※壊れが嫌いな方はあなた自身のために回れ右。
※段ボール注意
ドアの左右に背中を張りつかせる人影2つ。手にはアサルトライフル。
「準備はいい?」
「いつでもOKよ」
「3つ数えたら踏み込むわよ」
「了解」
1…2………3!
片方がドアを蹴り破り、もう片方が中に転がり込んだ。
中にいた少女は、あまりに突然の出来事すぎてどうしようもない。
「Hey, our pretty sister !」
「Happy birthday !!」
2人はライフルを構え、相手が有無を言わないうちに、引き金を引いた。
「ルナ姉、メル姉、お祝いありがとう。すごく嬉しいよ、でもさ…………」
頭のてっぺんからつま先まで全身リボンテープまみれになったリリカはボソッとつぶやいた。
「どうしてうちの誕生日はいつもB級映画なの?」
リリカの目線の先には、防弾チョッキとスパイ用スーツ、赤外線ゴーグルを身にまとい、
ライフル型クラッカーを持ったルナサとメルランの姿、そして蹴り破られた自分の部屋のドア。
「さすが我らが妹。いいところに気づいたわね」
「でも、B級映画の世界では、知りすぎることは必ずしもいい結果をもたらすとは限らないのよ」
「いやいやいやいや」
第一、こんな装備、どこで手に入れてくるのか、謎である。
「まあ、そんなことはどうでもいいわ」
「オープニングセレモニーはこれぐらいにして、プレゼントの時間よね」
ルナサとメルランは、それぞれ部屋の外から大き目のアタッシュケースを持ってきた。
「「お誕生日おめでとう、リリカ」」
「うっわ、アタッシュケースとか、どれだけ包装にまでこだわったのさ」
と、アタッシュケースを2つもかかえ、いっぱいいっぱいのリリカ。
「これ、早速開けていい?ってか、どうやって開けるの?」
「どうぞどうぞ」
「取っ手のすぐ横にボタンがあるから、それを押せば開くわ」
さっそく、ボタンを押して、アタッシュケースのボタンを押して、中を開いてみた。
中には、ダーツの矢が1本。もう片方を開けても、中身は同じ。
「ルナ姉、メル姉。贅沢を言うつもりはないけどさ、矢が2本だけってどういうこと?」
「その理由はリビングに来れば分かるわよ」
「1つだけ言えるとすれば、今年のプレゼントは過去最大よ」
ふふふ、と笑う姉2人に、リリカは大いなる不安を抱えたのであった。
リビング。
「うっわ、裏切られた。私の不安は見事に裏切られたわ」
リリカは立ちすくんだ。
「でしょでしょ?」
メルランが“してやったり”と微笑む。
3人の前にあるのは、ダーツの的。
そこには、『NEWキーボード』とか『紅魔館のチーズケーキ』とか、様々な項目が書かれている。
そして、的のど真ん中には『たわし』のお約束。
その後ろには山のようなプレゼントボックス。
「さあ、さっきの矢を投げて。当たったものをプレゼントするわ」
ルナサが的を回した。
「さすが姉さん、まさかここまですごい企画をたくらんでるとは思わなかったわ」
「ささ、投げて」
メルランがせかした。
「じゃあ、第一投目、行きま~す」
誰もが固唾を飲んで見守るなか、リリカは、その矢を投げた。
その細く長い指先から離れた矢は、3人の期待を背負いながら、吸い込まれるように、的のど真ん中に突き刺さった。
「……………………………」
リリカは沈黙した。
「姉さん、どうしましょう。本当にたわしが当たるとは思ってなかったんだけど」
「だから言ったのよ、たわしはやめましょうって」
「いい考えだって褒めてくれたの姉さんだったじゃないの」
「いやいやいやいや」
ルナサとメルランが裏でごそごそと秘密の話しあいをする中、
