※格闘ゲームにある程度親しんでいる方向けです。
一日中薄暗くって、今が昼か夜かもわかんない室内。色とりどり、形も様々で、所狭しと並ぶ液晶ディスプレイが斑々と彩光を放っている。
タバコの煙がむわっと充満していて、むせかえるみたいだった。
都会の方のゲームセンターじゃ、完全禁煙なところもあると聞いたけれど、禁煙ブームの波はここまで届いていないみたい。
そんな場末のゲーセンで、我が友、宇佐見蓮子が連コインしてる。
負ける、コイン投入、また負ける、またコイン投入。いつ終わるともしれぬ無限地獄に、蓮子は陥っていた。
負ける度に大騒ぎ、パンチ一発当たるたびに大喜び、傍目から見たら面白い光景なのかもしれないけれど
(実際私は笑いをこらえていたし)、たぶん本人はかなり、うん、かなり必死だ。
「なんで!? なんで必殺技出ないのよ! 書いてある通りにやってるのに! 必殺技さえ出れば勝てるのに!」
そういう問題かなあ……。どう見てもそれ以前の問題な気がする。
がっちゃんがっちゃん、ぶっ壊してしまいそうなぐらい蓮子はレバーを動かしている。右手で、だ。
左手はボタンに添えてある。もちろんボタンも常時連打。ゆえに筐体の前で忙しなくクロスする細腕。
『この配置おかしくない!? やりにくいわ!』というのが席についた蓮子の第一声だった。
「あ、メリー! 今の見た!? すごいよ、なんかビーム出た!」
両手から放出されるエネルギー弾を、蓮子はビームと表現した。まぁ確かにビームっぽいわね。
「さすが蓮子ね。けど、もう少し画面を見た方がいいと思うわ」
「あっ、やっ、やられてるし! くそう! もう一回よ!」
と蓮子は再び五十円玉を投入する。液晶の上部に燦然と輝く『WIN 45』。次の試合も負けたら蓮子の四十六連敗となる。
被害総額、二千三百円也。蓮子の多くないお小遣いにとっては、けっこうな痛手なんじゃなかろうか。千円分ぐらいは私が立て替えてあげているのだけれど。
ことの発端は蓮子の気まぐれだった。
学校帰りに街に出てウィンドウショッピングなどした後、ちょっと郊外まで足を伸ばしてやってきたゲームセンター。
目的のクイズゲームとUFOキャッチャーに早々と飽きてしまった私たちは、両替機のお世話になるまでもなく引き上げることにしたのだ。
お腹空いたしマックにでも行こうかー、ほんとに、ジャンクフードは学生の味方だねえ、えー、そうでもないわよー、ってな流れで出口に向かっていたのだけれど、
『あれ、やってみたい』とそのときは誰もプレイしていなかった格闘ゲームの対戦台を、蓮子は指差した。
『別に構わないけど、やったことあるの?』私が訊くと、『あるわけないじゃん』と蓮子は笑って、五十円玉をちゃりんと入れた。
コンピューター戦を危なっかしくもニ面、なんとかクリアした蓮子だったが、三面からはコンピューターの動きが違ってた。
みるみるうちに減っていく、蓮子が操るキャラの体力。あっけなく一ラウンド取られた時点で、これは負けちゃいそうだなー、と思ったわけ。
ところが第二ラウンド突入後しばらくして、液晶に現れた『HERE COMES A NEW CHALLENGER』の文字。
『なにこれ?』蓮子は首をかしげた。私はそっくりそのまんま『挑戦者現る』と訳してあげた。
『挑戦? 私に?』と初めのうちはとまどっていたのだが、状況を理解するなりなんだか瞳がメラメラ燃えてきて
『よっしゃあ! 返り討ちにしてくれるわ!』とド初心者らしからぬやる気を見せたのである。
それからは、あれよあれよと四十五連敗。三ラウンド先取だから、えーっと……、百三十五連敗か。
うん、一ラウンドも取れてないの。かわいそうな蓮子。相手も少しは手加減してくれればいいのに。女の子相手にやることか。
