紅魔館があるのなら、紅魔犬がいても不思議ではない。
顔中を舐められながら、レミリアはそんな事を思った。
これで顔を舐めているのが咲夜であれば、百合百合しい展開に突入するのだが生憎と相手は言葉も通じないほ乳類。止めろと言っても聞きやしない。
いっそグングニルで蹴散らせれば良いのだけれど、愛くるしい瞳を見ているとそんな気も失せる。レミリアはさほど犬好きというわけではなかったが、犬嫌いというわけでもないのだ。
それに見ていると咲夜を思わせるし、無碍に扱うのは心苦しい。
だからといって、このまま蹂躙されっぱなしというのも嫌だ。
廊下の窓を開け放ち、そのまま空へと躍り出る。さしもの犬も空は飛べまい。
案の定、窓から身を乗り出しながら、悲しそうな目でこちらを見ている。
「まったく、何なのよ……」
いつものように廊下を歩いていたら、いきなりの犬だ。当然のことながら紅魔館では犬など飼っておらず、呆気にとられたレミリアはそのまま蹂躙の限りを尽くされた。
顔中がべどべどで気持ち悪い。
咲夜に拭いて貰って、その上で事情を聞くか。
ひとまず庭に降り立とうとしたレミリアだったが、足下には何故か十匹もの犬がおり、吠えながらレミリアの到着を今や遅しと待っていた。さながら蜘蛛の糸に群がる亡者のようである。
いつから紅魔館は犬に支配されてしまったのだろうか。
「咲夜! 咲夜!」
「はい、お嬢様」
瀟洒な従者が一秒も立たずに背後に現れる。優秀さという意味においては、この幻想郷でも咲夜の上に立てる者はいない。
咲夜は何も言わずにタオルを取り出し、レミリアの顔を拭いた。
「私が訊きたいこと、言わなくても分かるわよね」
ちらりと下のわんわんパラダイスを視界に収めながら、咲夜は頷く。
「勿論でございます」
「なら、事情を説明するべきだと思わない? いつからここからは、犬の王国になったのかしら?」
下の方では美鈴が犬と戯れていた。頭を撫でたり、抱きかかえたりしているが、門番の仕事はどうしたのだろう。
「実はその、妹様に関係がありまして……」
「フランに?」
フランドールと犬。到底、共通点があるようには思えない。
だが、はっとレミリアは気が付いた。
「待って。その前に確認したいんだけど、この館には何匹の犬がいるの?」
「十二匹です」
それを聞いて、レミリアの口元に笑みが浮かぶ。
「なるほど、ということはフランもおそらく十二人に分身しているのね」
やられっぱなしのレミリアではない。
咲夜達の考えは、既にお見通しだった。
「どういうことです?」
「惚けないで良いわよ。全部、私には分かってしまんだから」
得意げに胸を張るレミリア。咲夜は怪訝そうな顔で、首を傾げる。
「十二人のフランと、十二匹の犬。そして十二はダース」
勢いよく、指先を咲夜へ突きつけて言い放つ。
「すなわちこれは、フランダースの犬!」
言葉もない咲夜だったが、やがて困ったように口を開いた。
「妹様が犬の世話のバイトをされ始めただけなんですが……」
動きを止めるレミリア。
やがて夜空を仰ぎ、悲しそうに呟いた。
「でしょうね……」
下では美鈴がわんわんパラダイスを満喫していた。
最初の顔をなめ回してるのは咲夜だと思った私は汚れてますね、わかります
レミリア当たってたんかい!あと仏語のフランドルはフランダースの街のことですよ(だからなんだ)
>それに見ていると咲夜を思わせるし
ちょ、おぜうさま…。