バレンタインデーというものはお返しが必要らしい。
しかも、三倍の価値があるものを相手に贈らなければならないという鬼畜システム。
あの風祝はその事を隠したままで、私にチョコを贈りつけてきたのだ、なんという卑劣な娘なのだろうか。
わかっていたら受け取らなかったのに。わかっていたら夕食代わりにしなかったのに。
わかっていたら「むーしゃむーしゃしあわせー」だなんて蕩けて縁側から落下するなんていう無様な真似をしなかったというのに。
でも、それだけ美味しかった。
洋風の甘味があれほどまでに私の心を掴んで離さないだなんて思わなかった。
それからしばらく、こっそり妖怪の山に向かって拝んでいたというのに。
それをあの娘は、東風谷早苗は私の純粋な心を踏みにじったのだ。
「早苗、あなたも所詮は俗物だったというわけね……!」
「穏やかじゃないな、霊夢」
「魔理沙……。だって三倍返しよ? 現代の錬金術よ? わけのわからない効率だわ」
「女ってのは怖いな」
「あんただって私だって、早苗だって女じゃないの」
三倍返しのシステムを私に教えてくれた魔理沙は変な顔をしていた。
「じゃあ返さなきゃいいじゃないか」
「純粋な気持ちを踏みにじってくれたお礼をしっかり返すのよ」
「そいつぁ難儀だな。んじゃ私はこーりんとこから取り立ててくるかな」
あばよ、と魔理沙は箒に跨って境内から飛んでいってしまった。
私もそろそろでかけるとしよう。妖怪の山の新参者に、幻想郷のルールを叩きこんでやらねばならん。
妖怪の山に行く途中、私は何度となくホワイトデーの犠牲者を見ることとなった。
人間の里では咲夜が籠いっぱいのマシュマロを持っており、理由を聞いたところホワイトデーのお返し、らしい。
「女の子からチョコいっぱい貰うのって、なんだか複雑なんだけどねぇ」
咲夜も困っている。このバレンタインデーという風習を外から持ち込んだ早苗の功罪はいよいよ重い。
「大丈夫よ咲夜、貴女の分まできっちりお返ししとくから!」
「は、はぁ……? 何がなんだかわからないけど大丈夫?」
「全然平気! あなたの思いはこの拳に乗せて奴のほっぺに打ち込むわ!」
「まぁ、とりあえずがんばって?」
「任せなさい!」
咲夜はなんだか不思議そうな表情をしていたけれど、きっと心の奥では困っていたに違いない。
博麗の勘は奥深くに隠されている真意まで見通す真実の眼なのだ。
次に出会った被害者は、蓬莱人の藤原妹紅だった。
何やらかんざしなどの雑貨を見てうんうんと唸っていた。
この娘もまた、三倍返しの被害者に違いない。
「任せておいて!」
「いや、何が?」
困った顔をされても、あなたの本当の心はわかってる。
三倍返しがめんどくさいんでしょう?
「丁度いいか。博麗の、実は慧音と輝夜にそれぞれプレゼントをしようと思うんだが、どれがいいかわからなくってさ。良ければ相談に乗ってくれないか」
「ふぅん……。あんたも大変ね。苦労は察するわ」
「うん? いや、いつも慧音には世話になってるし、輝夜もちょこれーととかいうのを手作りしてきたし、せっかくだからお返しをだな」
「いいのいいの! それがあんたの本意じゃないってのはわかってるから! 全部任せておきなさい」
「は、はぁ……。そ、そうか、じゃあ頼むよ」
こうして二人目の遺志を受け継いだ我が拳。そろそろ妖怪の山を打ち砕ける頃だ。
里を出る直前、なぜか幽香に出会った。普段と違いなんだかおどおどしている。謎。
「何してんのよ」
「れ、霊夢じゃない……。実はその、稗田の娘からチョコレートを貰ってね、どう返せばいいのかわからなくって」
呆れた! 被害者はますます増え続けるというのか。
幻想郷をマネーゲーム(よくわからないけど、使えばいいって紫が言ってた!)の渦に巻き込んだ東風谷早苗。
いよいよ彼女の悪行は看過できるレベルではなくなってきたようだ。最初から見逃すつもりはないけれど。
「その、私ってお花は好きだけど、他の人は何もらったらいいのかとかわからないし」
「拳を打ち込むのよ!」
「は?」
「気持ちの篭った、拳をね!」
大丈夫、安心していいのよ幽香。あんたの死は決して無駄にしない。こうして、私の背負った魂は既に四人分(私の分も含めて)。
博麗大結界を突き破って余りある威力を期待できそうだ。
「じゃ! またね!」
「う、うん……。そっかぁ、拳かぁ」
がんばって幽香、あなたの拳なら天をも貫くことができるはず。
その勇姿を見届けたいという気持ちに後ろ髪引かれながらも、私は妖怪の山、目指すは守矢神社へ向かって駆け出した。
あいきゃーんふらーい!