私は十連敗した辺りで、『引き際じゃない?』と肩を叩いたのだけれど、
『勝つまでやる! いんや、それは無理でも、せ、せめて一ラウンドぐらい!』蓮子は意地になっていた。
蓮子も蓮子だけれど、相手も相手だ。ここまで一方的な試合を二時間近く続けて何が楽しいのだろうか。
まぁでも、弱いながらも必死で頑張る姿がかわいかったので、退屈というわけでもなかった。
蓮子の隣の席に腰掛け、片肘ついて、横顔なんかをのんびりと眺めていたのである。私が座る台には『餓狼 MARK OF THE WOLVES』とある。
何というのかしら、斜陽の気配、みたいなものが筐体から漂っている気がしてならない。
「ああ、負ける、また負けちゃう! もうちょっとなのに!」
もうちょっと、っていうのかなあ。見たところ、相手の体力はまだ半分は残っている。まぁ今までと比べたらよく削ったほうだ。
しかし、相手はすでに二ラウンド取っていて勝利にリーチ。一方の蓮子は瀕死もいいところで敗北にリーチ。
状況はまさに絶望的だ。ド素人がくつがえせる状況ではないだろう。
「あああ! 神様仏様! 我に力を!」
ガチャガチャバチバチ。もの凄い勢いで蓮子は台を叩く。蓮子のキャラがキック、ジャンプ、パンチ、ダッシュ――大暴れする。
そのどれもが空振り。そりゃまぁ、相手のキャラは右端にいて、こっちのキャラは左端にいるのだから、当たるはずもないのだ。
大技を空振りしてしまい、隙が出来た。それを見て相手は距離を詰めてくる。
「うわああ! 来ないでえええ!」
「落ち着いて! っていうか画面見て!」
もはや涙目でパニック状態。引っこ抜いてしまいそうなぐらいレバーをぐるんぐるん回し、埋め込んでしまいそうなぐらいボタンをぶっ叩く。
相手が技を繰り出し――ああ、終わった、四十六連敗、キリは悪いけどこれ以上はもう無理よ。たぶん蓮子の心身と財布が持たないわ。
紐かけてでも連れてかえろう。連れてかえってあげましょう、と私が思った刹那、
ディスプレイが光った。
蓮子が使う男性キャラクターの精悍な顔がカットインする。
それから、流麗な動作でキックとパンチを繰り返す、乱舞、超必殺技というやつだ。その全てが相手のキャラを捕らえていた。
「え? なにこれ」
あんぐり、と音がしそうな蓮子の口。何もしてないのに勝手にキャラが動いているのが、理解できないのだろう。ぐんぐん減っていく相手の体力、これは――ひょっとして?
一連の攻撃が終わると同時に、相手の体力がゼロになる。一挙に五割のダメージを与えたのだ。
燦然と現れた『YOU WIN!』の文字! それを見た蓮子は呆けた声を出し、
「うぃん……って?」
肩をぶるるっと震わせる。
「やった、やったぁ! 蓮子が勝った!」
私は思わずその背中に覆いかぶさってしまった。
「やったわね蓮子!」
「私、私勝ったの?」
「そう、そうよ、蓮子は勝ったのよ!」
「ほんとに! よくわかんないんだけど!?」
「ほら、あそこ見て! 体力の下のところの丸が一つ光ってるでしょ!」
「あ――ほんと、ほんとだ! やった、私やったんだ!」
キャッホオオー! と二人してハイタッチした。今度は正面から抱き合う。我がことのように嬉しかった。
液晶を見れば既に次のラウンドが始まっていて、棒立ちのキャラがいいようにボコられている。
でも、二人ともどうでも良かった。やっと掴んだ勝利の余韻に浸りたかったのだ。
「はぁ……。ねぇメリー、勝利の味ってこんなに良いものだったんだ……私、知らなかった……」
蓮子はうっとりしている。さもありなん、だ。二時間もサンドバックにされ続けたあげくに手にした勝利だ。感慨もひとしおだろう。
