真夏の昼下がり。
雲ひとつない快晴。
その空の下、湖に集まる妖精たちがいた。
「いいわねあんたたち!」
『おーう!』
総勢50匹ほどの妖精が、チルノを取り囲んでいる。その士気は天を貫くほどに高い。
そのリーダーたるチルノは自信たっぷりに演説を行う。チルノが演説を行う、などというと到底まともな内容とは思えないかもしれないが彼女はそこそこには頭はいいのだ。
「我々の目的は!」
『近くに住んでいる悪魔を!』
「紅魔館に巣くう悪魔、レミリアを!」
『スカーレットデビル、レミリアスカーレットを!』
「奴を押し倒し!」
訂正。脳みそが足りていない。
『レミリアを押し倒し!』
そして妖精たちも意味をわかっていなかった。
それでも誰も気にすることなく、チルノの演説は続く。
「奴の居城、紅魔館を奪うことである!」
『おうとも!』
「あんたたちは妖精の未来を背負った英雄である!かの建物の名前が『氷魔館』になる日も近いわ!武器を取れ!弾幕を張れ!我らに歯向かうものは容赦なく打ち落とすのよ!いざ出陣!ガンパレード!」
ビシッっと、紅魔館の方角を指差すチルノ。
そして妖精達は、
『ガンパレード!』
ノリノリだった。
「まずは正面の門を突破するわ!皆の者、かかれぃ!」
そして紅魔館門前へと迫る50と1体の妖精たちを見て、紅美鈴は嘆息する。
「いや~さすがに妖精に抜かれたとあっては門番失格っていいますか、勝てない要素がどこにもないといいますか」
美鈴が拳を構え、そこに『気』を集める。
「門番失格っていうか首が飛びますよね~。リアルに。主に咲夜さんあたりから。てなわけで」
さらに迫る妖精の群れ。
もう外しようがないと言う距離までそいつらを引き付けておいてから、
「どっせい!」
拳を突き出す。
盛大な爆発音と共にぶっ飛んでいく妖精一団。
圧勝。そしてガッツポーズを決める美鈴。
「やりましたよお嬢様。紅美鈴は門番の仕事を全うしました」
しかし、その上空を黒白が飛んでいく。
本日も美鈴の飯抜き決定。
※ ※ ※
お嬢様の元気がない。
紅魔館の窓を拭きながら、咲夜が思いをめぐらせる。
いつも活発もといやんちゃなレミリア・スカーレットの覇気がない。
昼の時間が長くなる夏だ。自然に吸血鬼の活動時間も減ってしまうし、特にここ最近は猛暑といっていいほどの日照り続き。そろそろ雨でも降ってくれないと困る。
しかしそれだけではないような気がする。
わがままっぷりは相変わらずだし霊夢の元へ日傘を差して出向くこともしょっちゅうだが、ふとした時にため息が漏れたり遠くを見つめている時がある。それはそれで物憂げな姿がぱっちり決まっているので新しいカリスマ路線を開拓できそうではあるのだが、一体どうしたというのだろうか。
暇なのだろうか。もしそうであればまた異変などを起こしていただければ結構なのだが、どうもそういうわけでもないらしい。
「咲夜」
背後から声をかけられる。
お嬢様の声だった。おそらく今起きたのだろう。
「おはようございますお嬢様」
「えぇ、おはよう咲夜。紅茶、私の部屋に運んで頂戴」
「はい、只今」
それだけ告げて、レミリアは私室へと戻っていってしまう。
とりあえずのところ、咲夜にはメイドとしての仕事をこなすしかなかったのであった。
※
「レミィが?」
「はい。最近少しお元気がないように思うのですが、パチュリー様にお心当たりはないかと」
とりあえず相談だ。
動かない大図書館、パチュリー・ノーレッジはしばし黙考したあと、きっぱりと言い放った。
「さぁ?」
「さぁって・・・・・・」
「暑いからじゃないのかしら?いくら吸血鬼でも、気候の変化の影響は受けるわ」
「お病気、と言う線はないのでしょうか」
「ないわね」
パチュリーは読んでいた本を閉じ、卓上に置く。
そして自分の書斎を見渡す。無駄なほどに本にあふれる部屋を見て、パチュリーは続ける。
「ここには古今東西、ありとあらゆる蔵書がある。そう、吸血鬼に関する資料もここには存在するわ。もし何かしらの体調不良を訴えているのであればここの資料を確認しに来るでしょう。霊夢あたりとの人間関係トラブルであれば、私のところまで相談に来るのが常よ」