「待て待て待て! そこの巫女! これ以上は天狗のふぎゃっ!」
斥候天狗を一撃で粉砕できるほどに巫女パンチ(テンションで威力が変わる、特許出願中)の威力は上がっていたらしい。
我ながら恐ろしい威力で震えそう。これならば早苗の野望も打ち砕くことができるはずだ。
滝を駆け上る鯉のように全速力で飛び、抜けたときには私は龍。
さあ首を洗って待っていなさい、私の怒りは神の鉄槌よ。
「っととテンションが高いようですが、なぜそんなにも敵意を丸出しで山に来ているのか事情を説明してもらいますよ」
「邪魔よ文。私は早苗に用があるの」
「東風谷早苗に? 一体何の恨みがあって。気になりますねぇ、新聞記者としてはこんなに美味しいネタを離すわけには」
「今のあんたは記者でなく山の天狗じゃないの? どっちにしろ、邪魔をするのならどいてもらうけど」
「あやややや、天狗社会に危害を加えないのなら通しますよ。椛がおねんねはちょっとアレですけどね」
「まさか文、あんたもホワイトデーの犠牲者なの?」
「ホワイトデー? あーそういえば、三倍返しにする風習があるんだとか。私はどっちかといえばそれを貰う側ですけどね」
ここにも一人、ホワイトデーの悪しきシステムを悪用した者がいたか。
「文、事情が変わったわ。あんたにはここで沈んでもらう」
「おや? やるんですか? 私は全然、構いませんがねっ!」
扇を振って風を起こす文、弾道を見極めてスレスレの所で交わし、一挙に距離を詰める。
「ちょ、待って弾幕ゴッコじゃないんです」
「光になれえええええええええええええ!」
腹に拳をめり込ませた文は、そのまま白目を向いて落下していった。白日だけに白目ってね。
「また一人、罪の無いものを殺ってしまったわ……」
殺ってしまったものは仕方がない。
今回の異変の首謀者である早苗を倒さなければ、このような不幸な犠牲者はこれからも増え続けるだろう。
「見逃すわけにはいかないわ……!」
文のように踊らされた者は、これっきりにしてもらいたい。
不幸の連鎖は、誰かが止めなくてはいけないのだ。
そして私は、ついに守矢神社へとやってくることができた。
覚えばここに来るまでにたくさんのドラマがあった。
卑劣な罠にかかって困り果てていた咲夜、藤原妹紅、幽香。
そして改心させるためには殺るしかなかった、射命丸文。
きっと彼女らは、私の事を遠くから見てくれているはず。さあ決着のときだ。
妖怪の山中に響くよう、腹のそこから声を出す。
「たのもう!」
しかし神社から出てきたのは、目当ての人物ではなく注連縄を付けた神様だった。
「あら、博麗のじゃないの。何か用?」
「神奈子、あんたには用はないわ。早苗を出しなさい」
「早苗? 奥で諏訪子と何かしてると思うから呼んでくるから待ってなさい」
「いいや乗り込むわ! この手で決着をつけるの!」
「は、はぁ……」
さすがに土足では不味いので、縁側のところへと靴を放り投げる。
僅かな手間さえ、今はもどかしかった。
「ここがあの風祝のハウスね」
「ちょっと諏訪子さまぁ、ダメですって」
「よいではないかー」
襖の奥からはキャッキャウフフと妖しげな声が聞こえてくる。
どうせかき集めた三倍返しの品を見ながら笑っているに違いない。
「ファイヤー!」
「うわっちょ! なんです!?」
もはや襖を開けることさえ放棄した私は、クロスチョップで襖を破壊した。
さあ覚悟しろ、東風谷早苗!
「あら霊夢さんじゃないですかこんにちは。ホワイトデーなのでホワイトチョコ作ったんですよー。食べます?」
「……うん! 食べる! いっぱい食べる!」
勿論、二進数表記です。
こうやって餌付けされていくんですね……彼女は。
それよりもあっきゅんの運命が気になるんですがw
やめてwwwwwww
思い出しちゃう
早苗いるんでしょ? 出しなさいよ、早苗。
しかも女の子からw
おもむろに腕を阿求の眼前に突き出し…「くっ!」 開いた拳から出てくる万国旗とミニバラ。
今はこれがせいいっぱい…まで幻視した。
てるもこの要素があってよかったっす
ホワイトデーって何なの?
いい加減目を覚ませ皆の衆。
ゆっくりになってるw
木蓮の仲間だから花束は無理だろうけど、幽香なら盆栽にして贈る事もできるよね
香りが良いらしいし、鼻の薬にもなるという
全てを霊夢に委ねてしまった妹紅乙。
3/14?ハハハッ、ただの休日ですよ……
霊夢かわいい