マックチキン二十三個分の出費は痛いかもしれないが、満腹感以上の満足感を蓮子は得ていることだろう。
「運も味方したのかもしれないけれど、蓮子は良く頑張ったわ。褒めてあげる!」
なでりなでり、と帽子の上から撫でてあげる。
「へへ、でもやっぱり私、向いてないみたいね」
照れたみたいに蓮子は舌を出した。まぁそれは、私もけっこう前から気づいていた。けれど――。
「楽しかったなら、良かったんじゃない?」
「そうだね、うん。楽しかった、楽しかったわー。なんていうか、パンチとかキックが当たるだけでスッキリすんの。
でも、次は勝ってみたいねえ。一ラウンドだけでこれだけ気持ちいいんだから、万が一勝てたらどうなっちゃうんだろ」
いたずらっぽく、蓮子は笑う。その笑みを見て、私も満たされた。
途中で席を立たずに付き合ってくれた対戦相手に、お礼の一つでも言いに行こうかしら、と思った――。
――のだ――が。
液晶を見ると、既に瀕死の蓮子のキャラ。相手は小パンを入れて、倒す。そこまでは良かった。
だけどノックアウトから、勝ちどきを上げるまでのわずかな猶予時間。
相手のキャラが妙な動きをする。手をちょんちょん、と自分の方へ振って、『ヘイ! カモンカモン!』。
そう、これはいわゆる。
――勝ち挑発。
ぶちぃっ、とこめかみ辺りの太い血管がニ、三本ちぎれた気がした。ペンギンが凍死するぐらい冷たい笑みを浮かべていたかもしれない。
おいおい、やってくれちゃうじゃないの……。蓮子が頑張ってるしさ、私が代わってボコっちゃうのもどうかと思ったわけよ。
舐めプレイってわけでもなかったから黙っててやったけどさあ。
いくらなんでも、勝ち挑発たあ頂けねえなあ。そいつあ、いけねえよ。タブーってやつだ。
ド初心者相手に不覚をとってトサカに来ちまったか? そんなもん、てめぇが油断するのが悪いんだろうが。
どんな相手でもどんな状況でもリスクリターンを考えて立ち回るのが定石ってもんだろうが。
自分の甘さ棚にあげてとち狂ってんじゃないわよ、このド素人が。
「じゃあ、出よっか。すごいお腹減ったし」
席を立った蓮子には気づいた様子がない。それがまた、頭にくる。相手の腕なら蓮子が挑発の意味も理解していないことぐらい、大体わかるだろうに。
「メリー? どうしたの? なんか凄い顔してる」
「蓮子……私もこれ、ちょっとやってみたくなっちゃった……。ねえ、お願い。時間はとらせないから」
三ラウンドもいらない。二ラウンドでわからせてやる。格の違いをわからせてやる。一ラウンド目で相手は驚愕し、震え、怯え、二ラウンド目で絶望する。
三ラウンド目まではたぶん、持たないだろう。持たないというか、やめた方が良い。きっと心がずたぼろになる。二度とレバーを握れなくなる。
「メリーが? 見た目よりだいぶ難しいのよ、このゲーム」
「ふふ、簡単よ。簡単に決まってるわ……」
席につき、お財布から五十円玉を取り出し、必要以上の力を込めて投入する。グーで思いっきりスタートボタンを叩いた。バンッ! と筐体が揺れる。
「メ、メリー……さん? ずいぶん気合入ってるわね」
そうだ、ちょっと趣向をこらしてやろう。つまりは、蓮子スタイル。右手でレバーを持ち、左手をボタンに添える。いや、これじゃハンデにすらならないか。
「そうね……、この子にしましょう……」
最弱の誉れ高いキャラを選んでやる。昇竜に無敵無し。通常技の判定も激弱。なおかつ発生遅く、隙は大きい。
どの技をガードさせてもこちらが不利。ゆえに固めは不可。しゃがパン連打で何なく抜けられる。中断技の発生フレームも激遅。
有利がつくキャラは無しと、満場一致でいわれていた。選んだ時点で負け確ともいわれている。
