Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

アリスの自立人形・繋

2009/03/19 00:56:21
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「うん、よく晴れたわね」
家の窓を開け放ち、私は青空を見上げる。この分なら雨が降ることもないだろう。
「こんな日は洗濯物を干して、家の換気をして。あとは・・・・・・上海」
その名前を呼びながら、一体の人形を操って手元に引き寄せる。
私が作った数百体にのぼる人形の中でもお気に入りの人形だ。もちろん蓬莱や西蔵、オルレアンなど気に入っている人形はスペルカードとして使うときもある。
「今日は頭が春っぽい巫女のところに出かけるわ。だから、やることは早めにやっつけてしまいましょう」
そう上海に語りかける。もちろん上海は返事を返してはくれないけど。
さて。今日は研究もお休みだ。
だからちょっとだけ本気を出そう。
私は人形を操る。
1体、5体、10体。
見えない操り糸で、次々に操る。
20体、40体、80体。
「えぇいせっかくだ!大掃除といきますか!」
一部の人形に軽く魔力を与えて、人形に人形を操らせる。
100体、150体、300体。
366体。
研究用から戦闘用まで、手元にある人形すべてを総動員する。
すべての人形たちが勢ぞろい。絶景かな、絶景かな。
それはいいのだが、
「さすがに、維持、するのが、きつい、わね・・・・・・」
全身に錘がついたように体が重い。
これだけ一度に動かせば当然、全身の疲労具合が半端ない。でもまぁ、いいか。
そのまま私は指示を与えていく。簡単な指示であれば、私が操らずとも魔力を供給するだけで動いてくれるのだ。というか、そうなるように作ったんだけどね。
アリス邸で、にぎやかな大掃除が始まる。
上海人形たちが窓を拭く。
西蔵人形たちは家具の拭き上げ。
京人形たちは洗濯物を干す。
オルレアン人形たちは薪割り。
蓬莱人形は首を吊りながら掃き掃除。というか裁縫糸が体に絡まってるだけか。後でとってあげよう。
私?ちゃんとキッチン周りの清掃をしている。あの子たちだけにさせるなんてことはしない。
でも。
「・・・・・・・・・・」
食器を片付けながら、私は働いている人形たちの様子を見る。
私が指を一本曲げるだけで、人形は両手を挙げたり空を飛んだりさせることができる。
主に操られるがままに。
人形たちは、どう思っているのだろうか?
自分の意思と無関係に働かされる彼ら。彼らからすれば私と言う人間は自らを束縛する、忌むべき存在ではないだろうか。
人形師である以上は人形を作るが、それを自らの力として戦わせ、私の手足となって働かせる。
これが、人形たちと向き合っていると言える?私にその気がなくても、それを見る他人や人形たちからすれば使い勝手のいい道具として扱っているようにしか見えないだろう。
彼ら彼女らとお話をしたい。
もし人形たちと言葉を交わせるのならば、人形たちに意思があるのであればそんな質問にも答えることができるというのに。
そう。
作ろうとしたのは友人。
自分と対等に在れる相手。
それが欲しくて私は自立人形を作ろうとしたのだ。
でも彼らを糸で繋ぎ、操る私はどうだろうか?私は、人形たちと対等に在ろうとしている?

そんなことを考えつつも掃除は滞りなく終わった。まさに百人力。
そして私の疲労も百倍。
「あ~、やっぱやりすぎたか・・・・・・」
椅子に座り、紅茶を飲んで疲れを癒そうとするがあんまり効果はない。
天気がいいのでつい浮かれていたが、今度からはもう少しセーブしようかな。でもそうすると扱われなくなる人形たちが出てしまう。
それはよくない。よし、私ががんばって強くなろう。
「少し休んでから霊夢のところにいきましょうか。ごめんね上海」
上海人形の頭を撫でる。
次に棚の人形たちに振り向いて、
「みんなもお疲れ様。あぁ蓬莱、糸くず取ってあげるわね」
上海人形を机の上に座らる。そして掃除中に見たときよりもさらにゴミを纏わりつかせた蓬莱人形を手に取り、体中に付いた糸くずやら何やらを取り払っていく。
私は未熟だ。
人形たちの心も汲み取ってあげられない。この蓬莱人形にしてもゴミを取ってくれてありがとうと思ってくれているのか、あなたのことは嫌いだから触らないでと思っているのか、それすら私にはわからない。
それを早く知りたい。
知って、あなたたちのことを理解したい。
「早く完璧な人形師になって、自立人形を作るわ。だからその時はお話しましょう」
蓬莱人形の髪に手櫛を通しながら、語りかける。
そうね、霊夢の所に寄った後は研究を再開しよう。部屋も片付いたから気分も変わるだろうし、何か新しい手立てが浮かぶかも。
だいぶ回復してきたし、そろそろ霊夢のところに行こうかな。

