Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

あたたかさ・蛇

2009/03/09 14:54:35
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本作品は水崎の4作目「あたたかさ」の続編っぽいものです。両者にそこまでのつながりはありませんが、よく言うと後日談、悪く言うと蛇足的な作品です。
この作品単品で読まれてもなんら支障はありません。そういう風に作ってありますのでごゆるりとどうぞ。ただし、前作よりさらにレイサナが進んでます。


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あたたかい。
それが早苗と言う人間。
本人は否定するけれど、やっぱりやさしい人間なんだと思う。
あたたかくてやさしい人間。
苦手だ。



どうも最近、早苗が博麗の神社にやってくる回数が今までより3割ほど増した気がする。
魔理沙はお茶をたかりに来る。
レミリアが遊びに来て、咲夜がそれを迎えに来る。
紫が予期せぬときにふらりとやってくる。
この上早苗がやってくるとなると、私、博麗霊夢の「ひとりでまったりお茶を飲む」という時間がどんどんなくなっていく。それも全員まとめてやってきてくれればいいものを、図ったように入れかわり立ちかわりやってくるのだからいよいよもってたちが悪い。マジで帰れ。
そして今日は、早苗がやってきていた。
彼女はいつも手ぶらで来るということはない。例えば里の茶菓子だったり、山で採れた山菜だったりと何かしら持ってくる。今日は大福を持ってきていたが、こんなことを律儀にする人間のどこがやさしくないというのだろうか。・・・・・・それでも彼女は否定するわけだが。
早苗がうちにきたときは近況などを軽く話す。
そうして話し終わった頃に、なぜか早苗は私を抱きしめてくる。
例えば縁側で。
例えばキッチンで。
例えば鳥居の下で。
脈絡なくいきなりしてくることもあれば、話すネタがなくなってとりあえず場つなぎにしてみたりと用途は様々。
そして今日この時も、早苗は私を抱きしめていた。
「・・・・・・・・」
また油断した。
早苗は隙あらばこうやって抱きしめてくるのだ。
始めこそ「鬱陶しい」「いい加減にしなさいよ」といっては突っぱねていたが、今はもう何も言わない。
この心地よさを、私は知ってしまったのだ。今日は抱きしめてくれるのかと期待してしまうくらい、そこは心地よい場所なのだ。
早苗は何も言わず、私を抱きしめ続ける。

魔理沙に抱きしめられたことがある。
彼女は力強く抱きしめてくる。
咲夜に抱きしめられたことがある。
私の首筋に冷たいナイフを添えてくる。
紫に抱きしめられたことがある。
次に何をされるかと、警戒する。
私は弱いのだ。
魔理沙が心配するくらいに。
咲夜が叱咤激励に来るくらいに。
紫が冬眠から目を覚ますくらいに。

早苗に抱きしめられる。
そして私は、
私は、もっと弱くなる。
どれだけ仮面をかぶろうが、彼女の前ではまるで無意味になってしまう。すべて引き剥がされ、素顔を見られてしまう。
恥ずかしい。見られたくない。
私は早苗の胸に顔を埋めた。これ以上こんな顔を見られたくはない。
博麗の巫女のみっともない姿は見せられない。
霊夢のみっともない姿を見られたくない。
でもそれを、早苗は許さない。
「霊夢さん」
その私にそう言って、早苗は頭をそっとなでてくる。
ダメだ。
決壊する。
耐えろ。
今日まで耐えたじゃないか。
今日も仮面をつけろ、私。
でも、でもそれには。
ここから逃げないと。
このままじゃ剥がれ落ちる。
お願い。
お願いだから。
もうこれ以上やさしくしないで。
もうこれ以上あたたかなものを近づけないで。
もうこれ以上私を抱きしめないで。