キャラ決定ボタンを押す前に、レバーを一回転、ニ回転とぐりぐりする。ちょっとした確認だ――やはり……まぁオーケィ。
「蓮子、見ていてね。これでもかってぐらい、仇を取ってあげるから」
「えー、仇? 大げさだし、なんか、今日はやけに男前だね?」
呑気にからかってくれるけれど、蓮子は知らない。初心者相手の勝ち挑発。それがどれだけ極悪非道な所業か知らないのだ。
「ふふ、確かに大げさだったかもしれないわね。だってこれはただの処理ゲー。ゴミ、クズ、カス、産業廃棄物の処理なんだから――クス」
我ながら素晴らしい表現だと、思わず笑ってしまう。
「ゴ、ゴミ……? さ、産廃?」
「まぁ、見ててごらんなさいな」
――試合開始だ。
相手のキャラはこれといった強みもないが、全てのパーツが高い次元でまとまっている主人公キャラ、いわゆる強キャラだ。
飛び道具、対空、切り替えしに使える無敵技、移動速度、防御係数とどれも文句の付け所がない。
一方私のキャラはそれら全てのパーツが欠けている。もはや制作サイドの悪意まで感じられる欠落っぷり。
相手はおそらくキャラセレクトの時点で四十七勝目を確信したことだろう。ああ、また処理ゲーか、とでもうんざりしたのかもしれない。
だが――見てなさい。たとえ格闘ゲーム史上最弱のキャラでも、戦う術はあるのよ。思い知らせてやる。
開幕から私は積極的に距離を詰める。相手のキャラが得意な間合いは、リーチのあるしゃがみ中キックの先端が届く位置だ。
その位置であればこちら側の全ての攻撃を潰すことが出来る。
私はあえてその位置に自ら飛び込んだ。相手の行動が完璧に読めたからだ。
あんたは序盤、後ろに下がるよりは、相手の動きを制限しようとする。ゆえにしゃがみ中キックを振ってくる。
本来であればこの位置では私のキャラが何を振っても負けてしまう。カウンターからコンボにつながれて軽く三割ってところだろう。
だが、そのキャラのしゃがみ中キック。発生の3フレーム前に、わずかに2、3ドットほど食らい判定が前に出ることを私は知っているのだ。
こちらの技の発生を考えれば猶予は2フレームほど。そこへしゃがみ弱パンチを置いておく。そう――、置いておくのだ。相手がキックを出しきるまえに――。
潰せた。
「おお、やったねメリー! 先制だ!」
この距離では私のキャラにリターンはない。スズメの涙ほどの体力を奪ったに過ぎない。それで仕切りなおし。
しかし、相手も首をかしげていることだろう。だって、普段であればこんなの、偶然でもそうそう起こる事態ではないのだ。
狙って引き起こすのであれば、相手が技を出すタイミングを、フレーム単位で把握していなければならない。
それはつまり、相手の思考を完璧に把握、トレースしているということ。
なにかの計器の目盛りを見るように、確実なものとして知っておかなければならない。
――ごくごく限定的な未来予知といっていいのかも。
同様にして、二度、三度と相手の牽制を潰す。こうなると、さすがに相手も不審に思ったのか、バックステップで距離を取った。
そう、あなたはどちらかというと、前に出るよりは後ろに下がるタイプ。バカね、生き残る道は前にしかないというのに。
「おお? なんかメリー、押してるね」
「ふふ、圧倒してる。と言って頂戴」
軽口を叩けるぐらい、今の私には余裕があった。ひよった思考の相手が頼るものは、間違いなく飛び道具。
そう、ここ、このタイミングで打ってくる。なんてわかりやすい。なんてかわいらしい――間の抜けた思考。反吐が出る負け犬根性。
こんなやつに私の蓮子がいいようにもてあそばれていただなんて、考えたくもないわね。
――飛び込む。