さすがは動かない大図書館。知識内容は役に立たないが、結果に至るまでの可能性を考慮するのは魔法使いとしてのサガとでも言うべきか。
「だから逆にわからないわね。レミィが胸の内に悩み事を秘めたままにするなんてこと滅多にないもの」
「はぁ」
「相談できないほどの大事か、できないくらい恥ずかしいことか、しても無意味とわかっている内容なんでしょう。それならば突付き回すのは得策とは言えないわ。その気になったらレミィの方からこっちに来るわよ」
そこまで言って、パチュリーは再び本を手に取る。「話はこれで終わり」の合図だ。
咲夜は一礼して、書斎を後にする。
そして彼女が去った後、
「ふむ・・・・・・・・」
パチュリーは何か思い当たるのか少し納得したような顔をして、しかし咲夜を呼び戻すほどの内容ではないと判断するとパチュリーは読書に戻った。
※
「お姉様が?」
「はい」
咲夜は仕方なく、フランドールに相談を持ちかけていた。
とはいえ生まれてこの方絶縁状態のフランとレミリアである。何かわかるとも思えないが、お嬢様の元気がなくなったのはおそらくここ最近の話のはずだ。それならば、何か知っているかも知れないと思った。
「う~ん。そう言われても思いつくことはないかなぁ」
レーヴァテインを弄びながら、フランは答える。
「お姉様から聞く話はいつも同じで変わった様子はないし、何か変わった事があったって話も聞いた事がない」
「そうですか」
となると、残りの相談相手は美鈴くらいか。
「咲夜」
立ち去ろうとした咲夜を、フランは呼び止める。
「はい、なんでしょうか妹様」
「そういう時はね、答えはすごく意外なところにあるわ。意外なくらいに身近なところにあるし、意外なくらい見当はずれなところにある。それがどちらにあるのかは私もわからないけど、今の咲夜にとってそれは、考えようとすら思わないような場所にある。
咲夜が答えを探り当てる必要はないわ。でもその答えは知るべき。きっとあなたの視野はこれまで以上に広がって、世界が違うものに見えてくる。すごくいい経験になるわ」
「・・・・・・妹様?」
「ん?」
ニコニコと笑顔を向けるフラン。
時々、妹様が恐ろしく見えてしまうことがある。先ほどまでの妹様とどちらがフランドール・スカーレットという吸血鬼の本性なのか。お嬢様とはまた違う、カリスマ。
詮索はよそう。妹様は妹様だ。
「わかりました。でももう少し考えてみることにしますわ」
「がんばれ咲夜~!」
※
「そういわれましても・・・・」
門番、紅美鈴は空を仰ぐ。
「私がこの職に就くまではあなたがメイド長だったのだから、なにかわからないの?」
「そんな昔のことを引っ張り出されても・・・・。門番を始めてからはあまりお嬢様とはお話もしていませんし。お嬢様、具体的に言うとどう元気がないんですか?」
そう聞かれたので、咲夜はこれまでの各人の考察も含めて美鈴に話す。
とはいってもどれも推測の域を出ないし、確たる情報があるわけでもない。思ったまま、感じたままのことを美鈴に伝える。
「かくかくしかじか。はいわかった?」
「説明の仕方がひどい・・・・・・。聞く限りだと精神的なモノの様に思いますけど。というより咲夜さんが直接聞けばいいじゃないですか」
「パチュリー様にも相談なさらないような内容、私が聞けるわけがないじゃない」
「そうですね~。アレじゃないですか?恋の病みたいな」
美鈴が適当に思いついたことを口にした。
「恋?異性もいないのに?」
それが咲夜の認識だった。恋だの愛だのというものは男女間にのみ存在する感情であり、そして自分とは縁遠いものであると。
異性なんてどこにいただろうか?あぁ道具屋の店主ならそうだが、お嬢様との面識はないはずだ。
「いや、恋っていうのはなにも異性間でのみ芽生えるものではないですよ?それは子供生んだりとかは無理ですけど」
「・・・・・・・・ふむ」
恋。
恋煩い。
確かに、なくはない。自分にとっては意外性も十分。
答えは、これかもしれない。ならば一番気になること。
相手は誰?