「ほら満足したでしょ?いい加減離しなさい」
逃げないと。
早くこの場から離れないと。
私は早苗の腕から逃れようとした。もう限界だ。
私は彼女の胸から顔を離し・・・・・・・・・・・・・・さらに強く、抱きしめられてしまった。
ダメだった。
涙腺が決壊する。
感情が暴走する。
頬を涙が伝う。
「もうやめて!!」
叫んで私は早苗の背中に手を回し、締め上げるようにしてその体を抱きしめる。
それが精一杯の行動。こんな酷い顔を見せられない。
博麗の巫女とあろうものがみっともない。
この霊夢とあろうものがみっともない。
私は強いのだ。
弾幕ゴッコで誰にも負けない。どんなときも泣きはしない。恐れない。
私は強くなければならないのだ。
博麗が負けるわけにはいかない。泣くだの恐れるだのという弱さは持ってはいけない。
それがどうだ。
弾幕ゴッコで負けたわけじゃない。怪我をしたわけでもない。
でも私は泣いている。これ以上弱さを見られることを恐れている。
無様。
これが博麗の巫女。
これが博麗霊夢。
もういい。
もうどうでもいい。
笑いたければ笑いなさい。
この醜態を見て笑うがいいわ。
キッと、私は顔を上げる。この酷い顔を早苗に向ける。
早苗は------------
微笑んでいた。

早苗は私がどうして泣いているかわかっていない。それはそうだ。いきなり腕の中で泣き出して、私はその理由を彼女に伝えてもいないのだから。
それすら彼女の前では無意味なのだろう。全部彼女に見られてしまっている。彼女は私の体ごと、私の心を包んでいる。
私は喚いた。滅茶苦茶に乱れた私の心をすべて口に出して喚いた。そこに理性なんてない。何を話したのかさえ覚えていない。きっと支離滅裂だったろう。
彼女の腕の中で散々暴れ、わめき、ボロボロになる。それでも早苗は私を放さない。
自暴自棄になって早苗に八つ当たりをしていたのか。
私のすべてを早苗に知って欲しかったのか。
博麗の巫女としての責務、それに押し潰されそうな私の悲鳴か。
霊夢としての想い、それに押し潰されそうな私の悲鳴か。
私は押し潰されそうになる。
それでも私は耐える。
魔理沙が共に支えてくれる。
咲夜が体に鞭打ってくれる。
紫が声援を送ってくれる。
早苗はすぐ傍らにいる。
早苗はすべてを受け止める。
私の言葉を受け止める。
私の体を受け止める。
私の心を受け止める。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
気づいてみれば、私は息を切らしていた。喉が渇いたし、とても痛い。泣きすぎたせいか頭も重いし、暴れすぎたせいかすごく疲れていた。
「霊夢さん」
その私に、早苗が声をかけてくる。
その頬にはひとつ、引っかき傷がある。私が暴れたせいだろう。早苗まで傷つけて私は何をやっているのか。そしてそれでも私を放さなかった早苗は何を考えていたのか。
最低最悪に無様。呆れるほどの醜態。
これが博麗霊夢と言う人間だ。
どうだ、見たか早苗。
「落ち着きましたか、霊夢さん?」
「・・・・えぇ」
洗いざらい、吐き出すだけ吐き出したせいで私はすっかり落ち着いている。少なくとも自己嫌悪に陥るくらいには理性を取り戻している。
涙も、頬に流れていた跡だけを残して止まっていた。
と、あたたかかったものが急に離れていく。早苗が私を離したのだ。
身の拘束から解放される私。あたたかさの後に来る、冷たさ。
その冷たさに恐怖する。不安になる。
「さ、早苗?」
「今日は、このあたりでお暇したほうがよさそうですね」
そう言って早苗は立ち上がる。
私はさらに不安になった。
きっと失礼なことを言ったに違いない。怒ったに違いない。呆れたに違いない。失望したに違いない。
「お邪魔しました」
早苗が帰っていってしまう。
私は口を開いた。でも声が出ない。
------------待って------------
いいじゃないか。
また一人で過ごせる時間が出来る。弱い私を見られることもない。私も恥ずかしくない。早苗は傷つかない。
幸せじゃないか。万事解決だ。
「見送りくらいするわ」
最低限の礼節だ。私は早苗の後を追う。
またね。
そう言おうとして止める。それではまた会おうと言っているのと同じだ。
そう、ここで言うべきは『さよなら』。さよなら早苗。もうこれっきり。
「里に評判のいいお団子屋さんあるので、今度はそれを持ってきますね。では、お邪魔しました」
・・・・・・・・。
何と言った?
今度は?
そう言った?
傷つくことを恐れないのか。どうせ次に来たって愚痴られるだけかもしれないじゃないか。何が楽しくてこんなところに来るというのか。
私は無言。返答もしない。
早苗は私に背を向ける。
行ってしまう。
私は弱い。こんなにも弱い。
私は強い。強いのだ。
恐れるな。早苗は傷つく覚悟で向かってきてくれたじゃないか。たとえ傷ついても、弱さを見られても、恐れるな、私!
私は口を開いた。今度は声に出した。
「待って!」
早苗は待ってくれた。そしてきょとんとした顔を私に向ける。
「ありがとう」
「いえ、それほどでもありません」
早苗は微笑んだ顔を向ける。
「帰らないで」
「えっと・・・・もう少しなら時間もありますし、私は構いませんよ?」
早苗はちょっとだけ困った顔を向ける。
そして、私は早苗に抱きついた。早苗も私の体をあたたかく包んでくれる。
------------あんたのことは、嫌いじゃない------------
その先にある言葉を、私は口に出せない。心の中だけでそっとつぶやいただけ。私は弱いから、その先の言葉を言えなかった。
かわりに、早苗が話す。
「霊夢さん。
あなたがつらい時、私はあなたと共に支えます。
あなたが傷ついた時、私はあなたの体を支えます。
あなたがへこたれそうな時、私はあなたの心を支えます。
あなたが望んだ時、私はあなたの傍らにいます。
でもその為に。霊夢さん、私はあなたのことをもっと知りたい」
私は早苗の顔を見る。
早苗は、微笑んでいた。