「よーし、今度こそいいものゲットするわよぉ!」
リリカは強い子だった。
屈すこともなく、振りかぶって第二投を放った。
そして、矢は、吸い込まれるように、的のど真ん中に突き刺s─────
「リリカ、危なぁぁぁぁいッ」
メルランが的めがけて飛び込んだ。
的は、メルランがぶつかったせいで、かなり横にずれた。そして、矢が刺さる。
『ヘリコプター旅行』
それは、今回用意された商品の中で、もっとも豪華な賞品であった。
それを見届け、メルランは力尽きた。
「メルランッ」
ルナサがメルランのもとに駆け寄り、そっと抱き起こした。
「姉さん………リリカのプレゼントは……?」
「ああ、当たったわ。ヘリコプター旅行、あなたのおかげで当たったのよ」
「そう………私、守れたのね…………今までラッパを吹くことしか知らなかった私が…
自分の守りたいものを…………最後の最後で…やっと守れたのよ………」
「メルラン?メルラン!メルラぁぁぁぁぁぁぁぁぁンッ!」
外の雨音にかき消されないほど大きな声、ルナサの叫びは天を割った。
リリカは思わず涙を流した。このうえなく悲しかったのだ。
自分の誕生日パーティが、こうもあっけなくB級の波に呑まれるのかと思うのかと、涙が止まらないのだった。
「リリカ、泣かないで。メルランは私たちが悲しむことを望んではいないわ」
「そうね。でも、私はこのまま誕生日パーティが続くことを望んでいるのよ」
その言葉に、メルランはむくりと起き上がり、ルナサと顔をあわせた。
「それもそうね」
「さっさと続きやっちゃいましょうか」
リリカはやっと安心した。
窓の外の天候も、快晴にむかいつつあった。
「本当にこれ、買ったの?」
リリカは庭にたたずむヘリコプターに目を向けた。
「勿論よ。この日のために2人で封筒貼りでこつこつ稼いだんだから」
メルランが胸を張る。
「それに、私もこの日のために免許を取って置いたんだから」
ルナサも胸を張る。
「本当にこんな鉄の化物が飛ぶの?」
「リリカが疑問に思うのも無理はない。でも、外の世界でこれは実際に飛んでいたのよ」
「谷ガッパクオリティのメスもはいってるから、信用性はなおさら抜群ね」
「ふーん」
なんだか分からんが、とりあえず大丈夫だろう。
リリカはヘリコプターの内部に乗り込んだ。隣にメルラン、操縦席にルナサが乗る。
後ろの荷物置き場には、よく分からないダンボール箱が1つ。
「この箱は何?」
「さあ」
「じゃあ、離陸するわよッ」
ルナサがかけ声をあげると、
「「よーし、やったろうじゃないかッ」」
床下から声2つ。次に、機体がぐわっと持ち上がる。
「行くよ、萃香ぁッ」
「あいよぉ、勇儀ぃッ」
「「ぬおりゃぁぁぁぁッ」」
ヘリコプターは大回転しながら、はるか上空に舞い上がった。
かつて経験したことのない強烈な背負い投げ、
かつて経験したことのない強烈な乗り物酔いの中で、リリカは、庭で鬼さん2人が手を振っているのをなんとか見届けた。
「くッ、話には聞いていたけど、さすが谷ガッパ、すごい出力ね」
ルナサは操縦かんにしがみつく。
「ルナ姉、ヘリコプターって飛ぶとき、こんな感じだったっけ?」
リリカは窓枠にしがみつき、メルランはリリカにしがみついた。
「聞いた話だと、離陸の際にすごい装置を貸してくれるって言ってたような………」
「うん、すっごい装置だった。すっごい原始的離陸だった!」
リリカは感動した。
こんな間抜けなメカに身を任せても、生きようと思えば生きられることに。
「それより姉さん、プロペラはッ」
メルランが窓から身を乗り出し、上を見た。プロペラは、完全に停止している。
「ちょ、ちょっと待って。どれがどのスイッチだか分からないのよ」