「ありがとう美鈴。もう少し考えてみるわ」
「いえいえどういたしまして」
頬に手を当て、考えに没頭しながら立ち去る咲夜。
その背を見送って、
「あ・・・・・・もしかしたらあれかな?」
何かに思い至る。
でもそこまで重要と言うわけでもないので、美鈴は咲夜を呼び止めるようなことはしなかった。
※ ※ ※
「チルノぉ。やっぱりあいつら強すぎるよ~」
「あの中国!私たち相手のときばっかり働くんだもん!」
「普段ずっと居眠りしてるのに!」
妖精たちがぶーたれる。
それにチルノは、
「うぬぬ~・・・・・・大ちゃん!」
「何、チルノちゃん?」
「今度は大ちゃんとあたいだけでいくわ!」
「えぇぇぇぇぇええええ!!?私も!?」
もうあんな死地には行きたくないと、大妖精が首を横に振るがチルノはお構いなし。
「少数尖兵!これなら勝てる!」
「チルノちゃん、それは少数精鋭」
「人数少なければ見つからないかも。だからあたいたちに任せなさい!そしてレミリアを押し倒すわ!」
やっぱり頭が足りていない。
チルノの宣言に、妖精たちがはやしたてる。
「いいぞチルノ~!」
「レミリアを倒せ~!」
「押し倒せ~!」
「私行くなんて言ってないよチルノちゃん~!?」
彼ら彼女らの声援を受け、チルノは立つ。
ちなみに、大妖精が『押し倒す』に突っ込まなかったのは、
「(チルノちゃん、そんなにあの吸血鬼のことが・・・・・・これは、種族を超えた愛!)」
などと勘違いしている為なのだが。
もちろん、チルノにその気はない。
※
夕暮れ時の紅魔館。
紅い建物が、夕暮れの日を受けていよいよその紅さを際立てる。
そしてその門前。
「めいりんの奴、寝てるわね」
そして、美鈴は寝ている。
立ったまま、目を閉じて寝ている。実に器用なことだ。
「今ならいけるよ、大ちゃん」
「それはそうだけど、メイド長に見つかると思うよ?」
「大丈夫。あたい最強だもん」
理屈になっていない。
チルノは地面に伏せていた体を起こす。ここまでほふく前進でやってきたのだが、正直バレバレである。ついでにいうと地面に伏せていたのはチルノだけである。
「よし、いくぞ~・・・・・・・・あれ?」
門前に紙が1枚、不自然に落ちている。むしろ置いてあると言うほうが正しいとさえ思えるような落ち方。
チルノはそれを拾い上げた。
「なにこれ?」
「見せてチルノちゃん・・・・・・・・メイドと門番妖精達の配置表?」
紅魔館内部の構造図、それにメイドや門番をしている妖精たちがどこにいるかを書き記したもの。
そして、レミリアの私室までの最短ルート。
「勇者は、地図を手に入れた!」
「あからさまに怪しいよチルノちゃん!?こんなのが落ちてるなんて。あ、でも・・・・・・」
「いーのいーの。じゃあ逝こう!」
「逝っちゃダメ!」
そんな漫才をしつつ、二人は地図を手に入れ、紅魔館内部へと入っていった。
2人が行ったことを確認して、門番はようやく目を開ける。
※
門前で爆発音を聞きつけて来て見れば・・・・・・
また魔理沙が来たのだろうと思って出てみれば何のことはない。美鈴が太極拳の練習をしていただけだった。騒音迷惑。
しかしこの太極拳、周囲数十メートルに甚大な被害を与えるような拳法だっただろうか?