 ※ ※ ※


魔理沙「なにかいい事でもあったか?」
霊夢 「なんでよ」
魔理沙「憑き物が取れた顔してるぜ、お前」
霊夢 「知らないわよ」

神奈子「どうしたんだい早苗、えらく上機嫌じゃないか。何かいい事でもあった?」
早苗 「『特に何も』ありませんよ?」
神奈子「ふっ・・・・・・これまでにないくらい、極上にいいことがあったみたいだねぇ」


 ※ ※ ※



これで私の物語は終わる。
これで早苗の物語は終わる。



次に語られるのは。
私と早苗の物語。

「あやや、いいネタなんですがね・・・・・・文々。新聞はゴシップ誌ではありません!さすがにこれは記事にすべきではない!・・・・・・はぁ、おいしいネタが・・・・・・」

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はい6作目です。早苗さんを書くなら美しくシリアスに描きたい!読むならフルーツ早苗さんもおk、水崎と申します。
内容的及び流れ的には4作目と変わりません。なんでかというと元々ふたつはひとつの作品で、尺の関係で分割しただけなのです。しかし分割したら丁度よく区切りれたのでそのまま投稿したけど、やっぱり書き足りないから続編ぽいのを出したという(安易

蛇足ですねわかります。しかも書いている途中でR-15とかそっちの方面に逝きそうでした。危険ですねわかります。

前回は全開で誤字脱字勘違いのオンパレードで、読みにくかったところ多々あるかと思います。今回はないことを祈って・・・・・・
水崎
コメント



1.NEOVARS削除
>次に語られるのは。
>私と早苗の物語。

NEXT期待しちゃいますよ、私っ。
なに、甘いのは慣れていますから大丈夫。
2.名前が無い程度の能力削除
とても良かった。
3.名前が無い程度の能力削除
レイサナ来たwwwごちですww
4.名前が無い程度の能力削除
早苗さんのおっぱいと聞いて雰囲気ブチ壊してでも見に来ました。
5.名前が無い程度の能力削除
なんというレイサナww
続編フラグが立ったのか、たっているのか??
6.名前が無い程度の能力削除
いい雰囲気だね。
御馳走様です。
7.奇声を発する程度の能力削除
続編激しく希望!!!!!!
8.時空や空間を翔る程度の能力削除
「人」と書いて「レイサナ」と読む。
良いんですよ、「人」は支え合って生きてるのですから。