあるんじゃないだろうな?!」
椅子を倒しながら立ち上がり、声を荒げる店主
しかし、その後すぐに口を押さえて座りなおした
てゐはにやつきながらそれを見ていたが
「・・・ねぇあんた」
「へ?」
観客の一人だった女の子を手招きし
「ちょっとそこの雑貨屋で、同じコップ三つかってきてくれる?」
「コップ?」
「そ。まったく同じ奴ね」
多少の小銭を握らせ、お使いに行かせると
「これで文句は無いでしょ?」
「くっ・・・!」
忌々しそうに睨みつけながら爪を噛む店主
「はい、ありがと」
買ってきたコップを受け取り店主に差し出すと
唇の端を吊り上げ、楽しそうに笑った
「さて、第二ラウンドといこうじゃないか!!」
ぽーっと近場の岩に腰掛け、そわそわとしている鈴仙
追い払われてから幾分時間もたったが、どうなったのだろうか
もしかして負けが重なり、裸寸前まで追い詰められているんじゃ・・・
ドロワの裾をぎゅっと握り締めながら真っ赤に震えるてゐ・・・
「・・・こうしちゃいられない!!」
鼻血を盛大に撒き散らせながら立ち上がる鈴仙
てゐを暴君から救うのだ、と颯爽に人ごみへとかける
「ひいいいぃいぃぃぃぃ!!」
が、それと入れ違いに
人ごみから店主が走り出してきた。
全裸で。
「・・・へ?」
そのあまりの形相に呆気に取られていると
てゐがのんびりと鈴仙の服を抱えながら戻ってきた
「てゐ!」
慌てて駆け寄った鈴仙だったが
顔をあわせた途端盛大なため息をつかれてしまった
「まったく、鈴仙はこれだから」
「ご、ごめん・・・」
「賭け事だったら私を呼ぶなりなんなりしときなさいよ」
「うん・・・」
「ま、これで明日の号外は大して面白くもなさそうなもんになるだろうけど」
「ん・・・・」
「鈴仙の服いいにおい」
「なにかいった?」
「や、別に」
ぶんぶんと首を振り、置いてあった服装を返す
「ありがと・・・あれ、靴下しらない?」
「さぁ? あいつがもってっちゃったんじゃない?」
「あーあ・・・まったく」
ぶつぶつ文句をたれながら素足で靴を履く鈴仙に、ポーカーフェイスでどきどきするてゐ
この・・・このポケットの中身だけは知られてはならない!!
「それにしてもすごいね、てゐは」
「なにが?」
「だって、私のときはずっとあててきてたのに一発目でかわしちゃうなんて」
「ああ、あれイカサマ」
「えっ?!」
「あ、いや。私がじゃなくて、あっちがね」
てゐはさっき店主が使っていたカップを取り出すと
「ほら、これ」
「これが?」
「三つのうち一つだけ、底の天辺の中心にちっちゃい傷があるでしょ?」
「うん」
「で、傷のあるコップが左端にあったとすると
傷が動いてなかったらカップの動いてないそこにボール
傷が隣にあったら、一つ入れ替わっただけだから右端
傷が右端にあったら、両端が動いたから真ん中のがあたりってわけ」
「なっ・・・あいつ!!」
カッと目を赤く光らせ怒る鈴仙
その垣間見せるワイルドさに胸をときめかせながら
「ま、古典的というか。使い古されたトリックだったから、アレ置いて封じといたわけ」
「ふーん・・・・あれ?」
「なに?」
「そういえばてゐ、あの様子しばらく見てたんだよね?」
「うん」
「・・・じゃあ、さっさと教えてくれてもよかったんじゃない?」
「だって、鈴仙が負けてくとこみたかったんだもの」
「っ!! このぉ!」
顔を真っ赤にして追いかける鈴仙に、笑いながら走り逃げるてゐ
雲も散り、夕焼けが静かに落ち始め・・・・
こういう鈴仙とてゐのやりとりが好きでぃす!
おいしいです
あの腹黒宇詐欺がものっそいかっこよく見える…