アリスの自立人形・夢

祭り。
大勢の人間が集い、また幻想郷では妖怪も集って騒ぐ場所。
舞台では踊り手が舞い、道には露店が敷き詰められ、街全体が華やかに彩られる。
神聖な儀式から発展したものもあろうが、こうなってしまえばただのバカ騒ぎ会場である。
そして、祭りといえばこの人物。

「お姉ちゃんこっちこっち！」

「今日も人形劇やるんでしょ？」

「ねぇ、お人形さん見せてよ！」

子供達に囲まれて会場にやってくる一人の女性。
アリス・マーガトロイド。
祭りと言う祭りには積極的に参加し、露天用の敷地の一角を借りては毎回人形劇を披露しているアリスは、いまや子供達の間で有名になっていた。初めこそ数名の子供達が見る程度の慎ましやかなものだったが、多彩な人形劇の内容に加えて回を追うごとに精錬される人形たちの動きに、最近では子供達の保護者を中心に大人の間でも評判が上がってきていた。彼女の為の敷地も少しずつ拡張されており、ちょっとしたショー会場くらいの広さを備えている。
そしてお祭イコールアリスと言われるほどに、彼女は子供達に慕われていた。
「はいはい、急かさないの」
「ね～人形見せてよ～！」
「私の人形は劇でお披露目するわ。代わりにといっては何だけど、はい」
ぽん、と、アリスは少年に人形を手渡す。
それは、アリスがこの日のためにこしらえた人形だった。
「それはあなたの人形よ」
「え、もしかしてくれるのアリス！？」
「もしかしなくても、それはあなたの。大事にね」
「やった～！」
もらった人形を胸に抱いて、少年は飛び跳ねる。アリスは人形の扱いのみならず作った人形そのものも非常に完成度が高く、そこらで売っている様な人形とは比べられないほどの出来である事くらいは子供達にもわかっているのだ。それはひとえにアリスの努力の結晶であり、どの人形に対しても一切手を抜かずに作り上げるアリスの心の表れだった。
その人形を一人の子供がもらっているのを見ては、当然他の子供達もほしくなる。
「私の、私のは～？」
「アリス、僕も欲しい！」
「慌てなくてもちゃんと用意してるわよ。はい、これはあなた。はい、これは君の」
群がる子供達を制し、アリスは一人一人に人形を手渡していく。子供達に与えられた人形。服装・髪・顔立ち、そのどれもにひとつとして同じものはない。「自分だけの人形」を貰って、子供達はさらにはしゃぐ。常連になっている子から今日初めて来た子まで、アリスの人形劇を見に来た子供達全員が人形をもらえた。子供だけではなく、大人のお客も。
そうして人形配布を一通り終えたアリスは改めて舞台に立つ。舞台といっても立派な足場があるわけではなくただの地面だが、そこは確かにアリスのために設けられた会場である。そして、アリスを取り囲むようにして子供達は座り、劇が始まるのをいまや遅しと待った。アリスから貰った人形を抱いて。
「集まってくれた皆さんにまずはお礼を」
言って、アリスは一礼する。
「これほど集まっていただけるとは思っていませんでした。感謝の印に、つつましやかではありますが人形劇をご用意いたしました。今宵限りの人形劇、幻想の世界をどうぞお楽しみください」
そして、待ちに待った人形劇が始まる。
今日の演目は『不思議の国のアリス』。もちろん子供向けに面白おかしく改変したものだ。
人形たちが舞う。
美しい弾幕で彩る。
アリスが操っているとは思えないほどの動き。
人形たちが楽しんで劇をしているように見えてくるほどに、劇に登場するアリスの人形たちは生き生きとしていた。
そんな人形たちが織り成す『不思議の国』に、子供達は引き付けられる。
物語が佳境に差し掛かった頃。
子供達に配られた人形がアリスの操作で子供達の手から離れ、トランプの兵隊役として劇の中に入っていった。
そしてアリス役の人形と共に劇中で舞い始める。
突然のことに驚きながらも、自分の人形が劇の中で活躍する様を見て子供達は喜ぶ。自分の人形はどこかと、懸命になって動きを追う。まるで本当に自分が劇に参加しているかのような錯覚さえ子供達は起こしていた。
それほどに、会場にいた誰もがアリスの劇に引き込まれていた。

そして、終幕。
アリス役を務めた人形と共に、アリスは深くお辞儀をする。
沸き起こる拍手喝采。
「皆々様方、お楽しみいただけましたでしょうか」
子供達に配られた人形達が、大きくうなずく。
「今宵の人形劇はこれにて終幕とさせていただきます。最後に・・・・・・お集まりの皆様に最大限の感謝を」
アリスはしゃべる。
誰も返答を返さない。
代わりに聞こえるのは、人形たちが動く音。
子供達に与えられた人形が動く音。
困惑交じりに辺りを見回す人形。
倒れている自分の体を見つめる人形。
家に帰ろうと帰路に着こうとする人形。
アリスの束縛を離れ、完全に独立して動く人形たちをアリスは眺め、
「引き続き、不思議の国を心ゆくまでご堪能ください」
自分の研究の成果・夢の結晶を眺め、アリスは心底うれしそうに笑う。

その場に動くのは、アリスと人形ばかりなり。

















「っ！！？」
アリスは飛び起きた。
研究に疲れ、そのまま眠ってしまったのだろう。
椅子に座ったまま机に突っ伏して寝ていたアリスの手元には、作りかけの人形。
「違う・・・・」
自立人形を作ること。
それは夢だ。自分が目指す目標。
「違う！」
夢の中で用いた手法でできた人形もまた、自立人形。
あれは夢の到達点。
「違う！違うのよ・・・・・・・・・・・・」
アリスは頭を抱え、人知れず泣く。
夢の中とはいえあのようなことをしてしまったことを。
部屋にいる人形たちは、そんなアリスを見つめ続けた。

無から有は生まれない。ならば、自立行動の為の意思・思考回路もどこかしらから調達する必要があるのではないか？とはいえ怨念等の思念を人形に封じただけでは思考方向が定まっているので多彩な行動をとることはできない。
人形と言う器に人の魂を入れれば、やはり人としての思考で動けるはず。人形に一度感情移入させ、そのまま魂を人形へと引きずり込むのであれば容易かもしれない。
・・・・・・・・いや、こんな人形を作るくらいであれば自立人形など作らないほうがいいだろう。別の手法を模索することにする。
（アリスの研究手記より一部抜粋）

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こんにちは、甘甘SS書きたくてもできるのはこんな物語、水崎です。
私の「限界突破」を読んだ方は酷い疑心暗鬼に陥りそうな作品。でもこのアリスは素直に読んだ通りのアリスですのでご心配なく。
「あたたかさ」も甘～い話にできず頓挫してるのに・・・・。「アリスの自立人形」、多分続編書きます。

星蓮船・・・・早苗さんSに目覚めたんじゃ・・・・そんな早苗さんもおｋ！