だが、私のキャラの空中制御はひどく鈍重だ。相手のガードが間に合ってしまう。けれど、これも想定内。
一度触れてしまえばこちらのものだ。接近戦でのあなたの初手はまずガード。中下段の見切りに全てをかけて、間合いが離れるのをじっと待つ。それが基本戦術。
フレーム的に優位を取っていると知ってはいても、暴れはしない。まずは相手のクセを知ろうとする。そして後の読み合いを有利に運ぼうとする。
ほんとに、笑ってしまうわ。相手のクセを読むのには熱心なくせに、自分のクセにはまるで気づいていないのだから。
相手がガードするとわかっているのならば、選ぶべき行動は一つしかない。
私の分身が相手のキャラを捕まえて、放り投げる。ダウンを取る。ようやくダメージらしいダメージが入った。
「んん? なにそれ?」
「投げよ。格闘ゲームとは投げに始まり投げに終わるもの。私は投げにこそ格ゲーにおける読み合いの真髄が詰まっていると思ってるわ」
「へ、へぇ。そうなんだ」
ここからがやつにとって真の地獄だ。一回目の起き攻めに入る。
今、相手が何を考えているか、私には液晶を通して彼の頭のなかを直接覗いてるみたいに、わかりきっていた。
(中段はない。リバサ昇竜を打つ必要は皆無。ガードさえしてしまえば仕切りなおしになるのだ。ゆえに下段ガードが安全牌)
ならば投げてしまえばいい、とは素人の発想だ。そもそも投げはさっき見せた。ワンパとは忌むべきものである。
転ばせたら、揺さぶれ。相手の心を揺さぶらなくてはペースを掴めない、勝利などもってのほか。
相手の思考の根幹に今あるものはなんだ? そう、こちらの中段技の低性能さがもたらす、思い込み。
起き上がりに中段を重ねる。この距離で重ねればガードされても反撃を受けることはない。
――ヒット。「クスッ」本当に、笑ってしまった。まるで子供ね。そのまま足払いまでつないで、ダウンをとる。二度目の起き攻めへ移行。
投げを食らい、起き上がりの中段重ねを食らったこの相手が取ってくる行動は一つしかない。
ファジージャンプ。私はそれをディレイ下段であっさり狩る。まるで画面を見ていないんだから。
あなたは色々と考えているつもりなのかもしれないけれど、ただ楽なほう、楽な方向へ流れているだけ。
「すごい、なんかよくわかんないけどすごい、すごいわ!」
「ほんっと、ザコなんだから」
私は吐き捨てるように呟いた。あまりの歯ごたえのなさに白けちまっていたのだ。
一ラウンド目はそのまま起き攻めループで私の勝ち。まさにワンサインドゲーム。
「すごい……、一発も当たってないんだけど。それどころかガードすらしてないなんて……」
「当然よ。小パン一発だって食らってやるもんですか」
「こういうゲーム得意だったんだ、メリーって」
「ふふ、『n択のマエリベリー』、『高機動ザンギエフ』、『ナニワのノーガード』とはすべて私のことよ」
二ラウンド目、相手は開き直ったのか、開幕からガンダッシュで突っ込んできた。
だが、時すでに遅い。あなたが勝つためにはその心意気を一ラウンド目から持つべきだった。
私のテンションゲージはすでにMAX。
――ゆえに発動する!
我が怒りを知れい!
「ハイパーメリーコンボタァァァァァーイムッ!!」
「メリイイイイ!? すごい光ってるんですけど!?」
略してメリコン。この状態に入った私はカプ○ンとS○Kとアー○システムの境界を超えることが出来るのである!
しゃが中キックヒット確認から迅雷脚につないでスパキャンして葵花×3の後にロマンキャンセルしてぶっきらぼうに投げた相手に
「あはははは! よくも私の蓮子をボコってくれたわねええええ!」
追撃のぐらんどヴぁいぱでダメージを加速させてヴァリアブルアタックでクラークを呼んでナパームストレッチ!