目の前にある大量のスイッチの前で、ルナサは完全にパニクっていた。
「ルナ姉、免許とったんじゃなかったの?」
「それは調理師免許なのよ」
「なんでヘリコプター運転するのに調理師免許とるのよッ」
「仕方ないじゃない、昨日気づいたのよ。間違って調理師になっちゃったって」
「せめて講座段階で気づこうよ!なんで気づけなかったの!」
「騙されたのッ、騙す側が悪いのよッ」
「騙される側は皆そう言うわッ」
リリカはルナサにつかみかかった。
「やめて、今は争っている場合じゃないわッ」
メルランが止めに入る。
「離して、メル姉!こういう時こそバシッと言ってやんなくちゃいけないのよ!」
「姉さんだって、あなたの喜ぶ姿が見たくて一生懸命頑張ったのよ!」
それを聞いて、リリカは思いとどまった。
「ゴメン、ルナ姉、私が言いすぎたわ」
「いいのよ。それより、今はこの状況を打破することが優先事項よ。リリカ、その辺に説明書があるはず。出して」
「説明書?」
リリカは辺りを見渡した。足元に1冊の冊子が落ちている。
きっとこれだ、とリリカはそれを拾った。
『大×リグ の ススメ』
さっそくページをめくる。
『そしてリグルは大ガマに呑まれた』
なんだ、大妖精じゃないのか。リリカは冊子を投げ捨てた。
「リリカ、これじゃないの?」
メルランがそれっぽい冊子を天井から引き剥がした。
「そうよ、これよ!」
と、『谷ガッパヘリコプター・取扱説明書』の冊子をめくった。
『かっぱっぱっぱ、かぱーぱーぱ、かっぱっかっぱかっぱーか』
「なんてこったい、にとり語だ」
リリカは絶望した。
「くッ、にとり語が分かる奴なんてこの幻想郷に何人いるのよ」
「時間がないわ。こうなれば、適当にスイッチを押してみるしかないようね」
ルナサは、落ち着いて見えたが、内心緊張していた。
もしかしたら、スイッチを押した瞬間、ヘリコプターが自爆するかもしれない。
もしかしたら、スイッチを押した瞬間、メルランの頭にイソギンチャクがくっつくかもしれない。
もしかしたら、スイッチを押した瞬間、どこかの佐藤さんに罵られるかもしれない。
もしかしたら、スイッチを押した瞬間、頼んでもいないお寿司の出前が届くかもしれない。
もしかしたら、スイッチを押した瞬間、スタッフロールがはじまってしまうかもしれない。
しかし、押さねば墜落する。その危機感が、ルナサに1つのボタンを押させる決意をさせたのであった。
「よし、押すわよ!」
正面にあった、黒いスイッチを押した。
同時に、1発のミサイルが地上めがけて直線を描きながら、空を割いていった。
そして、ミサイルの進行方向に見えるは、博麗神社。
「ちょ、ルナ姉!」
「姉さん、これはまずいわよ!」
「てへ、やっちゃった☆」
そんな間にも、神社は砂煙に包まれ、砂煙がおさまればそこにはあるべき神社は微塵も残っていなかった。
かわりに、その土地に乱立していたのは、なんとも立派なパイナップルの木々たち。なんというバイオテロ。
「あーあ、姉さん、どうする?神社がパイナップル畑になっちゃった」
「霊夢さん、怒るわよね」
「ひょっとすると、これを天の恵みとか言って農園を開くかもしれない」
「「リリカに同意」」
と言っている間にも、ヘリコプターは落ちていく。
「姉さん、今は神社よりこっちの心配をしたほうがいいわ」
「ええい、次のスイッチを押すわよ!」
2つめのスイッチを押す。
同時に、荷物置き場にあったダンボール箱から、全身武装した魔理沙が飛び出した。
「Hey, my pretty friend ! Happy birthday !!」