「あ~すみません咲夜さん」
「何してるのよあなた」
「この通り、鍛錬中です」
美鈴が構える。
「そこらじゅうの地面に大穴空けて何が鍛錬なものですか」
「いや~。実は太極拳は嘘でして。新技もとい新しいスペルカードを作っていたんですよ。そこで相談なんですが・・・・・・少しだけ見てもらっていいですか?黒白に通用しそうかどうかやってみたいんですがなかなか遭遇しないので」
「黒白なら今日も来たわよ」
「あ・・・・・・・・・・・」
美鈴が抜けた声を上げる。黒白が来ていた事に本気で気づいていなかったのだろう。
「・・・・・・まぁいいでしょう、飯抜きだけど。実験台になってあげるからやってみなさい。飯抜きだけど」
「重要なことなので2回言ったんですね・・・・・・・・でもまぁ、本当にありがとうございます~」
美鈴の口元が緩む。
(あんまり長い時間引き止められないんで、急げチルノ~)
※
「あら?」
「うげ」
「あ・・・・」
紅魔館の通路で、3人がそんな声を上げる。
数冊の本を手に持つこぁと、四つん這いで廊下の中央を堂々と進むチルノと、その横を見取り図片手に歩く大妖精。
「こんにちはチルノさん」
「こ、こんにちは。こぁ」
「お、お久しぶりです、こぁさん」
こぁはチルノを見、大妖精を見、手に持っている見取り図を確認してなるほどと納得する。
「お嬢様でしたらまだ私室にいると思いますよ。後で紅茶を持っていきますね。チルノさんは、アイスティーでしたね?」
「うん、ありがとう」「ありがとうございますこぁさん」
「あとチルノさん」
いまだ四つん這いで隠れているつもりのチルノを見て、こぁが言う。
「ここから先は妖精メイドもいないので、普通に歩いて大丈夫ですよ?」
※
ドアをノックする音が、レミリアの私室に響く。
「誰?咲夜?」
レミリアは読んでいた本を閉じて尋ねるが、返答はない。咲夜に限らず、妖精メイドたちにさえ中に入る際は名乗るよう徹底させているはずだが。
どうせ頭の弱い妖精メイドだろう。一発ピチュらせるか。
「・・・・誰でもいいわ。鍵は開いているから勝手に入りなさい」
ドアが開く。
いたのは妖精だった。それは間違いなかった。
そしてそこに立つ二人の妖精を見て、レミリアは驚きの色を隠せず、棒立ちする。
「久しぶり!」
「夜分失礼します」
馴れ馴れしく挨拶してくるチルノと、丁寧にお辞儀をする大妖精。
いきなりのことに動揺したが、すぐに落ち着きを取り戻したレミリアは椅子に座る。
「・・・・・・よくここまで来れたわね。美鈴や咲夜は?」
「美鈴さんから地図をいただきました。咲夜さんにはお会いしていません」
「その地図落ちてた奴だよ?大ちゃん」
「あぁ、美鈴ね。だいたい状況は把握したわ。とにかくいらっしゃい。好きなところに座っていいわ」
言ってレミリアはにこやかに、いやうれしそうに笑ってレミリアは二人に席を勧めた。
※ ※ ※
それはまだ「美鈴メイド長」であった頃の話。
紅魔館という屋敷を手に入れたレミリアは、誰か屋敷の管理をさせる者がいないかと思案をめぐらせた。
そして湖にいる妖精達をこき使うことに思い至り、彼らを服従させることにした。そこに立ちはだかったのは大妖精と、チルノ。
しかし両者の力の差は歴然であり、すぐに決着がつく。そしてレミリアは、妖精メイドという下僕を手に入れた。
だがレミリアはそれだけでは満足せず、チルノと大妖精をも自らの勢力に取り込もうとした。その力は自らの戦力として間違いなく役立つものだったからだ。
だが、彼女達はレミリアの元には行かなかった。
彼女らの行動に、レミリアのプライドは大いに傷ついた。何としても屈服させるべく、レミリアはあくる日もあくる日も湖へ出向いてはチルノたちをコテンパンに叩き潰した。
しかし一向にあきらめる気配がない。
ある日、なぜあきらめないのかと言うレミリアの質問に、チルノは「あたいは最強だから」と答えた。
最強のあなたも私には勝てないじゃない、そうレミリアは言ったが、チルノからは「まだ負けてない」と答えが返ってくる。
チルノのこの言葉には、怒りよりも先に彼女への興味が胸に沸き起こった。
あらゆる妖怪の頂点たる吸血鬼。それに屈しない妖精がいる。どの妖怪も頭を下げ、畏怖する種族を前にしてこの妖精は虚勢を張る。
面白い。それはこれまで一度として味わったことのない、とても新鮮な気分。