コトン
何かが倒れる音。
音のしたほうを振り返ると、座らせていたはずの上海人形が机の上でうつぶせになって倒れていた。
座りが悪かったのだろうか。そう思っていると、
コトン
今度はオルレアン人形が棚から落ちる。
「・・・・・・・・・・」
オルレアン人形を拾って腕に抱き、私は辺りを見回す。
夢ではない。鈴蘭の香りもしない。紫もいない。
手に持つ蓬莱人形とオルレアン人形を見る。
けれど、何も言葉も返してくれない。

卑怯ね。
あなたたちな私の心がわかる。
また焦りだしそうになった私の心がわかった。
私はあなたたちのことが知りたいのに、卑怯よ。
「絶対に自立人形を作って、あなたたちとお話ができるようにがんばるわ。そうと決まれば早速研究再開ね!」
そう口にしたとたん、今度は和蘭人形が棚から転げ落ちる。
私の言葉までわかると言うのだろうか。ますます卑怯ではないか。
床に落ちた和蘭人形を拾い上げる。ごめんなさい、今のはちょっとした嫉妬。いたずら。
「私は魔法使いだもの、いっぱい時間はある」
だから。
「ゆっくり時間をかけて、あなたたちと向き合うわ。私は未熟だから、自立人形を完成させるまでにはきっととんでもなく長い時間が必要になる。
だから覚悟しておいてね。これからも長い付き合いになるわよ?」
いたずらっぽく言ってみる。今度は転げ落ちる人形はいなかった。
蓬莱と和蘭、オルレアンを丁寧に棚に戻す。もう絶対、棚から転げさせたりなんかさせない。
慌てる必要などない。
心に余裕を。焦らない焦らない。
さて、
「人里に立ち寄ってから霊夢のところに行きましょうか」
急ぐ必要などない。
この子たちは、待ってくれる。
待ってくれるのなら、私にできることは一つ。自立人形作りをあきらめずに続けること。
そしていつかこの子達も自立人形にして、共に語らおう。
「行きましょう上海。みんな、私が帰るまで待っててね」
残りの人形たちに言い残してから、私は上海人形を抱いて部屋を後にした。

部屋にいる人形たちは、そんなアリスを見送った。
そして人形たちは待ち続ける。

これからも、ずっと。



  
夢の中で狂気に駆られたアリス。彼女は無事に夢から覚めました。
現実世界で自らの心の毒に冒されたアリス。毒は人形が吸い出してくれました。
現実世界で幻を見せられたアリス。彼女はまた一つ学び、人形を想うようになりました。
現実世界で人形を想いすぎたアリス。でも、彼女の優しさはちゃんと人形に伝わっていました。
その先に何が待っているのか。それは今のアリスにはわかりません。
先の見えない研究に、自立人形作りを諦めるかもしれません。
結局狂気に飲まれ、破滅への道を辿るかもしれません。
何にも毒されることなく、人形師を続けるかもしれません。

この物語はここで閉じましょう。
あなたが思い描くアリスは、どのような未来を辿りましたか?



ーーーーーーーーー


「アリスの自立人形」4作目完成です。
当初の予定よりずれた為に多少EDが変わってしまいましたが、これでよかったと思います。紫がでしゃばってきた理由が書けなかったけど、まぁいいや。元々参加できるキャラがいなかったから紫をねじ込んだだけだし。まぁ、そこから「アリスの自立人形」プロットができたんだけど。
一応完結までいきました。こんなSSを読んでくださった皆様、ありがとうございます。

でももしかしたら、
ほんのちょっぴり、おまけがつくかもしれません。
それは、作者の気分次第。
ハッピーエンドを描けない作者の気が向くのはいつだろうか・・・・・・ギャグモノ書いてみたいよぅ
 
水崎
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
良い話でした、けど
うーん…軟着陸な終わりだったかなと、なんか一つの結果が出て来るかと思ったので…限界突破理論が印象的だからでしょうかw
作品間に繋がりがないなら無いで…出来ると思いますよ、これからも頑張って下さいです
2.奇声を発する程度の能力削除
おまけ期待
凄い良かったです!!!!