手にしたライフルから紙テープ。
すべてを終わると、魔理沙は満足そうに箱の中に帰っていった。
「………………?」
呆然としていたリリカだったが、とりあえずもう1度箱を開ける。しかしからっぽだった。
「ルナ姉、メル姉、今のどう思う?」
「「ゴメンなさい、瞬きしてて見えなかったわ」」
「いやいや、あー、もういいわ。それよりプロペラは?」
「いけない!じゃあ、今度こそ飛ぶように祈願して、押すわよ!」
3つめのスイッチを押す。
白玉楼がロケットに変形して、宇宙に飛び出していった。
「姉さん……」
「今、冥界では宇宙旅行がブームなのよ、私はそう信じたい」
ルナサは頭を抱えた。
もしかして、このスイッチは全部、プロペラには関係ないのではないか、と思い始めたのだ。
万事休す、もはやこれまでか。誰もがそう諦めかけたとき
「おやや?何だか変てこりんな鉄の化物が飛んでいると思ったら、あなたたちでしたか」
お外を飛ぶ射命丸 文。
1人お気楽に接近し、機内を見回した。
「楽しそうですねぇ」
「「「どこがッ」」」
3人がほぼ同時に喝をいれ特にリリカは入り口から身を乗り出し、文の袖をつかんだ。
「こうなれば旅は道連れ世は情け、墜落までの過程を取材させてやるから同乗しなさい!」
「い、いやですよ、墜落するって分かってるなら巻き込まないでくださいよぉ!」
「問答無用!」
リリカは文の袖を全力で引っ張り、ついには中に乗せた。
同時に、天井の上のほうで、がくんと音がした。
「やったわ、プロペラが回り始めたわ!」
メルランが身を乗り出して確認した。
ふと疑問に思ったリリカは、今度は文を外に叩き出してみる。
「ああ、またプロペラが止まった!」
あわててもう1度なかに引きずり込んでみる。
「よかった、復活したわ!」
原因は分からんが、まあ、いいや。リリカは一安心した。
「いやー、私が乗った瞬間回りだすとは、縁起がいい機体ですねぇ」
文は左にメルラン、右にリリカ、と挟まれて多少窮屈そうだったが、それでも無性に嬉しそうだった。
しかし困難は途切れない。
「姉さん、前見て!大きな積乱雲よ!」
「あの中に入り込むのはまずそうね。回避するわよ、つかまって!」
ルナサは操縦かんを右にきった。操縦かんは根元でボキッと、嫌な音をたて、機体から独立した。
「………………………」
4人は呆然とした。
「ルナ姉、どれだけ勢いよく回したのさ」
「私のせいじゃないわよ。よく見ると、操縦かんの根元、これ、吸盤で止まっていた程度だったし」
ルナサから操縦かんを手渡されたリリカは、ああ、本当だ、と確認した。
「あ、待って!ここに右って書かれたスイッチと左って書かれたスイッチがあるわ」
ルナサは右と書かれたスイッチを押してみた。
窓のすぐ下から、パンチンググローブが飛び出し、メルランに強烈な右フックをぶちかました。
「姉さん、痛い」
「ゴメンなさい」
謝りながら、今度は左と書かれたスイッチを押す。
あのダンボール箱から突如、今度は全身武装したレミリアが飛び出した。
「Hey, My pretty friend ! Happy birthday !!」
手にしたライフルから実弾がリリカのこめかみを貫いた。
全てが終わると、レミリアは満足そうに箱の中に帰っていった。
「もはや左右関係ないじゃん」
メルランに絆創膏を張ってもらいながら、リリカはボソッと愚痴った。
「欠陥だらけですねぇ」
文がお気楽なことを言う。
「費用をケチったのがいけなかったのかしら」
メルランが嘆く。
「費用って、この機体、どのくらいしたの?」
リリカが聞くと、ルナサとメルランが声を1つにして答えた。