いいでしょう、この湖は今日から正式にあなたのテリトリーよ。吸血鬼お墨付きのね。そして私はあなたのテリトリーを犯さない、好きにするといいわ。
そう、チルノに伝える。それを聞いたチルノは言った。「あんた強いし面白いから、遊んでやってもいいわ。ここで待ってるからいつでも来なさい」と。
数日後、湖には氷精と日傘を差した吸血鬼の姿があった。数日後、紅魔館には吸血鬼と氷精の姿があった。
そこでは最強と目される種族・吸血鬼と、最弱の種族・妖精が同じ場所で戯れていた。
※
「懐かしいわね」
そういって、レミリアは紅茶を口に運ぶ。
その後に起こした吸血鬼異変により、レミリアは数々の行動制限をかけられた。さらに、しばらくの間はレミリアの行動を監視する妖怪などもいたためにレミリアはチルノとの接触を避けた。チルノも好き勝手に出向くわけにも行かず、また出向いてもその頃にはレミリアとチルノの事情を知らない咲夜がメイド長になっており、追い払われてしまう為に二人は会えなかったのだ。
「久しぶりに来てあげたんだから感謝しなさい」
「チルノちゃん、もうちょっと丁寧に・・・・」
「いいのよ大妖精。夏になってあんたたちのことを思い出してね。最近しんみりしてたところなんだから、むしろ来てくれてよかったわ」
こぁの持ってきたティラミスを一口。そしてレミリアはチルノを見た。
「しばらくぶりにこのアホ面を見れてうれしいわ」
「あ、あほ・・・・・・?」
バカはわかってもアホを知らないチルノが首をかしげる。
「チルノ、あなたまだ一人で遊んでいるの?」
「ぬ、そんなことないわよ!」
バカにするなとばかりにチルノが言う。それが虚勢ではないことを悟ってレミリアは安堵の息をついた。
もとより妖精の規格を外れた存在ゆえに一人で遊ぶことが多かったチルノ。それも、吸血鬼と遊んでいるとなれば異端以外の何者でもない。妖精間でひどい扱いを受けてはいないか、それだけが唯一気がかりであったがどうやら杞憂だったらしい。それどころか、妖精の間ではチルノを認める声が増えつつあった。
「あれから随分経ってほとぼりも冷めたし・・・・もういいのかもしれないわね」
そう、もういいのかもしれない。
もちろん吸血鬼が大手を振って妖精と遊んだりするわけにもいかない。そうするには種族の溝が深すぎる。
いや、ここは外の世界ではない。人間と妖怪が酒を飲み交わすような世界だ。そこで妖怪と妖精が遊んだとて何の問題があろうか。
(一時の気の迷いと思っていたけれど、そうではなかったのね)
「またいつでも遊びに来なさい、咲夜には伝えておくわ。その時はまた紅茶を用意しておいてあげる」
「レミリアも!」
チルノの言葉に数瞬声を詰まらせてから、レミリアはおかしそうに笑った。大声で笑いそうになるのを懸命にこらえる。
咲夜にも、美鈴にも、パチェにも、フランにも。誰にも見せたことのない笑いを。
「くくくっ・・・・・・チルノ、あの頃とまったく同じには戻れないわ。でも、機会があるときはそうするのも悪くないわね」
レミリアはうれしそうに紅茶を口に含み、
「その時こそあんたを押し倒すんだから!」
その紅茶を盛大に吹いた。
※ ※ ※
美鈴との戦闘を終え、咲夜はまだ考えていた。
恋。
相手は?
妹様は意外なほどに身近にあるかもとも言っていた。ならば、ならば相手は・・・・・・
身近。
お嬢様の身近。意外なほどに近い。
・・・・・・・・まさか!!
「お、お嬢様・・・・・・・・・・まさか、私?私なのですねお嬢様!?」
そう、それこそが答え!
咲夜は時を止める。時を止めたこの空間は咲夜だけの世界。いろんな意味で。
「今参りますお嬢様!存分に私を味わってください!!」
そして彼女は駆け出す。ダメな方向に。
「心行くまで愛してください!なんという至福!なんという栄誉!お嬢様、本当のことを申し上げます!私もお嬢様に恋焦がれておりました!あなた様をお慕い申し上げておりました!あぁお嬢様、お嬢様ぁ~~~~!!」
時は止まっても、咲夜の暴走は止まらない。
のちにレミリアはこう話す。
「性的な意味で狩られると本能が告げていた。殺らなければヤられていた」
なおチルノに『押し倒す』宣言をされたことについては、
「あ、いやその・・・・・・・・・・」
そう言葉を濁したと言う。
これを見ているとチルノにもカリスマがあるように見えてきました。
これぞ⑨クオリティ。
レミチルか……何かに目覚めそうだ。
大妖精の勘違いが現実になる日は来るのか