「身の程を知りなさい! てめえなんかおウチで一生イーアルカンフーしてるのがお似合いなのよ!」
浮いた相手にディバコンから燕カス決めてダウン追い討ちに下段ブリッツボールを連射したあげく小ジャンプ連発でまとわりつき
「死ね死ね死ねっえええ死ねえええええ!!」
着地キャンセルしてオリコン発動中にSD×4で疾ハメ――。
「メリー!」
「蓮子は黙ってなさい! はあああ! 鳳凰脚! ってい! ってい!」
「台蹴っちゃダメだって!」
「ゴタクは――いらねえ!」
「もうやめて、もう十分よ! それ以上いけない! 相手の体力はゼロどころじゃないわ!」
「はっ!?」
気づけば体力ゲージ三十四本分ほどオーバーキルしていた。バチバチと液晶が火花を散らしている。
ドット単位で霧散してしまっている相手のキャラ。いいザマね。
「ふぅ、少しやりすぎちゃったみたい。でも、これは当然の報いなのよ。蓮子を、蓮子を侮辱したのだから」
「メリー、あなた……」
予想通り、向こう側でガタッと席を立つ音がした。懸命な判断ね。これ以上は命に関わるわ。リアルファイトに発展しかねない。
けれど、まだ、まだ足りないわ。私はトドメをさしてやることにした。タイミング良く通りかかった店員に声をかける。
「あの、ごめんなさい! この台なんですけど!」
すごすごと退散していく負け犬にも伝わるよう、限界まで大きな声を出す。
「はい、どうしました?」と店員さんに訊かれたので、私は。
「なんだか! レバーの左半分が! きかない! みたいなんですけどおーーー!」
周囲がざわめく。息をのむ気配。蓮子と、相手のものだろう。
そう、この台のレバーは蓮子の野性味溢れるプレイのおかげで故障してしまっていたのだ。
左半分が動かない。ゆえに、前に出るしかなかった。もっとも、それは足かせにすらならなかったわけなのだけれど。
去っていく対戦相手がちらりと見えた。金髪で、変わった帽子で、フリフリのお洋服。
へぇ、女性だったんだ。ま、茫然自失ってところでしょう。当分はゲームセンターに足を運ぶことも叶うまい。これを機会に悔い改めることね。
「メリー」
「待たせちゃってごめんなさい。これで、何もかも終わったわ」
「すごいわ、すごいかっこよかった!」
褒められちゃった。引かれちゃうんじゃないかって心配だっただけに、ちょっと嬉しい。
「ふふ、あれぐらい朝飯前よ」
「メリーは……仇を取ってくれたんだね」
「ずいぶん歯ごたえが無かったけれど」
「ありがとう!」
ぎゅっと抱きしめられる。ああ、この感触が五十円で買えるだなんて。ゲーセンって本当に素晴らしい場所。
「さ、帰りましょう? ずいぶん遅くなっちゃったし」
ぽんぽん、と背中を叩いた。
「……メリー」
私から離れた蓮子は、どこか決意に満ちた顔だった。
「蓮子?」
「私、メリーに勝ちたい!」
夜十二時の閉店時間まで、蓮子は連コインしてきた。
タイトル以外東方でやる意味がないと言われるかも
私?私はかなり笑いましたwドラマニみたいにやってる蓮子を想像して吹いたww
フレーム単位で見切るとか素人に毛が生えた程度の私には別次元の話デスネ。
でも、偶にいますよね「この人フレーム単位で見えてるんじゃなかろうか」っていうトンデモプレイヤー。
まあ俺もロマキャンすらまともにできないヘタレゲーマーだが。
・・ん?メール?」
”私、メリーさん。今、貴方の見てる筐体の向こうに居るの”
「なん・・・だと・・?」
こうして、この街のゲーセンからは素人をカモにするプレイヤーは居なくなりましたとさ。
めでぃたしめでぃたし。
てかメリーそんな蓮コインしてる蓮子になんかアドバイスしてやれよwwww
ソル!?
なんかこのセリフで吹いちゃいましたww
しかし蓮子腕をクロスしてやるのは無茶だぜ
ばっどがいは「正義」の嫁(ばっどがい可愛いよばっどがい)
付き合ってくれたゆかりんは多分「最期みたいだし少し位良いわよね……」とか。
しかしそれは大きなミステイク。