「「バナナ1本と同じくらいの値段で」」
「気づこうよ、あきらかに欠陥品だって!」
いや、考えてみれば、リリカにも落ち度はあった。
封筒貼りでヘリコプターを買った、と言われた地点で少しは考えるべきだったのだ。
「それじゃ、最初から私たち、空飛ぶ棺おけに乗っていたの!?」
リリカは愕然とした。
手には、機体からはがれ、役に立たなくなった操縦かん。
「こんなもの、こんなものぉぉッ!」
窓から投げ捨てようとし、やっぱり文のうなじに突き刺した。
「ふみゃぁッ、何するんですか、いきなり……」
「他に怒りのやり場がなかったのよ、辛抱なさい!」
「あ、あれ?取れませんよ、これ」
文が操縦かんをいじりながら、困った顔でリリカの方を見た。
すると、機体が右に傾いた。
「やったわ!気体がじょじょに右に旋廻していってる」
ルナサの報告をうけ、リリカは、ふと文の顔の向きを正面に戻させてみた。
「旋廻が止まったわ、また直進してる!」
今度は文の顔を上に向けさせてみた。
「今度は急上昇しはじめたわ!」
仕組みは分からんが、リリカはひと安心した。
「文、あんた、私の許可がない限りまっすぐ前見てること」
「はいぃ!?」
「一緒に墜落したくなかったら言うこと聞きなさい」
「は、はい」
しかし悩みの種はつきない。
「大変よ!燃料がもうそこを尽きそうなの!」
ルナサが言うとおり、だんだんと機体から元気がなくなっていっている。
プロペラの回転速度も落ち、飛行速度も低下し、操縦席の足元にあった生け花もしおれ始めた。
「ここは私に任せて!」
メルランはトランペットを手に取った。
[ ドレミ~レド、ドレミレドレ~ ♪]
「よし、燃料がいっぱいになったわね」
ルナサは燃料計を確認して言った。
やっと安心できるフライトになったかと思いきや、
「見て!」
メルランが正面を指差した。
「正面からルーミアの大群がやってくるわ!」
「そ、そんなこと言われたって今から回避したんじゃ間に合わないわ!」
そう言っている間にも、ヘリコプターとルーミアの大群は見事に衝突した。
フロントガラスをぶち破るルーミア、サイドガラスから侵入するルーミア、プロペラにしがみついて回るルーミア、
オセロで対戦しているルーミア、こけしの着ぐるみを着たルーミア、これだけルーミアがいれば紛れられると思い込んでいる小悪魔、
デジカメを構えるおじいちゃん、そのおじいちゃんを構えるおばあちゃん、やめて撮らないでと叫ぶ文、
ダンボールから飛び出したアリス、アリスをさらっていく新型ルーミア、宇宙から帰ってきた白玉楼………
大群とすれ違うころには、4人とも疲弊しきっていた。
「不覚です。日ごろから写真を撮る側の私が、まさかおじいちゃんごときに撮られるとは」
文の嘆きに、3姉妹は雀の涙ほど同情した。
そして、リリカの膝の上に座るチビるみあは、
「るみあ、お腹すいた~」
と子供らしく呟くのであった。
新たなメンバーが増え、旅のトラブルはいっそう激しいものに進化していく。
左方向に、巨大な雲の塊があった。
「姉さん、リリカ、あれ見て!」
メルランが塊を指差した。
「あれはきっと龍の巣よ!あの中には天空の城があるの!」
何を言い出すんだという目で2人はメルランを見たが、
「へぇ、あの中にですか」
と、文がそちらの塊を見てしまったのがいけなかった。
機体も釣られて、急激に左廻旋しはじめたのだ。
「文ー、勝手にそっち向くなって言ったじゃないー!」
「ご、ゴメンなさい~」
機体の向きが直ることには、あの雲の塊は、ヘリコプターの正面にあった。
「突っ込むわよ、みんな何かにつかまって!」
ルナサが指示をした。
メルランは窓の取っ手につかまり、リリカは扉の取っ手につかまり、
チビるみあはリリカにつかまり、文はチビるみあにつかまった。
「「「「~~~~~~~~~~~~ッ!!」」」」
雲の中で強い風と最悪の視界に揉まれながら、機体は数分後に雲を貫通した。
「あー、まいったわ。まさかこんな凄いところだとは思いもしなかった」
操縦席にしがみつくようにルナサはそう言った。
「仕方ありませんよ。竜神様の別荘を突っ切ろうとするからこうなるんです」
操縦席の隣の席にちょこんと腰掛けていた衣玖が、皆をなだめた。
「それもそうですね。じゃあ、残りのフライト、楽しみましょうか」
文がいいムードを作る。
「それもそうね。せっかくのリリカの誕生日パーティだもの」
ルナサが操縦席から振り向いた。
「リリカ、どこか行きたいところ、ある?」
メルランが優しく問いかける。
「うーん、正直、ないかも」
「じゃあ、ここは間をとって、遊覧飛行ってことにしません?」
「さすが衣玖さん、いいアイディア」
こうして、ヘリの旅ご一行様の飛び先は、どこでもない遊覧飛行となる、はずだった。
誰もが、この旅はもう大丈夫だと油断したそのときだった。
リリカはすっかり忘れていたのだ。自分の膝の上が軽くなっていたことに。
「ひゃぁぁぁぁぁッ」
突然、文がつやっぽい声をあげた。
「ど、どこ触ってるんですかぁぁッ」
「ぶんぶーん」
文の首に取り付けられた操縦かんを、チビるみあがつかんで遊んでいた。
「こ、こら、ルーミア、それに触っちゃいけませんッ」
リリカが引き剥がそうとするが、
「やぁだ、もっとぶんぶんしたいぃ」
チビるみあは、引き剥がされまいと操縦かんを強くつかみ、
「やですよ、そんな強くつかまないでくださいったらぁぁぁッ」
文の顔が紅潮してくる。
そのうち、だんだんと機体の様子がおかしくなってくる。
「ちょっと、いくらなんでもフライトには不安定すぎるわよ!」
「そんなこと言われたって、ルーミアが離してくれないのよ!」
そんなこんなの間に、だんだんとヘリコプターの推進力が落ちていく。
「こ、このままじゃ墜落しちゃう!」
機体は、もう誰の手にも負えない。
プロペラは完全に停止し、落下速度もあがる一方。
遠くに見えていた地面が、徐々に近づいてくる。
───もはやこれまで
操縦席から離脱して、後ろの席にうつると、落下衝撃から守ろうと2人の妹を抱きしめるルナサ。
それに応え、せめて今日の主役だけでも、と妹を抱きしめるメルラン。
2人に守られながら、それでも大切な姉を守りたい故に抱きしめるリリカ。
ボルテージがあがりすぎて何かに目覚めかけた文。
ぶんぶーん絶好調のチビるみあ。
とっさに操縦席に移り、適当にボタンを押す衣玖。
ミスティアの屋台めがけて発射された第二ミサイル。
爆風を受け、頭からキノコが生えてしまったミスティア。
突如、ダンボール箱から飛び出した西郷 隆盛。
シャッターチャンスは渡したくないおじいちゃん。
それぞれの気持ちが交差するなか、ヘリコプターは地面と激突した─────
「生きてる」
「意外と生きられるものね」
「ホントね」
夕日に染まりながら炎上するヘリコプターを眺めて、3姉妹は今までの長旅を振り返った。
奥には、完全に機関車ライフに目覚めた文がチビるみあを乗せて走り回っている。
「ゴメンなさいね、せっかくの誕生日をめちゃめちゃにしちゃって」
「ううん、すごく楽しかったよ。たまにはこんな過激なのもいいかもしれないね」
3人の団らんのもとに、遅れて何枚かの写真が降ってきた。
おじいちゃんが撮った写真だった。
超アップすぎて誰か分からない人物、プラス衣玖さん。
みんな後ろ向いてて顔が見えない、プラス衣玖さん。
外の景色しかうつってない、プラス衣玖さん。
上から下まで全部衣玖さん。
「衣玖さんしか写ってないじゃないの」
そんなものよね、そんなものだよ、とお互いに慰めあって、姉妹の絆を確認していると
「あのぉ、せっかくのパーティー中失礼しますが………」
衣玖が3人に声をかけた。
「うぉわ、誰かと思ったら衣玖さんじゃないですか、いつのまに?」
「いつのまにって、途中からヘリコプターに乗せてもらってたじゃないですか」
「え、嘘?メルラン気づいていた?」
「ううん、全然。さすが衣玖さん、すっごく自然すぎて分からなかったわ」
「分からなかったって、何度もあなたたち、私の名前呼んだじゃないですか。それに、その写真」
「写真?」
あらためて見てみる。
「うわ、本当だ。衣玖さん乗ってたよ、気づかなかったわぁ」
改めて盛り上がる。
「あのぉ」
「ああ、そうだった。それで、衣玖さん、何か?」
「ここ、どこだかご存知?」
「はて」
とりあえず3人は周りを見渡した。
燃え盛るヘリコプター。走り回る機関車文ちゃん。乱立するパイナップルツリー。神社の残骸。
私、これからお花のお稽古があるので、とダッシュで立ち去る衣玖。
すごい速さで地平線の向こうに消えていく機関車文ちゃんとチビるみあ、そして────
「ああ、ちょうどよかった。犯人を捜す手間がはぶけたわ」
巫女さん。
鴉が鳴いたら帰ろう、とはなつかしい童謡である。
「神社の修理が終わるまでは帰さないわよ」
霊夢はパイナップルジュースを片手に言った。
これから、農園の方は副業として続けていくらしい。
遠くで、鴉の汽笛が郷中に響き渡るのであった。
「姉さんたち、来年こそは普通の誕生祝いにしてね」
「約束するわ。リリカ、釘とハンマー取って」
「あと海苔とわかめも」
「はい」
もう、俺には無理。誰か、ツッコミよろしく。
20を越えたところで止めました
絵にして読んでみたいです、最高でした
おのれルーミアめwww
さあ早くルーミア化したアリスを見せてくれ
敢えてツッコミはしないwww
表情筋痛くてどうしましょう…ほっぺが攣ってしまっているのですよ。
もう上から下まで衣玖さんしか見えません(何
マスター、とりあえずルーミア一丁。
あとチビるみあとアリス・ルーミアロイドはいただいていきますね。
>ププリリズズムムリリババー
ムーンサイドすぎるwww
しかしカオスだなwww
と言うわけで、ありきたりな突っ込みをば一つ。
な ん で や ね ん 。
>1
どこからでもかかってきなさいww
>2
絵は、誰か有志に頼んで。絵心のない作者に頼まないで。
それにしても、一部絵にできないシーンとかある気がする………おじいちゃんとかどうするんだろう?w
何はともあれ、最高とか言われちゃうともうね、嬉しくて機関車モードはいっちゃいますよ。ありがとうございます。
>3
も う 勘 弁 し て
>4
神綺
「アリスちゃん?」
ルーミア・マーガトロイド
「いえ、自分、ルーミアですから。残念」
>5
霊夢
「うちの新発売パイナップルジュース、頭痛腰痛腹痛の他にも、表情筋とか腹筋、背筋、十二指腸の痛みにも断然よく効いて、
しかも、1パック買うと今ならなんと2割引。どう、買わない?」
>6
ルーミアが手元にないならあなたがルーミアになればいいじゃないw
>7
その一言を奇声で言ってくれるのですね。分かってますw
>8
久々にかっとばしましたよ、ホントに。
ルーミアロイドって語呂いいねw
>9
君はどうやらルーミアになる素質があるみたいだ。どうかね(勧誘
>10
なぜでしょうねぇ(遠い目